「何故儂が雨竜には正規の滅却師の血装が使えるようにする訓練からではなく…散霊手套を装備して訓練するところから始めたか…伝えたかね…?」
眠七號の大脳を手に、マユリは古い古い故人の問いが脳裏に響いた。
五月蝿いネ…。
そう言いかけて、「嗚呼これは記憶なのだから、反論は無駄だネ…」と口を噤んだ。
石田宗弦は最後の滅却師、石田竜弦の父である。
息子は正規の修行どおり、血装から訓練した。
だがその傍らで研究していた滅却師の歴史において、死神と滅却師の『どちらが正しいか』の結論が出た今となっては、孫の雨竜に滅却師を継がせるつもりはなかった。
その理由も竜弦に告げ、雨竜は人間らしく育てるとお互い納得していた。
そもそも雨竜は純血統滅却師ではない。
滅却師であろうとする息子を竜弦が思いとどまらせたいのは当然の親心であった。
だが来たるべき時に無抵抗で殺されてしまうような事はあってはならない。
だからこそ宗弦は敢えて散霊手套を装備させて訓練させたのだ。
願わくは滅却師最終形態(クインシーレツトシュティール)の一時的な超強化と引き換えに雨竜が滅却師の力を失って、普通の人間として生きられるようにとの想いであった。
マユリはすっかり記憶の外に押しやっていた石田宗弦の昔話を"今更"思い出した自分が忌々しかった。
本当に宗弦が雨竜に伝授した滅却師最終形態にてユーハバッハが倒せるとは、やはり思えない。
それでも宗弦が「儂を実験体にして、滅却師を…ユーハバッハを滅ぼす手立てを見つけてくれ…。対価は石田竜弦とその家族の身の安全の保障じゃ…」と護廷十三隊及び涅と交渉し、己の力の限界まで虚を倒した後に尸魂界へ"肉体ごと"送還された。
あれから十年近く、経っていたであろうか。
「言っただろう?"滅却師の研究は終了した"」
マユリは雨竜を見つけると、宗弦との約束を果たしにかかった。
「研究したんだヨ!精神と肉体にあらゆる刺激を与え!反応を調査し!生きたまま頭蓋に穴を開け!自分の手で我が子を焙り殺させ!切り刻み!擂り潰し!!ドロドロになるまで研究をネ!!!」
約束から少し時間が経っていた為、最後は嫌いなネギの料理方法を言いまくってしまったが、雨竜には気付かれなかった。
「弟子だか孫だかの名前をずぅーっと呼んでてネ…気味の悪い爺さんだったヨ」
そんなに古い被験体の写真など涅が持ち歩いているはずがないのに、冷静さを失った雨竜はそこまで頭が回らなかった。
嗚呼…これが…魂魄の、可能性か……。
感嘆したのは雨竜(クインシー)の力ではない。
いくら自分が液化しその場から姿を消したとはいえ、ネムが自ら雨竜と言葉を交わしたのだ。
ネムは自我を持っていた。
だから私は眠七號と呼べなくなったのだ――――。
だがネムの自我は、死神でなくとも持ち得ている一般的な自我に過ぎなかった。
死神としての自我の目覚めを促すべく奴隷以下の扱いをしても、ネムには父親に構われる歓びでしかない。
それをあの滅却師に出会った途端、何故か進化した。
進化という程の進化ではない。
だが大きな一歩には違いなく、それを当時は可能性と呼んだのだ。
「雨竜……雨竜……」
宗弦はどんな実験にも応じ、どんなに辛かろうとも孫の名を呼ぶ事で願いを叶えようとしていた。
ユーハバッハを倒す為に
家族が平和に暮らせるように
死神が約束を守ってくれると信じていると
「雨竜……雨竜……」
孫の名に、想いを託し―――――。
全く…気味の悪い爺さんだったヨ…。
最期まで、滅却師研究に協力した石田宗弦。
それをネムも見ていたからこそ雨竜との出会いで進化したのではないかと気付いたのは、藍染惣右介が尸魂界を去った後であった。
「私はお前を超えたぞ…!浦原喜助………!!
……お前の悔しがる顔は…残念ながら想像がつかないが……だからこそ目にする甲斐があるというもの……
次に会った時は………私とお前の差を見せつけてやるとしよう……!」
マユリはネムの“頭”を撫でながら呟いた。
「私とお前の…2人でだ…」
fin*
************************************************BLEACH千年血戦篇相剋譚が最終回を迎えましたね。
このお話はまだgleeにBLEACHのモバイルゲームにあった頃、風*花*雪*月の読者さんがTwitterにて吐露した際に、お答えできなかった件を元に放送後急遽執筆致しました。←説明長いょ
要は「涅隊長が雨竜のおじいちゃんを殺したの、未だに納得できてない!」と、彼女は言ったのです。確か、原作で京楽隊長が隻眼になった時だったと思います。
その場でこんな説明しても彼女を納得させられないよな…と、いつか物語として公開できたら…と心には留めてありました。
小説では彼女への答えはちょっとしか書いていませんが、ちゃんとBLEACHのストーリーの中で"応えたかった"のです。
彼女は香港に行き、gleeのゲームが終了する前には連絡が取れなくなっていたので、フォレストページも閉鎖された今、日本に帰国してもここを見つけられるか?そもそもBLEACHへの興味が残っているか?疑問ですが。
漸くあの時の気持ちに区切りをつけられそうだったので、実質2時間足らずで書き上げました故、文章の粗さには目を瞑っていただけたらと思います。
久しぶりの更新、ご覧いただきありがとうございました。
2024/12/29
雪の護廷十三隊〔二〕 風⋆花⋆雪⋆月