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第2章 高校二年のお話(全20話)

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※注意 山王工業高校の学校生活に関する記述は著者の妄想です。





 湘北高校女子バスケ部の指導を終えて帰宅すると、私宛に宅急便が届いていた。
 伝票を見ると送り主は一成で、住所は山王工業の学生寮だった。
 そういえばバスケ部の皆はもうアメリカ遠征から帰ってきている頃だっけ。お土産でも送ってくれたのかな?
 わくわくしながら段ボール箱を開けた。



第32話 高校二年、11月のお話②



『俺が送った荷物、もう届いたベシ?』
「うん! 昨日届いたよ!」

 日曜恒例の電話。「ただいま」「お帰り」と挨拶をして早々に、一成は荷物の到着を確認してきた。

「アメリカで買ってきてくれたの? スポーツ店では見たことないメーカーだったけど」

 一成が送ってくれたのは黒い布製のリュックだった。
 チャックで開け閉めるすようなタイプではなく、荷物を出し入れする部分を紐でキュッと結んで締めるタイプのものだった。大きい物も入れやすいよう作られているようで、バスケットボールも余裕で入った。厚めの布で作られているので少々手荒に扱っても問題なさそうなくらいには頑丈である。そのぶん手で持つと若干重たく感じるけど、すぐ破れちゃうような貧弱なものよりは良い。 

『ベシ。遠征先のスポーツ店で買ったベシ。そのリュックの布、米軍で採用されてるものらしいベシ』
「だから頑丈なんだね。やらないけど、ハサミで切ろうとしても出来なさそう」
夢子のことだから乱暴に使うんじゃないかと思って心配になったベシ』
「そこまで手荒に使う予定はないよ!」

 ははは、と一成は笑う。

「一成。こんなこと聞くのは失礼かもしれないけど……このリュック、結構高かったんじゃない?」

 縫い目や糸の処理をよく見ると丁寧に作られているのが分かる。胸を張れるほどではないが、こちとら名前程度なら刺繍できるくらいの腕前だ。
 米軍が採用している布とか言ってたし、高級品とまではいかなくてもそこそこ高いのではなかろうか。

『種明かしをすると、買ったのは俺だけじゃないベシ。河田や松本達、あと沢北も資金援助してくれたベシ』
「ええっ!?」
夢子のお土産を買うって話したら、皆「俺も出す」って言って聞かなかったベシ」
「そんな……大切なお小遣いだったでしょうに」

 日本とアメリカでは通貨も物価も違う。皆のお小遣いがアメリカではどれくらいの価値になるか、海外をよく知らない私でも大体の想像はつく。

『リュック、嬉しくなかったベシ? 違うものが良かったベシ?』
「そんなことないよ! すっごく嬉しかった」

 少しだけ悲しげに尋ねてくる一成の言葉を思いきり否定する。
 忙しいスケジュールをこなし、限られたお小遣いをやりくりしないといけない中、私のことを考えてくれたのだ。嬉しくない訳がない!

「でも、ちょっと申し訳なくて。せっかくアメリカに行ったんだから自分の好きなものにお金を使ったらいいのに」
夢子を連れていけなくて残念だって思ったのは俺だけじゃなかったってことベシ』
「私を?」
夢子がそんじょそこらの人間よりバスケが好きってこと、俺達はちゃんと理解してるベシ。バスケの本場に行けない悔しさを想像するのは簡単ベシ。かなり残念だったベシ?』
「そりゃあ心底羨ましかったもん!」
『はは。もしも夢子が山王に通ってたら、先生だって絶対に何かしらの理由を付けてアメリカ遠征に連れて行ったと思うベシ。ちなみに先生もお土産に出資してくれたベシ』
「マジか」

 堂本監督まで資金援助してくれたとか……このリュック、山王そのものと言っていいかもしれん。

『こっちとしては予算が増えるほど立派なものが買えるから有難かったベシ。皆で選んだから、これは皆からのお土産でもあるベシ』
「……うん、本当に嬉しいよ。皆に直接お礼が言えないのが残念」

 お礼の手紙を送るのは簡単だけど、この気持ちはちゃんと顔を見て伝えたい。
 溜息をつきながら言うと、一成はなんてことない声色で告げてきた。

『冬の選抜にはそのリュックを背負って見に来るベシ。それなら俺達と会えるし、ホテルの場所とか教えるから話をする時間だって作れるベシ』
「そうか! 冬の選抜! 忘れてた~!」

 山王工業なら間違いなく冬の選抜に出場するだろう。
 しかも都内で開催されるから私も行きやすい!
 皆が頑張る姿を見て、タイミングを見計らってお礼を言いに行こう。時間があれば皆からのアメリカ遠征話も聞きたい。

「冬の選抜楽しみだなぁ」
『遠征組は帰国してから集中力が漲ってるし、沢北も燃えてるベシ。今の状態を維持し続けることができれば……何も心配は要らないベシ』

 遠征組の話を聞いたり、向こうでの練習や試合のビデオを見ることで、学校で待機していた一軍・二軍・三軍勢にも良い影響が出ているのだという。
 バスケ部全体の技術向上、モチベーション維持を図れている。最高の状態といえる。

「一成も楽しかった?」
『ん?』
「皆のことは分かったけど、一成はどうだったのかなって。アメリカ遠征楽しかった? 勉強になった?」

 一成の視野は広い。
 バスケ部全体をよく見ている。
 私は山王工業を応援してるけど、一番聞きたいのは一成の感想だった。
 一成が何を感じて、何をしたか。そういうのを私は電話で聞きたいのだ。

『すっっっっごく楽しかったベシ』
「溜めた割には随分と冷静な声だなぁ」
『電話で話すのは簡単ベシ。でも……夢子と同じで、ちゃんと顔を見て話したいベシ』
「今話しちゃうのは勿体ない?」
『ベシ。ビデオカメラの映像も見せたいし、夢子が興奮しながら聞いてる顔も見たいベシ。だから、今は教えないベシ』

 反論できなかった。
 一成がこう言ってるのは意地悪からじゃない。
 何もかもを話そうとしてくれている。電話ではわずらわしい、直接話したいと言ってくれている。我慢するのは辛いけど、冬の選抜は来月だ。一年後というレベルでもない。余裕で待てる日数である。

「分かった。その代わり、会ったら全部聞かせてよね?」
『勿論ベシ。ちゃんとノートで話すことを整理しておくベシ』
「でも、そんなに話す時間作れるかなぁ」

 インターハイと違って、皆と同じホテルに泊まることはない。神奈川から都内に行くのは簡単だ。わざわざホテルを予約するような距離でもない。

『もしかしたらまた部屋を取り間違えるかもしれないベシ。その時はまた夢子も泊まればいいベシ』
「天下の山王が同じ過ちを繰り返すとは思えないんだけど」

 あれは只の手違いでしょ。

『ともかく、アメリカ遠征の話は来月のお楽しみにしておくベシ』
「了解しました~」

 拗ねた子供のような声を出しながら、大人しく従った。
 次に会った時はしつこいくらいに質問してやるんだから!
 そう強く決意した。
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