先日朽木ルキアの処刑を阻止する為、黒崎一護なる者がこの尸魂界に降り立った。
彼は人間でありながら並の死神よりも遥かに霊圧が高く、そしてその働きにより死神代行と正式に認められた。
とは言え護廷十三隊は因習に囚われがちで、殊更規律や常識から逸脱した者を嫌う元柳斎先生のこと。彼らへの対応は俺が請け負うことにした。
俺の性格上、そういう世話役は京楽達よりも向いていたし何より彼は志波海燕に生き写しだった。
だから少しでも力になりたいと思ったのは事実だ。
海燕は四大貴族の出だったが家柄に拘らず気さくで自由奔放ながら腕も立つ、俺にとって副官という地位を任せられる唯一無二の男だった。
そして唯一無二という意味では…
妻、
さくらにとっても同じことだった―――――の…かも、知れん。
The quiet green eye:浮竹
1
一護君は共に尸魂界に来た仲間以外では気の合った阿散井君と行動することが多く、昼間は六番隊や朽木のいる白哉の邸を訪れていた。
それ以外、つまり十三番隊(ウチ)での食事や寝起きの際には
さくらとも顔を合わせる機会はあったという訳だ。
さくらが誰に対しても公平で慈しみ深いのは承知している。
しかし彼を見詰める眼差しは、どこか別のものが感じられた。
気の所為…
そう言ってしまえばそれだけなのかもしれん。
しかし俺の傍らにいても時折彼を盗み見る視線は、確かに特別なものだった。
切なげに
そっと溜息をついたり
薄っすらと涙ぐんだり
俺はそれを見逃さなかった。
しかし見て見ぬ振りしか、出来なかった。
海燕に生き写しの彼に、初恋の相手への思い出が胸を占めている。
ただそれだけならば、俺も堪(
こら)えよう。
堪えるしか、出来なかった。
2
一護君が現世に帰る日が訪れた時、正直俺はほっとしていた。
さくらの淡い気持ちは一護君に届くことなく、そっと胸の内だけに終わるとわかったからだ。
しかしあの慎み深い
さくらが自ら歩み寄り、最後には勇気を振り絞って一護君に声をかけていた。
「どうか、お元気で。黒崎様…」
「え?ああ、ハイ。どうも浮竹さんトコにすっかりお世話になっちまって。ありがとうございました」
一護君も満更ではなさそうに、顔を赤らめる。
「もう…お会いすることもない、かと思います。でも、でもどうか健やかに、お幸せでいらっしゃるよう、お祈り致しております」
たとえ別れ際に
あんなに愛おしげに
胸をすり寄せるようにして一護君に名残惜しげに最後の挨拶を済ませようとも……
もう、二度と彼と
さくらが会うことは ない。
3
「…行ってしまったな」
穿界門に消えた彼を見送る
さくらの表情は、俺の背後にいて見ることはできなかった。
「…はい」
だが気の抜けた
さくらの返事だけで、全てが終わってしまったかのような心情を知るには十分だ。
さくらは俺の妻だ。
たとえ一護君に海燕を重ね見て、彼も
さくらを慕ったとしても
俺の妻である自覚を捨ててまで応えはしない。
応えは、しなかった
……だろう。
それでも
微かに不安が胸に渦巻く。
もし
さくらが俺と結ばれる前に彼と出逢っていたら―――
そうだと、したら……。
「俺に…勝ち目はない、か……」
独り呟いた俺に、
さくらは怪訝そうだった。
4
「彼……似てたな」
少しだけ、鎌をかけてみる。
「……はい?」
わからないという風に首をかしげるお前。
「一護君。似てたよな、海燕に…」
「黒崎…一護さんが 海燕さんに、ですか?」
そう問い直すと
さくらは俺から視線を逸らした。
「そう、でしたか……」
心、此処に在らずというように、風に靡いた髪を弄る。
さくらは上級貴族。良識もあり、そして…相手は人間。
諦めた…いいや端(
はな)から諦めていたのだろう。
海燕を…一護君を
忘れてくれ、とは願えない。
しかし忘れないでくれ。
お前は俺の妻。
志波海燕の妻になるはずだったお前でも、夫はこの俺だ。
況して生き写しだからという理由だけで
どうか…彼に
心、揺れないでくれ。
あの日誓ったとおり
俺の、俺だけの
さくらで居てくれ―――――。
fin*
************************************************タイトルのgreen eyeは嫉妬の目つきという意味です。
浮竹隊長が嫉妬する。
そんな様を書いてみたかったのです。
それでも浮竹隊長ならば表面には出さないでしょうから、誰も気づかないのではないでしょうか?(なのでquiet付き)
では、真実はどうなのか―――?
こちらは後日、郛外区にて。
オマケですので予告はせず更新後にお知らせ致します。ご覧いただきありがとうございました。
2010.06.01
雪の護廷十三隊〔二〕 風⋆花⋆雪⋆月