第2章 高校二年のお話(全20話)
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※注意 山王工業高校に関する記述や地区予選の開催時期は著者の妄想です。
湘北高校女子バスケ部は変わったと誰もが言うようになった。
練習試合では少しずつ勝てるようになり、地区予選では念願の一回戦突破を達成したからだ。二回戦は負けてしまったものの試合の内容は決して悪くない。以前に比べれば遥かに好成績を修めている。時間が足りないと心配していたけれど、皆の頑張りもあって杞憂に終わった。
皆が涙を流して喜ぶ姿を見て、役に立てて良かったと心から安堵した。
第18話 高校二年、7月のお話
来月にはもうインターハイの全国大会が始まる。
一成は怪我せずに頑張ってるだろうか。
河田や松本、野辺やイチノも元気でやってるだろうか。
堂本監督もお変わりないだろうか。私に関して余計なことを話してないといいのだが。
そんなことを考えながら宿題をしていると、一階に居るお母さんから「海南大付属の牧くんから電話よ~」と呼ばれた。階段を下りて電話を設置しているミニ机の近くに椅子を置き、腰を下ろしながら保留ボタンを解除する。名乗れば牧君の低い声が受話器から響いてきた。
『夜分に申し訳ない。何かしてなかったか?』
「気にしないで。数学の宿題でちょっと疲れてたから気分転換したかったし」
『なら、早乙女さんを退屈させないように頑張るとするかな』
その言葉を聞いて小さく吹き出す。
牧くんは外見に似合わずノリが良いタイプだ。すごく真面目そうに見えて、ちょっとした軽口も拾ってくれるし意外によく笑う。外見と中身のギャップが良い味を出している。
『海南は地区予選トップで通過した。来月の全国大会に出場するよ』
「本当!? うわあ、おめでとう!」
海南は十年以上連続でインターハイに出場している強豪校だというから流石と言うべきだろう。
『山王の深津とは電話でも話してるんだろう? あっちは調子はどうだ?』
「山王も地区予選で一位になったから全国大会に出られるよ。決まったその日に報告されたから」
試合で疲れてるだろうにわざわざ電話をしてくれた一成の呼吸はほんの少しだけ興奮で乱れていた。
去年の夏、一成はまだ二軍で応援席に座る立場だった。それが今やレギュラーとしてコートに立ち、地区予選全ての試合に出たのだから興奮もひとしおだろう。
『そうか……順調に勝ち進めば、山王とも戦えるな』
「そうだね」
牧くんの声は、強い学校と戦えるかもしれないという期待と喜びで弾んでいる。
山王と戦いたくない高校はどれくらい居るだろう。そんな中、牧くんや恐らく他の海南の選手達は全力で挑みたいと思っている。培ってきた技術を試したいと思っているに違いない。
『早乙女さんはインターハイ見に来るのか?』
「うん、そのつもり。夏休みだし、一成とも約束してるからね。急いでホテル探してるところだよ」
宿泊場所はお母さんに探してもらっている。なるべく駅や会場に行きやすい場所を希望してるけど、全国から出場校とバスケファンが集まってくるせいでどんどん予約が取りづらくなっている。お母さんは今まさにホテルについて調べまくっているはずだ。
『じゃあ、愛知では会えそうだな』
「可能性は高いよね。山王と海南が対戦したら面白そうだな。牧くんと一成がぶつかり合うところなんて、想像するだけでわくわくする!」
『俺にも期待してくれるのか?』
「そりゃあ勿論。男子バスケ部に友達が居るんだけど、牧くんの名前をよく聞くんだよ」
進級時にクラスが変わってしまったが、赤木くんや小暮くんとは廊下で擦れ違った時によく雑談をする。
一成が共有してくれるおかげで東北県や山王工業のことは部外者なりに詳しくなったけど、神奈川県の男子バスケ事情には明るくない。赤木くんからの情報がないと神奈川県内のランクはさっぱりなのだ
ちなみに神奈川県内の女子バスケに関しては、練習試合を組むためにある程度の情報は自分で集めました。
「牧くんのプレー、見てみたいな」
『一般公開日に来れば見れるが、早乙女さんは女子バスケ部の指導で忙しいだろう?』
「指導ってほどじゃないよ。ちょこっと口出ししてるだけ」
『謙遜することないさ。うちの女子バス部員が言ってたよ。前の湘北とは全然違うって』
「……皆が頑張ったからだよ。でも、ありがとう」
ちょっと照れながらお礼を言ったタイミングでキャッチホンが入った。
「ごめん、ちょっと電話が入ったみたい」
『俺はこれで失礼するよ。相手してくれてありがとうな。じゃ、おやすみ』
「おやすみなさい」
牧くんは会話を長引かせることなく、さっと引いてくれた。
キャッチホン応対のボタンを押して電話に出れば、聞こえてきたのは一成の声だった。
「一成! どうしたの? まだ水曜なのに」
『ちょっと急ぎで確認したいことあったベシ。今、大丈夫ベシ?』
「うん、大丈夫だよ」
『夢子、愛知にはいつ来るベシ?』
「一回戦から見たいから前日入りするつもり」
『泊まる場所は決まってるベシ?』
「いや、まだ探してるところだけど」
私の宿泊事情を伝えると、一成は「それなら良かったベシ」と安心したように声を漏らす。
『山王でホテルを予約したけど、マネージャー用に取った部屋が手違いでひと部屋余ったベシ。そしたら監督が「早乙女に泊まってもらったらどうだ?」って言い出したベシ』
「ええっ!?」
『一人部屋だし部員達とは離れてる部屋だから、夢子が泊まっても問題ないと思うベシ』
申し訳ないなぁと思いつつも「いや待て、それはかなり好都合なのでは?」と引き止める私が居る。
『愛知入りする日程も俺達と同じだし、お勧めするベシ。それに夜間の練習なら見学してもいいって監督が言ってるベシ。』
うっ……山王の練習、気になる!
堂本監督、どこまで懐が深いんだよォ!
「……お言葉に甘えてお願いしちゃっていいかな。ちなみにお代はいくら?」
『宿泊費は要らないベシ。夢子が断ったら荷物置き場として使うだけベシ』
宿泊費タダ!? 有難いにも程がある!
『そうと決まればホテルの場所と電話番号伝えるベシ。メモ、近くにあるベシ?』
「うん、大丈夫」
ホテルの名前と住所、電話番号を教えてもらう。あとで地図を見て確認しておかなければ。
『そういえば誰かと電話してたベシ?』
「ああ、海南の牧くんから電話来てたから」
『は?』
「地区予選をトップで通過したって報告してくれたんだ。ついでに山王の結果も気になってたみたい。山王と戦いたいって言ってたよ」
牧くんと話した内容をざっくばらんに伝える。
『……牧からはよく電話来るベシ?』
「そんなことないよ。毎週電話してる一成よりは頻度は低い。あっちも部活で忙しいし、そもそも私からは連絡しないから」
『それならまぁ良いベシ』
何が良いんだ??
よく分からないけど、納得してるならまぁいいか。
『俺達の到着は夕方頃になるベシ。同じタイミングでチェックインしたいから、ホテルの待ち合わせ時間はまた後で連絡するベシ』
「了解。私は愛知までバスで行くつもりだけど、早く着いたとしても適当に時間潰すから心配しないでね」
『分かったベシ。向こうで会えるのを楽しみにしてるベシ』
「ははっ。私もだよ。カッコいいプレーを期待してます!」
一成の電話を切り、お母さんに宿泊の件は片付いたことを報告する。
お母さんは「一成君が居るなら安心ね!」と喜びつつも「野宿させるかもしれないって焦ってたから安心したわ~!」なんてとんでもないギャグを飛ばしてきたので、堂本監督ナイスアイディア! と心の中で讃えておいた。
愛知県で私は一成を応援する。
どうか一成が怪我を負うことなく、納得のいく戦いができますように。
湘北高校女子バスケ部は変わったと誰もが言うようになった。
練習試合では少しずつ勝てるようになり、地区予選では念願の一回戦突破を達成したからだ。二回戦は負けてしまったものの試合の内容は決して悪くない。以前に比べれば遥かに好成績を修めている。時間が足りないと心配していたけれど、皆の頑張りもあって杞憂に終わった。
皆が涙を流して喜ぶ姿を見て、役に立てて良かったと心から安堵した。
第18話 高校二年、7月のお話
来月にはもうインターハイの全国大会が始まる。
一成は怪我せずに頑張ってるだろうか。
河田や松本、野辺やイチノも元気でやってるだろうか。
堂本監督もお変わりないだろうか。私に関して余計なことを話してないといいのだが。
そんなことを考えながら宿題をしていると、一階に居るお母さんから「海南大付属の牧くんから電話よ~」と呼ばれた。階段を下りて電話を設置しているミニ机の近くに椅子を置き、腰を下ろしながら保留ボタンを解除する。名乗れば牧君の低い声が受話器から響いてきた。
『夜分に申し訳ない。何かしてなかったか?』
「気にしないで。数学の宿題でちょっと疲れてたから気分転換したかったし」
『なら、早乙女さんを退屈させないように頑張るとするかな』
その言葉を聞いて小さく吹き出す。
牧くんは外見に似合わずノリが良いタイプだ。すごく真面目そうに見えて、ちょっとした軽口も拾ってくれるし意外によく笑う。外見と中身のギャップが良い味を出している。
『海南は地区予選トップで通過した。来月の全国大会に出場するよ』
「本当!? うわあ、おめでとう!」
海南は十年以上連続でインターハイに出場している強豪校だというから流石と言うべきだろう。
『山王の深津とは電話でも話してるんだろう? あっちは調子はどうだ?』
「山王も地区予選で一位になったから全国大会に出られるよ。決まったその日に報告されたから」
試合で疲れてるだろうにわざわざ電話をしてくれた一成の呼吸はほんの少しだけ興奮で乱れていた。
去年の夏、一成はまだ二軍で応援席に座る立場だった。それが今やレギュラーとしてコートに立ち、地区予選全ての試合に出たのだから興奮もひとしおだろう。
『そうか……順調に勝ち進めば、山王とも戦えるな』
「そうだね」
牧くんの声は、強い学校と戦えるかもしれないという期待と喜びで弾んでいる。
山王と戦いたくない高校はどれくらい居るだろう。そんな中、牧くんや恐らく他の海南の選手達は全力で挑みたいと思っている。培ってきた技術を試したいと思っているに違いない。
『早乙女さんはインターハイ見に来るのか?』
「うん、そのつもり。夏休みだし、一成とも約束してるからね。急いでホテル探してるところだよ」
宿泊場所はお母さんに探してもらっている。なるべく駅や会場に行きやすい場所を希望してるけど、全国から出場校とバスケファンが集まってくるせいでどんどん予約が取りづらくなっている。お母さんは今まさにホテルについて調べまくっているはずだ。
『じゃあ、愛知では会えそうだな』
「可能性は高いよね。山王と海南が対戦したら面白そうだな。牧くんと一成がぶつかり合うところなんて、想像するだけでわくわくする!」
『俺にも期待してくれるのか?』
「そりゃあ勿論。男子バスケ部に友達が居るんだけど、牧くんの名前をよく聞くんだよ」
進級時にクラスが変わってしまったが、赤木くんや小暮くんとは廊下で擦れ違った時によく雑談をする。
一成が共有してくれるおかげで東北県や山王工業のことは部外者なりに詳しくなったけど、神奈川県の男子バスケ事情には明るくない。赤木くんからの情報がないと神奈川県内のランクはさっぱりなのだ
ちなみに神奈川県内の女子バスケに関しては、練習試合を組むためにある程度の情報は自分で集めました。
「牧くんのプレー、見てみたいな」
『一般公開日に来れば見れるが、早乙女さんは女子バスケ部の指導で忙しいだろう?』
「指導ってほどじゃないよ。ちょこっと口出ししてるだけ」
『謙遜することないさ。うちの女子バス部員が言ってたよ。前の湘北とは全然違うって』
「……皆が頑張ったからだよ。でも、ありがとう」
ちょっと照れながらお礼を言ったタイミングでキャッチホンが入った。
「ごめん、ちょっと電話が入ったみたい」
『俺はこれで失礼するよ。相手してくれてありがとうな。じゃ、おやすみ』
「おやすみなさい」
牧くんは会話を長引かせることなく、さっと引いてくれた。
キャッチホン応対のボタンを押して電話に出れば、聞こえてきたのは一成の声だった。
「一成! どうしたの? まだ水曜なのに」
『ちょっと急ぎで確認したいことあったベシ。今、大丈夫ベシ?』
「うん、大丈夫だよ」
『夢子、愛知にはいつ来るベシ?』
「一回戦から見たいから前日入りするつもり」
『泊まる場所は決まってるベシ?』
「いや、まだ探してるところだけど」
私の宿泊事情を伝えると、一成は「それなら良かったベシ」と安心したように声を漏らす。
『山王でホテルを予約したけど、マネージャー用に取った部屋が手違いでひと部屋余ったベシ。そしたら監督が「早乙女に泊まってもらったらどうだ?」って言い出したベシ』
「ええっ!?」
『一人部屋だし部員達とは離れてる部屋だから、夢子が泊まっても問題ないと思うベシ』
申し訳ないなぁと思いつつも「いや待て、それはかなり好都合なのでは?」と引き止める私が居る。
『愛知入りする日程も俺達と同じだし、お勧めするベシ。それに夜間の練習なら見学してもいいって監督が言ってるベシ。』
うっ……山王の練習、気になる!
堂本監督、どこまで懐が深いんだよォ!
「……お言葉に甘えてお願いしちゃっていいかな。ちなみにお代はいくら?」
『宿泊費は要らないベシ。夢子が断ったら荷物置き場として使うだけベシ』
宿泊費タダ!? 有難いにも程がある!
『そうと決まればホテルの場所と電話番号伝えるベシ。メモ、近くにあるベシ?』
「うん、大丈夫」
ホテルの名前と住所、電話番号を教えてもらう。あとで地図を見て確認しておかなければ。
『そういえば誰かと電話してたベシ?』
「ああ、海南の牧くんから電話来てたから」
『は?』
「地区予選をトップで通過したって報告してくれたんだ。ついでに山王の結果も気になってたみたい。山王と戦いたいって言ってたよ」
牧くんと話した内容をざっくばらんに伝える。
『……牧からはよく電話来るベシ?』
「そんなことないよ。毎週電話してる一成よりは頻度は低い。あっちも部活で忙しいし、そもそも私からは連絡しないから」
『それならまぁ良いベシ』
何が良いんだ??
よく分からないけど、納得してるならまぁいいか。
『俺達の到着は夕方頃になるベシ。同じタイミングでチェックインしたいから、ホテルの待ち合わせ時間はまた後で連絡するベシ』
「了解。私は愛知までバスで行くつもりだけど、早く着いたとしても適当に時間潰すから心配しないでね」
『分かったベシ。向こうで会えるのを楽しみにしてるベシ』
「ははっ。私もだよ。カッコいいプレーを期待してます!」
一成の電話を切り、お母さんに宿泊の件は片付いたことを報告する。
お母さんは「一成君が居るなら安心ね!」と喜びつつも「野宿させるかもしれないって焦ってたから安心したわ~!」なんてとんでもないギャグを飛ばしてきたので、堂本監督ナイスアイディア! と心の中で讃えておいた。
愛知県で私は一成を応援する。
どうか一成が怪我を負うことなく、納得のいく戦いができますように。