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真夜中の逢瀬


 太陽が沈み、夜が世界を覆った。鈴虫の鳴き声が寂しく響き渡る。
時計の方に目をやるともう10時になっていた。監督生ははあ、と溜め息をつく。今日は来ないのだろうか。マグカップに少し残っていた水を飲んで台所に持っていこうと腰を上げた。そのとき、コンコンと窓をたたく音が聞こえた。慌ててテーブルにそれを置いて窓の方に駆け寄る。

「ツノ太郎こんばんは」
先程の子犬が尻尾を振って飼い主を出迎えるような態度とは反対に「ああ、今日も来たの」とでもいうような澄ました態度だ。マレウスは窓の縁に腕を載せて「もちろん。お前も僕が来るのを待っていたのではないか」と言う。
「べつに。そんなことない」
「そうか、寂しいな」
監督生に愛想なく返事されたマレウスはゆるりと笑う。風が吹いてかさかさと葉が音を立てた。
「中に入れてくれないか。外は少し湿気が高くて煩わしい」
「うん。入って」
監督生は窓を大きく開けた。マレウスはするりと部屋に入る。

 マレウスは窓の近くの棚に靴を入れるとスリッパを取り出した。監督生は自分のマグカップと来客用のものに紅茶と蜂蜜を入れる。
「ありがとう」
マレウスはマグカップに口をつけた。そろそろと監督生もそれに倣う。マグカップを持つ手が緊張で少し震えているのが分かる。自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
「やはりお前の淹れる紅茶は美味しい。才能があるな」
「ほんとう?ありがとう」
マレウスは肘をついてぱっと表情を明るくした監督生を見つめる。その瞳は蜂蜜のように甘い。

「さて、帰るとしよう。きっとシルバーとセベクが探し回っている」
監督生は引き留めるのに口を開こうとして、正気に返り唇を噛んだ。マレウスが窓を開けると夏の終わりの風に髪の毛がさらさらと靡く。
「一つ言いたいことがあった」
マレウスが口の端を上げる。監督生はぎゅっと心臓がわしづかみにされるような心地になった。
「僕に会えるからあのように慌てるのかもしれないが、怪我をしたらいけない。そういうところも可愛らしくて好きだが…」
セベクが大声で「若様~!」と叫ぶ声が聞こえた。「もう近くまできているのか」と目を丸くし、マレウスは窓際に立つ監督生の頭を引き寄せて頬にキスをする。
「おやすみ。いい夜を」
 柔らかく笑うと緑の光と共に消える。
そして、顔を赤くした監督生と緑の光だけが残された。
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