第1章 高校一年のお話(全17話)
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二日目、三日目と講習会が進むにつれてギャラリーの数はだんだん増えていった。
初日は部外者の多さに尻込みしてしまったけど。不躾に鳴り響くカメラのシャッター音に少しだけ嫌悪を覚えたりしたけど。講習会が始まってしまえば意識は目の前のボールと相手に向けられる。
余計なものは遮断するんだ。
第13話 高校一年、冬休みのお話②
二日目の挨拶をする際、堂本監督は「昨日と同じことは繰り返さないぞ」と告げた。
私を含め、周囲の参加者はメニュー内容が全て変わるのかと予想していたが、それは違っていた。
基礎練習の時間は変わらず三時間なのに、身体への負荷を明らかに増やしたメニュー内容だったのだ。十周だったランニングが十五周、三十周になった。筋力トレーニングの回数も増やされた。オフェンスもディフェンスもより実践的になり、まるで試合と同じくらいの汗が流れる。まだ基礎練の段階なのに監督の怒号が飛び交った。
「早乙女、何を休んでいる!? もっと動いて相手を翻弄してみせろ!」
「はいっ!」
「……そう、それだッ! その調子でもっと粘れ! 相手の体力を奪うんだ!」
堂本監督は喰らいつこうとする参加者には厳しくしつつも必ず褒めてくれた。語彙が豊富というか、どんなに小さなことでも拾って掬って自信を持たせてくれる。
三十人も居れば色々な参加者が居る。自分から申し込んだ子。監督から言われて仕方なく受けている子。恥ずかしがって隠れようとする子。あからさまに嫉妬心を見せる子。
さすがにこれだけのギャラリーが見ている状態で手抜きを考える参加者は居ないものの、男子の練習かと錯覚してしまうほどに過酷な内容になってきている。それだけに参加者それぞれの姿勢や特性が顕著に表れるようになった。どこか諦めていたり、早く時間が過ぎてほしいといった気持ちが芽生えていそうな子が少々出てきている。
「集中できないならコートから出て見ていろ! 十二時まではこの勢いでいくぞ!」
監督がそう言うと、貧血になっていそうな子や動きが鈍い子がコートから出て床に座り込んだ。だいぶ呼吸が苦しそうだ。これだけ濃い練習ならそれも仕方ないと思うが。
再び順番が回ってきたので監督が大きな声で私を呼んだ。オフェンスだった子がディフェンスに変わり、私はオフェンスとして彼女を抜かなければならない。
バッシュの底が床に擦れる音、ボールが床を跳ねる音がやけに響く。どこか客観的に捉えてしまう自分の動きをコントロールしつつも、ビシビシと伝わってくる他者の視線に笑いが漏れそうになる。
「すっげぇ見てくるじゃん」
私の一挙一動が注目されている。指先、腕の角度、脚の開き、下半身の落とし具合など何もかもがガン見されている。気持ち悪いと思ってしまうほどに注がれる視線があからさまだ。
原因は昨日の試合だろうか。白チームのリーダーだった森永さんのおかげでかなりのびのびとプレーできた自覚がある。一成や河田達と試合をするのとは違う、対等な条件を持った女同士の戦い。物足りないっちゃ物足りないけど楽しかった。五人で戦うことの楽しさを初めて知れたような気さえする。それは体育の授業なんかでは味わえない代物だ。
「早乙女さん、身体キツくないの?」
オフェンスとディフェンスを終えた私が息を整えながら立っていると、昨日一緒のチームだった子に話しかけられた。私より前に終わっているはずの彼女はまだ苦しそうだ。
「うーん、それほどは。普段からそこそこ走ってるし」
「どのくらい走ってるの?」
「平日は朝と夜に一時間ずつ。休日の朝は音楽聞きながら二時間くらいはランニングするかな。気分によりけり」
私の回答に興味がそそられたらしい彼女はさらに尋ねてくる。
「普段はどんな練習してるの?」
「部屋なら筋トレしたり、プロバスケとかNBAのビデオ見てイメトレしてるかな。親が許可してくれたら屋外コートに行ってイメトレ実践したり、シュートとかドリブルとかの基礎練習。最近は従兄妹から教えてもらった山王の基礎練習やってる。男バス向けのメニューだから量はかなり減らしてるけどね」
「ずっと一人で?」
「うん。休日だったら昼過ぎになるとストリートバスケで仲良くなった人が来るから、そしたら1on1とか3on3やるんだ」
「相手は女子?」
「いや、残念ながら全員男。高校生、大学生、大人と年代は様々ですわ」
問われるままに色々と答えていたら、私の周りにはぞくぞくと人が集まっていた。
「早乙女さんは何でバスケ部に入らないの?」
「昨日の試合、めっちゃ活躍してたじゃない。バスケ部に入ったらレギュラー間違いないでしょ!」
「勿体ないよ。そんなに上手いのに」
順番が回ってこないのをいいことに、あれこれと皆が思うままの意見や疑問を口にしてくる。私はきょとんとしながら純粋な質問をした。
「上手かったら絶対に部活に入らなきゃいけないの? 人よりも上手かったら、インターハイとかプロ選手を目指さないと駄目?」
その言葉に、全員が困ったような表情を浮かべた。
「私がバスケ部に入らないのは中一の時に先輩から苛められたからってのもあるけど……公式試合に出れなくてもバスケはできる」
退部しても私はバスケを手放さなかった。
バスケ部に所属することが全てではないと理解したからだ。
走れる距離が伸びて嬉しい。シュートが入って嬉しい。複雑な組み合わせのドリブルが長くできるようになって嬉しい。そんな小さな喜びは一人でも感じられる。たとえ仲間が居なくても。
「私は、私にバスケを教えてくれた人みたいに強くなりたい。その人とバスケをするのが楽しいから。負けてばっかりで悔しいけど、その人とするバスケ以上に楽しいものが無いから」
一成はバスケ部から逃げた私を否定しない。
一成は私が先輩から不当な扱いをされて凄く怒っていた。部活に入らなくても、私が辞めないならバスケはいくらでもできる。いくらでも相手になると言ってくれた。
私は万年帰宅部で一成は名門バスケ部。バスケに携わる質の差は大きくても、同じ世界を共有することはできる。同じ方向を向いているのなら。
「人生は長いから将来どうなるかは分からないけど。少なくとも今は必要性を感じないから、私はバスケ部には入らないんだ」
「早乙女さん……」
しんみりしてしまった空気をぶち壊すべく、明るい声で言った。
「でもね、私は秋田県とだいぶ縁があるみたいだから……私がこっちに来るタイミングで皆の予定が合えば、いつだってバスケできるよ!」
今年だけで二回も秋田に来ちゃったからな。何だかんだ言って今後も行くだろうし、監督から呼ばれる予感もしている。
東北県内に住む彼女達なら秋田に来るのは神奈川に来るよりも簡単だろう。一成達も集めて、女5人対男5人で試合をするのも楽しいかもしれない。公式ではまず実現しない形式だからこそ燃える気がする。
「そ、そうだね。部活じゃなくてもバスケできるよね」
「何なら体育の授業でやってるしね」
少しずつ会話が明るくなっていく。私の真っ直ぐすぎる気持ちを、彼女達は素直に受け止めてくれたようだ。
「私、本気出して女の子と試合したのは昨日が初めてなんだ。すっごく楽しかった。だから講習会だけじゃなくて、今後も皆でできたらなって思う」
そう言えば、皆はわぁっと声を上げた。
「賛成! 私、早乙女さんと同じメニューやりたい」
「私もやりたい! あとで練習内容を紙に書いてくれない? 後輩にも教えたいから」
「住所と電話番号も交換しようよ。秋田に来ることがあれば教えてほしいな」
「今日の講習会終わった後ちょっと体育館使えるって堂本監督が仰ってたから、試合しようよ!」
私とは違う、バスケ部という世界で生きている彼女達。でも彼女達だってバスケが大好きな人間なんだ。話せば分かってくれる人なんだ。中学校の先輩のように陰湿ではない。
「おい、お前達何を話してる! 次! 早乙女と森永と佐藤、前に出ろ!」
「は、はいっ!」
「はい!」
「今行きます!」
交流もそこそこに切り上げ、私は監督のもとへ走る。
講習会最終日も有意義なものになりそうだ。
* * *
チーム編成をがらっと入れ替えた試合形式の練習は、三日連続で私が入ったチームが全勝した。全員で喜びを分かち合い、敵として戦ったチームとも笑って試合の楽しさを語り合った。
講習会は十六時に終了したが、十八時まで体育館を使っていいと監督が言ってくれたので私達は有難く最後まで使わせてもらった。私が普段やっている基礎練習を皆でやったり、試合したり、情報交換したりと充実した時間を過ごすことができた。私は堂本監督の指導をびっちり受けられただけでなく新たなバスケ仲間も手にすることができた。
満足な気持ちを胸に、私は神奈川へ戻る。
「一成、年末年始は帰省するの?」
「三日から練習だから、それに間に合うように帰省するっショ」
「おばさん達によろしく伝えてね。私はそっちに帰らないで神奈川で過ごすだろうから」
「ん。また電話で色々話すっショ」
「うん。今回も一成が傍に居てくれて本当に助かったよ。一人だったらギャラリー多いわアウェーだわで精神やられてたと思う」
「またこういう機会があれば、監督には俺が同伴するって話すっショ。監督もそこら辺の理解はしてくれるっショ」
「そうだね」
一成が居てくれれば百人馬力だ。
「何だかんだいって今年も一成と沢山会えて嬉しかったよ。秋田と神奈川だから、年一回会うのも難しいと思ってたもん」
「監督もこれで付き合いを終える気はさらさら無さそうだから、絶対にまた会えるっショ。寂しいなんて思ってる暇はないっショ」
「来年もいっぱいバスケしようね」
「臨むところっショ」
私と一成は来年の約束をする。
破ることも破られることもない、これからもずっとする約束だ。
初日は部外者の多さに尻込みしてしまったけど。不躾に鳴り響くカメラのシャッター音に少しだけ嫌悪を覚えたりしたけど。講習会が始まってしまえば意識は目の前のボールと相手に向けられる。
余計なものは遮断するんだ。
第13話 高校一年、冬休みのお話②
二日目の挨拶をする際、堂本監督は「昨日と同じことは繰り返さないぞ」と告げた。
私を含め、周囲の参加者はメニュー内容が全て変わるのかと予想していたが、それは違っていた。
基礎練習の時間は変わらず三時間なのに、身体への負荷を明らかに増やしたメニュー内容だったのだ。十周だったランニングが十五周、三十周になった。筋力トレーニングの回数も増やされた。オフェンスもディフェンスもより実践的になり、まるで試合と同じくらいの汗が流れる。まだ基礎練の段階なのに監督の怒号が飛び交った。
「早乙女、何を休んでいる!? もっと動いて相手を翻弄してみせろ!」
「はいっ!」
「……そう、それだッ! その調子でもっと粘れ! 相手の体力を奪うんだ!」
堂本監督は喰らいつこうとする参加者には厳しくしつつも必ず褒めてくれた。語彙が豊富というか、どんなに小さなことでも拾って掬って自信を持たせてくれる。
三十人も居れば色々な参加者が居る。自分から申し込んだ子。監督から言われて仕方なく受けている子。恥ずかしがって隠れようとする子。あからさまに嫉妬心を見せる子。
さすがにこれだけのギャラリーが見ている状態で手抜きを考える参加者は居ないものの、男子の練習かと錯覚してしまうほどに過酷な内容になってきている。それだけに参加者それぞれの姿勢や特性が顕著に表れるようになった。どこか諦めていたり、早く時間が過ぎてほしいといった気持ちが芽生えていそうな子が少々出てきている。
「集中できないならコートから出て見ていろ! 十二時まではこの勢いでいくぞ!」
監督がそう言うと、貧血になっていそうな子や動きが鈍い子がコートから出て床に座り込んだ。だいぶ呼吸が苦しそうだ。これだけ濃い練習ならそれも仕方ないと思うが。
再び順番が回ってきたので監督が大きな声で私を呼んだ。オフェンスだった子がディフェンスに変わり、私はオフェンスとして彼女を抜かなければならない。
バッシュの底が床に擦れる音、ボールが床を跳ねる音がやけに響く。どこか客観的に捉えてしまう自分の動きをコントロールしつつも、ビシビシと伝わってくる他者の視線に笑いが漏れそうになる。
「すっげぇ見てくるじゃん」
私の一挙一動が注目されている。指先、腕の角度、脚の開き、下半身の落とし具合など何もかもがガン見されている。気持ち悪いと思ってしまうほどに注がれる視線があからさまだ。
原因は昨日の試合だろうか。白チームのリーダーだった森永さんのおかげでかなりのびのびとプレーできた自覚がある。一成や河田達と試合をするのとは違う、対等な条件を持った女同士の戦い。物足りないっちゃ物足りないけど楽しかった。五人で戦うことの楽しさを初めて知れたような気さえする。それは体育の授業なんかでは味わえない代物だ。
「早乙女さん、身体キツくないの?」
オフェンスとディフェンスを終えた私が息を整えながら立っていると、昨日一緒のチームだった子に話しかけられた。私より前に終わっているはずの彼女はまだ苦しそうだ。
「うーん、それほどは。普段からそこそこ走ってるし」
「どのくらい走ってるの?」
「平日は朝と夜に一時間ずつ。休日の朝は音楽聞きながら二時間くらいはランニングするかな。気分によりけり」
私の回答に興味がそそられたらしい彼女はさらに尋ねてくる。
「普段はどんな練習してるの?」
「部屋なら筋トレしたり、プロバスケとかNBAのビデオ見てイメトレしてるかな。親が許可してくれたら屋外コートに行ってイメトレ実践したり、シュートとかドリブルとかの基礎練習。最近は従兄妹から教えてもらった山王の基礎練習やってる。男バス向けのメニューだから量はかなり減らしてるけどね」
「ずっと一人で?」
「うん。休日だったら昼過ぎになるとストリートバスケで仲良くなった人が来るから、そしたら1on1とか3on3やるんだ」
「相手は女子?」
「いや、残念ながら全員男。高校生、大学生、大人と年代は様々ですわ」
問われるままに色々と答えていたら、私の周りにはぞくぞくと人が集まっていた。
「早乙女さんは何でバスケ部に入らないの?」
「昨日の試合、めっちゃ活躍してたじゃない。バスケ部に入ったらレギュラー間違いないでしょ!」
「勿体ないよ。そんなに上手いのに」
順番が回ってこないのをいいことに、あれこれと皆が思うままの意見や疑問を口にしてくる。私はきょとんとしながら純粋な質問をした。
「上手かったら絶対に部活に入らなきゃいけないの? 人よりも上手かったら、インターハイとかプロ選手を目指さないと駄目?」
その言葉に、全員が困ったような表情を浮かべた。
「私がバスケ部に入らないのは中一の時に先輩から苛められたからってのもあるけど……公式試合に出れなくてもバスケはできる」
退部しても私はバスケを手放さなかった。
バスケ部に所属することが全てではないと理解したからだ。
走れる距離が伸びて嬉しい。シュートが入って嬉しい。複雑な組み合わせのドリブルが長くできるようになって嬉しい。そんな小さな喜びは一人でも感じられる。たとえ仲間が居なくても。
「私は、私にバスケを教えてくれた人みたいに強くなりたい。その人とバスケをするのが楽しいから。負けてばっかりで悔しいけど、その人とするバスケ以上に楽しいものが無いから」
一成はバスケ部から逃げた私を否定しない。
一成は私が先輩から不当な扱いをされて凄く怒っていた。部活に入らなくても、私が辞めないならバスケはいくらでもできる。いくらでも相手になると言ってくれた。
私は万年帰宅部で一成は名門バスケ部。バスケに携わる質の差は大きくても、同じ世界を共有することはできる。同じ方向を向いているのなら。
「人生は長いから将来どうなるかは分からないけど。少なくとも今は必要性を感じないから、私はバスケ部には入らないんだ」
「早乙女さん……」
しんみりしてしまった空気をぶち壊すべく、明るい声で言った。
「でもね、私は秋田県とだいぶ縁があるみたいだから……私がこっちに来るタイミングで皆の予定が合えば、いつだってバスケできるよ!」
今年だけで二回も秋田に来ちゃったからな。何だかんだ言って今後も行くだろうし、監督から呼ばれる予感もしている。
東北県内に住む彼女達なら秋田に来るのは神奈川に来るよりも簡単だろう。一成達も集めて、女5人対男5人で試合をするのも楽しいかもしれない。公式ではまず実現しない形式だからこそ燃える気がする。
「そ、そうだね。部活じゃなくてもバスケできるよね」
「何なら体育の授業でやってるしね」
少しずつ会話が明るくなっていく。私の真っ直ぐすぎる気持ちを、彼女達は素直に受け止めてくれたようだ。
「私、本気出して女の子と試合したのは昨日が初めてなんだ。すっごく楽しかった。だから講習会だけじゃなくて、今後も皆でできたらなって思う」
そう言えば、皆はわぁっと声を上げた。
「賛成! 私、早乙女さんと同じメニューやりたい」
「私もやりたい! あとで練習内容を紙に書いてくれない? 後輩にも教えたいから」
「住所と電話番号も交換しようよ。秋田に来ることがあれば教えてほしいな」
「今日の講習会終わった後ちょっと体育館使えるって堂本監督が仰ってたから、試合しようよ!」
私とは違う、バスケ部という世界で生きている彼女達。でも彼女達だってバスケが大好きな人間なんだ。話せば分かってくれる人なんだ。中学校の先輩のように陰湿ではない。
「おい、お前達何を話してる! 次! 早乙女と森永と佐藤、前に出ろ!」
「は、はいっ!」
「はい!」
「今行きます!」
交流もそこそこに切り上げ、私は監督のもとへ走る。
講習会最終日も有意義なものになりそうだ。
* * *
チーム編成をがらっと入れ替えた試合形式の練習は、三日連続で私が入ったチームが全勝した。全員で喜びを分かち合い、敵として戦ったチームとも笑って試合の楽しさを語り合った。
講習会は十六時に終了したが、十八時まで体育館を使っていいと監督が言ってくれたので私達は有難く最後まで使わせてもらった。私が普段やっている基礎練習を皆でやったり、試合したり、情報交換したりと充実した時間を過ごすことができた。私は堂本監督の指導をびっちり受けられただけでなく新たなバスケ仲間も手にすることができた。
満足な気持ちを胸に、私は神奈川へ戻る。
「一成、年末年始は帰省するの?」
「三日から練習だから、それに間に合うように帰省するっショ」
「おばさん達によろしく伝えてね。私はそっちに帰らないで神奈川で過ごすだろうから」
「ん。また電話で色々話すっショ」
「うん。今回も一成が傍に居てくれて本当に助かったよ。一人だったらギャラリー多いわアウェーだわで精神やられてたと思う」
「またこういう機会があれば、監督には俺が同伴するって話すっショ。監督もそこら辺の理解はしてくれるっショ」
「そうだね」
一成が居てくれれば百人馬力だ。
「何だかんだいって今年も一成と沢山会えて嬉しかったよ。秋田と神奈川だから、年一回会うのも難しいと思ってたもん」
「監督もこれで付き合いを終える気はさらさら無さそうだから、絶対にまた会えるっショ。寂しいなんて思ってる暇はないっショ」
「来年もいっぱいバスケしようね」
「臨むところっショ」
私と一成は来年の約束をする。
破ることも破られることもない、これからもずっとする約束だ。