それは師走のある日のことでした。
「
さくら。二月十四日は何の日か知っていますか?」
卯ノ花の問いに首を捻り考えましたが、わかりませんと
さくらは素直に答えました。
「現世では聖バレンタインディという愛に恵まれぬ男性を救う慈悲の日なのです」
卯ノ花さんの解釈が一般とずれているのは気にしないでおきましょう。
「そこで近年、四番隊でもこの日にある物を隊長方に配っているのですが、それが何かわかりますか?」
そう尋ねられて初めて
さくらは『ちょこれーと』という物を贈るのだということを知りました。
「作り方は此処に書いてあります」
卯ノ花は処方箋用紙にチョコレート菓子の作り方をメモしていました。
まずはカカオ豆の主流品種クリオロ種、フォラステロ種、トリニタリオ種の産地やら特色に目を通してみます。
カカオ豆というものを見たこともない
さくらは頭の中で想像を膨らませますが完成品の色も味も知らない
さくらにはやはりイメージすら掴めません。
「私には難しいかと…」
さくらが不安げに先輩をチラリと見ました。
先輩も失敗したらしく、無理無理と手を振って断っています。
「確かに原材料から作るのは難しいでしょう。しかしチョコレートはブロックで購入しますから、飾り付けを
さくらに考えてもらいたいのです」
卯ノ花さんに深い慈悲の心はありますが、現世で販売されている可愛いラッピングの施されたチョコレートを購入するのでは高くつく為、手作りで経費をなるべく抑えたいようです。
そう言われて『まずはチョコレートを細かく削ります…』から湯煎の仕方などを読むと、得体は知れませんが扱い方は理解でき、何となく作れそうな気がします。
「わかりました。やってみます」
新しいことは苦手ですが準備期間がかなりあった
さくらは隊長直々の命令を引き受けました。
そしてまずは一番頼りになり甘えられる人の許へと赴きます。
「
武礼、お願いがあるんだけど…」
「…何?珍しいね」
弟の
武礼クンに相談し、現世に向かう駐在死神に練習用のチョコを買ってきてもらうことにしました。
さくらのいいところは、自費をかけても文句を言わないところでした。
流石は上級貴族のお姫様です。
当然味見役は正直且つ不味くても文句を言わない弟の
武礼が引き受けることとなり、姉弟揃って同じ日に非番を取ると早速卯ノ花隊長の処方箋(レシピ)どおりに作ってみました。
向かいに座った
さくらに一挙手一動見詰められる中、
武礼が初めて現世の食べ物を口にします。
「………どう?」
「…ちょこれーとって、こんなに甘いモンなの?」
「――わかんない」
甘くて食べられるのならば
さくらの試作は成功域かと思われますが、その味がチョコレートの味なのかどうかが二人にはわかりませんでした。
これはまず現世のチョコレートの味を知ることからだと、今度は現世のあらゆる市販品を取り寄せることにしました。
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