第1章 高校一年のお話(全17話)
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※注意 山王工業高校の学校生活に関する記述は著者の妄想です。
女子が体育で目立つのも考え物だ。
先日のバスケの授業ではついつい力が入り、得点を取りまくるわドリブルで相手を抜かしまくるわでちょっとしたヒーローになってしまった。その時の相手が女子バスケ部員だったこともあり、現在進行形で猛烈な勧誘を喰らっている。
しかもその試合を赤木くんや彼の親友にバッチリ見られていて、どうやって練習してるんだとか1on1やろうと声をかけられたりと少々賑やかな日々を送っている。
まさか湘北でこんなにバスケに関われるとは思わなかったよ。
私は日課になりつつある一成との電話でそう話した。
第2話 高校一年、5月のお話
『周りが驚くのは仕方ないことっショ。お前、バスケ部入ってないほうが可笑しいくらいの技術持ってるっショ』
受話器からはそこはかとなく楽しそうに笑いながら話している一成の声が妙にくすぐったい。
一成は私のバスケが褒められるとものすごく上機嫌になる。
無理もない。私がこれだけの技術を身に付けられたのは一成の教育の賜物だ。
さすがに一成が持っているような才能はないけど根性で付いていったし、体力が足りないと思えばランニングしたりと自分なりに努力をしていた。恐らく彼にとっても、私にバスケを教えるのはそれなりに遣り甲斐を感じたことだろう。抜群なセンスが無くても私には回数を重ねて身体で覚えるというスタイルがある。上から目線のアドバイスを貰って苛立ち、悔しさから早朝トレーニングを実施するくらいにはクソ真面目なのだ。
『とはいえ適当に組んだチームじゃせっかくのバスケも面白くなかったっショ?』
「そりゃあね。いかにも普段は運動しなさそうな、怪我したくないって全身で言ってるような子達だったし」
だから彼女達には「パスさえしてくれれば良い」って指示した。ドリブルが苦手な子にボールを運べとは言えない。そもそもスポーツ嫌いな子に「授業で本気出せ」なんて無理な注文である。
ごくごく簡単なお願いでいい。誰でもできるような些細な動きでいい。それさえしてくれれば私は一人で得点を取れる。スリーポイントの位置に到達していれば高確率でシュートを入れられるから。
「でも、まさか赤木くんが見てたとはなぁ。あれから凄いんだよ。昼休みは週刊バスケ広げながら色々と尋ねられるし」
『夢子、一緒にご飯食べる女友達もいないっショ?』
「そういう訳じゃないけど」
女子特有の集団が苦手だ。トイレくらい一人で行けるし、同じ物を持たなくてもいいし、同じ話題を共有できなくてもいい。
そういう気配を発しているのかは謎だけど私には昼食をともにする同性の友達が居ない。
名誉のために言っておくが友達が居ない訳ではない。休み時間や授業の作業で雑談をする子はいる。ただ特定の誰かと徒党を組んでいないだけで。
『赤木とかいう男子といつも昼食べてるっショ?』
「そうだね。正確には赤木くんとその親友の小暮くんの三人だけど。ほぼほぼバスケの話で、時々勉強とかテストのこと話してるかな」
お弁当を食べ終わって時間が余っていたら体育館か屋外にあるバスケコートに向かう。軽くウォーミングアップしたら1on1して、あれこれ論議するのがまぁ楽しい。そう告げれば一成は不満そうな声色で呟く。
『羨ましいっショ。俺も夢子と1on1やりたいっショ』
「山王で腐るほどできるじゃん……相手は私じゃないけど」
ついこの間までは会えばすぐ1on1をしていた私達。次第にハンデが無いと不平等な実力差になってしまったけど、あの時間があったからこそ私は上達できたのだ。
「でも……私も一成と1on1やりたいよ。だって、誰とやっても楽しくないんだもん」
そう言うと、一成は身を乗り出してそうな勢いで尋ねた。
『赤木とやってても楽しくないっショ?』
「うん。何て言うんだろう……一成とやってる時みたいな興奮は無いんだよね」
悔しい。
マジでムカつく。
なんとか一発食らわせたい。
度肝を抜いてやりたい。
相手の隙を突いてやりたい。
何としてでも負かしたいという強烈な欲が生まれないのだ。
『嬉しいこと言ってくれるっショ』
「嬉しいの?」
『俺とのバスケが一番って言ってるも同然っショ。それに……夢子を育てたのは俺っショ。教え子からそんなこと言われたら嬉しいに決まってるっショ』
おやおや。先ほどの不満げな空気はどこへやら吹き飛ばされてしまったようだ。
そろそろ話題を切り替えるべきかと察した私は山王工業のバスケ部事情について、部外者が知れる程度の世間話をしてくれとせがんだ。
山王のバスケ部はスタメン(一軍)、二軍、三軍で構成されている。当然ながら下に行くほど人数が多くなり、毎月行われる実力チェックで見直されているのだという。成長が認められれば上がれるし、現状維持しかできないなら落ちる。実に分かりやすいシステムだ。
ちなみに一成は二軍らしい。
「あんなに巧いのに!?」
『俺程度なんて大勢居るし、一年でレギュラーを獲れるなんて思ってないっショ。時間がかかるのは承知で入学してる奴ばかりっショ』
大人な思考回路を持ってる生徒ばっかりだな山王工業。
『うちは日本で一番走れるチームだって言われてるっショ。そう言われるだけのハードな練習量をこなしたうえでレギュラー獲ってるって分かったら、応援する気持ちにしかならないっショ。それが嫌な奴は退部してるっショ』
二軍の中には同級生だけでなく二年や三年の先輩も居て、中学ではキャプテンを務めてたり大会で表彰された人が多々居るらしい。層が厚いと言われる理由はここにある。
『でも……一年でレギュラーになるのは難しくても、近付いてはいるかもしれないっショ』
「というと?」
『最近は試合形式の練習で活躍できるようになって、練習見に来た堂本監督に褒められたっショ。地区予選ではベンチに近い席に座れるよう調整してやるって言われたっショ』
「それって凄いことなのでは……?」
どこの客席に座っても試合は同じだという意見も分かる。
だけど、その競技に真剣に携わる人ならより近い場所でその試合を見たいと願う。少しでも技術を盗むために。上達のヒントを得るために。
部員数が多い山王バスケ部では良い位置に座ることは至難の業だろう。運動部特有の上下関係もある。でも、一成がなるべくコートに近い場所で観戦できるよう調整すると監督が言っている。昨年夏のインターハイ制覇に導いた堂本監督が、だ。試合状況に応じてどんなアドバイスが飛び交うのかも興味深い。
「いいなあ。私も山王の試合見たい」
山王工業の試合を私はビデオでしか、それも昔のものしか観たことがない。
全日本のバスケファンが注目し、選手たちが憧れと畏怖を向ける山王工業バスケ部の試合。生で観戦したらどうなるんだろう。気になり過ぎてどうにかなりそうだ。
『俺がレギュラーになったら見に来ればいいっショ』
絶対にレギュラー獲ってやるという気概を感じる。
というかこいつなら成し遂げてしまうと思う。有言実行の男だから。
「一成が山王のユニフォーム着て試合に出る日を楽しみにしてるよ」
『その時は会場までの交通費も用意してやるっショ』
「太っ腹だね。一成のお小遣いから出してくれるんだ?」
『……まぁそこは出世払いで母さんから借りるっショ』
思わぬ他力本願に涙を流しながら爆笑した。
その後、秋田県立山王工業高校はインターハイ全国大会で優勝する。二連覇の朗報に全国が驚喜した。
女子が体育で目立つのも考え物だ。
先日のバスケの授業ではついつい力が入り、得点を取りまくるわドリブルで相手を抜かしまくるわでちょっとしたヒーローになってしまった。その時の相手が女子バスケ部員だったこともあり、現在進行形で猛烈な勧誘を喰らっている。
しかもその試合を赤木くんや彼の親友にバッチリ見られていて、どうやって練習してるんだとか1on1やろうと声をかけられたりと少々賑やかな日々を送っている。
まさか湘北でこんなにバスケに関われるとは思わなかったよ。
私は日課になりつつある一成との電話でそう話した。
第2話 高校一年、5月のお話
『周りが驚くのは仕方ないことっショ。お前、バスケ部入ってないほうが可笑しいくらいの技術持ってるっショ』
受話器からはそこはかとなく楽しそうに笑いながら話している一成の声が妙にくすぐったい。
一成は私のバスケが褒められるとものすごく上機嫌になる。
無理もない。私がこれだけの技術を身に付けられたのは一成の教育の賜物だ。
さすがに一成が持っているような才能はないけど根性で付いていったし、体力が足りないと思えばランニングしたりと自分なりに努力をしていた。恐らく彼にとっても、私にバスケを教えるのはそれなりに遣り甲斐を感じたことだろう。抜群なセンスが無くても私には回数を重ねて身体で覚えるというスタイルがある。上から目線のアドバイスを貰って苛立ち、悔しさから早朝トレーニングを実施するくらいにはクソ真面目なのだ。
『とはいえ適当に組んだチームじゃせっかくのバスケも面白くなかったっショ?』
「そりゃあね。いかにも普段は運動しなさそうな、怪我したくないって全身で言ってるような子達だったし」
だから彼女達には「パスさえしてくれれば良い」って指示した。ドリブルが苦手な子にボールを運べとは言えない。そもそもスポーツ嫌いな子に「授業で本気出せ」なんて無理な注文である。
ごくごく簡単なお願いでいい。誰でもできるような些細な動きでいい。それさえしてくれれば私は一人で得点を取れる。スリーポイントの位置に到達していれば高確率でシュートを入れられるから。
「でも、まさか赤木くんが見てたとはなぁ。あれから凄いんだよ。昼休みは週刊バスケ広げながら色々と尋ねられるし」
『夢子、一緒にご飯食べる女友達もいないっショ?』
「そういう訳じゃないけど」
女子特有の集団が苦手だ。トイレくらい一人で行けるし、同じ物を持たなくてもいいし、同じ話題を共有できなくてもいい。
そういう気配を発しているのかは謎だけど私には昼食をともにする同性の友達が居ない。
名誉のために言っておくが友達が居ない訳ではない。休み時間や授業の作業で雑談をする子はいる。ただ特定の誰かと徒党を組んでいないだけで。
『赤木とかいう男子といつも昼食べてるっショ?』
「そうだね。正確には赤木くんとその親友の小暮くんの三人だけど。ほぼほぼバスケの話で、時々勉強とかテストのこと話してるかな」
お弁当を食べ終わって時間が余っていたら体育館か屋外にあるバスケコートに向かう。軽くウォーミングアップしたら1on1して、あれこれ論議するのがまぁ楽しい。そう告げれば一成は不満そうな声色で呟く。
『羨ましいっショ。俺も夢子と1on1やりたいっショ』
「山王で腐るほどできるじゃん……相手は私じゃないけど」
ついこの間までは会えばすぐ1on1をしていた私達。次第にハンデが無いと不平等な実力差になってしまったけど、あの時間があったからこそ私は上達できたのだ。
「でも……私も一成と1on1やりたいよ。だって、誰とやっても楽しくないんだもん」
そう言うと、一成は身を乗り出してそうな勢いで尋ねた。
『赤木とやってても楽しくないっショ?』
「うん。何て言うんだろう……一成とやってる時みたいな興奮は無いんだよね」
悔しい。
マジでムカつく。
なんとか一発食らわせたい。
度肝を抜いてやりたい。
相手の隙を突いてやりたい。
何としてでも負かしたいという強烈な欲が生まれないのだ。
『嬉しいこと言ってくれるっショ』
「嬉しいの?」
『俺とのバスケが一番って言ってるも同然っショ。それに……夢子を育てたのは俺っショ。教え子からそんなこと言われたら嬉しいに決まってるっショ』
おやおや。先ほどの不満げな空気はどこへやら吹き飛ばされてしまったようだ。
そろそろ話題を切り替えるべきかと察した私は山王工業のバスケ部事情について、部外者が知れる程度の世間話をしてくれとせがんだ。
山王のバスケ部はスタメン(一軍)、二軍、三軍で構成されている。当然ながら下に行くほど人数が多くなり、毎月行われる実力チェックで見直されているのだという。成長が認められれば上がれるし、現状維持しかできないなら落ちる。実に分かりやすいシステムだ。
ちなみに一成は二軍らしい。
「あんなに巧いのに!?」
『俺程度なんて大勢居るし、一年でレギュラーを獲れるなんて思ってないっショ。時間がかかるのは承知で入学してる奴ばかりっショ』
大人な思考回路を持ってる生徒ばっかりだな山王工業。
『うちは日本で一番走れるチームだって言われてるっショ。そう言われるだけのハードな練習量をこなしたうえでレギュラー獲ってるって分かったら、応援する気持ちにしかならないっショ。それが嫌な奴は退部してるっショ』
二軍の中には同級生だけでなく二年や三年の先輩も居て、中学ではキャプテンを務めてたり大会で表彰された人が多々居るらしい。層が厚いと言われる理由はここにある。
『でも……一年でレギュラーになるのは難しくても、近付いてはいるかもしれないっショ』
「というと?」
『最近は試合形式の練習で活躍できるようになって、練習見に来た堂本監督に褒められたっショ。地区予選ではベンチに近い席に座れるよう調整してやるって言われたっショ』
「それって凄いことなのでは……?」
どこの客席に座っても試合は同じだという意見も分かる。
だけど、その競技に真剣に携わる人ならより近い場所でその試合を見たいと願う。少しでも技術を盗むために。上達のヒントを得るために。
部員数が多い山王バスケ部では良い位置に座ることは至難の業だろう。運動部特有の上下関係もある。でも、一成がなるべくコートに近い場所で観戦できるよう調整すると監督が言っている。昨年夏のインターハイ制覇に導いた堂本監督が、だ。試合状況に応じてどんなアドバイスが飛び交うのかも興味深い。
「いいなあ。私も山王の試合見たい」
山王工業の試合を私はビデオでしか、それも昔のものしか観たことがない。
全日本のバスケファンが注目し、選手たちが憧れと畏怖を向ける山王工業バスケ部の試合。生で観戦したらどうなるんだろう。気になり過ぎてどうにかなりそうだ。
『俺がレギュラーになったら見に来ればいいっショ』
絶対にレギュラー獲ってやるという気概を感じる。
というかこいつなら成し遂げてしまうと思う。有言実行の男だから。
「一成が山王のユニフォーム着て試合に出る日を楽しみにしてるよ」
『その時は会場までの交通費も用意してやるっショ』
「太っ腹だね。一成のお小遣いから出してくれるんだ?」
『……まぁそこは出世払いで母さんから借りるっショ』
思わぬ他力本願に涙を流しながら爆笑した。
その後、秋田県立山王工業高校はインターハイ全国大会で優勝する。二連覇の朗報に全国が驚喜した。