朝食を済ませた
さくらが
「さて。非番の今日は何をしよう」と軽く伸びをした時だ。
「
天宝院さんに、ご面会の方が来てますよ」
「――――私に?」
面会形式で取次ぎがあるということは、外部からの訪問者だ。
しかも朝一番……。
さくらは誰だろうと首を傾げた。
ひょこっと柱の影から覗くと、そこには些か口許に力の入った
武礼が立っていた。
「
武礼!!」
さくらは弟と見定めるが早いか、抱きついた。
「来てくれたのーっ?」
「
さくら姉が非番でも邸に戻らないから、俺が来たんだよ!」と言うつもりだった
武礼は、
「うん…。久しぶりだね」
姉の笑顔にそんな不満はすっ飛んでしまっていた。
嬉しいなぁ!と言って弟の周りではしゃぐ
さくらは珍しく、当然皆の注目を浴びている。
1
「え。
天宝院さんの弟さん?可愛いねー」
「はい。大切な、だーぁい好きな弟です!」
「///」
紹介された
武礼は、嬉しさのあまり俯くしかできなかった。
弟の腕を取って、ねー?と同意を求める
さくら達は、恋人同士にしか見えない。
「へえ…。
さくらちゃんに、そんないい恋人(ヒト)居たんだ」
「だーから、弟です!」
しっかと
武礼に抱きついて、話しかけてきた隊士に訂正がてら振り向くと
「きょ、京楽隊長…ι」
目線を上げねば顔が見えぬほど間近に自隊隊長が立っていた。
ぬーっと近づいてきた大柄で毛深い男に、
武礼が
さくらを庇うように背中に手を回し、その腕に守ろうとする。
「……仲、いいんだね」
こいつ誰?という弟の視線に、京楽は
さくらに話しかけることで怪しい者ではありませんと言いたげだ。
「
武礼、こちら八番隊の京楽隊長」
「…………初めまして。
姉が、いつもお世話に…なってます」
挨拶の際に
武礼は、まるで
さくらを渡さないというように姉より前に出た。
2
「
さくらちゃん、今日は非番?だったら弟クンに隊を案内してあげたらどう?」
明らかに自分を怪しむ弟に、京楽も長居は無用だと感じたのだろう。
それじゃあねと、ひらりと華やかな上着を翻した。
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
さくらが頭を下げるのを真似て、
武礼も一礼して京楽を見送った。
「
さくら姉…。なんで、八番隊に入ったの?」
「―――…」
姿勢を戻すと同時に、京楽の姿を消した方向を見つめたまま
武礼は呟いた。
「俺、
さくら姉ならてっきり四番隊を志願すると思ってた」
続けて「まぁ、いいけどね」と髪を梳いた
武礼の仕草に「きゃあ」という感嘆の声が聞こえた。
「あの、そちら…。
天宝院さんの弟ですって?」
わくわくしながら話しかけてくるのは、同期でも今まであまり言葉を交わしたことのない隊士ら。
「いやんっ、可愛いっ」
「早朝よりお邪魔して申し訳ありません。姉がいつもお世話になっております」
はしゃぐ隊士らよりも品行方正に挨拶をする
武礼に、隊士は慌ててきちんと挨拶を仕返す。
外見を裏切る礼儀正しさに、
武礼への注目は増すばかりだ。
「
さくら姉。隊長に許可もいただけたみたいだから、案内お願いできる?」
お人よしに皆の質問に答えようとしている
さくらを、
武礼は促した。
3
「そうだ!ねーねー、
武礼。見せたいものがあるの」
自室へと向かっていた
さくらが、何か思い出したらしい。
「まだナイショだよ?
武礼にだけ教えるの」
「俺、だけ…?」
そう、と人差し指を唇に当て、
さくらは微笑む。
「これ。
武礼の治してくれた斬魄刀」
「…ああ」
刀台から降ろすと、
さくらは二人の間に斬魄刀を置いた。
「白夜がね、ありがとうって」
「白夜?」
「うん。この子の名前」
「…斬魄刀の名前、もう聞けたんだ……?」
「あのね、
武礼達が頑張ってくれたから。だから名前教えてくれたの」
「―――俺?」
理解できていない
武礼に事の顛末を説明した。
4
「へえ…。じゃあ、俺にも具象化した白夜が見えるのかな?」
「どうだろうね…?」
二人で斬魄刀を上から覗き込んだ。
「…
さくら姉、呼びかけてる?」
長い沈黙に痺れを切らした
武礼が、口を開く。
「…あ?」
さくらは自分の斬魄刀をただ眺めていただけらしい。
5
「………どう?」
これだけ言えば姉が斬魄刀と対話していると思ったのだろう。
「それがね。白夜は夜型で、昼間はいつも寝てるの」
「なっ?それじゃあ戦闘時にどうすんのさっ!?」
「それがこれからの課題なのよねー」
腕を組んで、うーんとこめかみを指で押さえる。
「
さくら姉…ι」
武礼のほうが、こめかみを押さえたい気分だった。
斬魄刀の名を聞けたとはいえ、確かにこれでは始解に至ったと言えないだろう。
「だから夜は、殆ど毎日鍛錬してるの」
「少しは日中も起こす努力もしたほうがいいんじゃない?」
「そっか。そうだね」
だいたい夜型の斬魄刀って?と、
武礼は首を捻った。
姉が早々に対話ができ具象化できたのは喜ぶべきことだが、そのわりには斬魄刀の能力を引き出せていない。
というより全くもって戦闘力にならない状態なのではないか。
さくらは
「起きて~、白夜」
「白夜ぁ?」
「白夜ったらーぁ…」
と斬魄刀を突いたり揺すったりしてみるが、一向に反応はないようだ。
斬魄刀って皆、こんなモンなのか……?
両親から聞いていた護廷十三隊。
瀞霊廷で最も誇れる職業。
しかし姉の斬魄刀といい先ほどの隊長の風貌といい、
武礼の想像していたものとは大きくかけ離れていた。
6
『へー。来たのか。お前の弟』
夕方起こされた白夜は、寝ぼけ眼で欠伸をしながら相槌を打った。
「具象化した白夜を
武礼に見せたかったんだけど…」
見える?と尋ねようとした矢先
『お前以外に俺が見えるかよ』
あっさり言われた。
「あ、そ…」
『それより夕飯、食ったのかよ?』
「うん。
武礼と一緒に早めに済ませてきちゃった」
『ふぅーん。けどよー。俺はまだ眠い。あと五時間は寝かせてくれ』
「ええっ!?折角起きたんだから、今から鍛錬しない?」
『お前なあ。こんなに早く斬魄刀を具象化できたって知れたら、豪(エラ)い騒ぎになんぞ?』
先ほど、具象化した姿は斬魄刀の持ち主にしか見えないと言ったはずだが……。
白夜にとっては真夜中前後が一番活動しやすく、それ以外の時間帯に動くのは億劫らしい。
眠る為ならば口から出任せもぽんぽん出てくるようだ。
「…はあ。ホントにこれから白夜と、ちゃんとやっていけるのかなぁ?」
さくらは弟に言われた課題を思い出し、再び眠りに就いた白夜を前に溜息をついた。
7
十時を過ぎた頃、
さくらは再び白夜を無理矢理起こした。
少しずつ夜型を直していく為に、白夜が目覚めるまで待つのは止めたのだ。
「あのね、
武礼にね、なんで八番隊に入ったの?って、訊かれちゃった」
『…………zzz』
頷いているのか居眠りをしているのかもわからない白夜を相手に
さくらは今日の出来事を話し続けるが、子守唄でも聴いているように白夜はコックリコックリ舟を漕いでいる。
それでも延々と一時間ぐらい話していると、漸く白夜が生返事をするようになってきた。
さくらは作戦成功と喜んだが、そろそろ白夜が起きられる時間になっただけだ。
しかし喜んだ
さくらは勢いづいて話し続ける。
「それでね、
武礼がね…」
「斬魄刀の鍛錬とは、今日の出来事を話すことか?」
突然話しかけられ顔を上げれば、かの六番隊隊長・朽木が佇んでいた。
「――――いいえ」
また出た。
言葉は悪いが、
さくらが鍛錬していると決まって朽木が現れる。
それも斬魄刀を手にしているのだからわかるだろうに、黙って白夜と対話をしていれば「何をしておる」と問われるし、今日のように声に出して対話をすれば窘められる。
いつ見ても平の隊士の努力をあざ笑うかのような態度だ。
8
「貴様の斬魄刀…」
「白夜ですか?」
珍しく、朽木から話を続けてきた。
大抵は長い沈黙の後ふいっと姿を消したり
さくらが話を振れば否定されていたのに……。
「…………」
しかし、朽木の口はそれっきり動かない。
今夜も、痺れを切らした
さくらが仕方なく口を開く。
「白夜が、何か…?」
「……名を聞けたのか」
「あ。……はい」
「…………」
しまった。他の人に教えちゃった…とも思ったが、相手は隊長。
名を聞けたぐらいでは歯牙にもかからないらしい。
「貴様の斬魄刀…は、どういうものなのだ?」
「白夜の能力ですか?わかりません」
真面目に答えたつもりだったが、朽木はその返答にいかにも不服そうだった。
9
「でも、とっても綺麗な毛並みをしています。普通にしてても気品があるし――――」
「そうか…」
何故か朽木が満足げな表情になる……なったと、
さくらは思いたかった。
何しろ今までで一番笑顔に近い表情に見えたのだ。
もしかしたら、白夜のことが知りたいのかも…。
「でも口が悪いんですよね、白夜って」
「…………」
さくらは知る限りの己の斬魄刀を語ろうと努めた。
「黙っていれば、こんなに素敵なのに…」
朽木隊長には見えないんだっけ…と途中で
さくらも気付いたが、白夜の姿を詳しく説明しようと朽木を見た途端に今夜もまた急に背を向けて去って行った。
いい加減、尻切れトンボの会話で去られるのにも慣れてきていたが、朽木が去ると同時に急に夜の静けさを実感する。
「会話になってたほうだと思うけど…。やっぱり今日も朽木隊長、口数少なかったよね…」
『つーか。あいつ、何しに来てんだ?』
「さあ…?」
アマリリスの花言葉:誇り・おしゃべり・強い虚栄心
************************************************まだ
さくら様は朽木隊長と斬魄刀の共通点に気付いていません。
こんなので死神として大丈夫でしょーか?
でも、ちょっとヘタレ気味に見える朽木隊長が可愛くて、私としてはこの展開が気に入っています。(笑)
2009.09.01
百花繚乱 風⋆花⋆雪⋆月