逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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そんなこんなで一同がお城へたどり着くと。
「うわぁ……」
それはそれはひどい有様でありました。
城は燃え。暴徒と化した人々はうんこ付き棒を手に傍若無人を極め。
あたりにはサイレンが鳴り響き、空には中継用ヘリコプターがバラバラと散在しています。
そして磔にされた全裸のイヤミが、見せしめに晒されていました。
「ひ、ひどい……」
酸鼻極まる様相です。ていうかほぼほぼクーデター。
「そ、そうだ! 父上は……!」
城が燃えているのを、手をこまねいて見ているわけにはいきません。王子は慌てて城へ駆け込もうとしますが。
ピラッ、ピラッ。
空から落ちてくる、紙切れが一枚。見上げてみれば、国王専用プライベートジェットが王子のはるか頭上を通り過ぎていくところです。
落ちてきた紙に書いてあるのは。
『国王の位ゆずるヨ〜ン。あとはよろしくダヨ〜ン』
「ふざッッッッけんなあのくそ親父!!!!」
ナマエ王子は怒りのまま紙をちぎって丸めて地へ叩きつけ、力の限り汚い言葉で罵りました。とはいってもお育ちがいいので、罵るなんていっても大体「バカ」とか「アホ」とかばっかりでしたが。
「国王戴冠おめでとー」
「おめでとー王子ちゃん。王冠ないけど」
「さあ祝杯を上げようぜ、マイクイーン!」
「うっさいバーカ! バーカバーカ!」
のんきに祝うニート達に、涙目で喚き散らしているときでした。
「王子だ! 王子がいるぞ!」
「王子……いや姫? あ、でもさっき代替わりしたから王? まあいいや、今まで通り王子で!」
わらわらわら! 報道陣が寄ってきます。自暴自棄になっている場合ではありません。ナマエ殿下、シュッと一瞬で王子モードに。
「王子! 女の子だったというのは本当ですか!」
「スリーサイズは!」
「パンツの色は!」
「皆様、落ち着いてください」
明らかにおかしい質問内容を投げかけてくる記者へ、引きつった笑いを披露しつつ。
王子はまず、真摯に頭を下げました。
「この度は、私めの不徳の致すところにより、各方面の関係者様、並びに全国民の皆様へご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」
パシャパシャパシャ。カメラのフラッシュがまぶしく降り注ぎます。
「先般の報道にございます通り、私は今まで自らの性別を詐称していました。私は今まで対外的に男性として生きて参りましたが、本当の性別は女性です。自らの性を偽り、王子として振舞ってきました。王位は男子が継ぐと決められた国であるにも関わらず、です」
「そうだそうだー!」
「どうすんだこの国! 結局跡継ぎがいねえじゃねえかー!」
野次馬の至極もっともな指摘。けれども王子はめげません。
「女性の身であるにも関わらず、王子として過ごすことになったことは必ずしも、私の意志によるものではありませんでしたが……」
「おーい言い訳かー!?」
「アカツカ国の行末を案じてくださる皆様には、大変不安な思いを……」
「この国どうすんだー! バカ王子ー!」
「………………」
野太い声の野次が飛びます。王子はぎゅっと手を握りしめました。
言葉を止めちゃだめだ。ちゃんと国民を安心させてあげなければ。
そう思うのに、全く喉から言葉が出てきません。
ぱきゃっ。
突然、顔に軽い痛みと冷たい感触が叩きつけられました。とろりと髪から垂れる白身。投げつけられたのは生卵でした。
前を見てみると、悲痛な面持ちの女性と目が合います。その手には卵パック。女性は泣いていました。
「裏切り者!」
「…………!」
彼女の声が胸にぐさりと刺さりました。
「私、私王子のことが大好きだったのに……! 結婚できたらいいなって思って、この間の舞踏会にも出席したのに……!」
女性がその場で泣き崩れます。すると、彼女の後ろから、友人らしき女性達が複数人現れ、女性が持っていた卵を拾い上げ。
ぱきゃ。ぱきゃ。
次々と王子へ生卵の雨を降らせるのでした。
「あたしたちの気持ちを裏切った!」
「ずっと騙してたんだ!」
「嘘つき!」
「死んじゃえ!」
王子は抵抗もせず、ただただ卵を浴び続けています。
ナマエは生まれてずっと、男性として、王子として育ってきました。国民……特に女性からは、アイドル的な人気を得ていました。
それが実は、女の子だった。王子に憧れていた人々にとって、その事実はあまりにも残酷な裏切りだったのです。
彼女に王子としての人生を歩ませたのは、周囲の大人の都合によるものでした。王子にはどうしようもないことです。けれども、結果としてナマエ王子が国民の期待を裏切ったことは事実。不安を与えたことも、揺るぎのない事実。
「ご、ごめんなさ……」
思わず口から転がりでた、謝罪の言葉。言い切ることができずに、ナマエの瞳から涙がこぼれます。
「王子ちゃん……!」
「ちょ、や、やめなよ! こんなことしてもどうにもならないって!」
少し離れたところでニート達が心配してくれていますが、人垣に遮られ、彼らの声はナマエのもとまで届きません。
ついに冷静さを失った群衆の一人が、路傍の石を手に取りました。ナマエにはそれが見えていましたが、致し方ないとすっかり諦めていました。
その一人が振りかぶる素振りをするのが見えたので。ナマエは反射的に目を閉じます。
しかし、痛みは一向に襲ってきません。
不思議に思い、目を開くと。
「おいバカ! 石を投げるやつがあるか!」
青いパーカーの背中が、こちらをかばっているのが見えました。
「おい、大丈夫か!?」
振り返ったカラ松ですが、こっちの心配してる場合じゃありません。
「カ、カラ松くん!」
「ケガはないかナマエ!」
「いや、きみこそ頭から血が!」
「大丈夫だ、伊達に昭和からギャグ漫画の登場人物やってない。次のコマではもう治ってるぜ!」
自信満々にサムズアップを決めてくれますが、カラ松事変のことは忘れてしまったのでしょうか。
「ちょ、誰だてめぇー!」
「邪魔すんな!」
「てかあいつ、この間の女装野郎に似てない!?」
周囲のカラ松に対する剣呑な雰囲気に、王子は慌てて彼を下がらせようとします。
「わ、私はいいから! カラ松くんは早くここから離れて!」
「フッ、できない相談だ!」
「だめだって! カラ松くんは関係ないでしょ!」
王子は自慢の体幹で次男をグイグイ押しやろうとしますが、今日のカラ松はビクともしません。
「関係ないことはない! オレは、キミの……えーと」
しばらく視線をさまよわせたあと、クソ松は言いました。
「そう、オレはキミのナイトだから……!」
「だから爵位授けた覚えないんですけど!!」
さっきまでの悲愴な雰囲気どこいったよ。なんかいつもどおりのクソ松くんに、ちょっとした安心感すら覚えながらナマエ王子はツッコミますが。
「……じゃあ、いま授けてくれないか?」
「へ?」
「ナイトの爵位」
思わぬ申し出。カラ松は真剣な顔で王子をじっと見つめています。
こんな場面でこんな申し出。なんだどうした松野カラ松。急に乙女ゲーム仕様実装か松野家に生まれし次男。
しかし、ナマエの判断は。
「え、絶対いや」
「は!? なんで!? いまのオレ最高にカッコよかっただろ!!」
「そういうこと自分で言うの最高にカッコよくない」
「ひどい!」
にべもなく断る王子さまでしたが。
「……その、カラ松くんにはもっとお似合いの役職があるから」
「ん、なんて?」
「なんでもない!」
さて、ラブコメしている場合ではありません。
「おいこらなにいちゃついてんだ!」
「これからどうすんだこの国ー!」
本当にどうするんだこの国。野次馬の言うとおりです。
アカツカ国の行末は、この時のナマエ王子の双肩にかかっていました。
国民に対する受け答え如何によっては、暴動が全国へ広がってしまいます。
どうしてこうなった。しみじみ思うナマエでしたが、今は原因を問うている場合ではありません。
けれども、ナマエは女性の身。
アカツカ国の法律では、王位は男子が継承するヨ〜ン! と古来より定められているのです。なので、彼女は本当は王位継承権を持ちません。さっき国王からクソ雑に王位を譲られましたが、正直無効と言ってもいいようなもの。
詰み。まさに詰みなのですこの国。本当はそんなのとっくに分かっていました。国王夫妻が、女の子しか授かれなかったそのときから。
「…………………」
「ナマエ…………」
国民を安心させないと。この国を守らないと。
心は焦るばかりで、何をどう解決すればいいのか、どう説明すればいいのか、どう言葉にすればいいのか、まったく見えてきません。
「なんとか言ったらどうだ王子さんよー!」
「ずっとそのままだんまりかー!」
ヒートアップする野次。
どこかで火炎瓶が炸裂する音が聴こえます。
隣の彼も、守らないと。
「ちょっといいか?」
不意にカラ松が挙手しました。
じろりと群衆が彼に注目します。
「こんな国守る必要あるか?」
興奮した群衆の前で、報道陣の前で、全国中継されている中で。
この男はいけしゃあしゃあとそんなことをのたまいました。もちろん人々は怒りの声をやんややんや。
しかしその発言に一番食って掛かったのは、もちろんナマエさまです。
「ちょ、何を言ってんのきみは!!」
「いやだってそうだろう」
必死で抗議するナマエに対し、次男は実に冷静なものです。
「気に入らないことがあればすぐバッシングする。今日みたいに城を燃やす。悪かったことに対してはちゃんと謝罪をしたのに、それでも許さず、いたいけな女の子に生卵や石を投げつける」
カラ松は続けます。
「他に跡継ぎがいないからと、物心つかない女の子に王子役を強制する。そして勝手な期待を押し付ける」
どこがいい国だ? と彼は肩をすくめて見せました。そしてナマエを振り返ります。
「キミはこの間の舞踏会のときから、国のため国民のためと、自分の本心を押し殺し……まあ押し殺し切れてなくてオレデレラをチョイスしちゃったけど、とにかくこの国のために頑張っていたな」
なぜに上から目線。しかし、一見めちゃくちゃなカラ松の発言は、ナマエにとってはどこか温かい言葉ばかりで。
「キミがこの国や人々を守ろうと一生懸命なのは分かる。でも、そんなキミを守るのは一体誰なんだ?」
「!」
今まで考えたこともありませんでした。この国を守るのは、国王の子供として生まれた自分の努めだから。確かに近衛兵や兵隊がいて、身体的な安全は守られてはきたけれど。
立場的な安全は、いままでまったく守られていなかったのです。その結果が、今日。
「女の子一人守れないクソな国なんて、オレはなくてもいいと思うぜ! ハッハー!」
そしていつものクソな調子で高笑い。周囲からは「ふざけんな!」「もっかいうんこになれクソが!」などと罵声とともにうんこが飛んできます。
「なあナマエ! もう責任とか立場とか、全部放り出しちゃっていいんだぜ!」
うんこの洗礼を浴びながら、次男が言います。
「そうそう! ほら、ボクたちを見て!」
ホップステップジャンプを決めながら、間一髪でうんこを避けてトッティもやってきました。
「いい年こいて童貞! ニート! 競馬にパチンコやきゅうやきゅう!」
うんこを踏みながら十四松も。
「クズです、ゴミです、生きる気力のない燃えないゴミ!」
うんこを気にせず一松も現れます。
「就職未定! 結婚未定! 孫未定! にゃー!」
華麗なヲタ芸でうんこをかわしながら三男参上。
「働かずに親の金で食うメシがうまい! さあ俺たちを見習って!」
なぜか全裸で長男推参。
「さあナマエちゃん!」
全裸andうんこはナマエのそばでスクラムを組み、満面の笑みで言いました。
「めんどくさいこと全部投げ捨てて、気楽に生きようぜ~~!!」
群衆は唖然呆然。
生中継されるおそ松兄さんのおそ松兄さん。
そんな中、ナマエ王子はにっこりと笑顔で立ち上がると、ニート達へ向かい言葉を投げかけました。
「ニート達、おすわり」
「わん」
犬どもを座らせると、王子は懇々と言って聞かせます。
「あのねニート達。申し訳ないけど、私はきみたちみたいに世間体とかそういうのすべて投げ捨てて生きていくのちょっと無理」
「くぅ~ん」
「おそ松くん服着て」
「靴と同じで俺たちみんな同じサイズ」
「おだまり!!」
真っ赤になってニートを叱咤すると、王子は群衆へ向き直りました。
いま言った通り、このクソニート達のように面倒くさいことをぜんぶ捨てて生きるのは、楽でしょうけど良心が許しません。
でも、なんだか自分の立場とか国の有り様とか、そういうのがバカらしくなったのは確かで。
「はい」
ナマエ王子は真っ直ぐ手を挙げました。
恐る恐る近寄ってきた記者が、そっとマイクを彼女へ向けます。
王子はきっぱりはっきり、言ってやりました。
「この国、民主化します!」