「あーっ!二人とも。聞いて、聞いてー。今朝ねー!」
ハルヒは九番隊に所属している為、昼食時に隣の
さくらの隊に来ることが多かった。
「…何?何かあったの?」
「私ねー、とうとう東仙隊長とお話したのー!」
「……ぉ」
「おめでとう、
ハルヒ♪」
「
まつり。ありがとー♪」
それに時間を有効に使うのが上手い
まつりが六番隊から八番隊へ来るのも容易い。
結局、一番三人が集まり易いのが八番隊となっていた。
「いいなぁ、
ハルヒ。私はまだ朽木隊長と、目も合ったこともないのに」
「東仙隊長、優しいからー。ちょっとドジしちゃったら片付けるの、手伝ってくれたのー」
ハルヒは箸を握ったまま、ふっふっふと口許を隠してニヤけた。
1
「ところで檜佐木副隊長はお元気?
ハルヒさん♪」
「あれー、
まつり??」
ハルヒが目を見開いて尋ねると
「
ハルヒの九番隊の話を聞いてたら、檜佐木副隊長って意外といい感じかな?」
と、
まつりは笑顔で身を乗り出し、檜佐木のことを聞きたがる。
「
まつりさん、そう来ましたかー。でも朽木隊長は雲の上の存在だから仕方ないかもしれないけど、六番隊の副隊長さんとかはー?」
「ああいう感じの人、好きじゃないもん」
あ、そ。と、阿散井の話は早々に終わってしまう。
さくらはまだ名前すらわからない自隊の上官がいるというのに、
まつりと
ハルヒのおかげで九番隊と六番隊は勿論、十三隊の――特に男性死神に関しては事細かな情報まで耳に入ってきていた。
正直この二人がこうして話してくれなかったら、
さくらはかなり情報から取り残されていただろう。
武礼の口にした「勉強と仕事は違うから」とは、このことだったのだろうかと思う。
さくらは仕事に直接関係なくとも、二人の男性死神らに対する見解に耳を傾けるようになってきていた。
2
「それより、
さくら。あんな隊長で大丈夫なの?」
「あん、な?」
武礼の言葉を思い出していたのを抜きにしても、
まつりに話を振られて誰のことを言っているのか、すぐには
さくらにはわからなかった。
「京楽隊長よー。ど助平でしょー?」
「 …あ。 ぅん ?」
「何、今の間?」
しかも疑問形なんですけど?と、
まつりは突っ込もうとした。
「そっかー。ど助平でも、隊長さんとはあまり会わないもんねー。それに
さくらのトコの副隊長さんはしっかりした女性だからー?」
「ぅん…」
しかし
ハルヒに答えた理由で、接点がない為だったと
まつりは解釈したらしい。
「でも良かったね。京楽隊長は毎週女の子だけ集めて飲み会するって聞いた時は、毎週
さくらを連れ出さないと。って、
ハルヒと話してたのよ?」
「うん…。ありがと」
思ってたより…というより、想像以上に誠実で親身になってくれている京楽の本当の姿を伝えるのを躊躇ったのは―――
何故、だろう。
二人に言ってもわからない。そう思っているわけではないのだが、何故か言いそびれてしまった。
3
「んー。お腹いっぱーい」
「これ、色のわりには意外と美味しかったね」
「それじゃあ」
「「「ご馳走様でした」」」
三人仲良く、いただきますとご馳走様は手を合わせる。
院生時代からの習慣は残っていた。
それから、またお喋りや午後の休憩用のおやつの交換など三人で過ごしているのが普通だが、今日は穏やかだったのに三人の傍らに一瞬風が舞ったかと思うと
「
さくら」
同時に
さくらを呼ぶ声に包まれた。
いつも
さくらを優しく呼ぶ声の主。
それは―――
「お父様…!」
さくらの憧れの父に他ならなかった。
4
さくらが護廷十三隊に入隊して父と隊内で話したのは、これが三度目だ。
「お久しぶりです、おじ様ーvV」
「私達のこと、憶えておいでですか?///」
一緒にいた
まつりも
ハルヒも、途端に姿勢を正した。
「おおう、二人とも元気そうじゃの。今でも
さくらと仲ようしてくれておるか」
少し目尻に皴を寄せ見詰められれば、同期どころか先輩にもない大人の男の…それも裏挺隊隊長という風格に、二人とも引き寄せられる。
「お父様、今日はどうなさったのですか?」
さくらが問えば、二人に見惚れられている父がゆっくりと自分だけを見て「其方(そち)に用があったのじゃ」と言ってくれた。
「ご用、ですか?」
父が腰の位置で抱えていたものを差し出した時は、直ぐには声が出なかった。
5
「――っわあ!」
それが何か漸くわかり、歓喜の声を上げた
さくらが「治せたんですね。流石はお父様です」と続けたことで、あの折れた斬魄刀を修理し届けてくれたと、
まつりと
ハルヒも知った。
「えぇ!これがあの斬魄刀なの!?」
「嘘ーぉ!」
白金(しろがね)の鍔(つば)に家紋の竜胆の目貫が黒の柄巻から覗く。
刃など見ずとも
さくらの手の中で輝く斬魄刀がいかに力を秘めているかは
まつり達にとっても一目瞭然だった。
「ありがとうございます!お父様」
さくらが深々と頭を垂れた。
「儂一人で修繕すると言うたのじゃが、
武礼がどうしても手伝うと聞かなかったのでな。合作じゃ」
「
武礼が?」
父の言葉に、
さくらは今一度斬魄刀を見た。
「仕上げたのは儂じゃが、あれだけ傷んでおった斬魄刀をここまで回復させたのは、殆ど
武礼じゃ。礼は直に伝えてやってくれの」
「はい」
ああ、だからこんなにしっくりと手に馴染むのかと、
さくらも納得した。
6
「では、の」
鏡月の掌が
さくらの頬を撫でると、
まつりと
ハルヒもうっとりとその様子を眺める。
「儂の愛しい娘よ」
何度目を凝らして見ていても、
鏡月が
さくらの頬に口付けて去って行く瞬間は、うっすらとしか見届けられなかった。
再び柔らかな風に包み込こまれ
鏡月の余韻が過ぎ去ると、漸く三人から溜息が零れた。
「ハァー。おじ様、素敵過ぎーvV」
「
さくら、羨まし…///」
「でしょう?あれでも私達の前では瞬歩を緩めてるのよ」
さくらは父の瞬歩を褒められているのだと微笑んだ。
7
昼休みが終わる頃には
さくらは二人と別れ、八番隊の修練場へと向かっていた。
勿論腰には斬魄刀を差してだ。
初めて差した斬魄刀は木刀とも浅打とも違う重量感と、どこか信頼のようなものを感じられた。
父のみならず
武礼が修理してくれた。
その悦びの所為かもしれない。
「これからは、ずーっと一緒だねっ」
さくらは柄巻に沿って指でなぞり、話しかけた。
8
大抵の新人は斬魄刀の始解を試み、数ヶ月は真面目に修練場に集まってくる。
京楽も最初のうちは顔を出すが、新人の志気が薄れるに従って来なくなる。
そしてある日ひょっこり現れたりして、人知れず努力を怠らない隊士を心に留めておいたりするのだった。
当然だが斬魄刀を手にして一ヵ月と経っていないこの時期は皆、揃っていた。
誰もが鞘から抜いた斬魄刀を大きく振っている。
そんな中、
さくらは目の前に斬魄刀を置くときちんと正座をし、一礼して鞘から抜いた。
しかし立ち上がることなく、まずは手にしっくり馴染む持ち方を探った。
勿論今までにも刀を持ったことはあるが、斬魄刀は唯の刀とは違う。
この斬魄刀を選んだ日に席官から扱い方を教わったとおり、
さくらはきちんと形から入ろうと試みていた。
9
「おや?
さくらちゃん、それ…」
京楽の目に、一人床に座っている
さくらのその姿は否応なく飛び込んできた。
「隊長。漸く斬魄刀の修理が終わりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
斬魄刀を一旦置き、わがままを聞いてくれた京楽に頭を下げた。
「修理って…。それ、新品じゃないの?」
「―――でも、根っこは私が選んだ斬魄刀です。家族がかなり霊力を注ぎ込んでくれたみたいですが」
―――根っこ?
さくらのふとした言葉が気になった。
そう言えば父に修理してもらうと話していたが、いくら身内といえども一旦斬魄刀に注ぎ込まれた霊力が区別などできるはずがない。
それに白金の鍔は
さくらの肌を思わせ、黒い柄巻は
さくらの艶やかな髪を思わせるほど生々しい生命力に満ち、これはあまりにも異色な斬魄刀に見える。
10
「
さくらちゃん…。ちょっと、手合わせをしてもらっていいかな?」
「えっ?京楽隊長とですか!?」
「勿論手加減はするよ?」
「こ、光栄ですっ」
普段、冗談でも京楽が新人の相手をすることはなかった。
さくらは勿論のこと、新人全員が初めて自隊隊長の斬魄刀を目にできるのである。
さくらはドキドキして同期の応援も耳に入らなかったが、京楽が先に斬魄刀を構えるように指示をした。
「まずは基本の形で刀を合わせようか」
「はい!」
ゆっくりと京楽が斬魄刀を抜く様を、誰もが注視した。
さくらのそれよりも長い刃が、目線で組み合わされる。
金属特有の擦れる音が修練場に響いた。
ゆっくりと京楽が刃を引く。
そして
さくらとの間合いを取った。
11
「右、左、右ね」
京楽が刃を受け止める方向を指示する。
「はい!」
ブォッ…
修練場内の空気が半分に割けたかのようだった。
「ふっ、 ぅ…」
もし三連続で振り下ろされていたら、二撃目で床に叩きつけられていた―――
と、
さくらは震える手足で堪えながらも、冷や汗が滴っていく僅かな感覚さえわかる自分に、静かに驚いていた。
12
一方、京楽は…
刃を合わせた時の重みが違う
吸い付くような…感覚
それをこの一振りで感じていた。
「これは―――」
かなりの霊力を秘めている。
修理直後だというだけでなく、何よりも持ち主が始解にも至らぬうちにこれだけ他人にもわかる霊力を放つ斬魄刀ならば、卍解は約束されたも同然だろう。
「
さくらちゃん…。いい斬魄刀を選んだねえ」
京楽は約束どおり三回刃を交えると、ゆっくりと刀を引いた。
「――はい?」
さくらは漸く京楽の刃から解放された気の緩みで、何を言われたか聞き取れなかった。
「いや、何でもない」
ひょっとしたらこの子は、七緒ちゃん以上に伸びるかもしれないね…。
ただ刃を交えただけで肩で息をしてしまった
さくらを、京楽と同じ目で見る者はその場には居なかった。
茴香の花言葉:称賛に値する・賞賛・力量・強い精神力
************************************************茴香よりフェンネルと書いたほうが分かり易かったでしょうかね?
しかしフェンネルの花言葉でなく茴香としか確認できなかったもので…。
刀の用語ですが、鍔は分かるかと思います。
目貫は柄巻から見える飾りになります。本来は目釘穴を隠す為の飾りでした。
鞘は
さくら様のお好きな色をイメージしてください。
2009.06.24
百花繚乱 風⋆花⋆雪⋆月