第1章 高校一年のお話(全17話)
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※注意 山王工業高校の学校生活に関する記述は著者の妄想です。
秋田に居られるのは四日間。今日と明日は一日中フリーだけど、明後日の昼には新幹線で神奈川に帰らなければならない。
……って、始まったばかりの小旅行で最終日のことを考えるのは野暮だよね。
バスケ以外にこれといった趣味がない私にとって、この滞在は素晴らしいものとなるだろう。
一成が誘ってくれたこと、歓迎してくれた河田家には感謝しかない。
第4話 高校一年、秋田での夏休み~二日目~
昨晩、河田が寮に住んでいるという三人の同級生に連絡してくれた。事情を話すと皆速攻で承諾してくれたらしい。
それぞれが昼食をとった後、昨日もお世話になった屋外コートに集合した。相変わらず利用者は居ない。
「皆に紹介するっショ。俺の従兄弟で早乙女夢子。小さい頃からバスケを教えてた幼馴染っショ」
「初めまして。早乙女夢子です。今日は集まってくれてありがとうございます」
一成が私を紹介し、私もお礼を添えて名乗る。三人とも照れくさそうな表情を浮かべながら挨拶をしてくれた。
「野辺将広です。今日はよろしく」
野辺くんは今日集まっているメンバーの中で一番背が高い。リバウンドが得意なんだそうだ。
「松本稔です。よろしく! 同級生なんだし敬語は要らないよ」
松本くんは中学校で全国大会出場、キャプテン経験もあるという。一成曰くバランスが良い人らしい。
「一之倉聡です。俺のことはイチノでいいよ。よろしくね」
一之倉くんは地獄の夏合宿で唯一逃げなかった一年生だそうだ。忍耐力が桁違いらしい。
互いの自己紹介を終えると、一成はリーダーさながらに全員に声掛けをする。
「まずはウォーミングアップするっショ」
「なあ、それなら量を減らして山王の基礎練やらないか? 早乙女さんも山王バスケ部の練習気になるだろ」
「そりゃ良いな。身体も充分あったまるし、身体慣らしには丁度良いべ」
松本くんの提案に河田が名案だと言わんばかりに賛成してくれる。
あの山王バスケ部のメニューを体験できるの? なんて貴重な経験!!
嬉しさと期待で破顔している自覚がある。私を見た一成がにやりと笑いながら続けた。
「夢子も乗り気みたいだし、そうするっショ」
まずは二人一組になってストレッチから始める。私は一成と組ませてもらい、ゆっくりと筋を伸ばしていく。
一成の肩に手を触れると、手から伝わってくる筋肉の違いに一瞬で気付いた。以前よりもがっしりと逞しくなっている。中学卒業の頃はこれまでではなかったはずだ。山王工業の練習で確実に成長している。
これほど一成を男だと痛感させられたのは初めてかもしれない。
「夢子、どうしたっショ」
「あ、いや、かなり逞しくなったなと思って。セクハラじゃなくてね」
「セクハラとは思わないっショ」
顔が見えないけど、多少なりとも私の言葉は彼を喜ばせたらしい。声色が僅かに嬉しそうだ。
「夢子はバスケに関しては信頼できるっショ」
「バスケだけかい」
悪態をつくのも無理はなかろう。文字通り生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた仲なのに、信頼できるのがバスケだけってちょっと酷過ぎやしないか。
「夢子とは随分長くバスケやってるっショ。だからバスケに関しては他の人に言われるよりも夢子に褒められたほうが嬉しいっショ」
思ったことをそのまま素直に口にしているように聞こえる一成の言葉は柔らかい。
「そっか……そう言われると嬉しいな。私も一成に褒められたら嬉しいし」
基礎から教えてくれた人から褒められるのは格別だ。下手糞だった頃から見られてる分、言われていることが全て真実だと分かるから。
何様だと思われるかもしれないけれど、赤木くんや小暮君に褒められてもあんまり嬉しくない。それはクラスの子でも女子バスケ部の子でも同じだ。
皆に見せてあげたい。この世にはもっと凄い人が居るんだということを。
一成や今ここにいる河田達もその一員だ。この人達は過酷な練習環境に身を置いている。山王バスケ部はその層の厚さからレギュラーを獲るのが難しい大所帯だ。そこで目立つのはどれだけ難しいことだろう。
そんな皆とこうして今バスケができるのは奇跡だ。
「とまぁ雑談はここまでにするっショ。ここからは作戦タイムっショ」
一成の声がバスケモードに切り替わった。私はうんと頷く。
「夢子。何だかんだ言って河田以外はお前のこと侮ってるっショ」
「だろうね。さっきも普通に女の子扱いされたし」
神奈川でも自主トレを続けてるとはいえ、目で分かるほど肉体的に成長した自覚はない。それは皆の態度と言動からも丸分かりだ。きっと普通よりちょっと運動ができる女子程度にしか思われていないだろう。河田だけはその様子を面白そうに見守っているが。
「最初は多少なりとも手加減してくるっショ。俺とやってる時みたいに全力でやれっショ」
「もちろん! こんなところでエスコートされるのは嫌だからね」
山王バスケ部の基礎練を終え、軽く休憩をとってから総当たり戦の1on1を行った。
予想通りというべきか私の実力を知らない野辺くん、松本くん、一之倉聡くんは驚きの声をあげた。
ベンチでは監督のようにどっかり座り込んだ一成が満足そうに笑っている。正確には口の端がほんの少ししか上がってないのだが、これは幼馴染だけが理解できる満面の笑みである。
私は息を整えながら一成に近付いて声をかけた。
「機嫌がいいですねぇ深津監督」
「夢子にはこれがご機嫌な顔に見えんのか。俺には相変わらずの無表情にしか見えんべ」
「ふん、夢子を侮ってた三人がビックリしてるのは気分が良いっショ」
そう言い終えると一成がすっと前に握りこぶしを出してきた。意図を汲み取った私は意気揚々と拳をごつんと当てる。
私の少し後ろには松本くん達三人が立っている。
「三人とも腑に落ちない顔してどうしたっショ。1on1で勝ったのはお前達っショ」
理由が分かってるくせにわざわざ尋ねるとは悪趣味だなぁと苦笑する。タオルで汗を拭いながら三人を見ると、全員が何とも微妙な表情を浮かべているが。
結果から言うと私は1on1で皆に負けた。圧倒的に彼らのほうが動けるしシュートも入る。技術は明らかに三人のほうが上だ。
だけど、空気は決して和やかではない。
「まぁ、そうなんだけどな……」
「早乙女さん凄いね。俺達のほうが得点入れれたにしても動きに無駄が無いし判断力もある。ただの1on1にしては内容が濃かったよ。正直、同じ男じゃないのが残念なくらい」
「深津、どんなレクチャーしたらこう育つんだよ。お前選手じゃなくてトレーナーか監督のほうが向いてんじゃないか」
おお、これは私も一成も褒められている!?
「この若さでそんなこと言われたら照れるっショ」
「全然嬉しそうに見えねぇけど!?」
「どこまでも無表情なんだよな」
「ふふ……っ」
私は耐えれずに笑う。
皆とバスケをしている時間も、こうして雑談してる時間もなんて楽しいんだろう!
この楽しさは神奈川では味わえないものだ。
「じゃあ、夢子の実力が分かったところで3on3やるっショ」
一成の提案に全員同意する。メンバーは適宜入れ替えることとし、まず一回戦は下記の編成で行った。
深津・河田・早乙女
対
野辺・松本・一之倉
「最初から師弟コンビかよ!?」
「これは絶妙なコンビネーションが炸裂するパターンじゃないのか」
編成一発目から編成に対して残念そうな声が上がる。
でもその声に対してドヤ顔を浮かべることはできなかった。私は無言で一成を見やる。
「お前達が思うほどではないと思うっショ。俺達は基本1on1しかやってないっショ」
「うん。まともにチームメイトになるのって……これが初めてでは?」
どんなに記憶を辿っても、味方同士で一成とゲームした姿は思い出せない。基礎練習やシュート練習ではパスを貰うのは日常茶飯事だったけども。
「なら俺がサポートすればちっとはまともになるべ。夢子の実力は昨日で大体分かったし。しっかり声かけ合うぞ、二人とも」
河田の冷静な言葉に、一成と私は頷く。
「分かったっショ」
「了解」
「深津と早乙女。深津と河田。どっちか片方だけでも厄介なのに嫌な予感しかないな」
それから私たちはわーわー言いながら3on3でとことんやり合った。
メンバーを入れ替え、その都度作戦を練り直して実践する。
敵になっても構わず一成は私にアドバイスをくれた。それは時に敵チームから非難轟轟だった。でも一成が「肉体的にも技術的にもハンデがある唯一の女子にこの程度のアドバイスも許せないとか……お前達それでも山王の男っショ?」と煽れば、河田を除く三人がはっと気付かされたように項垂れた。その数秒後にそれぞれから「俺達が馬鹿野郎だったわスマン!」「マジでごめん許して!」「男失格でした!」と勢いよく謝られたから驚いてしまった。
まるで何か月も前から一緒に居た仲間のように接してくれる。私まで山王バスケ部の一員になったような気分だ。うーん、なんて幸せな勘違い。
帰りたくないなぁ。この先もここで皆の活躍を見られたら良いのに。
「いでっ」
河田のパスに気付かず、ボールが右腕に当たって落ちた。
「夢子! おめぇ何ぼーっとしてんだ! きちんと取れぇ!」
「ご、ごめぇん!」
「夢子、考え事するならゲーム終わってからっショ。とりあえずフォローするっショ」
「ありがと!!」
真っ暗になるまで私達はバスケを楽しんだ。
その様子を見ていた第三者が居たことを、私達は知らない。
秋田に居られるのは四日間。今日と明日は一日中フリーだけど、明後日の昼には新幹線で神奈川に帰らなければならない。
……って、始まったばかりの小旅行で最終日のことを考えるのは野暮だよね。
バスケ以外にこれといった趣味がない私にとって、この滞在は素晴らしいものとなるだろう。
一成が誘ってくれたこと、歓迎してくれた河田家には感謝しかない。
第4話 高校一年、秋田での夏休み~二日目~
昨晩、河田が寮に住んでいるという三人の同級生に連絡してくれた。事情を話すと皆速攻で承諾してくれたらしい。
それぞれが昼食をとった後、昨日もお世話になった屋外コートに集合した。相変わらず利用者は居ない。
「皆に紹介するっショ。俺の従兄弟で早乙女夢子。小さい頃からバスケを教えてた幼馴染っショ」
「初めまして。早乙女夢子です。今日は集まってくれてありがとうございます」
一成が私を紹介し、私もお礼を添えて名乗る。三人とも照れくさそうな表情を浮かべながら挨拶をしてくれた。
「野辺将広です。今日はよろしく」
野辺くんは今日集まっているメンバーの中で一番背が高い。リバウンドが得意なんだそうだ。
「松本稔です。よろしく! 同級生なんだし敬語は要らないよ」
松本くんは中学校で全国大会出場、キャプテン経験もあるという。一成曰くバランスが良い人らしい。
「一之倉聡です。俺のことはイチノでいいよ。よろしくね」
一之倉くんは地獄の夏合宿で唯一逃げなかった一年生だそうだ。忍耐力が桁違いらしい。
互いの自己紹介を終えると、一成はリーダーさながらに全員に声掛けをする。
「まずはウォーミングアップするっショ」
「なあ、それなら量を減らして山王の基礎練やらないか? 早乙女さんも山王バスケ部の練習気になるだろ」
「そりゃ良いな。身体も充分あったまるし、身体慣らしには丁度良いべ」
松本くんの提案に河田が名案だと言わんばかりに賛成してくれる。
あの山王バスケ部のメニューを体験できるの? なんて貴重な経験!!
嬉しさと期待で破顔している自覚がある。私を見た一成がにやりと笑いながら続けた。
「夢子も乗り気みたいだし、そうするっショ」
まずは二人一組になってストレッチから始める。私は一成と組ませてもらい、ゆっくりと筋を伸ばしていく。
一成の肩に手を触れると、手から伝わってくる筋肉の違いに一瞬で気付いた。以前よりもがっしりと逞しくなっている。中学卒業の頃はこれまでではなかったはずだ。山王工業の練習で確実に成長している。
これほど一成を男だと痛感させられたのは初めてかもしれない。
「夢子、どうしたっショ」
「あ、いや、かなり逞しくなったなと思って。セクハラじゃなくてね」
「セクハラとは思わないっショ」
顔が見えないけど、多少なりとも私の言葉は彼を喜ばせたらしい。声色が僅かに嬉しそうだ。
「夢子はバスケに関しては信頼できるっショ」
「バスケだけかい」
悪態をつくのも無理はなかろう。文字通り生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた仲なのに、信頼できるのがバスケだけってちょっと酷過ぎやしないか。
「夢子とは随分長くバスケやってるっショ。だからバスケに関しては他の人に言われるよりも夢子に褒められたほうが嬉しいっショ」
思ったことをそのまま素直に口にしているように聞こえる一成の言葉は柔らかい。
「そっか……そう言われると嬉しいな。私も一成に褒められたら嬉しいし」
基礎から教えてくれた人から褒められるのは格別だ。下手糞だった頃から見られてる分、言われていることが全て真実だと分かるから。
何様だと思われるかもしれないけれど、赤木くんや小暮君に褒められてもあんまり嬉しくない。それはクラスの子でも女子バスケ部の子でも同じだ。
皆に見せてあげたい。この世にはもっと凄い人が居るんだということを。
一成や今ここにいる河田達もその一員だ。この人達は過酷な練習環境に身を置いている。山王バスケ部はその層の厚さからレギュラーを獲るのが難しい大所帯だ。そこで目立つのはどれだけ難しいことだろう。
そんな皆とこうして今バスケができるのは奇跡だ。
「とまぁ雑談はここまでにするっショ。ここからは作戦タイムっショ」
一成の声がバスケモードに切り替わった。私はうんと頷く。
「夢子。何だかんだ言って河田以外はお前のこと侮ってるっショ」
「だろうね。さっきも普通に女の子扱いされたし」
神奈川でも自主トレを続けてるとはいえ、目で分かるほど肉体的に成長した自覚はない。それは皆の態度と言動からも丸分かりだ。きっと普通よりちょっと運動ができる女子程度にしか思われていないだろう。河田だけはその様子を面白そうに見守っているが。
「最初は多少なりとも手加減してくるっショ。俺とやってる時みたいに全力でやれっショ」
「もちろん! こんなところでエスコートされるのは嫌だからね」
山王バスケ部の基礎練を終え、軽く休憩をとってから総当たり戦の1on1を行った。
予想通りというべきか私の実力を知らない野辺くん、松本くん、一之倉聡くんは驚きの声をあげた。
ベンチでは監督のようにどっかり座り込んだ一成が満足そうに笑っている。正確には口の端がほんの少ししか上がってないのだが、これは幼馴染だけが理解できる満面の笑みである。
私は息を整えながら一成に近付いて声をかけた。
「機嫌がいいですねぇ深津監督」
「夢子にはこれがご機嫌な顔に見えんのか。俺には相変わらずの無表情にしか見えんべ」
「ふん、夢子を侮ってた三人がビックリしてるのは気分が良いっショ」
そう言い終えると一成がすっと前に握りこぶしを出してきた。意図を汲み取った私は意気揚々と拳をごつんと当てる。
私の少し後ろには松本くん達三人が立っている。
「三人とも腑に落ちない顔してどうしたっショ。1on1で勝ったのはお前達っショ」
理由が分かってるくせにわざわざ尋ねるとは悪趣味だなぁと苦笑する。タオルで汗を拭いながら三人を見ると、全員が何とも微妙な表情を浮かべているが。
結果から言うと私は1on1で皆に負けた。圧倒的に彼らのほうが動けるしシュートも入る。技術は明らかに三人のほうが上だ。
だけど、空気は決して和やかではない。
「まぁ、そうなんだけどな……」
「早乙女さん凄いね。俺達のほうが得点入れれたにしても動きに無駄が無いし判断力もある。ただの1on1にしては内容が濃かったよ。正直、同じ男じゃないのが残念なくらい」
「深津、どんなレクチャーしたらこう育つんだよ。お前選手じゃなくてトレーナーか監督のほうが向いてんじゃないか」
おお、これは私も一成も褒められている!?
「この若さでそんなこと言われたら照れるっショ」
「全然嬉しそうに見えねぇけど!?」
「どこまでも無表情なんだよな」
「ふふ……っ」
私は耐えれずに笑う。
皆とバスケをしている時間も、こうして雑談してる時間もなんて楽しいんだろう!
この楽しさは神奈川では味わえないものだ。
「じゃあ、夢子の実力が分かったところで3on3やるっショ」
一成の提案に全員同意する。メンバーは適宜入れ替えることとし、まず一回戦は下記の編成で行った。
深津・河田・早乙女
対
野辺・松本・一之倉
「最初から師弟コンビかよ!?」
「これは絶妙なコンビネーションが炸裂するパターンじゃないのか」
編成一発目から編成に対して残念そうな声が上がる。
でもその声に対してドヤ顔を浮かべることはできなかった。私は無言で一成を見やる。
「お前達が思うほどではないと思うっショ。俺達は基本1on1しかやってないっショ」
「うん。まともにチームメイトになるのって……これが初めてでは?」
どんなに記憶を辿っても、味方同士で一成とゲームした姿は思い出せない。基礎練習やシュート練習ではパスを貰うのは日常茶飯事だったけども。
「なら俺がサポートすればちっとはまともになるべ。夢子の実力は昨日で大体分かったし。しっかり声かけ合うぞ、二人とも」
河田の冷静な言葉に、一成と私は頷く。
「分かったっショ」
「了解」
「深津と早乙女。深津と河田。どっちか片方だけでも厄介なのに嫌な予感しかないな」
それから私たちはわーわー言いながら3on3でとことんやり合った。
メンバーを入れ替え、その都度作戦を練り直して実践する。
敵になっても構わず一成は私にアドバイスをくれた。それは時に敵チームから非難轟轟だった。でも一成が「肉体的にも技術的にもハンデがある唯一の女子にこの程度のアドバイスも許せないとか……お前達それでも山王の男っショ?」と煽れば、河田を除く三人がはっと気付かされたように項垂れた。その数秒後にそれぞれから「俺達が馬鹿野郎だったわスマン!」「マジでごめん許して!」「男失格でした!」と勢いよく謝られたから驚いてしまった。
まるで何か月も前から一緒に居た仲間のように接してくれる。私まで山王バスケ部の一員になったような気分だ。うーん、なんて幸せな勘違い。
帰りたくないなぁ。この先もここで皆の活躍を見られたら良いのに。
「いでっ」
河田のパスに気付かず、ボールが右腕に当たって落ちた。
「夢子! おめぇ何ぼーっとしてんだ! きちんと取れぇ!」
「ご、ごめぇん!」
「夢子、考え事するならゲーム終わってからっショ。とりあえずフォローするっショ」
「ありがと!!」
真っ暗になるまで私達はバスケを楽しんだ。
その様子を見ていた第三者が居たことを、私達は知らない。