ED後、隠れ家で生活シリーズ
■■■という男は実直な男だった。良く言えば素直、悪く言えば頑固といった性格で、一つを信じるとそれに対して一切の疑いも持たず突き進むきらいがあった。直情型で、話を聞かない。融通が利かず、盲信的である。頭は悪いほうではないのだ。皆と同じく竜騎士を志して、槍を使いこなし、身体能力に頼った戦い方だけでなく頭脳戦にも長けている。そんな彼が崇拝したのは、若き英雄ディオン・ルサージュ。聖獣ドラゴンの頂点に立つバハムートを身に宿した、選ばれし存在だと、彼は昂揚した気持ちでいた。
テランスは■■■の命令違反にやきもきしていた。ディオンの決意による行動は、彼の中で崇め奉っているディオン像を壊したのだろう。が、そんなことは二の次で、その妄信さが■■■を狂気に駆り立てるのではないかと危惧していた。結果として、テランスが抱いていた憂慮は現実のものとなり、彼が人々に危害を加える恐れのある凶悪な者──討伐対象として認知され、通称を『執意の竜騎士』とされたのだが。
執意の竜騎士と名付けられた彼が執念深く、心折れず、しつこく、粘り強く、血気盛んに、“自分が敬愛し忠誠を誓った我が君ディオン様を誑かした憎き大罪人シド”を倒してやる、と意気込んで空回りして鼻っ面をへし折られ命からがら生き延びたのが今である、と。
数十分前に隠れ家に現れた彼を見て、ディオンとテランスは理解したところである。
「命令違反。任務放棄。報連相もせず身勝手な思い込みによる離反。独善的な行動は慎めと言ったはずだ」
テランスが怒っている。
うわあ、と内心珍しがりながら、表にはおくびにも出さずディオンはすんと澄ました顔で腕を組んで立っていた。少し先には激しい怒りを轟々と燃やして立つテランスと、その目の前……というか足元には久しぶりの再会を果たした懐かしい男がデッキの床板に直で座らせられている。一年半前、どうやら懺悔の門でシドを待ち続けていたらしい彼、執意の竜騎士と名付けられた男だ。
ああ。疲れた。ディオンが虚ろに天井を見上げる。
滾々と言い聞かせるような説教は長く、聞いてる側としてはもう普通に飽きているしせっかくの休みなのだからテランスといちゃいちゃと遊びたいのだが、如何せん遅めの朝食に起きたタイミングで此処に乗り込んできた
これは長引く。はぁ、と溜め息をつきたい気持ちをぐっと堪えて、ディオンは二人を見遣った。
「離反するならば良い。だが、何故ディオン様に告げに来ない?懺悔の門へ赴いた理由はなんなんだ。言ってみろ。正当な理由もなく、証拠も確信もなく、間違った認識だけでその槍を振るったのではないのか」
「だっ……!いや、しかし、あの大罪人が!」
「言い訳をするな」
堂々巡りをする会話にディオンはうんざりとした。飽きた。別に執意を──この渾名は気に入った。先ほど手配書の通り名を初めて聞いたのだが、執意とは、なるほど奴の性格にはぴったりの渾名ではないか。猪突猛進で真っ直ぐ突き進む、折れない心を持つ、粘り強い執念の男。今日からこいつを
テランスの言い分はわかる。がしかし、あの騒動で団員達も思う事があっただろう。罪を犯したディオンにはついていけないと思った者もいるのではないか。離脱するというのなら私は追わない、と事前に話していた筈だ。
無言で去るのなら仕方がないが、規律を守らないだけではなく見当違いの解釈をして、濡れ衣を着せ、逆恨みするのは頂けなかった。
執意のやつは、それをやってのけた。見事に思い違いでシドと刃を交えたわけであるから、団長代理となっていたテランスの叱責を受けるのも致し方ないのだ。たとえテランスがまる一日ベンヌ湖の向こうに行かない貴重な日であっても。
「………………」
「……わ、我が君……?」
「おい、話を逸らすな。だから周りをちゃんと見ろと──」
「いやその、我が君が……」
「ディオン様がどうしたというのだ。そうやっていつもお前は」
「だから隣を見ろと言っているのだ!」
「は?隣?急になにを……お、」
人の顔を見て青褪めるなんて失礼なやつだ。テランスに噛みつかんばかりの悔しそうな表情から一転、石のように固まった執意と遅れてこちらを見て言葉を切ったテランスを一瞥してフン、と鼻を鳴らす。此奴を懐かしむ瞬間も終わった。此奴から再戦をと指名を受けたシドもとうに逃げた。テランスの説教は聞き飽きて、無駄に時間だけが過ぎていく。あぁ、ほんっとうに二人きりの楽しみを邪魔されている。恨みはないが、怒らないとは言ってない。
「なあ」
「っはい!」
「テランスの休みは此奴のためにあるのか?」
「ヒェッ」
「アッ、いえそんなことはありませ……っ、そ、そんな事はないよ。無いからね!」
苛立つ心を隠しながらなるべく優しくを心掛けて。ふんわりと笑顔を浮かべながら問いかけてみせたディオンに対した、小刻みに震える執意とテランスの此方を窺うような反応に、ディオンはつい真顔に戻ってしまった。
解せん。
