謙也少年の恋
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シャーッと坂道を自転車で駆け抜ける。夏の生温い空気を吹き飛ばすような向かい風が気持ちいい。さっきカツサンドを食べたのにもうお腹が鳴りそうになった。育ち盛りというものはいくら食べても食べ足りない。謙也は早く帰ろう、と自転車を走らす。
目の前から見知ったシルエットが近づいて来た。さらさらと髪が肩の下で踊る。クラスメイトの岡崎だ。向こうは謙也に気付いて手を大きく振る。謙也はごくりと唾を飲んだ。
「お疲れ」
「おん。そっちはどうしたんや」
「塾行くとこ」
「ふーん、偉いな」
「そんなことないで。謙也君なんかはテニスで推薦とかいけるかもしれんけど」
「どうやろなあ。世の中そんな甘くないしな」
謙也はそもそも推薦が来ても受けないつもりだ。高校では医学部に行くため勉強をしなくてはいけないし、テニスに構う時間もないからだ。
「今から塾言うたよな?送ってやるわ」
「え、ええよー別に。すぐそこやし」
「あかんあかん。こんな夜道女子一人で歩いてたら何あるか分からんで」
謙也は自転車から降りるとくるりと方向を変える。受験云々よりも謙也にとって今重要なのは岡崎と二人きりということだ。はクラスで密かにマドンナと呼ばれるほど人気がある。岡崎かく言う謙也も岡崎のことが少し気になっていた。願わくばお近付きになりたいと思っていたがなかなかそういった機会も訪れなかった。だからこの状況で引き下がるわけにはいかない。謙也は「さ、行こ。送ってたるから」と自転車を押した。
「杏里~」
向こうからブレザーを着た男子がやって来る。謙也の見知らぬ人間だ。
「あ、雄也くん」
「遅いから見に来てもうた。誰こいつ」
「クラス同じ人。送って行こうか?って聞いてくれてん」
「ふーん…早よ行こ」
「うん。じゃあねー謙也くん」
岡崎はひらひらと手を振ると雄也くんとやらと坂を上っていった。謙也は起こった出来事が理解できずきょとんとした顔でそれを見送る。
「か、彼氏なんかーー!?」
あまりのショックにその場に座り込みそうになる。何とか気を持ち直し、とぼとぼと自転車を押して帰宅した。
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