通りゃんせ
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早く帰りたい、と半泣きになりながらそう思った。でもここで友達を放って帰るのは余りにも無責任だ。そもそも、運営の人に頼んで放送を流してもらえばいいのではなかったのか。人間はどうして後から良い案というものが思い浮かぶのだろう、と心の中で号泣した。
「疲れたな。歩きたくない」
私は俯いて棒のようになった足を摩った。私は間違いなくタピオカの屋台の方に向かっていたのに、ここはどこだろう?目の前には千本鳥居が私を圧倒するように立っている。朱色は闇の中でぼんやりと浮き上がっている。こんなものはこの神社にはないはずだ。公式サイトにもSNSにも上がっていなかった。
ここは、どこ。どうして、こんなものが。
「久しいな。元気だったか」
千本鳥居の中を歩く男性が私に声をかけてきた。よく通る声に私は思わず後ずさりする。
「どうした、何故僕から離れる。ユウ、僕の片割れ。ようやく出会えたというのに」
「誰ですか」
男性はその言葉に表情を固くして足を止めた。顔を顰めて私をしばらくの間私を見つめる。
「やはりそうか。お前は覚えていないのだな」
男性は悲し気に目を伏せた。
「だが、お前が覚えていなくともそれでいい。お前の名が変わろうとも、お前が人として生を再び受けなくとも僕は愛すると決めたのだから。僕はお前の魂に焦がれているからな」
ゆっくりと私に近づいてくる。彼は宵闇にも紛れる黒の浴衣を着ていた。スタイルも良く、モデルのような出で立ちだ。群集の中に紛れ込めばその美貌で人の目を一気に引き付けることができるだろう。私はその容貌に釘付けになって、地面に足が縫われたように動けなくなる。
「怖がるな。お前にもそんな態度を取られたら僕は心苦しくなってしまう」
彼は穏やかに笑い私と目線を合わせる。大きな手が私の頬を撫でる。夏だというのに彼の手はひんやりとしていた。
エメラルドの瞳を三日月のように細める。三日月の中では迷子のような顔をした私が閉じ込められている。
「今は僕のことが分からなくとも、」
「お前は必ず今世でも僕を愛するようになる」
「どういうことですか」
「お前のことなら僕は手にとるように分かるからな」
余裕たっぷりに笑う彼に私は訳が分からなくなって、忙しなく目線を泳がせた。
この人は私と出会ったことがある?それならばどこで、いつ。ちらりと盗み見ると彼は悠然とした様子で私を見下ろした。
「お前が僕を覚えていたのならすぐにでも連れ去るつもりだったが、その様子だと連れ去っても無意味そうだ。日を改めよう」
「いや、絶対に行きませんよ!」
私はすぐに否定する。麗人はふふ、と笑う。
「ユウ、また会いに来る」
彼はそう言い残して来た道を戻っていく。私は鳥居の前に取り残される。
青い月が鳥居を照らす。遠くから祭囃子が聞こえてくるが、ここには沈黙しかない。私は青白い月を見上げると、祭囃子の方へと戻っていった。
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