第1章 高校一年のお話(全17話)
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※山王工業高校に関する記述は著者の妄想です。
※大会に関する記述はホームページを参考にしつつも大部分が妄想です。
明日の火曜日に秋の選抜を観に行きたいと両親に相談したら思いのほか簡単にOKが貰えた。小さい頃から趣味というには本格的にバスケを続けていることは両親も理解しているし、一成がレギュラーだからという身内的な事情もある。
ただし、一人では行かせられないので「お母さんと一緒に行くなら許可する」と言われた。併せて大学進学を検討している身なので「再来週の期末考査で五十番以内に入ること」という条件も加えられた。
山王は負け知らずの高校だ。火曜・木曜と間違いなく観戦することになるだろう。二日間も休むのは先生からも印象は良くないだろうから成績で周囲を納得させなさい、というのが父の言葉だった。
第9話 高校一年、冬の選抜のお話③
試合は午前十一時からだったので私とお母さんは早めに会場入りしていた。ロビーに貼られているトーナメント表を見て、一成の対戦校を確認する。
「山王工業と……海南、大付属?」
さっそく牧くんと再会する可能性が高まった。観客席のどこかに仲間を応援する牧くんが居ることだろう。
前回の反省点を活かして私達は早々に席を取りに行った。階段を登って観客席入口から中に入ると、私達は目の前に広がる光景に圧倒された。
「うわっ。色が凄い!」
「し、試合までまだ時間あるのよね?」
「うん。一時間くらい先だけど……」
試合まで一時間近くあるので、一般客はまだちらほらとした座っていない。
だが観客席の一角を白いジャージ(山王工業)、対角線上の一角を黄色と紫色のジャージ(海南大付属)が埋め尽くしていた。どちらも大所帯のバスケ部ではあるが、全員連れてきているのかかなり異様な光景である。迫力が凄い。
「山王工業の部員が多いってのは聞いてたけど、海南大付属も凄いのねぇ」
「うん。私も知らなかったよ……座る場所が限られて、却って探しやすいかもしれないね」
私達は山王工業の応援団(部員)の近くに座った。位置的にベンチに座る選手がよく見える場所なので、もしかしたら一成も気付いてくれるかもしれない。
プログラムを眺めてお母さんと雑談をしていると、どこからか……いや、明らかに山王工業の方向から視線を感じた。気のせいで片付けられるような代物ではない。悪意は全く感じないけれど。
誰が見てるんだ? と気になった私はゆっくりと気配を感じた方向へ振り向く。すると、そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。
「雅史!?」
「やっぱり夢子か!」
少しだけ離れたところに河田を含む秋田組のメンバーが固まって応援団の端に座っていた。先輩に何か許可を貰うように話しかけ、自分の席にタオルを置くと私達の席へ近付いてくれた。ここまで来てもらうのも申し訳ないので、お母さんにちょっと友達と話してくると伝えて席を立つ。
山王工業のジャージに身を包む皆の姿を見るのは初めてだった。
「皆、久しぶり! ……あれ、雅史背ェ伸びた!?」
「おお。夏から十センチ伸びたど」
「こいつ成長がヤバいんだよ。そのせいでポジションも変わったし」
「てか全員背ェ伸びてるでしょ! 羨ましい。私なんかちっとも伸びてないのに」
「はは、でも早乙女さんも元気そうで何よりだよ」
「今日は平日なのに学校はどうしたんだ? 堂々とサボりか?」
「両親公認のサボりです。今日はお母さんと来てる」
「凄ぇな。親公認かよ」
「期末考査で五十番以内に入ることが条件なので良いことばかりでもないです」
夏休みに会った時とは違い、皆の背が伸びただけではなく心なしか体格も良くなっているような気がする。ジャージ着用の効果で強豪校のオーラも身に纏っているせいか、ただ話しているのに少しだけ緊張した。
雑談していると、彼らの背後から好奇の視線を感じた。山王工業の部員達がチラチラとこちらを見てきている。
「あの……戻らなくて大丈夫? 後ろからすっごい視線を感じるんだけど」
「ああ、俺達が女の子と話してるからだろうね」
「一般生徒は来てねぇはずなのに、仲良さそうに女子と話してたらそりゃ気になるべ」
「羨ましいんだろ」
「ちょっと優越感はあるよな」
私、そんな大した女子じゃないけどなぁ。
そう呟けば「女子という時点でもれなく興味の対象なんだわ」と彼らは笑った。
「夢子、午後の予定はどうなってんだ?」
「特に決めてないかな。山王は午前中の試合だけなんだよね?」
話題が切り替わりそうな空気になると、河田がいきなり尋ねてきた。
せっかく都内に出てるし買い物でも行く? なんて平日の高校生の母親らしくない台詞に驚いたけど、このまま家に帰るのも勿体ないよねと話していた。そう伝えると全員がにっこりと笑う。
「お前とお母さんさえ良がったら昼飯一緒に食わねべか?」
「試合の後は外の芝生で仕出し弁当食べる予定なんだよ。数が余ってるって言ってたから、監督に話せば早乙女ならくれるかも」
「ついでにそのまま一緒に観戦しないか? インターハイで戦った学校が午後イチで試合やるんだ。組み合わせも面白いからお勧めだぞ」
「深津も居るし、せっかくだから話していきなよ」
なんという嬉しいお誘い!
山王工業のバスケ部が食べる仕出し弁当なんてある程度は贅沢なはず(笑)。
一成とも話したいし、堂本監督に話しかけれそうな雰囲気なら夏休みのお礼も言いたい。
「ありがとう。お母さんに相談してみる」
「おお。もしOKだったら試合の後に第一駐車場に来てくれや。芝生エリアに白いジャージの集団が居るからすぐ分かるべ」
「監督には話しておくけど、もしお弁当貰えなくても近くにキッチンカー来てるから食事には困らないはずだよ」
「分かった!」
じきに監督と選手が入場するというアナウンスが流れると私達は互いの席に戻った。
午後の予定についてお母さんに相談したら、今日は思う存分見ていきなさいと快諾してくれた。どうやらお母さんも大会の雰囲気をとことん楽しむモードに切り替わったらしい。
十分も経たないうちに監督と選手達が体育館に入場してきた。それだけで大きな声援が飛び交い、下では選手達がウォーミングアップのため身体を解しながらコートの中に入っていく。
しばらくは一般的なウォーミングアップが繰り広げられていたが、山王工業名物のタップになると一気に会場がヒートアップした。まるで大したことでもないような「毎日やってますが何か?」みたいな表情で淡々と素早く交代している。
「何あれ凄いわね!」
初めて見たお母さんが興奮のあまり身を乗り出して眺めている。私はすかさず解説した。
「ウォーミングアップでいつもやってる山王工業名物のタップだよ」
「なんて難しそうな……あらっ、あれ一成くんじゃない!?」
「ほんとだ。相変わらずの無表情だねぇ」
一成はいつもの表情で飄々と飛んでいる。先輩達に引けを取らないほどの素早さ、正確さでボールに触れる。ラストのダンクは先輩が決めたものの、やはり一成の凄さを痛感せずには居られない。
山王工業が有名なのは勿論だが、海南大付属もまたインターハイ常連校だ。都内の人間なら目にする機会の多い高校でもある。彼らのウォーミングアップもバスケ関係者の関心を引いたが、山王工業と同じコート内に居るせいで注目を奪われている印象はあった。
とはいえ海南大付属の試合は初めて見る。
この組み合わせはどんな試合になるのだろう。
ウォーミングアップ終了のブザーが鳴った。驚くことに一成は最初から出場するらしく、先輩達と一緒にコートに入っていく。
「一成くん、立派になったわね。お義姉さんに写真送ってあげなきゃ!」
お母さんはカメラ片手に観戦する気満々だ。荷物がちょっと多いなと思ったらカメラ持参だったらしい。せっかくの活躍も、フィルムカメラじゃ豆粒の大きさだもんね。
試合開始のホイッスルが体育館に鳴り響く。
本日の第一試合が始まった。
試合の結果、105‐85 で山王工業が勝利した。
得点差は大きいが、海南大付属のレベルが低かった訳ではない。インターハイに連続出場しているだけあって強いことは間違いない。
ただ、山王工業の選手陣が並外れているだけ。試合終盤でも全速力で走れるほどのスタミナを持ち、一人一人が得点を入れられる選手であり、何より冷静だった。ちょっとしたミスがあってもすぐ次の動きで取り戻す。頭と身体の切り替えがとても早いのだ。
日曜の試合も凄いと思ったが、今日の試合はそれ以上だ。トーナメントを勝ち上がっているだけあって対戦相手もかなり仕上がっている。
だが山王工業の面々はまだ余裕がありそうな様子だ。まるで暴れ足りないような、もっと楽しませてくれよとでもいうような雰囲気さえ感じてしまう。
もしも私が彼らと戦える立場だったなら、どれだけ嫌な相手だろう。そんなことを考えてしまった。
※大会に関する記述はホームページを参考にしつつも大部分が妄想です。
明日の火曜日に秋の選抜を観に行きたいと両親に相談したら思いのほか簡単にOKが貰えた。小さい頃から趣味というには本格的にバスケを続けていることは両親も理解しているし、一成がレギュラーだからという身内的な事情もある。
ただし、一人では行かせられないので「お母さんと一緒に行くなら許可する」と言われた。併せて大学進学を検討している身なので「再来週の期末考査で五十番以内に入ること」という条件も加えられた。
山王は負け知らずの高校だ。火曜・木曜と間違いなく観戦することになるだろう。二日間も休むのは先生からも印象は良くないだろうから成績で周囲を納得させなさい、というのが父の言葉だった。
第9話 高校一年、冬の選抜のお話③
試合は午前十一時からだったので私とお母さんは早めに会場入りしていた。ロビーに貼られているトーナメント表を見て、一成の対戦校を確認する。
「山王工業と……海南、大付属?」
さっそく牧くんと再会する可能性が高まった。観客席のどこかに仲間を応援する牧くんが居ることだろう。
前回の反省点を活かして私達は早々に席を取りに行った。階段を登って観客席入口から中に入ると、私達は目の前に広がる光景に圧倒された。
「うわっ。色が凄い!」
「し、試合までまだ時間あるのよね?」
「うん。一時間くらい先だけど……」
試合まで一時間近くあるので、一般客はまだちらほらとした座っていない。
だが観客席の一角を白いジャージ(山王工業)、対角線上の一角を黄色と紫色のジャージ(海南大付属)が埋め尽くしていた。どちらも大所帯のバスケ部ではあるが、全員連れてきているのかかなり異様な光景である。迫力が凄い。
「山王工業の部員が多いってのは聞いてたけど、海南大付属も凄いのねぇ」
「うん。私も知らなかったよ……座る場所が限られて、却って探しやすいかもしれないね」
私達は山王工業の応援団(部員)の近くに座った。位置的にベンチに座る選手がよく見える場所なので、もしかしたら一成も気付いてくれるかもしれない。
プログラムを眺めてお母さんと雑談をしていると、どこからか……いや、明らかに山王工業の方向から視線を感じた。気のせいで片付けられるような代物ではない。悪意は全く感じないけれど。
誰が見てるんだ? と気になった私はゆっくりと気配を感じた方向へ振り向く。すると、そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。
「雅史!?」
「やっぱり夢子か!」
少しだけ離れたところに河田を含む秋田組のメンバーが固まって応援団の端に座っていた。先輩に何か許可を貰うように話しかけ、自分の席にタオルを置くと私達の席へ近付いてくれた。ここまで来てもらうのも申し訳ないので、お母さんにちょっと友達と話してくると伝えて席を立つ。
山王工業のジャージに身を包む皆の姿を見るのは初めてだった。
「皆、久しぶり! ……あれ、雅史背ェ伸びた!?」
「おお。夏から十センチ伸びたど」
「こいつ成長がヤバいんだよ。そのせいでポジションも変わったし」
「てか全員背ェ伸びてるでしょ! 羨ましい。私なんかちっとも伸びてないのに」
「はは、でも早乙女さんも元気そうで何よりだよ」
「今日は平日なのに学校はどうしたんだ? 堂々とサボりか?」
「両親公認のサボりです。今日はお母さんと来てる」
「凄ぇな。親公認かよ」
「期末考査で五十番以内に入ることが条件なので良いことばかりでもないです」
夏休みに会った時とは違い、皆の背が伸びただけではなく心なしか体格も良くなっているような気がする。ジャージ着用の効果で強豪校のオーラも身に纏っているせいか、ただ話しているのに少しだけ緊張した。
雑談していると、彼らの背後から好奇の視線を感じた。山王工業の部員達がチラチラとこちらを見てきている。
「あの……戻らなくて大丈夫? 後ろからすっごい視線を感じるんだけど」
「ああ、俺達が女の子と話してるからだろうね」
「一般生徒は来てねぇはずなのに、仲良さそうに女子と話してたらそりゃ気になるべ」
「羨ましいんだろ」
「ちょっと優越感はあるよな」
私、そんな大した女子じゃないけどなぁ。
そう呟けば「女子という時点でもれなく興味の対象なんだわ」と彼らは笑った。
「夢子、午後の予定はどうなってんだ?」
「特に決めてないかな。山王は午前中の試合だけなんだよね?」
話題が切り替わりそうな空気になると、河田がいきなり尋ねてきた。
せっかく都内に出てるし買い物でも行く? なんて平日の高校生の母親らしくない台詞に驚いたけど、このまま家に帰るのも勿体ないよねと話していた。そう伝えると全員がにっこりと笑う。
「お前とお母さんさえ良がったら昼飯一緒に食わねべか?」
「試合の後は外の芝生で仕出し弁当食べる予定なんだよ。数が余ってるって言ってたから、監督に話せば早乙女ならくれるかも」
「ついでにそのまま一緒に観戦しないか? インターハイで戦った学校が午後イチで試合やるんだ。組み合わせも面白いからお勧めだぞ」
「深津も居るし、せっかくだから話していきなよ」
なんという嬉しいお誘い!
山王工業のバスケ部が食べる仕出し弁当なんてある程度は贅沢なはず(笑)。
一成とも話したいし、堂本監督に話しかけれそうな雰囲気なら夏休みのお礼も言いたい。
「ありがとう。お母さんに相談してみる」
「おお。もしOKだったら試合の後に第一駐車場に来てくれや。芝生エリアに白いジャージの集団が居るからすぐ分かるべ」
「監督には話しておくけど、もしお弁当貰えなくても近くにキッチンカー来てるから食事には困らないはずだよ」
「分かった!」
じきに監督と選手が入場するというアナウンスが流れると私達は互いの席に戻った。
午後の予定についてお母さんに相談したら、今日は思う存分見ていきなさいと快諾してくれた。どうやらお母さんも大会の雰囲気をとことん楽しむモードに切り替わったらしい。
十分も経たないうちに監督と選手達が体育館に入場してきた。それだけで大きな声援が飛び交い、下では選手達がウォーミングアップのため身体を解しながらコートの中に入っていく。
しばらくは一般的なウォーミングアップが繰り広げられていたが、山王工業名物のタップになると一気に会場がヒートアップした。まるで大したことでもないような「毎日やってますが何か?」みたいな表情で淡々と素早く交代している。
「何あれ凄いわね!」
初めて見たお母さんが興奮のあまり身を乗り出して眺めている。私はすかさず解説した。
「ウォーミングアップでいつもやってる山王工業名物のタップだよ」
「なんて難しそうな……あらっ、あれ一成くんじゃない!?」
「ほんとだ。相変わらずの無表情だねぇ」
一成はいつもの表情で飄々と飛んでいる。先輩達に引けを取らないほどの素早さ、正確さでボールに触れる。ラストのダンクは先輩が決めたものの、やはり一成の凄さを痛感せずには居られない。
山王工業が有名なのは勿論だが、海南大付属もまたインターハイ常連校だ。都内の人間なら目にする機会の多い高校でもある。彼らのウォーミングアップもバスケ関係者の関心を引いたが、山王工業と同じコート内に居るせいで注目を奪われている印象はあった。
とはいえ海南大付属の試合は初めて見る。
この組み合わせはどんな試合になるのだろう。
ウォーミングアップ終了のブザーが鳴った。驚くことに一成は最初から出場するらしく、先輩達と一緒にコートに入っていく。
「一成くん、立派になったわね。お義姉さんに写真送ってあげなきゃ!」
お母さんはカメラ片手に観戦する気満々だ。荷物がちょっと多いなと思ったらカメラ持参だったらしい。せっかくの活躍も、フィルムカメラじゃ豆粒の大きさだもんね。
試合開始のホイッスルが体育館に鳴り響く。
本日の第一試合が始まった。
試合の結果、105‐85 で山王工業が勝利した。
得点差は大きいが、海南大付属のレベルが低かった訳ではない。インターハイに連続出場しているだけあって強いことは間違いない。
ただ、山王工業の選手陣が並外れているだけ。試合終盤でも全速力で走れるほどのスタミナを持ち、一人一人が得点を入れられる選手であり、何より冷静だった。ちょっとしたミスがあってもすぐ次の動きで取り戻す。頭と身体の切り替えがとても早いのだ。
日曜の試合も凄いと思ったが、今日の試合はそれ以上だ。トーナメントを勝ち上がっているだけあって対戦相手もかなり仕上がっている。
だが山王工業の面々はまだ余裕がありそうな様子だ。まるで暴れ足りないような、もっと楽しませてくれよとでもいうような雰囲気さえ感じてしまう。
もしも私が彼らと戦える立場だったなら、どれだけ嫌な相手だろう。そんなことを考えてしまった。