世界情勢
クリスタルが壊されて魔法を失った世界は、ぶっちゃけ今まで通り生きるには難しい世の中になった。水はいちいち汲んでこなきゃならないし、火を起こすだけでも手間がかかる。風でさっさと乾かしていた洗濯物も時間を置くしかなくなって、ベアラーやクリスタルに頼り切った生活をしていた民草達は、オレ達がシドの隠れ家で学んだ“魔法を使わない暮らし方”を実践して、少しでも早く身に付けようと毎日励んでいた。熱心に話を聞く者もいれば、やってられるか、と全てを擲つ者もいた。
オレ達のやるべき事は、人々からどんなに責められ、糾弾を受けても、これからの人生を皆が少しでも快適に過ごせるように、民草への普及と、生活に定着するように支援して、被災地域を回って力仕事や物資の援助を続けていくことだった。
「なぁあんた、聖竜騎士団だろ」
こうやって誰かが声をかけてくるのもよくあることだ。我等のした事を非難するのか、生きられないと嘆くのか。我が君を詰られることも、少なからずあるのは団員の者はみな周知済だ。それを黙って聞き果すのも我々の役目である。例えどんなに反論したくとも、我が君の、オレ達の団長の本意では無いだろうし、テランス親衛兵長だってザンブレク皇国民の声を全部受け止めている。団長が“ああ”なった事情をオレ達は知っていても、国民達からしてみれば、突然自分達の国の英雄が大暴れして、全てを破壊していったようにしか見えないのだから。
オレ達には、民草の言葉をしかと受け止める責務がある。
「俺の恋人が死んだんだ。俺の目の前で。なあ、どうして殿下は……バハムートはあんなことしたんだよ。意味わかんねえ。なんで、どうしてなんだよ」
男が声を震わせる。握り締めた手を開いた中には拉げたペンダントがあり、乾いた泥と血錆で汚れていた。
「あいつの物は、これしか残らなかった。英雄が、少なくとも俺等と同じ視点に立ってくれてるって応援してた奴が、何してくれてんだよ。急に全部壊して、どっか行って。あの空に浮かんでたやつ、あそこに飛んでいくのは見たぞ。何だったんだよあれは。あいつが死んだ上に、こんな不便な生活させて。こんなことなら、あいつと一緒に死ねればよかった」
「…………それは」
「それは?何だよ、言ってみろよ。聖竜騎士様よお!」
「…………」
言ってはいけない。言えるわけがない。思わず発してしまった声にオレはぐっと息を呑み込んだ。兵長みたいにでけえ器じゃねえから、どうしても反論してしまいそうになる。団長の想いとか、色々、考えあっての物だとは理解しているが、しかし。
団長が贖罪の為にと命を懸けて戦いに赴いた、なんてのはエゴだ。行き過ぎた利他主義。それが却って利己性になっているのだとオレは思う。それでも最初から最後まで、団長は国民を第一に動いてきた。その団長の背中を見送って、瀕死の団長が見つかるまでの間ずっと騎士団の先頭に立っていた兵長を、オレ達は見ている。御二人の願いと、生き残った人々のこれから先への思いは同じなのに、伝えられない本質のせいで相反してしまっていることが、酷く苦しい。
「一度、直接会ったことあるんだ。俺等を見て、殿下は眩しそうに目を細めて微笑ったんだ。あいつも言ってた。僕達と似てるのかもしれないって。なんでだよ。なんで、あいつが死ななきゃならなかったんだ。どうして」
言いながら崩れ落ちるように地面に膝をついて、男が泣き叫ぶ。
オレには声をかけることさえ許されない。否定も肯定もせず、聞いて、責め苦を受ける。
できることは一つだけだ。オレは願い、御二人を想う。ただただ、皆が穏やかに生きられるようにと。
オレ達のやるべき事は、人々からどんなに責められ、糾弾を受けても、これからの人生を皆が少しでも快適に過ごせるように、民草への普及と、生活に定着するように支援して、被災地域を回って力仕事や物資の援助を続けていくことだった。
「なぁあんた、聖竜騎士団だろ」
こうやって誰かが声をかけてくるのもよくあることだ。我等のした事を非難するのか、生きられないと嘆くのか。我が君を詰られることも、少なからずあるのは団員の者はみな周知済だ。それを黙って聞き果すのも我々の役目である。例えどんなに反論したくとも、我が君の、オレ達の団長の本意では無いだろうし、テランス親衛兵長だってザンブレク皇国民の声を全部受け止めている。団長が“ああ”なった事情をオレ達は知っていても、国民達からしてみれば、突然自分達の国の英雄が大暴れして、全てを破壊していったようにしか見えないのだから。
オレ達には、民草の言葉をしかと受け止める責務がある。
「俺の恋人が死んだんだ。俺の目の前で。なあ、どうして殿下は……バハムートはあんなことしたんだよ。意味わかんねえ。なんで、どうしてなんだよ」
男が声を震わせる。握り締めた手を開いた中には拉げたペンダントがあり、乾いた泥と血錆で汚れていた。
「あいつの物は、これしか残らなかった。英雄が、少なくとも俺等と同じ視点に立ってくれてるって応援してた奴が、何してくれてんだよ。急に全部壊して、どっか行って。あの空に浮かんでたやつ、あそこに飛んでいくのは見たぞ。何だったんだよあれは。あいつが死んだ上に、こんな不便な生活させて。こんなことなら、あいつと一緒に死ねればよかった」
「…………それは」
「それは?何だよ、言ってみろよ。聖竜騎士様よお!」
「…………」
言ってはいけない。言えるわけがない。思わず発してしまった声にオレはぐっと息を呑み込んだ。兵長みたいにでけえ器じゃねえから、どうしても反論してしまいそうになる。団長の想いとか、色々、考えあっての物だとは理解しているが、しかし。
団長が贖罪の為にと命を懸けて戦いに赴いた、なんてのはエゴだ。行き過ぎた利他主義。それが却って利己性になっているのだとオレは思う。それでも最初から最後まで、団長は国民を第一に動いてきた。その団長の背中を見送って、瀕死の団長が見つかるまでの間ずっと騎士団の先頭に立っていた兵長を、オレ達は見ている。御二人の願いと、生き残った人々のこれから先への思いは同じなのに、伝えられない本質のせいで相反してしまっていることが、酷く苦しい。
「一度、直接会ったことあるんだ。俺等を見て、殿下は眩しそうに目を細めて微笑ったんだ。あいつも言ってた。僕達と似てるのかもしれないって。なんでだよ。なんで、あいつが死ななきゃならなかったんだ。どうして」
言いながら崩れ落ちるように地面に膝をついて、男が泣き叫ぶ。
オレには声をかけることさえ許されない。否定も肯定もせず、聞いて、責め苦を受ける。
できることは一つだけだ。オレは願い、御二人を想う。ただただ、皆が穏やかに生きられるようにと。
