逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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「大臣! 大臣はいるか!」
一方その頃お城では。今晩の舞踏会の主役・ナマエ王子が大臣を呼びつけていました。
そのお顔は怒りでカンカン。
「今晩の舞踏会って何のことだ大臣! 全然何にも聞いてないんだけど!」
そうです、王子は今日の舞踏会のことを何も知らされていなかったのです。
そこへのこのこと現れたのは。
「ハイハイハイ、大臣はここにいるザンスよ王子~!」
この国の大臣であるイヤミでした。常人離れした大きな前歯が特徴のこの男は、現国王のヨイショ要員として、大した功績がないくせに出世しちゃったありがちな佞臣でありました。
聡明な王子は、そんな大臣へ至極まっとうな怒りをぶつけます。
「大臣! 舞踏会とはどういうことだ! 昨日まではスケジュールになかったはずだ!」
「怒っちゃヤーよ王子~。ミーは王子のためを思って今日のパーチーをセッティングしたというのに……!」
「誰のためだって? 国中の女性を集めて、豪華ビュッフェ? ダンスパーティ? その費用は? 国庫からなんて言ったらはっ倒すぞ!」
「でもこうでもしないと、王子はちゃんとしようとしないでしょ? 婚活」
「うっ……」
王子、痛いところをつかれます。
そう、王子はいま世間からバッシングを受けていました。王子のくせに奥方を娶らないとはどういうことだ、お世継ぎはいつになるのか、この国の未来は!? ……と。
「し、しかし、私は……!」
「あーあー、別にミーはいいザンスよ? 王子が世間の非難を受け続けるだけ、ミーは痛くも痒くもないザンス。ま、でもこの国の王子としてちゃんとやっていくつもりがあるなら、ちゃんとお嫁さんをお迎えしなきゃ」
「そんな……でも……」
金も地位もあるのだから、すんなりどこぞの美女でもとっ捕まえて結婚すればいいものを。
王子は整ったお顔を暗く沈ませました。
まるで少女のように華奢なお身体に、可愛らしいお顔立ち。そんな外見に反して、男らしく凛々しい物言いと爽やかな立ち居振る舞い。そんな容姿とお人柄なものですから、王子は当然のように国内の女性から絶大な支持を受けていました。これならば嫁探しもすんなり終わるだろうと、周囲は王子が成人する数年前から期待を寄せていましたが。
しかし、そんな王子に浮いた話は一切なく。
もしナマエ王子がただのアイドルだったならば。浮いた話がなくてもバッシングを受けるどころか、色恋沙汰の気配が無いことをむしろ歓迎されたでしょう。
しかし彼はあくまで王子。世継ぎの有無が国の存続に関わるのです。
いつしか世間には、「あいつなんで結婚しねえんだ?」「好きな子が王子に夢中で辛い」「はよ結婚しろ」「はよ王子ロス起こせ」「はやくアタシと結婚しなさいよ王子! 結婚してくれなきゃ死ぬ!」みたいな声が溢れはじめました。
これが世にいう王子バッシング。王統を絶やすなとか世継ぎがどうのとか、正論を盾にした理不尽の数々。ナマエ王子は、日頃からこの手の報道や世論に心を痛めていらっしゃいました。
けれども、彼には易々と結婚できないわけがあったのです。
「でも大臣……私には、相手を騙すようなことは……」
「だいじょーぶザンス! 結婚したあとはテキトーにレスにでもなってりゃバレることはないザンス!」
「発想がビックリするぐらいクズ!」
「さあさあ、デモデモダッテはもうおしまいザンス! とりあえず結婚して、後のことは後考えるザンス!」
「いや、無理だって! 絶対いつかバレるから!」
──私が、女だってことは!
思わずそう叫びかけた彼……いや、彼女の口を、大臣は慌てて手でふさぎます。
このことは国家の最上級機密事項。絶対に部外者へ漏らすわけにはいきません。
「ダ、ダメザンス! そのことは口外しちゃいけないザンス!」
「くっ……そうだった」
そう、ナマエ王子は本当は女の子。なかなか子どもができなかった国王夫婦が、やっとさずかった女の子が彼女でした。
しかし彼女の出産後、元々お身体の弱かった王妃さまはそのまま身罷られてしまいます。王妃さまを深く愛していた国王さまは、後添えは絶対に娶らぬと公言。これに国の行く末を案じた大臣達が王をあの手この手で説得し、ナマエを男の子として──王子として育てることにしたのでした。
「いいですか王子。この度の舞踏会は、あくまで我が国のために開催するものザンス。決してあなた一人だけの問題じゃないでザンスよ?」
「…………」
そんなわけで、王子として育ったナマエ殿下は、自分のことは二の次、国のことが一番大事! な、責任感の強い王子へと成長なされたのです。だから、いくら気乗りしない舞踏会とはいえ、国や民のためと言われれば致し方ありません。
「……大臣」
「なんザンしょ?」
「どうしても出席しなきゃだめ?」
「国のためを思えば、答えは分かってるザンしょ?」
「はぁ……そうだよねぇ、出るしかないのか」
ナマエ王子は、観念したかのようにため息を吐きました。「うまくいったザンス」と大臣がほくそ笑んでいると。
「大臣。ごめんちょっとトイレ行ってくる」
「トイレ? まあいいザンス。終わったらちゃんと準備して会場に来るザンスよ?」
「はぁ……」
王子は憂鬱な顔で、その場を離れていきました。その背中を見送りながら、大臣は心の中で笑いが止まりません。
ぶっちゃけ勝手に舞踏会の準備をしてはいたけれど、王子の公認がなければ国庫金の不正使用でやべーところでした。事後とはいえ、一応は承諾が取れてよかったザンス!
(うまくいったザンス! まあミーは王子がパーチーにいようといまいと関係ないザンスけど)
王子が完全にその場から離れたことを確認して、大臣は思いっきり高笑いしました。
「うっひょひょーー!! 国の金でお見合いパーチーザンス! 待っててちょ、ミーのお嫁さん!」
つまり大臣の魂胆は、そんなことなのでした。