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ダイヤモンド

 宝石になりたかった。あの時から、ずっと。
 
 ティファニーブルーの爽やかで高潔な店構え。ショウウインドウにはダイヤモンドの指輪が飾られている。ダイヤモンドは光に透けて曇り一つなく輝き、無機質なその美しさは冷たく突き放すようでもある。熱さに耐え、磨き上げられ、清らかに佇むその姿に私は暫くの間見惚れた。

 彼はダイヤモンドだった。ぴんと伸びる背筋に、指先まで意識された身のこなし。気高く、自身の価値を決して安売りさせない。ツン、とした眼差しは私の心臓を一瞬ひやりとさせた後、激しく鼓動させる。彼が好きだ、近づきたいと思うたび、私は鏡に映る自分を見る。

 ああ、宝石になりたい。あの、光を受けて複雑に輝く冷たい鉱物に。今の私では貴方の隣に立つことさえもできない。生暖かい内臓を柔らかい皮膚で覆ったこの身体は、とても醜い。ぐにゃりとした脂肪も、汚らしい内臓も、すべて、すべて!
 私は躊躇いなく包丁で肉を切り裂いた。血しぶきが烈しく上がる。それはまるで私から彼への狂信的な恋心だと薄れゆく意識の中で思った。


 可愛がっていたあの子が死んだ。

 アタシは今までで一番取り乱した。昨日もメッセージを送ってきていたのにどうして、と部屋に籠って泣いた。あの子は元の世界に戻りたがっていたはずなのに。何かがあの子を追いつめていたのだろうか。先輩、と親し気にアタシを呼ぶあの子の声が脳内でリフレインする。
 葬式であの子の顔を見たとき、ああ、本当に亡くなったのねとぼんやりした頭で理解した。ほんとうは、花に囲まれて眠るあの子を今すぐ起こしてやりたかったけど。

 あの子が亡くなっても時間は立ち止まってはくれない。あの子を思い出すまいと一層仕事と学業に打ち込んだ。
「シェーンハイト君」
ある日、学園長に呼び止められた。アタシは口端を上げて振り返る。
「何か?」
「これを渡すように頼まれていまして」
「あら、熱心なファンからかしら」
 箱から出てきたダイヤモンドの指輪に眉を顰める。学園長は淡々とこう告げた。
「監督生さんの遺言にあったんです。遺骨をダイヤモンドの指輪にして貴方に渡してほしい、と」
「そう……」
 アタシは踵を返して自室に戻った。震える手を叱咤しつつ指輪をはめる。
「綺麗ね。どんな宝石よりもアンタが一番アタシを輝かせるわ」
 
 指輪にそっと唇を寄せる。ダイヤモンドは一粒の涙のようにきらりと光った。
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