かたちのない
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「盗まれたのは、本だよ。正確に言うと、〝日記〟だ」
「あなた、日記なんて書いてたんですか?随分と可愛らしい趣味ですね」
「うるさいなあ」
あれから放課後。場所を移して、モストロラウンジのVIPルームだ。
「というか、前からちょくちょく私物を盗られそうにはなってたんだけど、盗られたのはこれが初めて」
「は、それほんと〜?ヤバすぎじゃない?キッツ」
「ふふ、キースさん、一部の方からは人気があるご様子ですからね。黙っていれば幸薄顔、と好評みたいですよ」
「いやジェイド、それ褒め言葉でも何でもないから」
それはただ顔が薄いと言っているだけで、薄幸の美形と言われるのとは天と地ほどの差がある。
カフェの開店前だからか、双子も揃っている。目の前のソファに座るアズールと、その左右に佇むジェイドとフロイド。寮服を纏っているのもあって、相変わらず圧迫感のある布陣だ。
確かに私は一定の支持を得ていた、嫌な意味で。
女顔、筋肉のない体つき。女がいない環境下では、中性的な見た目の者は、そういった対象として消費されやすい。
しかも、私なんて魔法の力だとか威厳や権力、後ろ盾もないものだから、舐められやすい。簡単に言うとコイツならいけるだろ、みたいな。
しかし、それも圧倒的な美少年のエペルが入学してからは、大半がそっちに興味が移ったと思っていたのだが。
「ほんっっっとに、一部だけ妙な輩が付いてるみたいなんだよね」
「それがこれですか…」
ばさり、とテーブルの上いっぱいにぶちまけられた手紙の数々に、アズールが目を向ける。封筒に入れられたものから、便箋のみ二つ折りされたものまで様々だ。
キースはどれも差出人の無いそれをちらりと見て、またため息をついた。つ、と指先が気取った文字をなぞる。ざらりとした紙質は、厚みがある。ある程度値段が張りそうだ。
「なーにが〝君は僕だけの物〟だか。人を何だと思ってるんだか」
「…こちらの〝今日の君はいつも以上に陰鬱とした横顔をしていた。それがより一層の美を作り出しているのに君は気がついているだろうか〟というところも中々、陶酔しているご様子ですね」
「……淡々と読み上げるのやめてくれない?ジェイド」
「一応念のために聞きますけど、最近惚れ薬を使った記憶は」
「無いわ!誰が、好き好んでこの学校の奴に使うか!」
「冗談ですよ」
アズールの言葉に、思わずカッとなってキースは声を張り上げる。
「それでさ〜〝何度か盗まれかけてた〟ってのは?何で分かった訳?」
「簡単だよ、その手紙が来てからは全部私物はキャビネットに入れて、鍵をかけてたんだ。それで外出してる時何回か、鍵開けの呪文を使われた痕跡があったから」
「じゃあ、今回はそれが破られたんだあ」
「ところがどっこい、そうでもないんだよね」
「は〜?」
フロイドが意味不明、といった様子で片眉を上げる。口を止めた片割れに、ジェイドが代わりに声を出した。
「でしたら、その日記は持ち歩いていたのでしょうか?」
「…教科書の間に挟まってたみたいでね。まあ一日くらい、いいかと思ってそのままバッグに入れてたら帰った時には無くなってた」
キースはその日の自分の無用心さを思い出して、もう一度重いため息をついた。
「代わりにあったのはこれ」
キースが開いたメモ用紙をアズールに手渡した。
〝君がこんな想いをしたためているなんて気が付かなかった。僕がその願いを叶えてあげよう〟
「この〝願い〟というのは?」
「…私、その日記の最後のページに、本の文をメモした記憶があるんだよね。〝三度目の雨が降った夜、月夜に照らされて私は錆色の渦に沈む。永遠にも近い眠りを〟」
「…解釈によっては自殺の意にも聞こえますね」
「ふふ、アズール。心中を誘ってると勘違いされたかもしれませんよ」
「どっちにしろさ〜、このままだとクマノミちゃん、殺されるんじゃね?」
「…だから君たちに頼んでるんだよ」
キースは他人事だと思って面白がっている三人に若干の怒りを感じつつも、興味を惹いたようでホッとした。これなら成果の方も期待できそうだ。
「あなた、日記なんて書いてたんですか?随分と可愛らしい趣味ですね」
「うるさいなあ」
あれから放課後。場所を移して、モストロラウンジのVIPルームだ。
「というか、前からちょくちょく私物を盗られそうにはなってたんだけど、盗られたのはこれが初めて」
「は、それほんと〜?ヤバすぎじゃない?キッツ」
「ふふ、キースさん、一部の方からは人気があるご様子ですからね。黙っていれば幸薄顔、と好評みたいですよ」
「いやジェイド、それ褒め言葉でも何でもないから」
それはただ顔が薄いと言っているだけで、薄幸の美形と言われるのとは天と地ほどの差がある。
カフェの開店前だからか、双子も揃っている。目の前のソファに座るアズールと、その左右に佇むジェイドとフロイド。寮服を纏っているのもあって、相変わらず圧迫感のある布陣だ。
確かに私は一定の支持を得ていた、嫌な意味で。
女顔、筋肉のない体つき。女がいない環境下では、中性的な見た目の者は、そういった対象として消費されやすい。
しかも、私なんて魔法の力だとか威厳や権力、後ろ盾もないものだから、舐められやすい。簡単に言うとコイツならいけるだろ、みたいな。
しかし、それも圧倒的な美少年のエペルが入学してからは、大半がそっちに興味が移ったと思っていたのだが。
「ほんっっっとに、一部だけ妙な輩が付いてるみたいなんだよね」
「それがこれですか…」
ばさり、とテーブルの上いっぱいにぶちまけられた手紙の数々に、アズールが目を向ける。封筒に入れられたものから、便箋のみ二つ折りされたものまで様々だ。
キースはどれも差出人の無いそれをちらりと見て、またため息をついた。つ、と指先が気取った文字をなぞる。ざらりとした紙質は、厚みがある。ある程度値段が張りそうだ。
「なーにが〝君は僕だけの物〟だか。人を何だと思ってるんだか」
「…こちらの〝今日の君はいつも以上に陰鬱とした横顔をしていた。それがより一層の美を作り出しているのに君は気がついているだろうか〟というところも中々、陶酔しているご様子ですね」
「……淡々と読み上げるのやめてくれない?ジェイド」
「一応念のために聞きますけど、最近惚れ薬を使った記憶は」
「無いわ!誰が、好き好んでこの学校の奴に使うか!」
「冗談ですよ」
アズールの言葉に、思わずカッとなってキースは声を張り上げる。
「それでさ〜〝何度か盗まれかけてた〟ってのは?何で分かった訳?」
「簡単だよ、その手紙が来てからは全部私物はキャビネットに入れて、鍵をかけてたんだ。それで外出してる時何回か、鍵開けの呪文を使われた痕跡があったから」
「じゃあ、今回はそれが破られたんだあ」
「ところがどっこい、そうでもないんだよね」
「は〜?」
フロイドが意味不明、といった様子で片眉を上げる。口を止めた片割れに、ジェイドが代わりに声を出した。
「でしたら、その日記は持ち歩いていたのでしょうか?」
「…教科書の間に挟まってたみたいでね。まあ一日くらい、いいかと思ってそのままバッグに入れてたら帰った時には無くなってた」
キースはその日の自分の無用心さを思い出して、もう一度重いため息をついた。
「代わりにあったのはこれ」
キースが開いたメモ用紙をアズールに手渡した。
〝君がこんな想いをしたためているなんて気が付かなかった。僕がその願いを叶えてあげよう〟
「この〝願い〟というのは?」
「…私、その日記の最後のページに、本の文をメモした記憶があるんだよね。〝三度目の雨が降った夜、月夜に照らされて私は錆色の渦に沈む。永遠にも近い眠りを〟」
「…解釈によっては自殺の意にも聞こえますね」
「ふふ、アズール。心中を誘ってると勘違いされたかもしれませんよ」
「どっちにしろさ〜、このままだとクマノミちゃん、殺されるんじゃね?」
「…だから君たちに頼んでるんだよ」
キースは他人事だと思って面白がっている三人に若干の怒りを感じつつも、興味を惹いたようでホッとした。これなら成果の方も期待できそうだ。
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