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純愛


廊下から出来事の一部始終を目撃した生徒がいた。
「アズール、何を見ているのです」
「ああ、ジェイド。…いや、少し珍しいものをね」
 アズールは銀縁の眼鏡を指で上げ、そしてその光景を背にするように欄干にもたれた。ジェイドも同じように欄干に近づいて地上を覗き込む。
「あれはマレウスさんと監督生さんですか。一体何が?」
「ディアソムニアの寮生が監督生さんを脅していたんですよ」
「なるほど」
 ジェイドはそれだけで全てを察した様子で顎に手を添える。
「監督生さんは間違いなく彼のアキレス腱だ。畏怖と信仰しか集めない、孤高の彼が唯一心を許した相手ですから」
「まさかそんなことになってるとは」
「……このままではその身を滅ぼすことになるでしょうね」
「何か助言して差し上げるのですか?」
 ジェイドのその言葉にアズールはふっと口角を上げる。底知れぬ微笑みだ。
「まさか。そんなお人好しじゃありませんし、向こうもそんなものは必要ないでしょう。第一、他人の色恋に首を突っ込んでもろくなことは無い。さ、こんなところにずっといたら向こうに勘づかれます。行きましょう」
「そうですね。彼は勘が良いですし、面倒ごとはなるべく避けたい」
 二人は何事もなかったかのようにその場から立ち去る。遠くの方で生徒が歓談している声が聞こえる。廊下に人影はない。空には陰鬱な雲が立ち込め、遠雷の轟く音が反響する。
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