ED後、隠れ家で生活シリーズ
穏やかな日々を過ごす隠れ家に、嵐が来た。
「大!罪!人!シドォォォ!!」
ビリビリと空気を震わせた突然の咆哮に、その雄叫びの主の近くにいたオボルスと大工のブラーシュはぎゃあ、と悲鳴をあげて咄嗟に耳を塞いだ。
「み、耳が……!」
「うるっせぇ!なんなんだあんたは!?」
桟橋付近にいた大工達の不審者を見るような視線や鼓膜をやられて「ふざけるな」と怒る二人の苦情を一切無視して、小舟に乗ってせっせとやってきたばかりのその男はすぅぅ、ともう一度大きく息を吸い込んだ。それを見て慌てて耳を押さえ、二人は急いで男から離れる。
「雪!辱!を!果たすぞォォ!!」
「だぁからうるせぇって!!」
「お前さんおとなしく船漕いでここまで来たのはその為だったのか?」
続けて叱咤するも、聞く素振りも見せない男にざわつき始めた一帯に、ガチャン、と上から昇降機を動かす音が聞こえた。この騒動を収められる救世主は本日、幸か不幸か久方振りに隠れ家でゆっくり身体を休められる日だったのだ。忙しい救世主である彼、クライヴ・ロズフィールドは「なんの騒ぎだ」と足早に降りてきて、胸を張って堂々と立つ男を見て「は?」と目を見開いた。
「執意の竜騎士……?!死んだはずでは……」
「貴様!私を侮辱しているのか!我が聖竜騎士団の生命力を見くびるなよ!」
「……一年半前の討伐完了通知を取り消してもらわないと……」
「聞け!!」
頭を抱えてネクタールに話す内容を考えていたクライヴに男が憤慨する。よく見れば一年と半年ほど前に見た時と比べて随分と鎧はぼろぼろであるし、どこか草臥れた雰囲気を醸し出している。不思議に思ったクライヴは男に疑問を投げかけた。
「今まで何をしていたんだ?」
「ハァ!?鍛錬に決まっているだろうが!」
すべては我が君のために、我が君に格好悪いところを見せぬために!負けた雪辱は果たさなければならぬのだ、何故なら我が君を失望させてしまうから!と、男は拳をぐっと握り我が君の素晴らしさを切々と語った。話が逸れまくっているこの男。
そんな男を尻目に、クライヴはまだ文句を言い足りなさそうな顔をしているブラーシュに伝言を頼んだ。一つ頷いてブラーシュが昇降機に走り、彼らを呼びに行く。療養中の彼は兎も角、彼の恋人も今日は休暇として自分の部屋にいたはずだ。
「シド、あいつに舟貸して悪かったな」
自分の世界に入って語り続ける男を眺めるクライヴにオボルスが耳打ちをする。
「あっちに着いたら奴がいてよ、乗ってくかって聞けば一人で漕ぎたいっつうから」
「漕げるんだな」
「いや、昔の皇子様よろしく旋回しかかってた」
「そんな気はしてた」
クライヴは実際に見てはいないが、彼からバハムートを引き継いだあの日、気を失っていた彼が目覚めてオボルスから舟を買ったあと中々上手く進むことができずにぐらんぐらんと揺れていたと聞いている。見送る方もはらはらしたと言っていて、本人がそれを耳にしたあと暫くは拗ねて大変だったと彼の恋人がぼやいていたのを覚えている。それと同じく、舟に乗り慣れないだろう彼の部下が今ここまで頑張ってせっせと舟を漕いできたのを想像して、つい生温かい目で見てしまう。
「頑張ったな……」
「それでいて我が君は……っは?なんだシド貴様私をバカにしているな!?勝負だ!!」
「なんでそうなる……」
はぁ、と溜め息を吐いて槍を構えようとする男に呆れた声を出す。
「ここでは戦わんぞ」
やるなら外──湖の向こう側か、ここの遺跡と隣接する遺跡の一部に改築した訓練場でだ、と続けようとして、デッキから下を覗いたらしい彼らがこちらに気付いた声が聞こえた。
「──お前は……」
「生きていたのだな!」
「わ、わ、我が君ィィ!?ななななな」
「…………ルサージュ卿がここにいると知っていて来たんじゃないのか?」
素っ頓狂な声をあげてわなわなと彼らを指さす男にクライヴは驚く。指をさされた彼ら、ディオンとテランスも不思議そうにしつつも、部下との再会に嬉しそうな表情を浮かべた。そんな彼らに一応の説明をする。
「一年半ほど前、あの門の前で待ち構えていた彼を俺が倒したと思っていたんだがな。執意の竜騎士はどうやら俺への復讐のためだけにここまで来たらしい」
「ふむ…………ん?執意?」
「ああ、リスキーモブとして掲示板に貼られていた名前だ」
「執意……執意か!ははは、お前にピッタリではないか!」
どうやら呼び名がお気に召したらしいディオンの笑い声が響く。新たな名としてどうだ?と言うディオンの腰を抱いたテランスが執意の竜騎士に見せつけるように「そうですね」と身体を寄せた。
「貴方を探すことよりも復讐を優先した男など執意で充分です」
「テランス貴様ァ!」
「そういう意味で言ったわけではないのだが……」
困ったように笑ったディオンが、自身の腰に回されたテランスの腕を撫でて、不機嫌そうにむっすりとした顔になっているテランスの機嫌を取った。それを見てキィィと怒る執意の竜騎士は我儘な子供のようで、やはり彼も家族の一人なのだろうとクライヴは思った。
「元は手配書の通り名なんだが、良いと思うぞ。執意」
「上手く名付けたものだな。執意、気に入った」
「名は体を表すといいますからね」
「我が君の言葉、ありがたく!テランス貴様だけは悪意を感じるぞ!」
ぎゃんぎゃん吠える執意の竜騎士に、とりあえずは収まったか、とクライヴは胸を撫で下ろした。が。
「それはそれとして大罪人シドにリベンジはするがな!」
「……諦めの悪い……」
都合よく無かったことにできなかったか。
機嫌良く高笑いをする執意の竜騎士に、クライヴは大袈裟に肩を落としてみせた。
クライヴと執意の竜騎士のリベンジマッチと聞いて目をキラキラさせたディオンとディオンの好奇心に奮闘するテランスの姿があったのは、また別の話である。
