逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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それからしばらく時が経ちました。
松野家にはいつもどおりの日常が流れています。ニート達はあいも変わらずダラダラと日々を過ごし、誰一人として働きません。けれども。
「……ねえねえ、おそ松兄さん。カラ松兄さんまた屋根の上にいるの?」
「うん。今日もギター持ってったけど弾いてない」
「前までは屋根上のリサイタルという名の騒音凄かったのにね、どうしちゃったんだろ……」
「十四松、ちょっと偵察してきて!」
「あいさ、おそ松兄さん! わっせわっせ!」
「どうだー、十四松!?」
「ドゥーン! だめ、今日もなんか物憂げな顔で少女マンガみたいな作画になってる」
「クソ松兄さんの方向性が変わってからはや一週間か……」
そう。一人だけ、カラ松には変化が訪れていました。きっかけは明らかです。例の、舞踏会の日から。
「……よっぽど王子に酷いことされたのかな?」
「いや、逆にめっちゃ良かった可能性もある」
「全裸で身ぐるみ剥がされてボロボロに嬲られたうえ路上に投棄だよ? それで喜ぶの一松兄さんくらいでしょ?」
他の兄弟はあれこれと次男の変化の原因を推理しますが、正解にたどり着く松は誰一人としていません。彼らはあの夜、カラ松が鬼畜王子に陵辱されたものだとばかり思い込んでいたからです。
一方、屋根の上のカラ松は。
「はぁ……オレの……プリンセス……」
作画が変わっても、クソさに変わりはありません。元気に恋をしています。
「これが身分違いの恋ってやつか……フッ、ギルドガイな……オレ……」
ツッコミが誰もいないので、やりたい放題です。
けれども。
(……もう、会えないのだろうか)
そう思うと、胸がきゅっと締め付けられます。
あの大きな城で一人、国のため、国民のために気丈に振る舞っている女の子。
本物の王子のようにジェントルな所作ができるくせに、人に頼るのはどうにも下手くそで……
「ナマエ……」
きっと今も、あの城で懸命に王子として頑張っているのだろうと思うと。
「はぁ……」
今日もカラ松は、本気のため息を吐いてしまうのでした。
さて、そんな彼が愛しの屋根から屋内へ帰還し。
居間でつけっぱなしのテレビで流れていたニュースを、たまたま目にしたときでした。
『……というわけで、王宮では先日の舞踏会での落とし物を、なんと王子自ら落とし主を探し出すとのことです』
『いや~、昨今浮いた噂がなく、王家の存亡に関わるとバッシングを受けていたナマエ王子ですが……あの舞踏会で、まるでゴリラのような女性と踊っていたというじゃありませんか。どうしたんでしょうね、この国の行く末が案じられます。では次のニュース』
言いたい放題のコメンテーターでしたが、カラ松はそんなことより、画面の端にちらりと映った「落とし物」の映像に驚きました。
それは、あの日うっかり無くしたガラスの靴。どうやら魔法が解けても靴だけは残るようで、ボロクズになったカラ松の側に、実は片方だけ残されていたりしたのですが。
「あ、あれは……!」
「ちょっとカラ松! テレビ見えねえ!」
「オレの靴!」
「どけってカラ松! この後競馬中継やるんだってば!」
カラ松が興奮している理由なんて、他の兄弟は知るよしもありません。
そんなときでした。
ピンポーン。
「はーい」
玄関チャイムの音に応えながら、お母さんがパタパタと玄関へ向かいます。
「チョロ松兄さんなんか通販で頼んだ?」
「いや俺じゃない」
「あ、ぼくかも! 株主優待!」
「もう俺たち何も触れないよ十四松」
からりと玄関の引き戸が開く音。そして続いて、来訪者が名乗りをあげます。
「こんにちは! 王家の者です!」
玄関口で燦然とロイヤルの光を放ちながら現れたのは、誰であろう、ナマエ王子でした。
王家の者と聞き。
「王家だって!」
「やべえ! カラ松を隠せ!」
「えっ」
「イェッサー!」
兄弟一丸となって、次男の隠蔽工作が行われます。兄弟の手により、カラ松は二階へ連行され、猿ぐつわを噛まされ縛られて押入れにポイ。
「ムー! ムー!」
「すまないカラ松……!」
次男入りの押入れを前に、兄弟は苦渋の表情を浮かべます。
「俺……いろいろ考えたけど、やっぱ俺と同じ顔がイケメン王子の肉奴隷になってるのは精神的に無理!」
「あーもう想像しただけでケツ毛燃えるわ!」
「ぼくもスパダリバリタチ鬼畜王子×リアル兄は地雷!」
「だからボクらの精神衛生のために、しばらくここにいてね! カラ松兄さん!」
「え……みんなそんな感じなの? おれぜひ王子さまに調教されたいんだけど……」
「一松兄さんは黙ってて!」
「いいかみんな! 守るんだ! カラ松の尻の穴を!」
「おう!」
「なんの穴を守るって?」
「ハッ!」
いつの間に二階へやってきたのでしょう。兄弟が固く誓い合っている現場に、いつの間にか忍び寄っていたナマエ王子です。その手の上には、ビロードのクッションに載せられたガラスの靴。
思わずバババッ! と室内に散開する松野クソブラザーズ。
そんな彼らを見回して。王子はひどく困惑した顔で、傍らにいるお母さんを振り返りました。
「……お宅の息子さんは、分身の術の使い手で?」
「いいえ王子さま。うちのニート達は六つ子なの」
「六つ子……」
すごいな、初めて見た。そんな顔で王子が同じ顔五人を見回します。
ん、五人?
「一人足りないようですが?」
「あらおかしいわね。今日は六人全員うちにいたはずだけど……」
出かけちゃったのかしらね、なんてのんきに言いながら、お母さんはお茶の用意をしに台所へ向かいます。
あとに残されたのは、ニート五人と王子さま。気まずい空気が漂います。
「えーと……すごいな、彼と同じ顔なんだねみんな」
張り詰めた空気を解きほぐそうと、王子が微笑混じりに切り出しました。しかし! しかし逆効果!
(彼!?)
(彼って言った!?)
(見抜いているのか、俺たちの中にカラ松がいないと……! そこまでの執着なのか王子よ!)
(初見の六つ子だよ!? ブタの群れの中に両親がいないって見抜く千尋ちゃんかよ怖っ)
ニートファイブの猜疑心は濃くなるばかり。なんだろなこの空気、と困惑しながら王子は本題を切り出します。
「あの……今日こちらにお邪魔したのは他でもありません。先日の舞踏会で見つかったこちらの遺失物の持ち主を特定したく、参上致しました」
「へーガラスの靴」
「こけて割れたら足ズタズタになるじゃん……あっぶな」
やっぱみんなそれ思うのね、と王子が内心思っていると。
「……どうやって見つけんの?」
長男から質問が飛びます。警戒されているのを感じつつ、王子は柔和な笑みで答えました。
「見たところ、オーダーメイドの品物のようです。ですから、この靴にぴったり合う方が持ち主ではないかと」
「へー! 靴のサイズがぴったり! そっかー、なるほどねー!」
なにやら挑戦的な態度で食って掛かる長男です。
「よーし、じゃあ俺たちが履いてしんぜよう王子さま!」
「えっ、あの」
「はい装着!」
おそ松は有無を言わさず王子の手からガラスの靴をひったくると、無遠慮に足を突っ込みました。
果たして、彼の足はガラスの靴にぴたりとはまります。
「ほら見て! ピッタリ!」
「ほ、ほんとだ……!」
「はい次チョロ松!」
「はいはい。ほら履いたよー、ピッタリだねー、まるであつらえたようだねー」
「ほんとだ……」
長男、三男の足に、ガラスの靴はピッタリです。
「四男、一松。ピッタリです」
「五男十四松! ほらみてピッタリ~!」
「末弟トド松! サイズはもちろんピッタリなんだけど……見てみて、ボクが一番似合ってるでしょ~?」
なんということでしょう。兄弟全員ピッタリ!
これには王子も驚き桃の木さんしょの木。
「そんな! まさかこの場にいる全員ピタリ賞だなんて……!」
「いやまあ六つ子だからねぇ。そりゃ全員足のサイズおんなじだからねぇ」
「マ、マジか……」
崩れ落ちる王子さま。そんな彼に、ニートファイブは追い打ちをかけます。
「ていうかさ、王子さまさ。世の中靴のサイズが同じ人間なんてごまんといるよ~? この探し方大丈夫? もっと別のやり方なかった?」
「う、うぅ……」
「さあさあ、このガラスの靴は俺たちが落としたってことにしてあげるからさ、さっさと帰った帰った」
「質屋で高値で売れるね、おそ松兄さん!」
「おいバカ十四松、言うなって!」
ガラスの靴の持ち主探しはこれにて終了。ぴったりサイズの人間がここに五人もいるので、終了ったら終了なのです。
しかしナマエ王子は納得できません。そう、靴の持ち主探しなんてただの口実です。
王子はおそ松の手の上のガラスの靴をひょいと奪いました。
「はっ! 俺の担保!」
「ふんっ」
王子、靴を遠投。ガラスの靴は窓から青空へと投げ飛ばされます。「いい肩してるね!」と十四松。
「あーちょっと! 俺の靴をてめえ!」
「いいえ、あなたの靴ではないはずです」
ナマエ王子はクソ長男へ、毅然とした態度で言いました。
「茶番は終わりです。さあ、あなた方兄弟の中にもう一人、他と比べて眉毛の角度が幾分かするどいご兄弟がいるはずです!」
「……し、知らねえし」
「知らないはずはないでしょう。なんかこう……言動がイタくて腹立つ感じの!」
「エー……ダレノコトカナァ……」
「タブンシンダ……」
しらばっくれるクソブラザーズ。しびれを切らした王子は最終手段に出ます。
コホンと咳払いをして、王子はその整ったお顔にクソな表情を浮かべます。
「フッ……オレのことが思い出せないのかいブラザー?」
「んぶふッ」
まさかのカラ松完コピ。王子、羞恥心を捨てての最終手段。
「覚えてるよなぁブラザー、ン~?」
「や、やめて王子さま! に、似てる! スッゲー似てるから!」
「高貴な顔でクソ松ものまねはやめてーっ!」
「似過ぎて性癖変わるわ!」
「……いま似てるって言いましたね?」
「ハッ」
語るに落ちるニート。五人揃ってぎくりと肩を強張らせます。そんな彼らへ、王子はやっと認めたかと言わんばかりの顔。
「やっぱり……いるんですね、イタくてウザめのご兄弟がもう一人!」
「く、くそう! 卑怯だぞあいつのものまねなんて!」
「そうだそうだー!」
ニート達は抗議の声をあげます。
さて、王子にはわかりません。どうして件のイタくてウザめのもう一人の存在を、こんなに隠されてしまうのか。
しかし、この時のニート達にとっては、カラ松は守るべき存在でした。正確にはカラ松の尻の穴を鬼畜王子から守ろうと必死でした。自分たちの、精神衛生のために(なお四男は除く)。
「どうしてそこまで彼の存在を隠すんですか……! 私は、ただ……!」
そしてなぜか必死に次男に会いたがる、この国の王子さま。正直ニート達にとってはあまりにも危険な存在です。こんなに爽やかなお顔立ちをしていながら、この王子さまは。
「だって! あんたにあいつを渡したら、今度こそ俺たちの次男が正真正銘王子の肉奴隷になっちゃうじゃん!!」
長男が激昂のあまり叫びます。
「…………………………は?」
これには王子も目が点。
「この鬼畜王子! 俺知ってんだぜ! あの舞踏会の夜、あんたがあいつに○○で××で△△なプレイしたって!」
「え、あの」
「路上でボロクズ全裸になって倒れてるあいつ発見したときの俺たちの気持ちわかる!?」
「まあ路上でボロクズ全裸はボクらわりと日常茶飯事なんだけど!」
「よくもうちの次男をメス堕ちさせたな! 鬼! 悪魔! 野獣!」
「いったいどこまで開発したんだこの鬼畜! ケツ毛逝きか? ケツ毛逝きかゴラァ!」
「スパダリ! バリタチ! スイッチヒッター!」
「あ、あの……おれにもぜひご褒美を……ネコ役がんばるから……」
「どうせcv.中村○一を散々アンアンよがらせたんだろこの鬼畜攻めー!」
わいのわいの。言いたい放題の六つ子-1。
王子は茫然自失です。誤解されてる。ものっそい誤解されてる。
弁解しようと、口を開きかけたときでした。
「今のお話は本当ですか!」
「本当ですか王子!?」
「王子!?」
「えええ!?」
部屋のふすまや窓をガバっと開き、いきなり現れる報道陣。どこに潜んでやがった報道陣。
マイクやカメラ、レコーダーに取り囲まれて。王子は真っ青な顔で口をパクパクさせるのみ。
そのとき。
「ムー!」
突然、押入れのふすまが倒れ、中から縛られた次男が顔を出しました。実は王子の声を聞きつけ、少し前から脱出しようと今まで頑張っていたカラ松でしたが、登場のタイミングが最悪でした。
「王子! 王子あそこに縛られている男がいますがあれも王子のご趣味ですか!」
「亀甲縛りとは王族らしい高尚なご趣味で!」
「王子! 王子!」
王子、王子。
そう呼ぶ声がだんだん遠のいていきます。いえ、遠くなっていったのは王子の意識でした。
終わった。
王子として、本当の性別を隠し。
勉学やスポーツに励み。
王族らしい立ち居振る舞いを身に着け。
国民の期待に応えるため、今まで頑張ってきたのに。
なにもかも、終わった……。