第1章 高校一年のお話(全17話)
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記者:月刊バスケで二ヵ月に一度の名物特集『名監督に聞く!』も今回で三十回を迎えました。2月はインターハイ二連覇を成し遂げた山王工業高校男子バスケ部の監督・堂本五郎さんよりお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします!
堂本:よろしくお願いいたします。
第15話 月刊バスケ2月号にて
──堂本監督からは“発掘する楽しみ”というテーマでお話ししていただきます。
記者:ここでの発掘は「有望な選手とを見つけること」を意味しているという認識でよろしいですね。山王工業は毎年全国から精鋭の選手が入学してきますから、逸材と出会うには困らない環境だと思うのですがいかがでしょうか。
堂本:そうですね。有難いことに男子に関しては多くの入部希望者が来てくれます。入部テストに合格しない生徒も居ますが、それでもうちの層が薄くなることは当分ないでしょう。
記者:それは素晴らしいですね。山王ファンにとっても喜ばしいことだと思います。そういえば先日は東北県内の高校を対象に女子バスケのワークショップを開催されたそうですね。堂本監督が講師を務められたと聞いていますが、どういった経緯で女子バスケを指導する流れになったのですか?
堂本:ワークショップはかなり昔から毎年冬に行われていて、開催校は持ち回り制になっています。先日は十数年ぶりに山王工業が会場になりました。女子が対象ですから本来ならば女子バスの監督が講師をやるべきなんですが「山王でやるなら私が講師をするべきだろう!」と大勢の方から猛プッシュされてしまいまして。雇われの監督ですからね、逆らうことはできません(笑)。
記者:そのお気持ち、よく分かります(笑)。ワークショップのご感想はいかがでしたか?
堂本:普段は男子しか見ていませんので新鮮味がありましたね。各校の強さも特色もバラバラでしたが、皆よくついてきてくれたと思ってます。男子より量も内容も抑えたとはいえかなりキツかったはずですので。
記者:「日本一走れる」チームの練習は過酷だと全国に知られています。その片鱗を、受講生は味わったということですね。羨ましいやら恐ろしいやら複雑な気分です。
──まさかの関東から原石がやってきた
記者:ワークショップでは注目すべき選手は居ましたか?
堂本:参加対象は「東北県内の高校バスケ部に所属している者」でしたが、今回は特別枠というか参加してほしくて声をかけた子が居ました。その子は神奈川県の高校に通ってて(以下、仮名:Kさん)半年前の夏休みに知り合ったばかりなんですが、うちの男バス部員と従兄妹で、バスケも従兄妹から教えてもらったという面白い背景を持っている子だったんです。
記者:Kさんのプレーのご感想はいかがでしたか?
堂本:オフェンスもディフェンスも非常にバランスが良かったですよ。夏休みに彼女が従兄妹やうちの一年部員と1on1、3on3をするのを見ていましたが、体格差や体力の関係で負けるは負けるんです。でも無駄のない動きやシュートの成功率には目を見張るものがある。ハンデがあるにも関わらず勇猛果敢に喰らいついてくる。正直、男子に生まれてほしかったくらいです(笑)。
記者:もしも男子だったら思いっきり指導ができましたね(笑)。Kさんは神奈川の高校でバスケ部に入っているんですか?
堂本:それが入ってないんです。だから公式試合には一度も出たことが無いんですよ。
──部活という狭い世界に居ないからこその練習環境
記者:バスケ部に入ってもいないのに堂本監督がそんなに褒めてしまうくらいの実力を持っているんですね。ワークショップの参加者の中には夏のインターハイ出場校や地区予選でベスト8入賞、個人で表彰されている選手も居たそうですが、そういった選手達はいかがでしたか?
堂本:もちろん大会で活躍している選手も良かったですよ。数秒のミスが命取りになる試合で実践慣れしていますからね。ただ、帰宅部でありながら卓越した技術を手にできた稀なケースの子との出逢いのほうが私にとっては興味深く、そんな逸材を指導することができた先日のワークショップはとても有意義な時間だと思いました。
記者:バスケ部に入ることが必ずしも良いとは限らない、ということでしょうか?
堂本:そんなことを言えば全国のバスケ部員を敵に回してしまいますね(笑)。これは私の考えの一つですが……どの学校にも必ず「誰もが認めるエース」が居ますよね? 試合では頼りになる存在ではありますが、部員の成長を促すという視点ではどうでしょうか。エースに追いつこう、追い越そうと最後まで足掻くことができる子というのはかなり少ない筈です。エースだって生半可な練習でその座を手にしている訳ではありませんからね。もちろん時間が足りない、身体ができていない、練習の仕方が悪かったりといった色々な理由も考えられるでしょう。
記者:仰りたいことは何となく分かります。自分の成長に見切りを付けてしまえる選手は、残念ながらそこで上達が止まってしまいますよね。
堂本:そうなんです。大会に出れば当然エースが活躍しますが、同時にレベルも露見します。凄いと思っていた選手が地区予選や全国では箸にもかからなかったという話はよく聞くでしょう。自校のエースの強さを自己判断で見積もってしまった結果、何も成長できないまま引退してしまう可能性も高いんです。男女問わずバスケ部に居る方々には、是非とも誤った自己判断はせずにストイックに練習に打ち込んでほしい。何事も見極めるには時間が必要なんです。
記者:バスケ部という世界に身を置いていないKさんは、井の中の蛙になることもなく前進し続けていると言えますか?
堂本:そうですね。言い方を変えれば足を引っぱる人が居ないわけですから、余計なストッパーが無いのは良い環境だと思います。Kさんのバスケに対する考えは「教えてくれた従兄妹のようになりたい」というごくごくシンプルなものです。小さい頃から従兄妹のプレーを見ていて、アドバイスを素直に受け止めて、実践に足りるだけの肉体強化も厭わない。部活じゃないので一人で黙々とトレーニングする訳ですが、モチベーションの維持については参考にしたいところもあるので今度聞いてみようと思ってます。
記者:Kさんにバスケを教えたという従兄妹さんも気になりますね。
堂本:冬の選抜では一年で唯一レギュラーを獲った子です。今後の試合も多く彼を起用するつもりなので、雑誌を読んでいる方々が目にするのも多くなるでしょう。応援していただければ幸いです。
記者:ところで……彼女が大舞台に立つ、というのは有り得そうでしょうか?
堂本:今のところ公式試合に出たい欲は無さそうですからどうでしょうね(笑)。早い時期に決断すれば機会も多いでしょうが、試合なんて大学に行ってからでも出ようと思えばいくらでも出られますから。やる気があればそれを後押ししてくれる人は居るでしょう。私もその一人になりたいと思っています。
──今後について
記者:今後も女子バスケのワークショップは継続して開催されるのでしょうか?
堂本:1月からは夏に向けて男バスも再始動になりますから、そういった予定はありませんね。今回はたまたま会場が山王だったからという理由で講師になっただけですから。
記者:でも、今回のワークショップがきっかけで女子バスケについても少し考えることが増えたのではないでしょうか(笑)?
堂本:そうですね。今までは男子ばかりでしたが見方が変わりました。バスケの技術は肉体の差はあれど男女で変わるものではありません。今後は女子バスケの動向も気にしてみようと思います。
記者:魅力的なワークショップの企画やお誘いがあれば、堂本監督が講師を務める日が来る可能性もありそうですか? しつこくてすみません。堂本監督から女子バスケの話が聞けるなんて珍しいですし、ましてやKさんの存在も気になるものですからつい……(笑)。
堂本:私からは何とも言えませんが、状況によってはあるいは。誰か企画してください(笑)。
記者:あはは(笑)。今後も素晴らしいプレーヤーの誕生に期待したいですね。
堂本:ええ。バスケ界がもっと盛り上がるよう私も引き続きアンテナを張っていきますよ。
記者:ありがとうございました!