逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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さて、場面はバルコニー。月の下で夜気に当たっていると、ダンスで火照った身体が気持ちよく冷めていきます。
「ダンス、ハイヒールでも大丈夫だったでしょ?」
出し抜けの王子の台詞に、カラ松は少し抗議の声をあげました。
「た、たしかに大丈夫だったけど! いきなりアレは心臓に悪いぞ!」
「あはは、ごめんごめん! ていうかきみ、そんな顔できるんだね」
「んなっ!」
じっと王子が見つめるので、カラ松はまた真っ赤になってしまいます。対する王子は余裕綽々。いたずらっぽい笑みで姫をじっと見ています。
それにしても。いままでお姫様扱いされていたせいで忘れていましたが。
(……女の子なんだよなぁ)
カラ松は改めて、しみじみ王子の横顔を眺めました。大の男をダンスホールで完璧にエスコートできても、この子は女の子なのです。
「……さっきは来てくれて、ありがとうね」
不意に王子は礼を口にしました。
「……え?」
「パーティーにきてくれたでしょ?」
「それは、キミが待ってるって言ったから……」
「巻き込んで、ごめんね」
ナマエ王子は詫びを口にします。カラ松、これにはきょとん顔。謝られる覚えは特にありません。
「なんで謝るんだ?」
「いや……その」
言いづらそうにナマエ殿下は口をもごもごさせます。
「……さっきも話したけど、私、この舞踏会に出たくなかった」
「そうだな」
「だって、ここは結婚相手を選ぶ場だから。誰かを選んだら、その人を傷つける羽目になる。でも、世論に応えるためには誰かを選ばないといけない……」
「…………」
「だから、事故が原因とはいえ、私の秘密を知ってるうえに、見た目上の性別を詐称してるきみがダンスの相手にちょうど良かったんだ。有り体に言うと、一番罪悪感のない相手がきみだった。だからあのとき、待ってるなんて言っちゃった。ごめん、利用して」
ちゃんとこちらへ向き直り、王子は真摯に頭を下げました。真心からの、誠実な謝罪でしたが。
「……それって、キミがオレを頼ってくれたってことだろ?」
「え?」
「頼ってくれて嬉しいぜ、オレは」
頭をあげたナマエ王子へ、カラ松は笑いかけました。ブラザー同士でしか見せない類の、素の微笑みです。
どきん。王子の胸から謎の音が鳴りました。
「? どきん?」
「あー、あーあー! あー、えーと!」
なんで人の耳に聞こえるほど爆音で心臓が鳴るかなぁ!
王子は自分の胸から特大のときめきが発せられたことにどぎまぎしつつも、必死でごまかします。
「そ、そうだ! も、もしよかったら、きみの名前を……」
そういえば名前を聞いてなかったよねと、王子は切り出しますが。
ゴーン……ゴーン……
城の時計塔から、鐘が鳴り始めます。十二時です。
「あ、もうそんな時間か……」
「も、もしかして十二時!?」
「そうだけど?」
「オ、オレ帰らなきゃ……!」
プリンセスはあたふたし始めました。そう、十二時の鐘。忘れていましたが、いまの松野家次男はシンデレラ。十二時の鐘が鳴り終わる前に帰らないと、さもなくば……
「きみの家、門限十二時なの? じゃあ引き止めて悪かったね」
「いや、門限ってわけじゃないんだが……」
「門限じゃなく?」
「フッ……実はこのプリンセスの衣装は魔法でできていてな」
説明の最中、突如いつものクソ松に戻る次男。
「十二時の鐘が鳴り終わると魔法が解けて……このオレが一糸まとわぬ姿となってしまう」
「いますぐ帰って!!」
王子、鐘終了とともに全裸と聞くやいなや、突然の塩対応。
「いま三回目鳴ってるから、あと九回!? それまでに城出てってね! それじゃあね、おやすみ!」
「フッ、そんなにオレの生まれたままの姿が見たいのかい? いけないプリンスだ」
「いいから帰れーーーー!!」
ナマエ王子はやっとのことではた迷惑なプリンセスをおっ返し、やれやれとバルコニーでため息をつきます。プリンセスはクソな顔で「アデュー」などとのたまい、ハイヒールでえっちらおっちら会場出口から大階段へ向かっていきました。
(はぁ……変な人だった)
五回目の鐘を聞きながら、王子は先程の彼との交流を思い返します。
名前も知らないクソプリンセス。
本当に変な人でした。女装してるくせに堂々とカッコつけるし、そのくせダンスの最中は女の子みたいに目を潤ませていたり。あとカッコつけてるときの態度が結構クソ。でも嫌いじゃない。なんだこれ。
王子はそっと自分の胸に触れてみます。事故とはいえ、ここに異性が触れたのは初めてのこと。でも不思議と嫌ではありませんでした。
それに、自分の秘密を知られることを、以前の王子は大変恐れていましたが……知られたのがあの人で良かったと、なんとなく彼女は思うのでした。
そう、私の、秘密。
「……………………」
待って。身元も分からないまま帰しちゃまずくない?
行きがかり上仕方なくとはいえ、アカツカ国の王子が実は女の子という事実──国家最重要機密事項をパンピーが知ってしまったわけです。何かしら口止めしとかないとマズくない?
王子の顔がさっと青ざめました。時計の鐘は六回目。ナマエ殿下は自慢の俊足で大階段へ駆けつけます。
「プ……プリンセス!」
お目当てのプリンセスは階段の中程で、えっちらおっちら下へ向かっている最中でした。
驚いたようにこちらを見上げる彼のもとへ、王子さまは走り寄ります。
「ど、どうしたんだいプリンス! さてはさっそくオレのことが恋しくなったな?」
「いや違うから! 名前と住所! 名前と住所ー!!」
「え、なに? お前とフォーエバー?」
「どういう聞き違い!?」
うだうだしてるあいだに、時計の鐘は八回目を刻み始めます。もう時間がありません。後四回で全裸解禁!
「だーかーらー! 名前と住所を聞きたくて! あと今日のことは絶対秘密厳守で!」
「フッ……オレもお前とフォーエバー!」
「大丈夫!? 急に難聴になった!? ねえ!!」
そんなことをしていると。
「きゃあああ! 王子さま! 王子さまだわ!」
「王子さまがあそこに!」
背後からドドドドドドと、ヌーの群れもかくやと言わんばかりの轟音が響きます。王子の存在を感知した婚活女性の群れです。
「わわわ、あんなに大群で来られたらやばい……!」
背後の気配に戦々恐々の王子でしたが。傍らのゴリラ姫にそっとその腕を掴まれて、階段の脇へかばわれます。
「心配しないでくれ、キミの秘密を他人に言ったりはしないさ」
「ちゃ、ちゃんと聞いてるじゃん……」
「フ、おやすみプリンセス」
トン。王子の唇に、カラ松の指が触れました。
突然のイケメン仕草に、ナマエ殿下、再びの胸キュン。
しかし現実は非情でした。
「さあ待たせたなカラ松Girls! 次はキミたちの番だぜ~? このカラ松が、ひとり残らず愛してや……」
「王子さまーーーー!!」
「王子さまいずこーーーー!!」
大量に押し寄せる女子の群れを、なぜか一人で受け止めようとして。
カラ松は階段からふっ飛ばされ、見事にお城の正門から射出されました。
間一髪で、大量女子による轢死を免れたナマエ王子の手元には。
ぽーん。
「これ……あの人が履いてた靴……」
片方だけのガラスの靴が、飛び込んでくるのでした。
「いや危ないよガラスの靴! こけて割れたら足がズタズタになる!」
とりあえずツッコんどく王子。
ゴーンゴーンゴーン。
残りの鐘も鳴り終わり、シンデレラタイムこれにて終了。
「あれ、あそこで死んでるのカラ松兄さんじゃない?」
「うわぁ……身ぐるみ剥がされて全裸でボロボロに……」
「すげえなあの王子、あんな爽やかな顔してえげつないプレイするんだな」
「やべえ、おれ王子さまのこと好きになっちゃいそう……」
「どこにときめいてんのM松兄さん」