第2章 高校二年のお話(全20話)
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※注意 山王工業高校の学校生活に関する記述は著者の妄想です。
『明稜大の道明寺先生から熱烈な勧誘を受けたそうだピョン?』
「なんで知ってんの」
『先生……堂本監督から聞いたピョン』
堂本監督と道明寺先生はたまに、どころかだいぶ連絡を取り合ってる仲のようだ。
事情が筒抜けになっていることに戸惑いを感じながら目に手を当てた。
第36話 高校二年、2月のお話
私達の話題は常にバスケに関することだ。それ以外の話題で盛り上がったことはあまり無いように思う。互いの興味の矛先はバスケばかりだったので。
「一成は高校卒業後の進路、どうするか決めてる?」
一成は多忙なバスケ人生を送っている。冬の選抜からではあるが、一年生でありながら山王でレギュラーの座を射止めた彼は日本代表の合宿も経験済みだ。一般的な学生とは程遠い。
『まぁ、有難いことにいくつかの大学から推薦の話は貰ってるピョン』
「やっぱりそうなんだ。じゃあ、どれかの大学に入るって感じ?」
『推薦のほうが学費とか生活費について優遇してくれるところが多いピョン。山王に来てる時点で親に負担かけてる自覚があるし、大学くらいはあまり面倒掛けたくないピョン』
山王工業は県立なので学費自体はそんなに高くない。
そのかわり三食の食事(お昼を購買で買いたい人は事前に弁当不要の届を寮母さんに出す)や風呂、部屋が提供される寮費はそこそこの金額がするらしく、またバスケ部ならではの道具面の事情もある。
入部テストを経て正式入部後、一番最初に渡される白ジャージやバッシュ、スポーツバッグやバスパン、リストバンドなどは後援会やOB会援助からの援助で無償提供される。しかしその後は個々で消耗具合が異なるため「同じメーカーで揃える!」という規則を守りつつ個人で購入するよう指示されるとのこと。強豪校だから練習がハードになるし、そうすれば自然と道具の摩耗や劣化も激しくなる。山王工業は大所帯だ。三軍までいる部員全ての道具を、学校側が常に調達するのは難しいだろう。只でさえ遠征も多いのに。
バスケをしたいという自分の我儘を応援してくれる両親に対し、感謝と申し訳ない気持ちを抱いている一成のことを心から偉いと思った。
「一成は偉いなぁ。そういうことを分かってる学生がどれくらい居るんだろうね」
『それは分からないピョン……夢子は進路どうするピョン?』
「将来は何かしらバスケと関わりのある仕事に就きたいから、スポーツ系の授業が充実してる大学に行きたいなって考えてるよ」
試合が円滑に進むよう試合を支える審判員。
選手やチームの一員として栄養面から選手をサポートする栄養士。
トレーニングや健康管理、ケガの応急処置、リハビリなどトータルで選手の身体をサポートするアスレテックトレーナー。
バスケの道具メーカーに就職して、よりプレーしやすいアイテムを開発したり販売するのもいいな。
所属するチームの認知度をアップさせるために広報活動をおこなう広報スタッフ。
教員免許を取得して、バスケ部の顧問を目指すのも面白いかもしれない。
選手やチームを支える裏方スタッフ、もしくはバスケットの楽しさを伝えられるような人間になりたいのだ。
『夢子も立派だピョン』
「ええ? へへ、そうかな。恥ずかしくてまだお母さん達にも言ってないんだけどね」
好成績をキープ出来てるし、大学進学するとは言ってあるので両親もそんなに心配していない。
そこらへんは信用されてるんだ。地道にバスケ頑張ってる姿を長年見守ってる人達だからね。
「一成は将来何になりたいの? プロのバスケット選手?」
『そうなれればいいとは思うピョン。山王まで来たのに高校卒業でバスケ辞めるとか、大学卒業したらバスケ辞めるとか、そんな勿体ないことはしたくないピョン』
「そうなったら嬉しいな。プレーする一成をずっと観てたいし、応援したいもん!」
私の師匠は強いんだ。弟子でありファン第一号である身としては最後の最後まで応援していきたい。
『……もしもの話、ピョン』
「ん?」
『俺が実業団に入ってプロ選手になって、同じチームに夢子が居て、そばで支えてくれたら……きっと凄い力が出せるって思うピョン』
受話器から聞こえてくる声は、いつもの冗談のように軽口ではない。
そうなれたらいいのにという切実な願望が込められているように思えた。
「かっ……一成なら、私が居なくても自力で最高の試合が出来るでしょ」
『もちろんこれまでの時間で培った技術を維持して高められればそれは可能だピョン。でも、応援してくれる人の存在はとても大きいものだピョン』
一成がとても素直に気持ちを吐露している。私は一言も口を挟むことが出来ず、ただ受話器に耳を傾けていた。
『夢子は俺が大事に育ててきた唯一の弟子で、誰よりも大切なバスケ仲間だピョン』
ああ、もうそれ以上言わないで。
『誰よりも俺のバスケを理解してくれる人で、誰よりもひたむきに俺を応援してくれる人だピョン』
そんな当たり前のことを、そんな慈しむような声色で言わないでほしい。
『夢子は誰よりも俺にパワーを与えてくれる人だピョン。だから……高校を卒業しても大学を卒業しても、一緒に居てほしい』
一成の言葉に感動してしまい、涙が流れる。
嗚咽が漏れるほどではないが、呼吸が変わったことで一成は私の現状を把握できたらしい。
『ごめんピョン。泣かせるつもりはなかったピョン』
「大、丈夫。これは私が悪いの。私が勝手に、感動しちゃった、だけだから」
『……お前は本当に可愛い奴だピョン』
仕方のない奴だというように少しだけ呆れるような声で言い放つ。
『現実問題、実業団とかプロになれば俺達が同じ環境で過ごすのはかなり難しいピョン。でも、近い距離を保てるように努力することは可能だと思うピョン』
えっらい前向きだな。
「一成がすっごい選手になって『夢子が居ないとプレーしたくない』っていう我儘が許されるくらいになったらいいよね。そんで私はチームに招聘されんの。しかも特別待遇で」
『日本ではマイナーなスポーツにあたるバスケで、そこまで著名な選手になれって? ハードな課題を出しやがるピョン』
「へへへ……」
『それも悪くないピョン。でも、ご飯作ってくれたりとかオフを一緒に過ごすとか、そういうことも楽しいと思わないピョン?』
高校三年間は秋田と神奈川で離ればなれだった。
話を突き詰めればどうやら大学は関東圏を検討してるみたいだし、大学卒業後も恐らくは同じ生活圏で生きることにはなるだろう。一成がよほどの遠方のチームに入らなければ。
「そんなので良ければいくらでも付き合うけどさ。私はそんな料理上手い訳じゃないから期待されても困るよ」
『別に豪華で立派な料理を作れとは言わないピョン。焦げた卵焼きも、しょっぱ過ぎる味噌汁も、水っぽいカレーも、炭と化した秋刀魚も喜んで食べるピョン』
「それ小学校の頃の話でしょうが! いつの話をしてんだ! 今はもっとマシだわい!」
ここに来てとんでもねぇ過去の汚点を口にしてきた一成に、私は精一杯の突っ込みをぶちかます。
『ふ、ふふ……っ』
「笑うな!」
『いや、料理どうこうで笑ってるんじゃないピョン。夢子と卒業後のことを話す機会なんてなかったから、色々聞けて嬉しいと思ったらつい笑いが漏れてしまったピョン』
「てかさぁ」
紛らわしいタイミングで笑うなよ。
ふんっ! と鼻息荒く、話の矛先を変えようと私は強い口調で続けた。
「一成がプロになって大活躍するようになれば、料理上手で掃除上手な彼女さんとかできるんじゃない? 私の微妙な料理を食べるよりよっぽど身体に良いよ!」
言い終えると、受話器の向こうからはひゅっと息を飲むような音が聞こえた。そして即座に冷静な言葉が返ってくる。
『それは嫌だピョン』
「は?」
『どこの馬の骨とも知れない女が作ったモノなんか要らねぇピョン。そんなの残飯も同然だピョン。俺が食べたいのは夢子が作ったご飯だピョン』
「ええ……?」
残飯て。言い方が酷いぞ。
『本っ当に鈍いピョン……』
心底疲れたような声で小さく呟かれる。鈍いって何やねん。
「かず、」
『次に電話使いたい奴が来たからもう切るピョン。風邪引かないように温かくして寝るピョン』
「あ、うん」
『おやすみ、ピョン』
「おやすみ……」
有無を言わさずに電話を切られてしまった。
せっかく進路の話が出来たのに、最後に私は何らかの地雷を踏んでしまったらしい。少しばかり空気が悪くなってしまったのは完全に私のせいといえる。
心の中でごめんねと謝りつつも、一成の真意を汲み取ることが出来ずに心の中はもやもやしていた。
『明稜大の道明寺先生から熱烈な勧誘を受けたそうだピョン?』
「なんで知ってんの」
『先生……堂本監督から聞いたピョン』
堂本監督と道明寺先生はたまに、どころかだいぶ連絡を取り合ってる仲のようだ。
事情が筒抜けになっていることに戸惑いを感じながら目に手を当てた。
第36話 高校二年、2月のお話
私達の話題は常にバスケに関することだ。それ以外の話題で盛り上がったことはあまり無いように思う。互いの興味の矛先はバスケばかりだったので。
「一成は高校卒業後の進路、どうするか決めてる?」
一成は多忙なバスケ人生を送っている。冬の選抜からではあるが、一年生でありながら山王でレギュラーの座を射止めた彼は日本代表の合宿も経験済みだ。一般的な学生とは程遠い。
『まぁ、有難いことにいくつかの大学から推薦の話は貰ってるピョン』
「やっぱりそうなんだ。じゃあ、どれかの大学に入るって感じ?」
『推薦のほうが学費とか生活費について優遇してくれるところが多いピョン。山王に来てる時点で親に負担かけてる自覚があるし、大学くらいはあまり面倒掛けたくないピョン』
山王工業は県立なので学費自体はそんなに高くない。
そのかわり三食の食事(お昼を購買で買いたい人は事前に弁当不要の届を寮母さんに出す)や風呂、部屋が提供される寮費はそこそこの金額がするらしく、またバスケ部ならではの道具面の事情もある。
入部テストを経て正式入部後、一番最初に渡される白ジャージやバッシュ、スポーツバッグやバスパン、リストバンドなどは後援会やOB会援助からの援助で無償提供される。しかしその後は個々で消耗具合が異なるため「同じメーカーで揃える!」という規則を守りつつ個人で購入するよう指示されるとのこと。強豪校だから練習がハードになるし、そうすれば自然と道具の摩耗や劣化も激しくなる。山王工業は大所帯だ。三軍までいる部員全ての道具を、学校側が常に調達するのは難しいだろう。只でさえ遠征も多いのに。
バスケをしたいという自分の我儘を応援してくれる両親に対し、感謝と申し訳ない気持ちを抱いている一成のことを心から偉いと思った。
「一成は偉いなぁ。そういうことを分かってる学生がどれくらい居るんだろうね」
『それは分からないピョン……夢子は進路どうするピョン?』
「将来は何かしらバスケと関わりのある仕事に就きたいから、スポーツ系の授業が充実してる大学に行きたいなって考えてるよ」
試合が円滑に進むよう試合を支える審判員。
選手やチームの一員として栄養面から選手をサポートする栄養士。
トレーニングや健康管理、ケガの応急処置、リハビリなどトータルで選手の身体をサポートするアスレテックトレーナー。
バスケの道具メーカーに就職して、よりプレーしやすいアイテムを開発したり販売するのもいいな。
所属するチームの認知度をアップさせるために広報活動をおこなう広報スタッフ。
教員免許を取得して、バスケ部の顧問を目指すのも面白いかもしれない。
選手やチームを支える裏方スタッフ、もしくはバスケットの楽しさを伝えられるような人間になりたいのだ。
『夢子も立派だピョン』
「ええ? へへ、そうかな。恥ずかしくてまだお母さん達にも言ってないんだけどね」
好成績をキープ出来てるし、大学進学するとは言ってあるので両親もそんなに心配していない。
そこらへんは信用されてるんだ。地道にバスケ頑張ってる姿を長年見守ってる人達だからね。
「一成は将来何になりたいの? プロのバスケット選手?」
『そうなれればいいとは思うピョン。山王まで来たのに高校卒業でバスケ辞めるとか、大学卒業したらバスケ辞めるとか、そんな勿体ないことはしたくないピョン』
「そうなったら嬉しいな。プレーする一成をずっと観てたいし、応援したいもん!」
私の師匠は強いんだ。弟子でありファン第一号である身としては最後の最後まで応援していきたい。
『……もしもの話、ピョン』
「ん?」
『俺が実業団に入ってプロ選手になって、同じチームに夢子が居て、そばで支えてくれたら……きっと凄い力が出せるって思うピョン』
受話器から聞こえてくる声は、いつもの冗談のように軽口ではない。
そうなれたらいいのにという切実な願望が込められているように思えた。
「かっ……一成なら、私が居なくても自力で最高の試合が出来るでしょ」
『もちろんこれまでの時間で培った技術を維持して高められればそれは可能だピョン。でも、応援してくれる人の存在はとても大きいものだピョン』
一成がとても素直に気持ちを吐露している。私は一言も口を挟むことが出来ず、ただ受話器に耳を傾けていた。
『夢子は俺が大事に育ててきた唯一の弟子で、誰よりも大切なバスケ仲間だピョン』
ああ、もうそれ以上言わないで。
『誰よりも俺のバスケを理解してくれる人で、誰よりもひたむきに俺を応援してくれる人だピョン』
そんな当たり前のことを、そんな慈しむような声色で言わないでほしい。
『夢子は誰よりも俺にパワーを与えてくれる人だピョン。だから……高校を卒業しても大学を卒業しても、一緒に居てほしい』
一成の言葉に感動してしまい、涙が流れる。
嗚咽が漏れるほどではないが、呼吸が変わったことで一成は私の現状を把握できたらしい。
『ごめんピョン。泣かせるつもりはなかったピョン』
「大、丈夫。これは私が悪いの。私が勝手に、感動しちゃった、だけだから」
『……お前は本当に可愛い奴だピョン』
仕方のない奴だというように少しだけ呆れるような声で言い放つ。
『現実問題、実業団とかプロになれば俺達が同じ環境で過ごすのはかなり難しいピョン。でも、近い距離を保てるように努力することは可能だと思うピョン』
えっらい前向きだな。
「一成がすっごい選手になって『夢子が居ないとプレーしたくない』っていう我儘が許されるくらいになったらいいよね。そんで私はチームに招聘されんの。しかも特別待遇で」
『日本ではマイナーなスポーツにあたるバスケで、そこまで著名な選手になれって? ハードな課題を出しやがるピョン』
「へへへ……」
『それも悪くないピョン。でも、ご飯作ってくれたりとかオフを一緒に過ごすとか、そういうことも楽しいと思わないピョン?』
高校三年間は秋田と神奈川で離ればなれだった。
話を突き詰めればどうやら大学は関東圏を検討してるみたいだし、大学卒業後も恐らくは同じ生活圏で生きることにはなるだろう。一成がよほどの遠方のチームに入らなければ。
「そんなので良ければいくらでも付き合うけどさ。私はそんな料理上手い訳じゃないから期待されても困るよ」
『別に豪華で立派な料理を作れとは言わないピョン。焦げた卵焼きも、しょっぱ過ぎる味噌汁も、水っぽいカレーも、炭と化した秋刀魚も喜んで食べるピョン』
「それ小学校の頃の話でしょうが! いつの話をしてんだ! 今はもっとマシだわい!」
ここに来てとんでもねぇ過去の汚点を口にしてきた一成に、私は精一杯の突っ込みをぶちかます。
『ふ、ふふ……っ』
「笑うな!」
『いや、料理どうこうで笑ってるんじゃないピョン。夢子と卒業後のことを話す機会なんてなかったから、色々聞けて嬉しいと思ったらつい笑いが漏れてしまったピョン』
「てかさぁ」
紛らわしいタイミングで笑うなよ。
ふんっ! と鼻息荒く、話の矛先を変えようと私は強い口調で続けた。
「一成がプロになって大活躍するようになれば、料理上手で掃除上手な彼女さんとかできるんじゃない? 私の微妙な料理を食べるよりよっぽど身体に良いよ!」
言い終えると、受話器の向こうからはひゅっと息を飲むような音が聞こえた。そして即座に冷静な言葉が返ってくる。
『それは嫌だピョン』
「は?」
『どこの馬の骨とも知れない女が作ったモノなんか要らねぇピョン。そんなの残飯も同然だピョン。俺が食べたいのは夢子が作ったご飯だピョン』
「ええ……?」
残飯て。言い方が酷いぞ。
『本っ当に鈍いピョン……』
心底疲れたような声で小さく呟かれる。鈍いって何やねん。
「かず、」
『次に電話使いたい奴が来たからもう切るピョン。風邪引かないように温かくして寝るピョン』
「あ、うん」
『おやすみ、ピョン』
「おやすみ……」
有無を言わさずに電話を切られてしまった。
せっかく進路の話が出来たのに、最後に私は何らかの地雷を踏んでしまったらしい。少しばかり空気が悪くなってしまったのは完全に私のせいといえる。
心の中でごめんねと謝りつつも、一成の真意を汲み取ることが出来ずに心の中はもやもやしていた。