第1章 高校一年のお話(全17話)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※注意 山王工業高校の学校生活に関する記述は著者の妄想です。
「はじめまして。早乙女夢子です。今日から四日間お世話になります!」
「どうも。河田雅史です……深津と違って早乙女さんは語尾になんも付けねんだな」
「ええ? 従兄弟といってもさすがにそれはないかな。河田くん、面白いこと言うね」
「夢子、こいつのことは河田でいいっショ」
「アホ。この家の人間みんな河田だぞ。まぁ俺のことは普通に雅史って呼べばいいべ」
「ええっ!? 初対面なのにいきなり呼び捨ては失礼じゃない?」
見事にフラグが立った瞬間であった。
第3話 高校一年、秋田での夏休み~初日~
「ぁああああ! クッソ、雅史もう一回! もう一回勝負!」
悔しさから口調が荒々しくなるのも気にせずに大声で勝負を持ちかける。河田はハハッと笑いながら言った。
「ふはっ。おめさん汗が凄ぇよ」
「こんなこともあろうかと着替えはたくさん持ってきた! から問題ない!」
「いや、そうじゃなくてよ。逃げやしねぇから少し休憩するべ。そんなんじゃ先に身体がへばっちまう」
「ええ……せっかく乗ってきたのに」
「ほれ、深津が持ってるドリンク飲んでこい」
「ちぇっ。分かりましたよ~」
息も絶え絶えに、流れ出る汗を腕で拭いながらベンチに向かう。どかっと腰掛けるや否や、一成はいつの間にか自販機で買ってきたらしいスポーツドリンクを差し出してきた。礼を言って受け取り、勢いよく喉に流し込むとひんやりとした甘いドリンクが喉を潤してくれる。
「ああ~っ、つっかれた!!」
「お疲れっショ。あの河田にあそこまで粘れるのは大したものっショ」
一成のお褒めの言葉を貰うのは久しぶりで嬉しいが、まずその前に河田への賛辞もとい愚痴を言わせていただきたい。
「ありがと。てかスタミナ有り過ぎだろぉ! なんであんな涼しい顔なん!?」
「山王のハードな練習と夏の地獄合宿を乗り越えれば夢子もああなれるっショ」
「ああ、例の? 化け物はここにも居たか……雅史が身長近いからギリギリ勝負っぽくなってるけど、あれで背も高くてパワーがあれば恐ろしい化け物になるね」
河田の身長が165センチ、私は167センチ。私のほうがほんの少し背が高いけど、ちっともメリットになってる気がしない。河田の動きは機敏で無駄が無い。山王で鍛えるとこんなふうになれるのか。今はハンデ無しでやってるけど、来年はもう対等に1on1できないんじゃないの?
「ドリブルは前よりも安定してるけど、乗せられて熱くなったら駄目っショ」
「ええっ!? だってさ……いや、いいです。何でもない」
言い訳は不要だ。特に一成相手には。こいつには何を言っても勝てる気がしない。
「重心はどう? 意識はかなりしてるつもりだけど」
「悪くないけど、できるならもっと低いほうが良いっショ」
「了解……はあ、勝てなくてクッソ悔しいけど楽しー」
「そう言ってもらえると誘った甲斐があるっショ」
インターハイ優勝、全国制覇二連覇という偉業を成し遂げた山王工業高校バスケ部。
とはいえ部員の身分は学生であり、当然のように夏休みというイベントが存在する。だがバスケ部の意識は既に秋の選抜出場、冬の国体への選手輩出に向かっている。長期休暇でも帰省する部員はほぼ居ないようだ。
かくいう一成も実家に帰省はせず秋田に残るという。一成が帰省しないなら私が伯母さんの家に遊びに行くのも少々微妙だ。そんなことを電話で話していたら一成が「じゃあ秋田に来い」と驚きの提案をしてきた。
運動場の設備点検で三日間ほど運動部の活動停止が言い渡されており、それは日本一のバスケ部でも例外なく従わないとならないらしい。でないと校長及び設備管理者にこっぴどく怒られるんだそうだ(過去に強行した代があるようで、その時は一週間の部活動停止という痛いダメージを喰らったらしい)。
つまりは設備点検日=バスケ部員の数少ない休日という訳だ。
そんな貴重な休日を私と使っていいのかと不安にはなるものの、久しぶりに一成と会いたいし叶うなら1on1もやりたい。秋田県は初めてだし、あの山王工業高校を生で見れるかもしれないという期待もあった。
両親に相談して許可とお小遣いを貰い、三泊四日の小旅行が実現する。秋田県に到着したのが二時間ほど前。学校から徒歩五分くらいのところに屋外コートが有るからと三人で向かい、交代で1on1をして今に至る。
「なぁ深津。明日は松本達も呼ばね?」
タオルで汗を拭いながら河田が雑談に参加する。松本って? と視線を一成に向ける。
「松本は俺達と同じ一年のバスケ部員っショ」
「深津がバスケ教えたイトコっていうからどんなもんかと思ってたけど予想以上だったわ。1on1も悪くねぇけど、どうせなら3on3のほうが面白ぇべ」
「悪くないっショ」
「もっと集められんなら5対5でやりてぇけどな」
河田の提案は嬉しいものだった。
今では授業くらいでしかまともなバスケができない。自主練は一人でやるものだから当然ストレスは溜まる。少しでも試合に近付くなら面白さは格段に上がるが。
「楽しそうだけど、せっかくの休日なのに付き合ってもらうのは申し訳ないなあ」
休日を満喫してたら迷惑なお誘いになってしまう。暗い表情を浮かべているつもりはなかったが、一成は私の頭をぽんと叩きながら言う。
「その杞憂は要らないっショ」
「んだな。少なくともこれから声掛けようとしてるのは真面目な奴らだ。深津がバスケを教えたイトコだって聞いたらすぐOKするべ」
「それは買い被りすぎじゃないかな」
一般女子よりはバスケが巧いってだけで、女だから体力ではまず男に勝てないし、そもそも大人数でのバスケに慣れていない。
山王の練習に耐えるだけの肉体を持つ部員仲間を呼んでも「彼らにとっては」楽しくないのではないかと思うと正直申し訳なさしかない。
「環境も性別も違うんじゃ確かに勝負にはならないっショ。でも、それがバスケをしない理由にはならないっショ」
「そうだな。俺達はやりてぇからやるんだ。それに刺激は多いほうが有難ぇし」
部活で試合形式となると、ある程度は実力を見知った相手とやり合うことになる。端的にいえば刺激が少ない。
そこに部外者といえる私が入ることで初見の相手を分析するという作業が加わる。対抗策を考えて実行し、駄目なら再検討して実行するを繰り返す。それを短時間で出来るようになれば学外での試合でも大きい効果が期待できると一成は言う。
「一年の中で一番バスケが上手いのはお前のイトコだ、夢子。まぁ夏の合宿では逃げたけどな」
「お前も逃げたっショ。人のこと言えないっショ」
「その深津が小さい頃からずっとバスケを教えた子が今ここに居るって聞いて、気にならない奴は居ねぇべ」
不服そうに漏らす一成に、河田は気にせず続ける。
「てか俺がこんだけお前のこと強ぇ強ぇって言ってんのに無視か。しおらしいフリするでねぇ」
「しおらしくは……なってるか。さっきまで思いっきり暴言吐いてたもんね私」
「おお。その大人しい女の子ヅラ、この後の勝負でひん剥いちゃるわ」
「言ったな小僧」
一成と同じくらいにひと言余計だけど、どうやら河田なりに励ましてくれてるらしい。私達を見守っている一成に至ってはそこはかとなく口元が笑ってる気がする。
「夢子。明日も吠え面かくだろうけど気にするなっショ」
「分かってたけどやっぱ余計なんだよな一言が!?」
「深津、無意識に相手煽るのやめれー」
その後、夕飯の時間が来るまで私達はコートを独り占めしていた。利用者が居ない屋外コートは最高である。
* * *
秋田に居る間、私は河田の家に泊めさせてもらうことになった。
河田のお母さんは「滞在中は手伝いなんか気にしなくていいから息子や従兄弟とたくさん遊んで思い出を作ってね」と言ってくれた。
私が滞在する間は一成も河田家に泊まるそうだ。そのほうが私も変に気遣わなくていいだろうという配慮らしい。なんか合宿みたいだねと言ったら一成は微妙な表情を浮かべていた。それを見た河田は思いっきり笑っていた。解せぬ。
何はともあれ、私の秋田での夏休みは始まったばかり。
充実した時間になればいいなと思います。
「はじめまして。早乙女夢子です。今日から四日間お世話になります!」
「どうも。河田雅史です……深津と違って早乙女さんは語尾になんも付けねんだな」
「ええ? 従兄弟といってもさすがにそれはないかな。河田くん、面白いこと言うね」
「夢子、こいつのことは河田でいいっショ」
「アホ。この家の人間みんな河田だぞ。まぁ俺のことは普通に雅史って呼べばいいべ」
「ええっ!? 初対面なのにいきなり呼び捨ては失礼じゃない?」
見事にフラグが立った瞬間であった。
第3話 高校一年、秋田での夏休み~初日~
「ぁああああ! クッソ、雅史もう一回! もう一回勝負!」
悔しさから口調が荒々しくなるのも気にせずに大声で勝負を持ちかける。河田はハハッと笑いながら言った。
「ふはっ。おめさん汗が凄ぇよ」
「こんなこともあろうかと着替えはたくさん持ってきた! から問題ない!」
「いや、そうじゃなくてよ。逃げやしねぇから少し休憩するべ。そんなんじゃ先に身体がへばっちまう」
「ええ……せっかく乗ってきたのに」
「ほれ、深津が持ってるドリンク飲んでこい」
「ちぇっ。分かりましたよ~」
息も絶え絶えに、流れ出る汗を腕で拭いながらベンチに向かう。どかっと腰掛けるや否や、一成はいつの間にか自販機で買ってきたらしいスポーツドリンクを差し出してきた。礼を言って受け取り、勢いよく喉に流し込むとひんやりとした甘いドリンクが喉を潤してくれる。
「ああ~っ、つっかれた!!」
「お疲れっショ。あの河田にあそこまで粘れるのは大したものっショ」
一成のお褒めの言葉を貰うのは久しぶりで嬉しいが、まずその前に河田への賛辞もとい愚痴を言わせていただきたい。
「ありがと。てかスタミナ有り過ぎだろぉ! なんであんな涼しい顔なん!?」
「山王のハードな練習と夏の地獄合宿を乗り越えれば夢子もああなれるっショ」
「ああ、例の? 化け物はここにも居たか……雅史が身長近いからギリギリ勝負っぽくなってるけど、あれで背も高くてパワーがあれば恐ろしい化け物になるね」
河田の身長が165センチ、私は167センチ。私のほうがほんの少し背が高いけど、ちっともメリットになってる気がしない。河田の動きは機敏で無駄が無い。山王で鍛えるとこんなふうになれるのか。今はハンデ無しでやってるけど、来年はもう対等に1on1できないんじゃないの?
「ドリブルは前よりも安定してるけど、乗せられて熱くなったら駄目っショ」
「ええっ!? だってさ……いや、いいです。何でもない」
言い訳は不要だ。特に一成相手には。こいつには何を言っても勝てる気がしない。
「重心はどう? 意識はかなりしてるつもりだけど」
「悪くないけど、できるならもっと低いほうが良いっショ」
「了解……はあ、勝てなくてクッソ悔しいけど楽しー」
「そう言ってもらえると誘った甲斐があるっショ」
インターハイ優勝、全国制覇二連覇という偉業を成し遂げた山王工業高校バスケ部。
とはいえ部員の身分は学生であり、当然のように夏休みというイベントが存在する。だがバスケ部の意識は既に秋の選抜出場、冬の国体への選手輩出に向かっている。長期休暇でも帰省する部員はほぼ居ないようだ。
かくいう一成も実家に帰省はせず秋田に残るという。一成が帰省しないなら私が伯母さんの家に遊びに行くのも少々微妙だ。そんなことを電話で話していたら一成が「じゃあ秋田に来い」と驚きの提案をしてきた。
運動場の設備点検で三日間ほど運動部の活動停止が言い渡されており、それは日本一のバスケ部でも例外なく従わないとならないらしい。でないと校長及び設備管理者にこっぴどく怒られるんだそうだ(過去に強行した代があるようで、その時は一週間の部活動停止という痛いダメージを喰らったらしい)。
つまりは設備点検日=バスケ部員の数少ない休日という訳だ。
そんな貴重な休日を私と使っていいのかと不安にはなるものの、久しぶりに一成と会いたいし叶うなら1on1もやりたい。秋田県は初めてだし、あの山王工業高校を生で見れるかもしれないという期待もあった。
両親に相談して許可とお小遣いを貰い、三泊四日の小旅行が実現する。秋田県に到着したのが二時間ほど前。学校から徒歩五分くらいのところに屋外コートが有るからと三人で向かい、交代で1on1をして今に至る。
「なぁ深津。明日は松本達も呼ばね?」
タオルで汗を拭いながら河田が雑談に参加する。松本って? と視線を一成に向ける。
「松本は俺達と同じ一年のバスケ部員っショ」
「深津がバスケ教えたイトコっていうからどんなもんかと思ってたけど予想以上だったわ。1on1も悪くねぇけど、どうせなら3on3のほうが面白ぇべ」
「悪くないっショ」
「もっと集められんなら5対5でやりてぇけどな」
河田の提案は嬉しいものだった。
今では授業くらいでしかまともなバスケができない。自主練は一人でやるものだから当然ストレスは溜まる。少しでも試合に近付くなら面白さは格段に上がるが。
「楽しそうだけど、せっかくの休日なのに付き合ってもらうのは申し訳ないなあ」
休日を満喫してたら迷惑なお誘いになってしまう。暗い表情を浮かべているつもりはなかったが、一成は私の頭をぽんと叩きながら言う。
「その杞憂は要らないっショ」
「んだな。少なくともこれから声掛けようとしてるのは真面目な奴らだ。深津がバスケを教えたイトコだって聞いたらすぐOKするべ」
「それは買い被りすぎじゃないかな」
一般女子よりはバスケが巧いってだけで、女だから体力ではまず男に勝てないし、そもそも大人数でのバスケに慣れていない。
山王の練習に耐えるだけの肉体を持つ部員仲間を呼んでも「彼らにとっては」楽しくないのではないかと思うと正直申し訳なさしかない。
「環境も性別も違うんじゃ確かに勝負にはならないっショ。でも、それがバスケをしない理由にはならないっショ」
「そうだな。俺達はやりてぇからやるんだ。それに刺激は多いほうが有難ぇし」
部活で試合形式となると、ある程度は実力を見知った相手とやり合うことになる。端的にいえば刺激が少ない。
そこに部外者といえる私が入ることで初見の相手を分析するという作業が加わる。対抗策を考えて実行し、駄目なら再検討して実行するを繰り返す。それを短時間で出来るようになれば学外での試合でも大きい効果が期待できると一成は言う。
「一年の中で一番バスケが上手いのはお前のイトコだ、夢子。まぁ夏の合宿では逃げたけどな」
「お前も逃げたっショ。人のこと言えないっショ」
「その深津が小さい頃からずっとバスケを教えた子が今ここに居るって聞いて、気にならない奴は居ねぇべ」
不服そうに漏らす一成に、河田は気にせず続ける。
「てか俺がこんだけお前のこと強ぇ強ぇって言ってんのに無視か。しおらしいフリするでねぇ」
「しおらしくは……なってるか。さっきまで思いっきり暴言吐いてたもんね私」
「おお。その大人しい女の子ヅラ、この後の勝負でひん剥いちゃるわ」
「言ったな小僧」
一成と同じくらいにひと言余計だけど、どうやら河田なりに励ましてくれてるらしい。私達を見守っている一成に至ってはそこはかとなく口元が笑ってる気がする。
「夢子。明日も吠え面かくだろうけど気にするなっショ」
「分かってたけどやっぱ余計なんだよな一言が!?」
「深津、無意識に相手煽るのやめれー」
その後、夕飯の時間が来るまで私達はコートを独り占めしていた。利用者が居ない屋外コートは最高である。
* * *
秋田に居る間、私は河田の家に泊めさせてもらうことになった。
河田のお母さんは「滞在中は手伝いなんか気にしなくていいから息子や従兄弟とたくさん遊んで思い出を作ってね」と言ってくれた。
私が滞在する間は一成も河田家に泊まるそうだ。そのほうが私も変に気遣わなくていいだろうという配慮らしい。なんか合宿みたいだねと言ったら一成は微妙な表情を浮かべていた。それを見た河田は思いっきり笑っていた。解せぬ。
何はともあれ、私の秋田での夏休みは始まったばかり。
充実した時間になればいいなと思います。