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第1章 高校一年のお話(全17話)

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※山王工業高校に関する記述は著者の妄想です。
※大会に関する記述はホームページを参考にしつつも大部分が妄想です。





 山王工業と海南大付属の試合が終わり、ごった返す出口に揉まれながらも私達は体育館の第一駐車場へ向かった。バスが何十台も停まる駐車スペースの奥に進むと、白ジャージを来た大勢の男子が芝生に座ってお弁当を食べている。辺りを見回していたら一成が迎えに来てくれた。

「一成!」
「絶対に来るって思ってたからお弁当もお茶も確保してるっショ。とりあえずここだと視線が凄いから、こっちに来るっショ」

 バスケ部の面々が好奇の目を向けてくる。理由が分かるだけにさっさと移動したかったので、一成くんの誘導に有難く乗っかることにした。
 案内される方向に歩くと、河田を含めた夏休みのメンバーが手を振って出迎えてくれた。



第10話 高校一年、冬の選抜のお話④



「おばさんがお邪魔しちゃってごめんなさいね」
「いえいえ! 夢子さんのお母さんなら大歓迎ですよ」
「仕出し弁当の量が多かったら残してくださいね。処理班は沢山いるんで」
「こんな立派でてんこ盛りなのに、皆まだお腹に入るの!?」

 お母さんを連れての昼食参加だったが皆程よく気を遣って声を掛けてくれる。お母さんも楽しそうだ。
 貰った仕出し弁当は恐らく有名なお店のもので、百貨店で出されてても可笑しくないような気配を放っていた。出汁巻き卵も煮物も、スーパーやコンビニで売られているのとは訳が違う。インターハイ優勝校ともなると予算が多めに振り分けられてるんだな……なんて子供らしくない発想が浮かぶ。

「一成、もしかして二個目食べてるの?」
「一個じゃ足りないっショ。多めに注文したみたいだから二個目は取り合いになってるっショ」
「結構な量入ってると思うけどなぁ」
「残したら俺が食べてやるから無理するなっショ」
「頼もしい言葉をありがとう」

 夏休みにも感じたが、一成の食べる量が以前よりも明らかに増えている。
 山王工業のハードな練習に耐えるため、部員の身体を支えているのは寮で出されるバランスの良い食事だ。朝食・昼食(寮のお弁当)・夕食、それぞれをしっかり食べなければ身体が持たない。時々行われる朝練では特に、朝食を抜いてしまうと体力が早々に尽きてしまうんだそうだ。また、周りに大飯食らいが居ると影響されてしまうらしい。

「今日の試合はどうだったっショ」
「ん、凄かったよ。相変わらず安定してるよね。シュートもパスも的確だし、ムカつくくらいカッコ良かった」

 私が淡々と褒めるのを、お母さんを含めて周りがじっくりと聞いている。

「牧くんが居る海南大付属はどうだったっショ」

 変な聞き方だなぁと思いつつも私は感想をそのまま告げる。

「インターハイ常連校なんだから弱い訳はない。確かに強いけど、バランスが悪いかなって思ったかな」
「バランス?」
「うん。山王はさ、全員が点を取れるプレーヤーじゃん? でも海南は違う。高確率でシュートが入る選手は三人で、後はミスも多かった」

 オフェンスもディフェンスも同等の精度を保ち、尚かつあらゆる位置からシュートを確実に入れられる選手というのはまず居ないに等しい。
 だが山王工業はシュート位置に個人のバラつきはあるもののミスが本当に少ない。意識の切り替えが早いのが手伝って、鍛え上げられたオフェンスとディフェンスで相手を翻弄しまくっている。
 出場していた海南大付属の選手は確かに大勢居る部員の中でトップだろう。神奈川県では敵無しだろう。しかし総合力で見れば山王には劣ってしまう。

「私が言うのも烏滸がましいけど、山王はバランスが良過ぎる」
「おめぇそんなにバスケの批評話せるヤツだったんか」
「河田、感想は後で話すっショ。夢子、続き言うっショ」

 冷静に話す私に驚く河田。早く続きを話せと一成に目で促される。

「皆、もっとプレーしたかったんじゃないかな。150点近く取れてても可笑しくない試合だったように思う。もちろん海南が150点なんて取ってたら山王はもっと上を行っただろうけど」

 うまく伝わってるかしら、と不安になったら一成はうっすらと口元を緩めながら話し始めた。

夢子はよく見てくれてるっショ。先輩も“今日の試合は微妙だったな”って言ってたっショ」
「一般女子が言うような感想じゃなかったけど、早乙女って本当に試合よく見てるんだね」
「そんな冷静に観戦できて、バスケの実力も知識もあって……早乙女が俺達のマネージャーならどれだけ助かることか」
「山王ってマネージャー居ないの?」

 純粋な質問を投げかけてみると、一成と河田が解説してくれた。

「女子のマネージャーを入れてた時期もあっだらしいが、たびたび恋愛沙汰で問題が起ごるんだと」
「インターハイ常連校で練習試合も多いぶん出会いには困らないから、恋愛目的でマネージャー志望する人が多いっショ。でもハードな練習に比例して雑用も大量。それに耐えれる女子が居ないから、今は三軍の一年生が中心になってマネージャー業を分担してるっショ」
「強豪校は大変なんだね……」

 マネージャーが他校の世話をする状況は想像に難くない。恋愛ばかり考えているような子なら校内外問わずトラブルを起こしそうだ。そのトラブルがあったからこそ、部員にその業務が圧し掛かっている訳で。

「部内の風紀を乱されても困るっショ。ろくにバスケを知らない人にマネージャーやられても困るっショ」
「バスケそのものが好きじゃないと、この山王じゃやってけねぇよ。普通の部活レベルを超越してるからな」

 部員にはバスケに集中してほしいから雑用は全部私が片付ける!
 そんな漫画のような女の子、滅多に存在しないよなぁ。
 話題はマネージャーから明後日の試合に移り変わる。順調に減りつつあるおかずとともに食事と会話を楽しんでいると、堂本監督が私達のグループにやってきた。
 お母さんが堂本監督と何か話している。夏休みに指導していただいた件も話し済みだから、今日のお弁当と併せてお礼を言っているに違いない。
 大人二人が話し終えると今度は監督が私のところへやってきた。ひい! 夏休みぶりで緊張する!

「やぁ早乙女さん。親御さん公認は驚いたけど、平日も観に来るなんて従兄妹思いなんだね」
「あはは……」
「実は君に話したいこともあったから、今日来てくれてるのは良かったよ」

 監督の言葉に、皆が僅かに反応を示す。

早乙女さん、冬休みに大きな用事は入ってるかい」
「いえ、今のところは特に決まってませんが」
「それは好都合。今月の26・27・28日の三日間、女子バスケの講習会を山王工業でやるんだが君も参加してみないかい」
「講習会」
「そう。東北県内の高校で女子バスケ部に所属する子を対象に行っているもので、今年は山王が開催校になったんだ」

 その講習会は毎年12月年末に開催されており、開催校は持ち回りで当番制なのだという。今年は十数年ぶりに山王の順番がやってきたそうだ。

「本来は女子バスの監督が講師を務めるんだが、山王でやるなら私が講師をやるべきだって多方面から頼まれてしまってね」
「その講習会は東北の学校が対象なんですよね。私、神奈川県で思いっきり関東なんですけど」
「実は受講予定者が一人ケガで欠席になってね。滅多にない機会だし、誰か私の知り合いで良さそうな子がいたら呼んでもいいと言われたんだ」

 なんだか物凄い展開になってんぞ。
 お母さんもだけど、皆が私と監督の動向をまじまじと見守っている。 

「色々な学校から数人参加するから、試合形式となれば最初は連携を取るのも難しいだろう。でも3on3であれほど動ける君のことだ。たとえ部活という世界に居なくても問題は無いはずだよ」

 面白そうではある。
 一成の試合を見て、山王の試合を見て、羨ましいというかウズウズしている自覚はあるんだよな。
 監督の話を要約すると「手加減無しで正々堂々と真っ当なバスケができるよ!」という意味なんだよね。

「参加する人は顧問か監督を連れて来る。君には、師匠である深津に同伴を命じるよ。それなら不安も少なくなるだろう?」

 私はそう言われて一成のほうを見る。
 一成はまさか自分に話題の矛先が向かうとは思っていなかったようで、監督の言葉に少しだけ目を見開いていた。だが意図を汲み取った彼は私に向き直る。

夢子が参加するなら、俺も全力でカバーするっショ」

 一成がここまで言ってくれている。
 お母さんも、行きたいなら挑戦しなさいと後押ししてくれた。
 山王工業高校の体育館で、堂本監督が講師で、現役バスケ部員の人とプレーできるのは貴重な機会だ。来年参加できるとも限らない。
 年内に二回も秋田に行くことになるとは思ってもみなかったが。

「……堂本監督。是非参加させてください」
「ありがとう。また君の指導ができるのはとても嬉しいよ」
「よろしくお願いいたします」
「参加の手続きは私が済ませておこう。冬の選抜が終わったら案内を送るから、電話番号と住所を教えてくれるかい」

 私は監督の指示に従う。
 思わぬ展開に驚いたが、それは河田達も同じだった。
 女子バスケの講習会で監督が講師を担当するらしい──そんな噂が流れていたようだが、監督は男バスの指導で大忙しだ。そんなことをする暇がある訳ない。いつもどおりの地獄が待っているんだと思っていた。だが、開催校が山王工業となれば事情も変わるだろう。学校としては堂本監督の凄さを知らしめたいのだ。男バスをインターハイ常連校、優勝校に育てた監督の凄さを広めることは宣伝にもなる。

夢子、講習会の期間はまた俺の家に泊まれや。母ちゃんには話しておくから」
「ありがとう。またお世話になるね」
「深津、お前も俺の家に泊まるべ? 夢子の監督なら傍に居たほうが安心だしな」
「勿論そのつもりっショ。外泊届け出しとくっショ」

 冬の選抜に出場する従兄妹の活躍を見に来たら、年末の予定が決まりました。
 バスケ部員じゃないし東北に住んでもいないけど。
 私、特別枠的な感じでバスケの講習会に参加します!
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