ED後、隠れ家で生活シリーズ
ダルメキア共和国領のダリミル宿場。そこに立ち寄った際にクライヴが見かけたという貼り紙について、ディオンにしては珍しく前のめりに話に食いついた。
隠れ家のラウンジで軽く飲んでいる最中、右手にジョッキを握りしめたまま、ずい、と身を乗り出したディオンの姿に、こんなところを彼に見られたら不味いのではないか?と、彼を溺愛する側近の青年を思い浮かべたジョシュアは、近過ぎるクライヴとディオンの間にさり気なく割って入った。
「なんだ、ジョシュアも気になるのか?」
「ならないよ」
何でそうなるんだよ。そう突っ込もうとして隣を見ると、火照った顔で僅かに琥珀色の目を煌かせたディオンが不敵に笑った。
「すまないが、先ずは余から試させてくれ。伝説の魔物なのだろう?それの効果も本物なのか怪しいものだが、よく効くというのなら今すぐにでもテランスと」
「ジョシュア、試したいなら先にタルヤに相談した方がいい。あれは煎じ薬みたいなものだろう?今飲んでいる薬と併用できるのかどうかを」
「だから違うって言ってるでしょこの酔っぱらいと天然は!」
アルコールのお陰で普段よりも幾分テンションの高いディオンがくふくふと笑い、クライヴは違うのか?ときょとんとした顔で首を傾げた。
両隣でボケられると困るんだけど。そんな心の声を知ってか知らずか、ジョッキを煽ったディオンが「煎じ薬、か」と目元を赤らめて、想いを馳せるようにうっとりと目を伏せた。
遠いかの地に恋煩いをしているような様子は、これはこれで彼に見られたら勘違いされそうだ、とジョシュアは溜め息を吐いた。
「本当にあるのかな、それ」
「入荷、と書いてあったんだ。本物かどうかはともかく、ダリミル宿場に行けば手に入るだろう」
「………兄さんも欲しいの?」
「え。あ、いや、俺は…」
じっとりとした視線をジョシュアに向けられて、クライヴの目が露骨に泳ぐ。それを見て更にジョシュアの目が細められた。
ちょっと?ジルと早くくっつけば良いとは思っていたけど、そこまで深い話は身内として知るのは恥ずかしいものがあるんだけど。
ジョシュアの眼差しに耐えられなくなったクライヴが「おかわりを」と空になったジョッキを持ってそそくさと席を離れた。逃げたな。その後ろ姿を睨むように見ていたジョシュアと、酒精に溶かされてふわふわ蕩けたままのディオンの肩を叩いたのは、仕事を終えて外から帰還したばかりの、分けた黒髪をきっちりと撫でつけた、精悍な顔つきだが犬顔でもある例の青年、テランスその人だった。
彼の視線が痛い。兄を見ていた筈が、今度は彼から逸らすためだけに大広間の向こうを眺める羽目になっている。自分が危惧していた通りになったじゃないか、もう!
「……ジョシュア様?私がいない間にあまり飲酒をさせないようにとお願いしたはずですが……」
「いやあ、それは止めても聞かないディオンに言ってほしいかな」
弱いという自覚がありながら、あれも美味いなこれも美味いなと様々な混合酒に手を出していくディオンを思い出してジョシュアは溜め息をこぼす。そんなディオンはといえば、彼が帰ってきたのが余程嬉しかったのか、てらんす、と舌足らずに名前を呼んで、何故か生娘のように可愛らしくはにかんだ。
酒のせいか、恥じらう様子が神々しく見える。
美しいブロンドを揺らし、頬を赤らめて目尻を下げた顔に、直撃を受けたテランスが堪らないといったふうにギュッと目を閉じた。それに対して、隠れ家へ無事に戻ってきたテランスを見て安心したお陰か、一気に酔いが回ったらしいディオンは、甘えたい気持ちを隠そうともせず両手を広げて彼を強請った。
「てらんす」
「はい、ここに……。ジョシュア様、次は本当に止めてくださいね」
言いながら軽々とディオンを抱きかかえ、テランスの首の後ろに腕を回したディオンが首元に頬を擦り寄せてくるのを好きにさせつつ、もう一度ジョシュアに釘を刺したテランスが、そのまま二人の部屋へと引き上げていく。こちらへ戻ってくる途中のクライヴにも軽く頭を下げて、足早に去っていく背中にジョシュアはぽつりと呟いた。
「……切り身、必要無くない?」
毎日あんなに甘い空気になってるのに。
その疑問に答えられるのは、好奇心が爆発している皇子様だけなのである。
クライヴの話を聞いて興味を示したのは、何もディオンだけではない。俺も行く、と桟橋に降りてダリミルへ足を運ぼうとしたクライヴの背を叩いたのは、昨夜同じくラウンジで飲んでいたガブだ。それを見たディオンがむう、としかめっ面をする。
「余も外へ出たいのだが」
「駄目だ。あんたの旦那の許可を得てからにしてくれ」
「過保護な奴等め……」
もう動けるというのに。無茶はしない。腕が鈍ってしまう。そんな愚痴と我儘が混ざったような言葉は右から左に流して、クライヴはディオンに耳打ちした。
「無事入手できたら真っ先に渡す」
「………なるべく早い帰還を頼む」
ちょろすぎないか?そう口が滑りかけたガブを振り返らずに、クライヴの肘がガブの脇に入った。
そわそわと浮足立つディオンの様子に気付かないテランスではない。
何か隠している。その確信はあれど、正面から問いただして正直に答える性分じゃないのがディオンだ。
どこか遠くを見つめる眼差しに、憂いを帯びた顔。時折ほう、と物憂げに吐き出される吐息に、いったい彼をそうさせるのは何なんだ、とテランスは内心苛立った。
昨晩、酒に酔って盛大に甘えられた時はいつも通りだった。
強請られるままに何度も唇を重ねて、痕をつけて欲しいと望まれるそばからディオンの白く薄い肌に舌を這わせ、軽く甘噛みしては吸い、首筋から胸元、臍の下や脇腹、内腿、肩から背中と所有印代わりの鬱血痕を残し、疼くという腹の奥をたっぷりと満たして、本能のままにディオンを抱き、全身余すことなく愛したのだが、どろどろに溶かした身体を清めて共に眠り、スッキリ目覚めた朝から既に、ディオンの心は違う方を向いていた。
何が違うかと聞かれれば、ここがおかしいとは言いづらいものだが。例えば普段なら、じっと見つめれば微笑みが返ってくるのに、その返事までの時間が僅かに長い。自分が声をかけた際の反応が、一瞬の間をおいてからの返事になる。
ばき。思い出したら力が入りすぎたのか、手の中の羽ペンが真っ二つに割れた。
落ち着け俺。ディオンは俺のものだという醜い独占欲が胸の底を渦巻いて、同じく自分はディオンのものであるのだからと、テランスは自分の感情を落ち着かせた。
ディオンが隠していることは何か。我が君の心を奪うそれは何なのか、絶対に暴いてやるという決意を込めて。
思い切り握りしめられた羽ペンは再起不能になった。
「………で、これが貴方を惑わせた犯人ですか……」
「………」
速攻でバレた。
何故だ、と視線を彷徨わせるディオンを見て、テランスははぁ、と深い溜め息をついた。
これの事は以前、自分も部下の与太話で聞いたことがある。
夕刻、クライヴとガブの帰宅を知ったディオンが、一目散に彼らを出迎えに行った時は目を疑った。いつの間にかそれ程までに打ち解けて、喜びよりも嫉妬が勝ったのは仕方がない。器量が狭い男だと言ってくれ。ディオンが自分だけを見ていればいいのに、なんて我儘を覚えたのは、彼とこの隠れ家で再会を果たしてからなのだ。“二度と離さない”、という言葉の裏には、“誰にも渡さない”、という副音声も含まれている。それを正しく理解しているのは自分自身だけで、ディオンに気付かれるとなると恥ずかしさしかない。だからこそ仕事以外で共にいられる時は、一挙一動を逃さないように見つめ、溢れる愛を伝え続けているのだが──、まさかこんな事を覚えて実行しようとするなんて思わなかった。
……いや、好奇心が強いのは元からだったか。それにしたってこんな怪しいものまで彼の好奇心を刺激するのに充分だったとは。警戒が甘かった。あとでクライヴ様にも問いただしておこう。
身体に良い、ただの漢方薬だ、なんて言葉で真正面から渡されたら、普通に内容を聞くに決まっている。「これは何の漢方なんです?」と聞いた事に言い淀んだ時点で、ディオンの様子が可笑しかったことと結びつくのは当然で、その理由を知るには充分なことだった。
しょんぼりと落ち込んで、ベッドの縁に腰掛けていたディオンが煎じ薬の入ったカップを眺めて残念そうに目を伏せる。
ああ、もう。そんな顔をされて、恋人の期待に応えないのは男じゃない。
カップを持ち上げて、「え」と声を出したディオンに見られながら一気に飲み干す。独特の苦味と甘さが鼻を抜けて、凄い味だな、と意識の端で思った。
喉を通り過ぎたところから熱を灯したのに、速効性は充分だ、と思わず笑う。
「テランス」
どこか嬉しそうなディオンの誘う声に引き寄せられて口付ける。触れ合わせた唇を舐めて、下唇を甘噛みし、舌を忍び込ませた彼の口腔内にも同じ風味を感じて、我が君の準備は万端だったようだ、と、テランスはまた笑ってしまった。
舌が絡み合うだけでも熱い。全身が痺れるような感覚に、溺れてしまいそうだ。
乱れて息の上がったディオンが、てらんす、と甘く掠れた声で名前を呼ぶ。潤んだ瞳が自分だけを映すことが、酷く愛おしい。
「もっと、お前を感じさせてくれ」
「貴方の望むままに」
確かに今夜は、深く熱く溶けていきそうだ。
《外大陸から伝説のサボテンダーの切り身を入荷》
煎じて飲めば男も女も衰え知らず!
熱い夜のお供に!
隠れ家のラウンジで軽く飲んでいる最中、右手にジョッキを握りしめたまま、ずい、と身を乗り出したディオンの姿に、こんなところを彼に見られたら不味いのではないか?と、彼を溺愛する側近の青年を思い浮かべたジョシュアは、近過ぎるクライヴとディオンの間にさり気なく割って入った。
「なんだ、ジョシュアも気になるのか?」
「ならないよ」
何でそうなるんだよ。そう突っ込もうとして隣を見ると、火照った顔で僅かに琥珀色の目を煌かせたディオンが不敵に笑った。
「すまないが、先ずは余から試させてくれ。伝説の魔物なのだろう?それの効果も本物なのか怪しいものだが、よく効くというのなら今すぐにでもテランスと」
「ジョシュア、試したいなら先にタルヤに相談した方がいい。あれは煎じ薬みたいなものだろう?今飲んでいる薬と併用できるのかどうかを」
「だから違うって言ってるでしょこの酔っぱらいと天然は!」
アルコールのお陰で普段よりも幾分テンションの高いディオンがくふくふと笑い、クライヴは違うのか?ときょとんとした顔で首を傾げた。
両隣でボケられると困るんだけど。そんな心の声を知ってか知らずか、ジョッキを煽ったディオンが「煎じ薬、か」と目元を赤らめて、想いを馳せるようにうっとりと目を伏せた。
遠いかの地に恋煩いをしているような様子は、これはこれで彼に見られたら勘違いされそうだ、とジョシュアは溜め息を吐いた。
「本当にあるのかな、それ」
「入荷、と書いてあったんだ。本物かどうかはともかく、ダリミル宿場に行けば手に入るだろう」
「………兄さんも欲しいの?」
「え。あ、いや、俺は…」
じっとりとした視線をジョシュアに向けられて、クライヴの目が露骨に泳ぐ。それを見て更にジョシュアの目が細められた。
ちょっと?ジルと早くくっつけば良いとは思っていたけど、そこまで深い話は身内として知るのは恥ずかしいものがあるんだけど。
ジョシュアの眼差しに耐えられなくなったクライヴが「おかわりを」と空になったジョッキを持ってそそくさと席を離れた。逃げたな。その後ろ姿を睨むように見ていたジョシュアと、酒精に溶かされてふわふわ蕩けたままのディオンの肩を叩いたのは、仕事を終えて外から帰還したばかりの、分けた黒髪をきっちりと撫でつけた、精悍な顔つきだが犬顔でもある例の青年、テランスその人だった。
彼の視線が痛い。兄を見ていた筈が、今度は彼から逸らすためだけに大広間の向こうを眺める羽目になっている。自分が危惧していた通りになったじゃないか、もう!
「……ジョシュア様?私がいない間にあまり飲酒をさせないようにとお願いしたはずですが……」
「いやあ、それは止めても聞かないディオンに言ってほしいかな」
弱いという自覚がありながら、あれも美味いなこれも美味いなと様々な混合酒に手を出していくディオンを思い出してジョシュアは溜め息をこぼす。そんなディオンはといえば、彼が帰ってきたのが余程嬉しかったのか、てらんす、と舌足らずに名前を呼んで、何故か生娘のように可愛らしくはにかんだ。
酒のせいか、恥じらう様子が神々しく見える。
美しいブロンドを揺らし、頬を赤らめて目尻を下げた顔に、直撃を受けたテランスが堪らないといったふうにギュッと目を閉じた。それに対して、隠れ家へ無事に戻ってきたテランスを見て安心したお陰か、一気に酔いが回ったらしいディオンは、甘えたい気持ちを隠そうともせず両手を広げて彼を強請った。
「てらんす」
「はい、ここに……。ジョシュア様、次は本当に止めてくださいね」
言いながら軽々とディオンを抱きかかえ、テランスの首の後ろに腕を回したディオンが首元に頬を擦り寄せてくるのを好きにさせつつ、もう一度ジョシュアに釘を刺したテランスが、そのまま二人の部屋へと引き上げていく。こちらへ戻ってくる途中のクライヴにも軽く頭を下げて、足早に去っていく背中にジョシュアはぽつりと呟いた。
「……切り身、必要無くない?」
毎日あんなに甘い空気になってるのに。
その疑問に答えられるのは、好奇心が爆発している皇子様だけなのである。
クライヴの話を聞いて興味を示したのは、何もディオンだけではない。俺も行く、と桟橋に降りてダリミルへ足を運ぼうとしたクライヴの背を叩いたのは、昨夜同じくラウンジで飲んでいたガブだ。それを見たディオンがむう、としかめっ面をする。
「余も外へ出たいのだが」
「駄目だ。あんたの旦那の許可を得てからにしてくれ」
「過保護な奴等め……」
もう動けるというのに。無茶はしない。腕が鈍ってしまう。そんな愚痴と我儘が混ざったような言葉は右から左に流して、クライヴはディオンに耳打ちした。
「無事入手できたら真っ先に渡す」
「………なるべく早い帰還を頼む」
ちょろすぎないか?そう口が滑りかけたガブを振り返らずに、クライヴの肘がガブの脇に入った。
そわそわと浮足立つディオンの様子に気付かないテランスではない。
何か隠している。その確信はあれど、正面から問いただして正直に答える性分じゃないのがディオンだ。
どこか遠くを見つめる眼差しに、憂いを帯びた顔。時折ほう、と物憂げに吐き出される吐息に、いったい彼をそうさせるのは何なんだ、とテランスは内心苛立った。
昨晩、酒に酔って盛大に甘えられた時はいつも通りだった。
強請られるままに何度も唇を重ねて、痕をつけて欲しいと望まれるそばからディオンの白く薄い肌に舌を這わせ、軽く甘噛みしては吸い、首筋から胸元、臍の下や脇腹、内腿、肩から背中と所有印代わりの鬱血痕を残し、疼くという腹の奥をたっぷりと満たして、本能のままにディオンを抱き、全身余すことなく愛したのだが、どろどろに溶かした身体を清めて共に眠り、スッキリ目覚めた朝から既に、ディオンの心は違う方を向いていた。
何が違うかと聞かれれば、ここがおかしいとは言いづらいものだが。例えば普段なら、じっと見つめれば微笑みが返ってくるのに、その返事までの時間が僅かに長い。自分が声をかけた際の反応が、一瞬の間をおいてからの返事になる。
ばき。思い出したら力が入りすぎたのか、手の中の羽ペンが真っ二つに割れた。
落ち着け俺。ディオンは俺のものだという醜い独占欲が胸の底を渦巻いて、同じく自分はディオンのものであるのだからと、テランスは自分の感情を落ち着かせた。
ディオンが隠していることは何か。我が君の心を奪うそれは何なのか、絶対に暴いてやるという決意を込めて。
思い切り握りしめられた羽ペンは再起不能になった。
「………で、これが貴方を惑わせた犯人ですか……」
「………」
速攻でバレた。
何故だ、と視線を彷徨わせるディオンを見て、テランスははぁ、と深い溜め息をついた。
これの事は以前、自分も部下の与太話で聞いたことがある。
夕刻、クライヴとガブの帰宅を知ったディオンが、一目散に彼らを出迎えに行った時は目を疑った。いつの間にかそれ程までに打ち解けて、喜びよりも嫉妬が勝ったのは仕方がない。器量が狭い男だと言ってくれ。ディオンが自分だけを見ていればいいのに、なんて我儘を覚えたのは、彼とこの隠れ家で再会を果たしてからなのだ。“二度と離さない”、という言葉の裏には、“誰にも渡さない”、という副音声も含まれている。それを正しく理解しているのは自分自身だけで、ディオンに気付かれるとなると恥ずかしさしかない。だからこそ仕事以外で共にいられる時は、一挙一動を逃さないように見つめ、溢れる愛を伝え続けているのだが──、まさかこんな事を覚えて実行しようとするなんて思わなかった。
……いや、好奇心が強いのは元からだったか。それにしたってこんな怪しいものまで彼の好奇心を刺激するのに充分だったとは。警戒が甘かった。あとでクライヴ様にも問いただしておこう。
身体に良い、ただの漢方薬だ、なんて言葉で真正面から渡されたら、普通に内容を聞くに決まっている。「これは何の漢方なんです?」と聞いた事に言い淀んだ時点で、ディオンの様子が可笑しかったことと結びつくのは当然で、その理由を知るには充分なことだった。
しょんぼりと落ち込んで、ベッドの縁に腰掛けていたディオンが煎じ薬の入ったカップを眺めて残念そうに目を伏せる。
ああ、もう。そんな顔をされて、恋人の期待に応えないのは男じゃない。
カップを持ち上げて、「え」と声を出したディオンに見られながら一気に飲み干す。独特の苦味と甘さが鼻を抜けて、凄い味だな、と意識の端で思った。
喉を通り過ぎたところから熱を灯したのに、速効性は充分だ、と思わず笑う。
「テランス」
どこか嬉しそうなディオンの誘う声に引き寄せられて口付ける。触れ合わせた唇を舐めて、下唇を甘噛みし、舌を忍び込ませた彼の口腔内にも同じ風味を感じて、我が君の準備は万端だったようだ、と、テランスはまた笑ってしまった。
舌が絡み合うだけでも熱い。全身が痺れるような感覚に、溺れてしまいそうだ。
乱れて息の上がったディオンが、てらんす、と甘く掠れた声で名前を呼ぶ。潤んだ瞳が自分だけを映すことが、酷く愛おしい。
「もっと、お前を感じさせてくれ」
「貴方の望むままに」
確かに今夜は、深く熱く溶けていきそうだ。
《外大陸から伝説のサボテンダーの切り身を入荷》
煎じて飲めば男も女も衰え知らず!
熱い夜のお供に!