ここまでのあらすじ
昔々ある処に浮竹十四郎くんという、それはそれは可愛らしい隊長さんがおりました。
十四郎くんには
さくらという奥さんがおりましたが、奥さんは現世に派遣され一緒に暮らしてはおりませんでした。
あまりの淋しさに、十四郎くんは
さくらの義骸を阿近さんに作ってもらい義魂丸で動くようにもしてもらいました。
1
\\第十六幕開演//
十四郎くんは四番隊から戻ってきた
さくらと目が合うとにっこり微笑みました。
「
さくら、卯ノ花を呼んで来てくれて、ありがとうなvV」
そして優しい奥さん(の義骸)を労います。
「…随分とお元気そうですが?」
「そうなんだ。もう大丈夫だ」
「だったらお仕事をなさってください」
「…は?」
「は?じゃありません。は?じゃ。さっ!」
さくら(の義骸)は十四郎くんの上掛けを捲ります。
「あ、ああ。済まん…」
なんだか
さくらの性格が急に変わったな、と思う十四郎くん。
それはそうです。
これは四番隊に烈さんを呼びに行った、
さくらではないのです……。
しかし義魂丸がコロコロ入れ替わっていることに全く気付いていない十四郎くんですから――――
はい、気付いていないんです。
可愛い奥さんの義骸に可愛い奥さんの性格をした義魂丸を入れてもらっているという先入観から、中身が馴染みの女性隊長格らであろうともひたすら
さくらのことを想い続けているのです。
こんなに真面目な十四郎くん。
当然のことながら残り数枚となっていた書類を簡単に処理し終えました。
2
「あら。意外と早く終わりましたね」
背後で十四郎くんの仕事ぶりを見ていた
さくら(の義骸)の手が、こめかみを撫で上げました。
それからお茶になさいますか?と首を傾げています。
「ああ。…うん」
さくらは機嫌よく茶を淹れてくれました。
お茶の味も良く、今は怒っている風でもありません。
おかしいなーと思い、俺が何かしたか?と問うと
「いつもこうなら、私も叱責する必要はございません」
「う…、済まん」
十四郎くんは寝込むことを言われているのだと思っていました。
「本日のお仕事も終わりましたし、少し横になられますか?」
「…いいのか?」
「そろそろお昼寝の時間ですから。屋根の上に行かれますか?」
「屋根?俺は布団で横になりたいんだが…」
「それは失礼しました、十四郎様。では」
さくらは十四郎くんが書類を書いている間に片付けた布団をパッパと手早く敷き直しました。
「流石は
さくらだな~vV」
十四郎くんは感心します。
「褒めても何も出ません」
何処となく棘のある物言いの
さくらでした。
3
十四郎くんが横になると、
さくらはお菓子を置いてくれました。
「できればお酒は控えてくださいね」
「酒?
さくらの淹れた茶が一番なんだが…」
「…甘いものは?」
「好きだぞ?」
「抹茶は?」
「飲まんこともないが、茶も甘いほうが好きだな…」
「よろしい」
よろしいという
さくらの言い方に疑問は残るものの、仕事を片付けた後は順調な関係です。
どのくらい順調かというと、横になった十四郎くんが手を握ってて欲しいな♪などと甘えてくると
「もう。何をおっしゃるかと思えば。……ちょっとだけですからね///」
そっぽを向きながらも応じてくるのです。
「
さくらはやっぱり優しいなvV」
「別に。こんなの大したことじゃありません」
下手に出る男に冷たいですが、甘えられるのも嫌いではない
さくらの中の義魂丸。
結構捻くれてますが十四郎くんにとっては可愛くて仕方がありませんでした。
//第十六幕終了\\
4
\\第十七幕開演//
「大丈夫かい?浮竹~」
暫くすると雨乾堂に、京楽隊長がお見舞いに現れました。
「また喀血したって聞いて…。あれ?
さくらちゃん」
「ああ、それは…」
十四郎くんが説明しかかったものの、素早く京楽隊長は
さくら(の義骸)に抱きつこうとしました。
「いつ現世から戻ってきたの?寂しかったよ~んvV」
パァーン!!
その途端、京楽隊長は頬に平手打ちを食らいました。
「
さくらの、義骸なんだが…」
「す、すいません。つい…」
十四郎くんも、思わず叩いてしまった
さくらの義骸も呆然としてしまいました。
勿論一番びっくりしたのは京楽隊長ですが……。
5
「い、いやあ。
さくらちゃんにしてはいい平手打ちだったよ」
「私にしては…ですか?」
「何しろ七緒ちゃんの遠慮ないアレは、鼻血モノだからねー」
「もう少し…手首をしならせても良かったですかね」
「い、イヤイヤイヤ。なかなかのモンだったから。これ以上強くしないで?
っていうか浮竹。この義骸、なんだか…」
思慮深い京楽隊長のこと。
義骸は私費で簡単に作ってもらえるものの義魂丸の作成にはかなりの申請手続きと時間を要することを知っています。
更には何処かで嫌と言うほど見た性格。
この義魂丸はまさか…と、
さくらをじっと見詰めていると
「何、じろじろ見てるんですか」
つい、っとこめかみの辺りを指でなぞりました。
この癖、この言い方、この眼差し。
先ほど逃げてきた副官そのものではありませんか。
「ボク…用事思い出したから帰るね」
「来たばかりじゃありませんか」
十四郎くんが「まだいいだろう」と言うより早く、
さくらはお茶でも淹れますからと京楽隊長を引き留めました。
6
折角伊勢副隊長から逃れられたというのに、これでは落ち着きません。
お茶を飲んだらさっさと引き上げようと、京楽隊長は腰も浮き気味です。
「………」
「何ですか?お口に合いませんか?」
それを知ってか知らずか、黙ってお茶を飲んでいる京楽隊長に
さくらは拗ねたりもします。
「いや…。美味しいよ、うん。ボク好みの味で…」
「だったらちゃんとおっしゃってくださらないと、わかりません」
何故、
さくらの義骸は赤くなってそっぽをむくのでしょう。
その理由を京楽隊長は勿論、十四郎くんも悟ってしまっていました。
長居した…というより長く
さくらに引き留められていた京楽隊長が去ると、いつまでも見送っている
さくらの背中に十四郎くんは床から話しかけました。
「
さくら…京楽のことが好きなんだろ?」
「そんなはず、ございませんでしょう!」
さくらは真っ赤になって、プンプン怒ってしまいました。
//第十七幕終了\\
7
\\第十八幕開演//
「阿近…
さくらの義骸、返すよ……」
背中に背負っていた義骸と、懐から出した義魂丸を阿近の目の前に置きました。
「どうしたんですか、浮竹隊長」
「
さくらの義骸が、京楽のほうが好きそうで…八番隊に行ってもいいぞって言ったんだが、俺に遠慮して
さくらが……京楽も――」
ポロポロと涙を流す十四郎くん。
こんなに可愛い体形でも、男の友情と妻の幸せを願う心意気は失っていません。
「あとは、どう考えても厄介な副隊長の義魂丸しか残ってねーな…」
絶対トラブルになるのは目に見えていますが、出入り口付近で膝を抱えて泣く十四郎くんの寂しそうな背中は見ていられません。
「しょうがねーな…」
阿近は再び義魂丸を取りに行きました。
8
くすんくすんと鼻を啜る十四郎くんの肩を、トントンと指で叩く者がいました。
「なーに、しょげてるの?十四郎vV」
「……
さくら?」
振り向くと、
さくらの義骸が不思議そうな顔をして十四郎くんを見ていました。
「ほらぁ、涙を拭いて」
「だが、お前は京楽のほうが…」
「バカねえ。私が十四郎以外の男に惚れると思う?」
さくらの義骸は十四郎くんの額を人差し指でツンと押し、顔を覗きこんできました。
「
さくら――――」
さくらの義骸の可愛い仕草に、うっすらと喜びの表情を見せ始めた十四郎くん。
「私、十四郎のこと、好きよ?」
さくらがダメ押しのウィンクしてみせました。
「…ありがとう、
さくら」
十四郎くんに、再び素敵な笑顔が戻りましたとさ。
おしまい
************************************************京楽隊長に取られたまんまでは十四郎くんがあまりにも可哀想で、次の義魂丸まで行ってしまいました。
最初の義魂丸が七緒ちゃんだったのはおわかりいただけていますよね?
性格(科白)からして、次の義魂丸が誰かもおわかりでしょう。
そう。いよいよあの方です。十四郎くんの貞操はいかに?(笑)
2009.09.29
浮竹取物語 風⋆花⋆雪⋆月