逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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「はー、どうしよう……」
手を洗って、ハンカチで拭き拭きして。
王子は大臣と別れてから通算五十回目になるため息を吐きました。正直まったく気乗りしません。ぶっちゃけ逃げたい。
しかし、世間の声にきちんと応えることも王子の役目。
本心と立場の背反に苦しみながら、王子は女子トイレを後にしようとします。
と、同時に隣の男子トイレから誰かが出てきました。
青いきらびやかなドレスに金色の髪。男らしい眉毛。
そう彼は──松野家に生まれし次男、カラ松でした。無事タクシーでお城へたどり着いた彼は、自宅で用を足し忘れていたことを思い出し、ひとまずトイレへ駆け込んだのです。お姫さま姿で。
ここはお城の中でも、一番ひっそりした場所にあるトイレ。だから彼ら二人以外に人の気配はなく。
王子は隣に現れた、男子トイレから登場したお姫さまを呆然の目で見つめました。
キラッキラのドレスをまとう、筋張った体格。眉の角度の鋭さ。そう、明らかに女装です。
一方のカラ松は、女子トイレから現れた王子を思わずガン見しました。
王子の顔は知っています。テレビや新聞でよく見るからです。でも自分の方が百倍は男前だと思っていました。それはともかく。
「フッ……まさか王子さまに女子トイレに入り浸る嗜みがあったとは……!」
「えっ、ちょっ」
納得の声でつぶやくカラ松。思わぬ誤解に眉を引きつらせる王子。
「なんという職権乱用! 一体女子トイレでナニをしていたんだい我らがプリンス!」
「いや待って、誤解だから! というか!」
王子、日頃の警備のおかげで不審者には慣れていません。しどろもどろになりつつ、やっと相手のおかしな点を指摘します。
「そっちだって女装してんじゃん!」
「そうだが?」
「素直に認めちゃったよ!」
「だがオレはちゃんと自分の性別に合った方のトイレを使っている」
「うぐ……」
「フッ、案ずるなプリンス。オレには分かるぜぇ、女子トイレという聖域! サンクチュアリ!」
どうして自分は城内で女装の不審者に絡まれているんだろう。そしてなぜ言い返せないんだろう。しかし王子、自問自答している場合ではありません。
「フフフ、オレ達男には普段立ち入ることができないからな、ここは! そこに惹かれる気持ち……痛いほど理解できる。が、しかし……世間では爽やか王子と言われているプリンスにこんなご趣味があったとは……。フ! 週刊誌に売れる!」
「や、ややややめてそれだけは!!」
窮地。
王子はあたふたと慌てます。思わず相手の両肩を掴み、説得しようとしますが。
「ていうか本当に誤解なんだってば!」
「ナニがどう誤解だっていうんだいプリンス? 男のくせに女子トイレに入る趣味があるのに?」
「いや、だから事情があって!」
「さあ、女子トイレでナニをしていたのか、洗いざらい教えて頂こうか! 今後の参考のために!」
「だーかーらー!」
誤解した上でやたらとしつこく掘り下げてくる女装野郎に、王子の焦りとイライラは増すばかり。普段のロイヤルな冷静さはあっけなく消え去りました。
女装姫のへらず口を止めようと、王子は手で掴んだままの相手の両肩を、ぐわんぐわんと揺さぶります。
「だーもう! 違うんだってば! だから週刊誌とかやめて!」
「あ、ちょ、プリンス! あんまり揺さぶられるとオレの……オレのウィッグが!」
カラ松はカラ松で、トイレの鏡でひとしきり「女装姿も似合う……オレ!」をやらかしていたので、なんだかんだいまのセットが崩れるのは避けたいところでした。ひとまず王子から身体を離そうと、彼の胸元を押しますが。
むにゅ。
「へっ?」
「あっ……」
男である王子には、ないはずの感触がありました。
「王……子?」
へなへなとへたりこむナマエ王子。そんな彼を見下ろしながら、カラ松は先程柔らかい感触を味わった両手を握ったり開いたりしています。
王子の顔は真っ赤でした。華奢な身体、朱に染まる可愛らしい顔は、まるで少女のよう。
(しまった……!)
王子は王子で、やっちまった感に襲われていました。普段はサラシを巻いて胸を潰しているのですが、いまは舞踏会の準備前。気を抜いてサラシを外していたのです。やっぱ巻いてると苦しいし。
いま着ている服装は、厚手の生地を使っているため、パッと見では胸の膨らみはわかりません。でもさすがに触ると分かる。そんな塩梅。
さて、カラ松には、王子が女子トイレを使う理由がすっかり分かってしまいました。
そして状況を理解し終えたところで、松野家次男の胸はときめきの音を鳴らします。きゅんっ。そう、完全に恋に落ちたのです。
テレビや新聞ですっかり見慣れた王子ですが、その正体は、男装して気丈に振る舞っていた女の子。童貞が落ちないはずはありません。
(か、かわいい……!)
真っ赤な顔でうずくまる男装の少女を、女装の野郎は同じく真っ赤な顔で見つめるのでありました。