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復讐



妻が、浮気をしていた。

以前のクローゼットには白と黒のシンプルな服しかなかった。アクセサリーは小ぶりのものが多く上品なスタイルが好ましいと思っていた。しかしある日を境に、クローゼットにはピンク、赤、花柄などの華美な服が目立つようになった。妻は私と出会った頃を思わせる若々しさを纏うようになっていた。最初こそとても綺麗だ、と褒めていたがだんだんとそれに違和感を抱くようになり、この前ついに浮気の証拠を掴んだ。
 
 溜息に貧乏ゆすりを繰り返す。普段なら行儀が悪いと決してやらないが気が立って仕方がない。柳生は妻のアイフォンから相手のメッセージアプリのIDと会話を盗み出し個人情報を入手した。また、妻はマッチングアプリを入手しておりそれを通じて相手と出会ったということが推測される。アプリを遡れば相手は容易に発見することができた。アイコンにされていた男の顔は実にだらしなく、柳生は自分のアイフォンに残したその写真を一刻も早く破棄したい衝動に何度か駆られた。それでもなお彼が踏みとどまったのは『復讐』を成し遂げるためである。

 柳生のいう『復讐』とは、自分も他の女と浮気をするといったような、子供じみた当て付けではない。彼は女になることで男に近づき、男を妻から奪うことで彼女のプライドを引き裂いてやろうと考えた。そして彼女が再び自分に振り向いた暁には柳生はにっこりと微笑んで受け入れるつもりだ。柳生は彼女に女としての屈辱を味わわせるために、綿密な計画を立てた。
 
 柳生は男と会うまでの関係になった。そして、今ビジネスホテルのバスルームで彼は姿かたちを変えている。元の顔立ちが良いので化粧映えする。身長も高くさながらショーモデルのように見える。淡いブラウンのウィッグを装着し、鏡の前でゆっくりと髪を搔き上げる。 
と髪がふわりと顔におち、口端を上げた。
 集合場所には男が既に待っているのが見えた。

———ああ、あれが。

 柳生は男に近づいて、微笑みながら声をかけた。
 「はじめまして。ずっとお会いしたかったんです」

 
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