第1章 高校一年のお話(全17話)
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※注意 山王工業高校の学校生活に関する記述は著者の妄想です。
頭が良くて、驚くくらいに器用で、冷静沈着な同い年の従兄弟。
その従兄弟がバスケットボールと出逢い、その影響で私もバスケを始めたことから人生が変わった。
残念ながらバスケ部に関して良い思い出は無いけれど、今も自分にとって大切なスポーツだと思えるのは深津一成のおかげである。
第0話 高校入学前のお話
寝る前に従兄弟と電話するのは子供の頃からの日課だ。
「荷造りは終わったの?」
『出発前夜に準備できてなかったら人間辞めなきゃいけないっショ』
「そうだね。一成が忘れる訳ないね」
明日、幼馴染であり従兄弟である深津一成は秋田県に行く。
中学校三年間をバスケットに費やし、バスケ部選手として試合で多くの実績を残した彼は見事、バスケットの強豪である山王工業高校への進学を果たした。推薦だかスカウトだか忘れたけど監督の鼻高々だった姿が今も印象に残っている。
「淋しくなるなぁ」
『引っ越すことギリギリまで話し忘れてたお前が言うセリフじゃないっショ』
「その通りだわ。ごめんね」
中学校三年の一学期が始まったばかりの頃に父の転勤が決まった。転勤先は神奈川県。家族全員で引っ越すのは決定事項だったので、それならと神奈川県にある湘北高校を受験した。
もう少し頑張らないと合格は難しいかもと言われた私は猛烈に受験勉強を頑張った。そして彼もまた、感覚を失くしたくないからと卒業手前までバスケ部で活動していた。
たまに会えば二人で1on1をやったり週刊バスケの話で盛り上がったりと別のことで時間が経ってしまうので、互いの事情なんか気にも留めない。その結果、私が神奈川県立湘北高校に合格したことも引っ越すことも報告が遅れてしまったのである。
というか私の両親も一成の両親に事情を話すのを忘れていたというから、総じておっちょこちょいなのだろう。
「山王は全寮制だっけ」
『県外から来る学生は寮で、県内在住なら自宅通学って聞いてるっショ』
「そうなんだ。寮生活ってちょっと憧れる。漫画みたいで」
頭の中で好きな漫画のタイトルを思い浮かべていると、一成がさらっと釘を刺す。
『工業高校で殆ど男ばかりだからお前が考えてるような物語はまず実現しないっショ』
「はは……スポーツ系の学生多いもんね。恋愛にかまけてる暇なんか無いか」
山王工業高校に進学する学生の多くは優秀なスポーツ選手である。特にスカウトで入学してたら健康状態によっては退学も有り得る訳で、余計なことに現を抜かしている場合ではない。
一成が怪我しないよう祈るばかりだ。といっても慌てて怪我するようなタマではないのだが。
「あ。そうだ」
『どうしたっショ?』
「いや、慣れるまでは大変だろうからこれを機に電話の日課を無くしてもいいんじゃないかと思って」
一般的に寮生活には守るべきルールが存在する。ましてや山王はバスケの名門。未来の有望株が何十人も集まって生活しているのだ。消灯時間とか入浴時間とか軍隊並みに細々と決められているはず(偏見)。
私なんかと電話するよりも身体を休めたほうが大事だと思うんだけども。
『そんな気遣いは要らないっショ』
「そうかなぁ? 絶対にキツイと思うよ……山王の練習がハードだって言ってたの一成じゃん」
心配がちな声で言うと、鼻で笑うような小さな吐息が耳元に響いた。
『だからこそ夢子と話すのが良い気分転換になるっショ』
「そう?」
『うん。毎日って訳でもないし、お前の近況も聞きたいから付き合ってほしいっショ』
おおう。なんか普段の一成からは聞けないような言葉を貰ってしまった。ちょっと照れるじゃないか。
『……夢子』
「なに?」
彼が改まったような空気を感じたので、姿勢を正して聞く態勢を整える。
『夢子がバスケ部に入部するもしないも自由っショ。でも。遊びだろうと助っ人だろうと何だろうと、バスケをするなら全力でやれっショ』
真剣な声色で告げられる。
『夢子のバスケが巧くなったのは俺のおかげっショ』
「うん。私を強くしてくれたのは一成だよ」
『俺まで弱いと思われたら癪だっショ。どんな相手でも完膚なきまでに叩き潰してやれっショ』
おかしいな。だいぶセリフの治安が悪くなってるぞ。
「体育の授業でも本気出さなきゃ駄目な感じ?」
『半端なプレーで余計なストレスを溜めるのはどうかと思うっショ』
「それもそうか……」
確かに変なストレスを溜めるのも嫌だな。
どんな生活が待ってるか分からないからこそ、大好きなバスケくらいは思いっきり楽しむのも悪くない。
次に一成と1on1する時に「下手になってるっショ」なんて言われたら悔しいもんね!
「なんで強いの? って聞かれたら『私の師匠が山王工業のバスケ選手だからね』って答えられるように頑張ってね」
『一年でスタメンになれって? さすがに厳しいっショ』
「へへ。まぁでも一成が師匠ってのは本当だからね。その時は自慢できる幼馴染がいるからって言っておくよ」
『そうしてくれると有難いっショ』
もっと話したかった。
でも、それはいけない。
私は入学式まで時間があるからまだこうやってのんびりできるけど、一成は違う。
彼は明日から山王工業高校の学生だ。強豪バスケ部の部員となる。万全な体調で飛行機に乗ってほしい。
「明日は何時の飛行機に乗るの?」
『昼過ぎの便っショ』
「見送り行きたかったなぁ。行けなくてごめんね」
『別に気にしないっショ。寮に荷物送ってて荷解きしたいから早い便にしたのは俺だっショ』
「うん」
『というか、しおらしい夢子は解釈違いだからとっとと元のキャラに戻ってほしいっショ』
「どういう意味だコラァ」
『はは、そういう夢子のほうが安心するっショ』
二人で笑い合った。
そうだね。落ち込むのは私らしくない。
今生の別れでもあるまいし、見送りできないからこそ明るく締めなきゃ!
『電話できる時間見つけたら連絡するっショ』
「うん。連絡待ってるよ。面白い話あったら聞かせてね」
『ん。じゃあ……行ってくる』
「行ってらっしゃい!」
私は湘北高校で。
一成は山王工業高校で。
一緒に頑張ろうね。
頭が良くて、驚くくらいに器用で、冷静沈着な同い年の従兄弟。
その従兄弟がバスケットボールと出逢い、その影響で私もバスケを始めたことから人生が変わった。
残念ながらバスケ部に関して良い思い出は無いけれど、今も自分にとって大切なスポーツだと思えるのは深津一成のおかげである。
第0話 高校入学前のお話
寝る前に従兄弟と電話するのは子供の頃からの日課だ。
「荷造りは終わったの?」
『出発前夜に準備できてなかったら人間辞めなきゃいけないっショ』
「そうだね。一成が忘れる訳ないね」
明日、幼馴染であり従兄弟である深津一成は秋田県に行く。
中学校三年間をバスケットに費やし、バスケ部選手として試合で多くの実績を残した彼は見事、バスケットの強豪である山王工業高校への進学を果たした。推薦だかスカウトだか忘れたけど監督の鼻高々だった姿が今も印象に残っている。
「淋しくなるなぁ」
『引っ越すことギリギリまで話し忘れてたお前が言うセリフじゃないっショ』
「その通りだわ。ごめんね」
中学校三年の一学期が始まったばかりの頃に父の転勤が決まった。転勤先は神奈川県。家族全員で引っ越すのは決定事項だったので、それならと神奈川県にある湘北高校を受験した。
もう少し頑張らないと合格は難しいかもと言われた私は猛烈に受験勉強を頑張った。そして彼もまた、感覚を失くしたくないからと卒業手前までバスケ部で活動していた。
たまに会えば二人で1on1をやったり週刊バスケの話で盛り上がったりと別のことで時間が経ってしまうので、互いの事情なんか気にも留めない。その結果、私が神奈川県立湘北高校に合格したことも引っ越すことも報告が遅れてしまったのである。
というか私の両親も一成の両親に事情を話すのを忘れていたというから、総じておっちょこちょいなのだろう。
「山王は全寮制だっけ」
『県外から来る学生は寮で、県内在住なら自宅通学って聞いてるっショ』
「そうなんだ。寮生活ってちょっと憧れる。漫画みたいで」
頭の中で好きな漫画のタイトルを思い浮かべていると、一成がさらっと釘を刺す。
『工業高校で殆ど男ばかりだからお前が考えてるような物語はまず実現しないっショ』
「はは……スポーツ系の学生多いもんね。恋愛にかまけてる暇なんか無いか」
山王工業高校に進学する学生の多くは優秀なスポーツ選手である。特にスカウトで入学してたら健康状態によっては退学も有り得る訳で、余計なことに現を抜かしている場合ではない。
一成が怪我しないよう祈るばかりだ。といっても慌てて怪我するようなタマではないのだが。
「あ。そうだ」
『どうしたっショ?』
「いや、慣れるまでは大変だろうからこれを機に電話の日課を無くしてもいいんじゃないかと思って」
一般的に寮生活には守るべきルールが存在する。ましてや山王はバスケの名門。未来の有望株が何十人も集まって生活しているのだ。消灯時間とか入浴時間とか軍隊並みに細々と決められているはず(偏見)。
私なんかと電話するよりも身体を休めたほうが大事だと思うんだけども。
『そんな気遣いは要らないっショ』
「そうかなぁ? 絶対にキツイと思うよ……山王の練習がハードだって言ってたの一成じゃん」
心配がちな声で言うと、鼻で笑うような小さな吐息が耳元に響いた。
『だからこそ夢子と話すのが良い気分転換になるっショ』
「そう?」
『うん。毎日って訳でもないし、お前の近況も聞きたいから付き合ってほしいっショ』
おおう。なんか普段の一成からは聞けないような言葉を貰ってしまった。ちょっと照れるじゃないか。
『……夢子』
「なに?」
彼が改まったような空気を感じたので、姿勢を正して聞く態勢を整える。
『夢子がバスケ部に入部するもしないも自由っショ。でも。遊びだろうと助っ人だろうと何だろうと、バスケをするなら全力でやれっショ』
真剣な声色で告げられる。
『夢子のバスケが巧くなったのは俺のおかげっショ』
「うん。私を強くしてくれたのは一成だよ」
『俺まで弱いと思われたら癪だっショ。どんな相手でも完膚なきまでに叩き潰してやれっショ』
おかしいな。だいぶセリフの治安が悪くなってるぞ。
「体育の授業でも本気出さなきゃ駄目な感じ?」
『半端なプレーで余計なストレスを溜めるのはどうかと思うっショ』
「それもそうか……」
確かに変なストレスを溜めるのも嫌だな。
どんな生活が待ってるか分からないからこそ、大好きなバスケくらいは思いっきり楽しむのも悪くない。
次に一成と1on1する時に「下手になってるっショ」なんて言われたら悔しいもんね!
「なんで強いの? って聞かれたら『私の師匠が山王工業のバスケ選手だからね』って答えられるように頑張ってね」
『一年でスタメンになれって? さすがに厳しいっショ』
「へへ。まぁでも一成が師匠ってのは本当だからね。その時は自慢できる幼馴染がいるからって言っておくよ」
『そうしてくれると有難いっショ』
もっと話したかった。
でも、それはいけない。
私は入学式まで時間があるからまだこうやってのんびりできるけど、一成は違う。
彼は明日から山王工業高校の学生だ。強豪バスケ部の部員となる。万全な体調で飛行機に乗ってほしい。
「明日は何時の飛行機に乗るの?」
『昼過ぎの便っショ』
「見送り行きたかったなぁ。行けなくてごめんね」
『別に気にしないっショ。寮に荷物送ってて荷解きしたいから早い便にしたのは俺だっショ』
「うん」
『というか、しおらしい夢子は解釈違いだからとっとと元のキャラに戻ってほしいっショ』
「どういう意味だコラァ」
『はは、そういう夢子のほうが安心するっショ』
二人で笑い合った。
そうだね。落ち込むのは私らしくない。
今生の別れでもあるまいし、見送りできないからこそ明るく締めなきゃ!
『電話できる時間見つけたら連絡するっショ』
「うん。連絡待ってるよ。面白い話あったら聞かせてね」
『ん。じゃあ……行ってくる』
「行ってらっしゃい!」
私は湘北高校で。
一成は山王工業高校で。
一緒に頑張ろうね。
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