第3章 高校三年のお話
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※注意 山王工業高校の学校生活およびウィンターカップに関する記述の殆どが捏造です。現在のBリーグとごっちゃになってるやも。
ウィンターカップ神奈川県代表の出場枠は男女それぞれ2校ずつに与えられる。
この秋、湘北高校バスケ部は男女ともに予選で好結果を残し、本戦への出場権を手にした。
最後の最後まで練習と練習試合に打ち込んだ私は、一成と電話で一度も話すことなくウィンターカップに臨む。
第43話 高校三年、ウィンターカップのお話①
『これより二十分のハーフタイムとなります。第二試合に出場する高校は練習を始めてください』
アナウンスが放送されると次に試合を控えている高校がぞろぞろとコートの中に入っていった。
試合までは時間があるのでユニフォームは着ない。上はTシャツ、下は湘北ジャージで練習を行う。マネージャーや監督もボール出しや声掛けを担当し、控え要員もしっかりウォーミングアップに加わる。シュート練習に集中する学校、独自の基礎練を行う学校など行われるメニューは様々だ。
「女子の試合なのに随分観客が多いですね。ちょっと緊張します」
「私よりも公式試合の経験が多い人が何言ってんの」
個人的な要望に応え、ドリブルしながらのパスやフォーメーション確認の相手をしていると後輩が弱音を吐く。私は笑いながら言った。
「笹木さんだって他の選手に負けてないよ。あの基礎練を今や楽々にこなせるようになったんだから、自信持って!」
「は、はい!」
「よし。じゃあ次は私がパス出しするからそこからスリー打ってごらん」
事前に打ち合わせしている目配せのタイミングでボールを渡し、彼女のシュートフォームを見ながらそのまま視線をボールに流す。見事にボールはゴールの中を綺麗に通り、シュートの手を止めていた部員達が一斉に反応を示した。
「わあ、笹木さん今日絶好調じゃない!?」
「いや~、いつ見ても綺麗なシュートだねぇ」
「本当に。スリーを打てる人が増えると助かるわ」
最後にしみじみと呟いたのは私だ。レイアップや通常のシュートが入るのは言わずもがな、ここぞという時にスリーポイントシュートを打てる人材というのはとても貴重だ。やけくそに打つのではなく、ある程度の勝算を持って投げられる人でないと駄目だ。博打では意味がないのだから。
「早乙女さん、私達の連携はどうかな」
「うん。いつもより調子良さそうだね。でも無理しないで。後は軽くシュート練習で流しておきな。敵に全部を見せる必要はないよ」
「早乙女先輩。私もシュート見ていただいていいですか?」
「いいよ~」
私は自分の練習よりも部員達の練習を見ることを優先した。何故なら、公式試合に何度も出ているはずの彼女達のほうが明らかに緊張しているからだ。
インターハイ予選でベスト16入りを果たしたとはいえ、全国大会と同等であるウィンターカップに出場しているのだから無理はないだろう。観客の目も雰囲気も夏とは異なる。大学やプロの監督が観に来ていてもおかしくない。
この緊張をほぐすためにはいつもの部活のような空気を作ってあげることが大事だ。気になるところがあれば声を掛けて、問題が無ければ褒める。彼女達が持つべきものは試合への闘志。持っている技術を駆使して戦うんだという強い意志だ。早くプレーしたいという抑え難い強烈な欲を感じてもらわなければならない。
「じゃあ次は……」
指示を出そうとした瞬間、横から大きな声がいくつも聞こえてきた。
「早乙女先輩! 頑張ってくださいねー!」
「早乙女先輩の高校デビュー戦、楽しみにしてますよー!」
「思いっきり行くんだぞ!」
「はあ!?」
声が聞こえた方向に勢いよく目を向けると、そこは黄色の紫色のジャージ軍団が一帯を染めていた。言わずもがな海南大付属高校である。
インターハイで全国2位を勝ち取った強豪校が無名の湘北高校に声援を送ったというとんでもない行為のおかげで、素直に反応を示した私にも観客の視線が注がれた。
「何やってんだあいつらは……ッ」
余りの恥ずかしさにボールを持ちながら震えていると、今度は正反対の方向から野太い声が聞こえてきた。
「早乙女先輩、頑張ってください! 僕らの念を送ります~!」
「お前の本気を見せてみろ!」
「何かよく分からねーけど頑張れよ!」
「今度は湘北!?」
次に声援を送ってくれたのは湘北高校の男子バスケ部員達だ。試合かと思ってたがどうやら別日だったらしい。
最後に気の抜けるような応援をしてきたのは噂で聞いてた三井か。松本からファウル貰ってワンスロー入れてたっけ……てか、よく分からねーなら黙ってろよ!
頼むからもう目立たせないでください。そう願っていたが、湘北の声援が落ち着いたかと思いきや即座に聞き慣れた声が聞こえてきてズッコケそうになった。
「夢子! 秋田での練習の成果どご見せろよォ!」
「しつこくいけよー!」
「俺達が全力で応援してやるからなー!」
「立派な高校デビューを期待してるぞ早乙女~!」
「いけいけ湘北! おせおせ湘北!」
「まだ練習だってのに何やってんのマジで……!?」
ウィンターカップ出場を果たしているのは既に知っていたが、まさか山王工業バスケ部の全員が座席に居るとは思うまい。河田、イチノ、松本、野辺、全員の順番でバカでかい声援がぶっ放される。そして真っ白な軍団はとにかく目立つ。何故まだ練習時間なのに応援が試合モードなのだ。早過ぎだろう!
日本一のチームと名高い最強の高校がまたもや湘北の一人をバチバチに応援しているという異様な光景に、観客も明らかな動揺を示した。
「なぁに? あの早乙女って……有名なの?」
「いや、過去の試合には一度も出てないみたいだけど」
「なんだってあんなに応援されてるわけ?」
うわあ、観客席からの呟きが聞こえてくる。
私が顔を真っ赤にして震えている姿を見て、緊張していたはずの部員達は逆に落ち着いてしまったらしい。苦笑いしながら「早乙女さん、気にしないで」「頑張って欲しいっていう気持ちが凄いだけよ」「た、大した事ないわ!」なんてフォローさせてしまう始末。私がたしなめられてちゃ世話ねぇわ。ちくしょうが!
心の中で悪態を突いてると強い視線を感じた。見上げれば、そこには真剣な表情で見つめてくる一成が居た。拳を握り、何も言わずグッと顔の前に差し出す。
「頑張れっていう意味と同時に、師匠に恥かかせるなよっていう意志も感じるなぁ」
私の師匠が一成だという事実は、ある程度付き合いのある高校や雑誌を熟読している人なら把握している。
もちろん恥をかかせるつもりはさらさらない。
一成が与えてくれた技術のおかげで私はバスケ選手として生きることができる。
一成が、山王が全力で立ち向かった夏の試合があったからこそ私は今、コートの上に立っている。
「もう……あいつらのせいで何もかも吹っ飛んだわ。余計なこと考えないで、試合を楽しんでやる!」
そう言いながらスリーポイントシュートを打つ。
ボールは綺麗な弧を描いてゴールに入った。
ウィンターカップ神奈川県代表の出場枠は男女それぞれ2校ずつに与えられる。
この秋、湘北高校バスケ部は男女ともに予選で好結果を残し、本戦への出場権を手にした。
最後の最後まで練習と練習試合に打ち込んだ私は、一成と電話で一度も話すことなくウィンターカップに臨む。
第43話 高校三年、ウィンターカップのお話①
『これより二十分のハーフタイムとなります。第二試合に出場する高校は練習を始めてください』
アナウンスが放送されると次に試合を控えている高校がぞろぞろとコートの中に入っていった。
試合までは時間があるのでユニフォームは着ない。上はTシャツ、下は湘北ジャージで練習を行う。マネージャーや監督もボール出しや声掛けを担当し、控え要員もしっかりウォーミングアップに加わる。シュート練習に集中する学校、独自の基礎練を行う学校など行われるメニューは様々だ。
「女子の試合なのに随分観客が多いですね。ちょっと緊張します」
「私よりも公式試合の経験が多い人が何言ってんの」
個人的な要望に応え、ドリブルしながらのパスやフォーメーション確認の相手をしていると後輩が弱音を吐く。私は笑いながら言った。
「笹木さんだって他の選手に負けてないよ。あの基礎練を今や楽々にこなせるようになったんだから、自信持って!」
「は、はい!」
「よし。じゃあ次は私がパス出しするからそこからスリー打ってごらん」
事前に打ち合わせしている目配せのタイミングでボールを渡し、彼女のシュートフォームを見ながらそのまま視線をボールに流す。見事にボールはゴールの中を綺麗に通り、シュートの手を止めていた部員達が一斉に反応を示した。
「わあ、笹木さん今日絶好調じゃない!?」
「いや~、いつ見ても綺麗なシュートだねぇ」
「本当に。スリーを打てる人が増えると助かるわ」
最後にしみじみと呟いたのは私だ。レイアップや通常のシュートが入るのは言わずもがな、ここぞという時にスリーポイントシュートを打てる人材というのはとても貴重だ。やけくそに打つのではなく、ある程度の勝算を持って投げられる人でないと駄目だ。博打では意味がないのだから。
「早乙女さん、私達の連携はどうかな」
「うん。いつもより調子良さそうだね。でも無理しないで。後は軽くシュート練習で流しておきな。敵に全部を見せる必要はないよ」
「早乙女先輩。私もシュート見ていただいていいですか?」
「いいよ~」
私は自分の練習よりも部員達の練習を見ることを優先した。何故なら、公式試合に何度も出ているはずの彼女達のほうが明らかに緊張しているからだ。
インターハイ予選でベスト16入りを果たしたとはいえ、全国大会と同等であるウィンターカップに出場しているのだから無理はないだろう。観客の目も雰囲気も夏とは異なる。大学やプロの監督が観に来ていてもおかしくない。
この緊張をほぐすためにはいつもの部活のような空気を作ってあげることが大事だ。気になるところがあれば声を掛けて、問題が無ければ褒める。彼女達が持つべきものは試合への闘志。持っている技術を駆使して戦うんだという強い意志だ。早くプレーしたいという抑え難い強烈な欲を感じてもらわなければならない。
「じゃあ次は……」
指示を出そうとした瞬間、横から大きな声がいくつも聞こえてきた。
「早乙女先輩! 頑張ってくださいねー!」
「早乙女先輩の高校デビュー戦、楽しみにしてますよー!」
「思いっきり行くんだぞ!」
「はあ!?」
声が聞こえた方向に勢いよく目を向けると、そこは黄色の紫色のジャージ軍団が一帯を染めていた。言わずもがな海南大付属高校である。
インターハイで全国2位を勝ち取った強豪校が無名の湘北高校に声援を送ったというとんでもない行為のおかげで、素直に反応を示した私にも観客の視線が注がれた。
「何やってんだあいつらは……ッ」
余りの恥ずかしさにボールを持ちながら震えていると、今度は正反対の方向から野太い声が聞こえてきた。
「早乙女先輩、頑張ってください! 僕らの念を送ります~!」
「お前の本気を見せてみろ!」
「何かよく分からねーけど頑張れよ!」
「今度は湘北!?」
次に声援を送ってくれたのは湘北高校の男子バスケ部員達だ。試合かと思ってたがどうやら別日だったらしい。
最後に気の抜けるような応援をしてきたのは噂で聞いてた三井か。松本からファウル貰ってワンスロー入れてたっけ……てか、よく分からねーなら黙ってろよ!
頼むからもう目立たせないでください。そう願っていたが、湘北の声援が落ち着いたかと思いきや即座に聞き慣れた声が聞こえてきてズッコケそうになった。
「夢子! 秋田での練習の成果どご見せろよォ!」
「しつこくいけよー!」
「俺達が全力で応援してやるからなー!」
「立派な高校デビューを期待してるぞ早乙女~!」
「いけいけ湘北! おせおせ湘北!」
「まだ練習だってのに何やってんのマジで……!?」
ウィンターカップ出場を果たしているのは既に知っていたが、まさか山王工業バスケ部の全員が座席に居るとは思うまい。河田、イチノ、松本、野辺、全員の順番でバカでかい声援がぶっ放される。そして真っ白な軍団はとにかく目立つ。何故まだ練習時間なのに応援が試合モードなのだ。早過ぎだろう!
日本一のチームと名高い最強の高校がまたもや湘北の一人をバチバチに応援しているという異様な光景に、観客も明らかな動揺を示した。
「なぁに? あの早乙女って……有名なの?」
「いや、過去の試合には一度も出てないみたいだけど」
「なんだってあんなに応援されてるわけ?」
うわあ、観客席からの呟きが聞こえてくる。
私が顔を真っ赤にして震えている姿を見て、緊張していたはずの部員達は逆に落ち着いてしまったらしい。苦笑いしながら「早乙女さん、気にしないで」「頑張って欲しいっていう気持ちが凄いだけよ」「た、大した事ないわ!」なんてフォローさせてしまう始末。私がたしなめられてちゃ世話ねぇわ。ちくしょうが!
心の中で悪態を突いてると強い視線を感じた。見上げれば、そこには真剣な表情で見つめてくる一成が居た。拳を握り、何も言わずグッと顔の前に差し出す。
「頑張れっていう意味と同時に、師匠に恥かかせるなよっていう意志も感じるなぁ」
私の師匠が一成だという事実は、ある程度付き合いのある高校や雑誌を熟読している人なら把握している。
もちろん恥をかかせるつもりはさらさらない。
一成が与えてくれた技術のおかげで私はバスケ選手として生きることができる。
一成が、山王が全力で立ち向かった夏の試合があったからこそ私は今、コートの上に立っている。
「もう……あいつらのせいで何もかも吹っ飛んだわ。余計なこと考えないで、試合を楽しんでやる!」
そう言いながらスリーポイントシュートを打つ。
ボールは綺麗な弧を描いてゴールに入った。