四季折々

はいディオン」
「あ」
ぱか、と開いた口の中にあられをひと粒。もぐもぐと動く頬が可愛くて、テランスはにこにこと笑顔を絶やさずにそれを見つめた。
こくんと飲み込むまでを見守ったテランスが、視線を彷徨わせたディオンにグラスを差し出す。
白く濁った酒の上に浮かんだ桃の花弁に、愛らしいな…と呟いたディオンが、テランスの目を見て嫣然一笑した。
「飲ませてはくれないのか」
「……そうしたいのは山々だけど」
できることならその酒を私の舌の上に乗せて、君の口腔内を満たしてあげたいんだけど。
そう思ったテランスの視界の端に、大きく両腕をクロスさせたガブが見える。やるなよ、絶対にやるなよ。そんな心の声が聞こえてくる。
大げさ過ぎる。こんな所──ラウンジのど真ん中では流石にやらない、と思うテランスの思考は、仄かに酔ってはいるが、まだ理性がちゃんと働いている証拠だった。
暫く待ったが誘いに乗ってくれそうにないテランスに焦れたディオンが、仕方がなさそうにグラスの縁に口付ける。
ちびりとそれを飲んで、ふう、と息を吐いたディオンが、ゆらゆらと視界が揺れるのが不思議だ、という顔をして、テランスの胸に頭を凭れさせて、また、あ、と口を開けた。
摘まれたあられがひと粒。放り込むついでに、と唇を撫でていくテランスの指先。それも欲しいな、と思った時には身体が動いていた。
あむ、と喰んだ指に舌を這わせて、第二関節から先端へ向かってじっくりと舐めた。
「っディオン……!」
漏れた吐息に色が乗ってしまっている。ああ不味い、ディオンが可愛すぎる。溶け始めた頭には、先程の忠告などちっとも残っていない。
「部屋でやれー!!」
前振りじゃねえんだよ、なんて台詞はお互いしか眼に映っていない二人には届かないものだった。
8/8ページ
スキ