逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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それから時が経ち。
アカツカ国は無事に王政を終え。
穏やかに民主主義の時代へと移行しました。
大事業を数ヶ月で終えたダヨーン王は、「んじゃ、パンピーになるヨ〜ン!」と軽いノリで俗世間にまぎれていきました。
ナマエも同じくです。
あれから城を離れ、就職口を見つけ、住処を確保し、一人の社会人としてひっそり生きていました。
元王子という肩書きは、なにかと人目を惹くけれど。
以前のように、国や民草という重すぎる重荷を背負うことがなくなった彼女はの心は、大変軽やかでありました。
勤め先ではそれなりに責任だとかは負いますが。身の丈に合った今の暮らしを、ナマエは心底気に入っていたのです。
そして、今日も。
「ただいま〜!」
すっかりそんな帰宅の挨拶にも慣れました。帰り着いたのは愛しの我が家……となった、松野家。
「あら、お帰りなさいナマエちゃん」
「聞いてください松代さん! 私、来月から正社員に昇格することになりました!」
「まあ! 今まで頑張ってきたものね、ナマエちゃん……! ねえお父さん」
「ああ母さん! さすが私たちの娘だ!」
実の娘のように可愛がってくれる、松代さんに松造さん。そんな二人からの素直すぎる反応が、まだナマエにはこそばゆかったりします。
そして。
「あ、ナマエちゃんお帰り〜」」
「なに、正社員昇格? ちょっとやめてよ、俺たちにプレッシャーかかるじゃん! なあチョロ松?」
「ああナマエちゃん、心配しないで? 僕が人生の先輩として、職場で有用なコリジョンをアセンブルして……」
「正社員……王子のときより遠い存在に感じるのはなんでだろう……」
「ナマエちゃんドラフト指名!? スッゲー!」
「ドラフトじゃないよ、十四松兄さん」
「フッ、さすがマイプリンセス……いいぜ、正社員としての初任給で、オレに寿司を奢る権利はキミのものだ!」
「なんでだコラ」
このニート達も、相変わらず。
「それにしてもさぁ〜」
さて、夕飯もお風呂も終えて。
さあ寝ようとしたところで、ニート達が話しかけてきます。
「ナマエちゃんも波瀾万丈だよね。王子として生きてきて、急にパンピーになって?」
「住む家が無いからってさ、うちに転がり込んできて」
「だって、カラ松くんがここに来ていいって言うから……」
「だからって普通ニート部屋の押し入れに住む!?」
そう。現在のナマエの住処は、松野家二階、ニート達の部屋の押し入れでした。
王子から一般人となったナマエですが、アパートの部屋を借りるのに審査が通らなかったのです。数ヶ月前の、あの不動産屋での会話は忘れられません。「王子からパンピーになった人の前例がないから、審査通らないジョー」ですって。んなわけあるか。
それで一般人初日から路頭に迷っているところを、松野家の次男に拾われて今に至るわけです。現在では押し入れにはちゃんと鍵を取り付け、足を伸ばして寝られるように拡張し、なおかつコンセントや冷暖房も完備しました。費用はアルバイトで頑張って貯めた。
そんな愛しの押し入れを開けようとするナマエをとっ捕まえて、ニート達は不満たらたらです。
「ていうかこの押し入れも勝手に魔改造してるし! なんなのあの、壁にかけてるピン子の額縁!」
「ピン子はインテリアだし、それに押し入れ改造したのは勝手にじゃないよ! 家主の松造さんには許可取ったもの」
「いや俺たち! 俺たちの部屋なんだから俺たちの許可いるでしょ!」
「いいじゃん、きみたちの布団敷くのは手伝ってるんだしさー」
「手伝うだけじゃだめ! 添い寝もちゃんとしてくれなきゃ!」
長男のこういう面倒くさい絡みも慣れたもの。馬鹿言わないで、なんて適当にあしらって、ナマエは早く寝るとします。明日も早いのです。
「ったく、せっかく女の子と同居してんのに、エロいイベントが何一つ起こらないんだけど!」
「逆に一人だけ正社員になってプレッシャーかけてくる始末」
「はーあ、カラ松兄さんもなんでうちに来いなんて言っちゃうかなぁ……」
ニート達がぶつぶつぼやく中。トッティがふと気付きます。この場にいるニートは、彼含めて五人だけ。
「あれ、そういや元凶のカラ松兄さんは?」
と、その台詞と同時にナマエがすらっと押し入れの襖を開きました。押し入れの上段が彼女の就寝スペースになっているのですが。
「待ってたぜ、マイプリンセス」
そこにはちゃっかり布団を敷き、クソな顔で薔薇の花を一輪咥えて横たわる次男の姿が。
「正社員昇格の祝いに……このカラ松の添い寝をプレゼントフォーユーだぜ?」
カモンベイビー。
などと嘯くクソ松に、この場にいる誰もが醒めています。
そしてこの添い寝という名の不法侵入は、これが一度目では断じてなく。
「おーい、またクソ松に不法侵入されてんじゃん」
「五回目だね、ナマエちゃん」
「鍵付け替えたら?」
謎スキルで押し入れを開錠して忍び込むこと、これで五回。その度に無言で凄んで圧をかけたり、立退業者(一松&十四松)に依頼して退去させたりしていたナマエですが。
「え!?」
「ちょ、何してんのナマエちゃん!!」
どういうわけか、この日は押し入れにクソ松インの状態で、押し入れの上段に上り。
「ナマエちゃん!? ナマエちゃん!?」
「おやすみ」
「ナマエちゃーーーーーーーん!?」
ニートファイブにおやすみを告げて、スッと襖を閉めて施錠します。
襖の外から漏れ聞こえる阿鼻叫喚。夜中もうるさいニート対策に、襖を防音素材にしれっと変えておいたのですが、今日はそれでもしばらく騒がしそうです。
「え……あの、ナマエ……さん?」
そして二人きりの暗い押し入れの中で、不安そうな声を出すこの男。自ら添い寝を志願してきたにも関わらず、このごに及んで腰が引けているようです。
押し入れの中は真っ暗なので、カラ松にはまったく分かりませんでした。ナマエがそんな彼の様子に、幸せそうな笑みを浮かべていたことなんて。
「添い寝、してくれるんでしょ?」
「は、はひっ……!」
ナマエは横になって、そっと距離を詰めます。とん、と彼の胸に頭をくっつけてみると、面白いくら心臓がドキドキしてるではありませんか。まあ、彼女も人のことは言えませんが。
「ナマエ……? も、もしキミさえ良ければ、添い寝以外のことも……」
「まだだめ」
「フッ、だめか……」
心臓バクバクのくせにカッコつける、本当に本当に変な人。
「……え、まだって?」
ふと気付いたように声を出すけれど。
彼女はその問いには答えてあげません。
今は、まだ。
元王子のお姫さまは、そっとおやすみの挨拶をつぶやくのでした。
「おやすみなさい、王子さま」