Stay Gold
私はなかなか寝付けずにいた。緊張と安堵、寂しさで心臓がぎゅっと鷲掴みにされているようで気持ち悪い。むくりとベットから起きると電気をつけて水を一杯飲む。冷たい水が興奮した体に染みわたり息をついた。その時、突然寮のドアが破られるような勢いで叩かれ、私は慌ててドアに駆け寄る。そこにいたのはフロイド先輩だった。
先輩は「こんばんはぁ」とへらりと笑う。
「どうしたんですか、いきなり」
「ねえ、散歩しようよ」
先輩は私の質問に答えない。そして、答えに詰まった私に「今日、すっごい月綺麗じゃん。いいでしょ?」と畳みかける。
「いいですよ」
「やったー、小エビちゃん優し~」
先輩は小さな子供が玩具を買ってもらえたかのように喜んで私に抱き着く。私はそれをやんわりと解いた。
「じゃあ、行きましょうか」
しっとりとした夜風が頬を撫でる。先輩が「なんか暑くね?」と言って髪の毛をかき上げたとき、シャワーを浴びてきたばかりなのだろうか、淡い石鹸の香りがした。
「見て。あれなんの星だろーね」
先輩は無邪気に夜空を指さす。その先には他よりも強く輝く星があった。
「うわー、本当だ。なんて名前の星でしょう」
「ねー。なんの星だろーね」
私達はそろって星を見上げる。黒のベルベットの布に小さなダイヤモンドが散りばめられたような夜空だ。それを見つめていると先輩が徐に口を開いた。
「いつ、ここ発つの」
「日没直後です。その時間帯になると向こうの世界が観測できるようになるらしいから」
「ふーん」
興味なさそうな返事に少し傷つく。そんな気持ちを知ってか知らずか先輩は私の頬を両手で包んで自分の方に向かせた。闇の中で金の目が浮かび上がるように光っている。
「小エビちゃん、今度はちゃんと小エビちゃんのことを見ていてくれて、愛してくれる人間と幸せになりなよ」
先輩は静かにそう語り掛けた。その言葉が私の身体に入り込んで、心臓に到達したとき、抑え込んだ感情が涙になってあふれ出しそうになった。
「ずるいですよ、今言うのは」
「そうだねぇ」
泣きそうになってる私とは反対に先輩はにっこりと笑った。
「じゃあね、小エビちゃん。幸せでいてね」
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