逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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「んぐんぐ、おいチョロ松、そっちの肉取って」
「自分で取れよ、近くにあんだろーが」
「うまー! うまー!」
「ほらよ豚ども! 美味い酒だ喰らいやがれー!」
「一松さまー!」
「一松さまー!」
「はー、無料で食べ放題! しあわせー!」
さて、舞踏会の会場では。キッツい女装の松野家の六つ子(ー1名)がビュッフェの料理を意地汚く貪っておりました。
しかし五人を楽しませるものは、何も料理ばかりではありません。
「いやー、さすがセレブとの婚活だけあって、勝負服なおなごの多いこと多いこと」
「結構胸元開いてる子多いんだね~」
「眼福眼福……」
「わき! うなじ! ドストラーイク!」
会場中、妙齢の女性ばかり。二十代までの未婚の女性ならば誰でも参加可能とあって玉石混交ではありましたが、皆王子との結婚狙い。清楚な服装から際どいドレス、ツワモノはヒモのみなど、童貞ニートにはなんとも刺激の強い空間でありました。
「あ、ちょっとみんな! あそこ!」
「あれトト子ちゃんじゃん!」
そしてもちろん、こんなビッグイベントを逃す我らが自慢の幼馴染ではありません。
会場の中でもひときわ輝きを放つ彼女は、トト子ちゃんで間違いありません。赤のロングドレスをしゃなりしゃなりと着こなして、ライバルたちを歯牙にもかけず悠々と歩いています。
「はぁ、王子さまったらどこにいるのかしら? 早くトト子と結婚してほしいのにな~。うふふ、王子というからには油田の百個や二百個、持ってて当然よね! トト子イケメンと豪遊生活するの楽しみ~!」
あはははは! うふふふふふ!
嬉しそうなトト子ちゃん。イケメン爽やか王子との婚活に全力のトト子ちゃん。
そんな彼女を見つめる松野兄弟の目は、一気に曇っていきました。
「おい、やべえぞニート共」
「ボクたちと爽やか王子さまじゃ雲泥の差だよ」
「月とスッポン……」
「スコティッシュフォールドとうんこ……」
「絶対ボクらじゃ王子に勝てるわけない……」
「よし、この会潰そう」
一同が無表情で頷いたときでした。
「ちょっと! 王子は! 王子はまだ来ないの!?」
「いやー、長いトイレザンスね~?」
「王子はトイレなんか行かない!」
「そんなことないザンスよ? だって人間ですし、ウンコもするザンス」
「いやーっ! 王子はウンコなんかしないわ!」
「もう出っ歯は見飽きたのよ! 王子を出しなさい王子を!」
「オイコラボケカスゥ! 早くトト子の婿出さんかいボケカスクソチ○カスがァァ!」
「や、やめっ! やめるザンス! フォークで刺さないでほしいザンスナイフはもっとやめてほしいザンス~~!」
あまりにもやって来ない王子に、しびれを切らした女性達が暴動を起こしたようでした。
「……なんか俺たちがわざわざ潰さなくてもいいみたいだな」
「とりあえず料理持って帰る?」
「ウィー」
出っ歯の重臣が一旦避難して、しばらく。
「王子さまのおなーり~!」
その号令は、会が始まって実に三十分後にもたらされました。
色めき立つ空気。会場中の女性からの黄色い歓声。そして松野クソブラザーズからの冷やかし。
「おうじさまのいなーりー!」
「もう、十四松兄さんお下品だよ!」
「あれれ? ぼくはいなり寿司のことを言ったつもりだったよ? 何が下品だったのトッティ? あれれ?」
「うっぜえ……」
クソみたいなやりとりはさておいて。
颯爽、かつ堂々とした立ち居振る舞いで、王子は会場に姿を表しました。
テレビで見るのと同じ……いえ、それ以上の風格です。少女のような可憐な容姿に纏う、凛然とした雰囲気。
暴動を起こしていた女性たちも、水を打ったように静まり返ります。
「……お集まりの皆様。この度の遅参、まことに申し訳なく思います。為政者の端くれとして、あるまじき失態です」
開口一番、王子は謝罪なされました。
「皆様にお会いすることを思うと、緊張してなかなかこの場へ来ることができませんでした。どうぞ、お許し願いたく」
そう言いつつ、王子は少し顔を赤らめ、頭を下げました。途端に湧く黄色い悲鳴。
うんうん、ウソは言ってないザンスね。と大臣は横で聞きながら頷いています。物は言いようザンスね、うんうん。
頭を下げっぱなしの王子に対し、周囲の参加者はというと。
「いいのよ王子ー!」
「気にしないでー!」
「顔をあげてー!」
「ウブなところもカワイイーー!!」
待たされた怒りも忘れて好感触。
一方のニート達は。
「緊張してたんだって。王子さまってもしかして童貞なのかな?」
「いいかぁ十四松。世の中には社交辞令とか体のいい言い訳とかいうものがあってだなぁ~」
「あ、このペンネおーいしー! チョロ松兄さんそこのアボカドのサラダ取って~」
「よく食うなトド松! ほらよアボカドサラダ! あとそこのシチューあっついから気をつけて食べろよ!」
「やべえこの空気……うんこしたい」
なんだかんだいつもどおりなのでした。
さて、王子はそっと顔をあげ、ほほえみながら挨拶を締めます。
「さて、本日は私のパートナー選考を兼ねた会ですが……皆様にはそういったことは気にせず、お心のまま過ごして頂きたく存じます。では、今宵のパーティーをお楽しみください!」
和やかに挨拶を終え、引き下がろうとした王子でしたが。
「いやいやいや、ちょっと待つザンス! どこ行こうとしてるザンスか!」
「え、ちょっと休憩に……」
「いま来たばっかりでしょあなた! ていうか今日は舞踏会、ダンスパーチーザンス! あんたが主役、だから手あたり次第に女の子と踊ってもらうザンス!」
「や、やっぱり……?」
「もー! せっかく会場まで来たわりに逃げ腰! 一体神経どうなってるザンしょ!?」
そんなことをしている間に、さっそく音楽隊がワルツを奏で始めました。
「ほら王子! さっさと踊ってくるザンス!」
「え、ええ……?」
背中をどつかれて、王子はホールへ押し出されます。
会場中の女性という女性から、期待の視線。
「王子! 王子私を選んで!」
「お願い神様、私が選ばれますように!」
「トト子です! 弱井トト子です! お願いします弱井トト子です!」
なんかぴょんぴょん飛び跳ねてる活きの良い赤いロングドレスの子が一際目立ちますが、王子はかぶりを振りました。
みんな、王子との結婚を望んでこの場へ来ています。結婚して、子どもを生むことを前提にここまで足を運んでいるのです。
しかし、王子は……いえ、ナマエはその期待に応えることはできません。なにせ、王子なんかではなく、本当は女の子なのですから。
ここで誰かの手を取ることは、その人の幸せの花を摘んでしまうこと。いまここで王子の婚約者という栄誉を与えられたとしても、将来的にはその人を傷つけてしまう。聡明な王子には、そんなことは最初から分かっていました。
だから、誰の手をとることもできない。
……ただ一人を除いて。
バンッ!
唐突に会場の扉が開け放たれました。そこに立っていたのは。
青い上品なドレスに身を包み。
サファイアをあしらったアクセサリーを揺らし。
金髪のウィッグも艶やかに。
恋する乙女の表情で立ち尽くす、松野カラ松だったのです。
松野カラ松だったのです。
ぽとり。ちょうど留守番中の二番目の兄のため、タッパーに揚げ物を詰めていたチョロ松の手元から、唐揚げがこぼれ落ちます。
「どゆこと?」
長男も唖然呆然。他の兄弟もこの展開の意味が分からない。
さらに意味が分からないことに。
いままで少し困った様子だった王子が、安心したように頬を緩め、彼……いや、彼女の元へ歩いて行ったのです。
「来てくれましたね、プリンセス」
とろけるような甘い声で笑いかけつつ、王子は青ドレスの、明らかに男らしいプリンセスの前で跪きました。
「どうか、私と一曲踊って頂けませんか?」
優しく手を差し伸べつつ、王子がそう誘いかければ。
「はい……」
血を分けた次男からメスの声が出たので、一部始終を見ていた松野クソブラザーズは驚愕のあまり吐きそうになりました。実際に一松はテーブルクロスの下で嘔吐しました。
会場中のどよめき。たどたどしくなるワルツ。
王子は自分よりも体格のいいプリンセスの手を取ると、そっとホールへと誘います。
「あ、ちょっと待ってくれ……」
「? どうしたの?」
ふと、カラ松が困ったように足を止めたので、王子は乙女ゲーム向けの挙動をいったんやめました。
「実はいまオレ、ハイヒール履いてて歩くのも大変なんだ。ダンスなんてとても……」
「そうか。でも大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないんだが」
「私に身を委ねて、プリンセス」
そして唐突に乙女ゲーム仕様に戻る王子。突然の豹変にトゥンクしちゃうカラ松姫。
王子は音楽に合わせ、プリンセスの腰にそっと手を添わせると緩やかにステップを踏み始めます。カラ松姫もそれに合わせておっかなびっくり、慣れないヒールでリズムを取ります……が!
ずこっ!
姫、いきなりバランスを崩します。そりゃもうとんでもないバランスの崩し方でした。王子にバックドロップを決めかねないほどの。
「ほ、ほらやっぱり!」
なんとか踏みとどまろうとするクソ松姫でしたが。
王子は難なく彼女の手を取り直すと、体勢をさりげなく整えてあげ、くるんとターンを決めつつ姫をその手に抱き留めます。
王子の腕の中で、カラ松はときめきよりも驚きの方が勝っている様子。
「……す、すごい体幹してるんだな、キミ……」
「うん。普段から乗馬とかしてるから」
「さすがプリンス……!」
そんな感じで、ゆったりとしたワルツを、ときに優雅に、ときにアクロバティックに踊り。
「お、おぇええええ!」
「大丈夫、一松兄さん? ゲロどころか口から内臓出そうだよ? 救急車呼ぶ?」
「救急車いらない……クソ松を殺して……」
「ちょっと誰よあのゴリラ!」
「いやもうただの女装した男じゃん!」
「私の王子を返せー!」
会場のそこかしこから阿鼻叫喚を噴出させ。
「あーーん! 王子さまがゲテモノ食いだったなんてーー!! ただ超絶かわいいだけのトト子には勝ち目なんてないじゃなーい! うわーん!!」
「シェ……シェーー……?」
ダンスが一曲終わる頃には、周囲は地獄絵図と化していました。けれどもホールの中心の二人には、和やかな雰囲気が漂います。
「……踊ったら少し疲れちゃったね」
少し頬を上気させて、王子が姫へはにかみます。
「バルコニーで、少し話さない?」
「ホールミータイ……」
「おーい? 大丈夫ー?」
すっかり二人の世界に入っている彼らには、まるで見えていませんでした。周辺の死屍累々が。
「カラ松兄さん、あのままお嫁に行っちゃうのかな? おそ松兄さん」
「さあなあ十四松。それにしても、世の中には不思議が満ちているんだなぁ」
「一松それ口から何出てんの?」
「胃袋」
「あ、トト子ちゃん。もう帰るの?」
「うん! なんか聞いたところによると、王子油田持ってないみたいだしぃ~、いっかなって!」
「この切り替えの早さ! さすが僕らの自慢の幼馴染!」
「トト子! 超絶かわいいよトト子!」