「あなた、何もわかってない。わかろうとなんてしてない!私が、どんな―――」
ああ、もういくら言っても無駄なのに
空しいだけなのに。
「わかってないのは、おまえのほうだ」
ほら、
心なんて
言葉なんて
絶対に通じないのよ
男と 女は……。
言葉縒り心縒り
1
他隊はどうか知らないが、浮竹は自隊では殊更会議らしきことをするほうではない。
ただ、隊全体に影響する自分の決定を伝えねばならぬ時がある。
その際には改まって三席二人を呼び出すことがあった。
「待たせたな。それでは次回の席官の昇級について説明する」
清音と仙太郎がはいとしっかりと返事をすると浮竹は手にしていた巻物を解いた。
「半年前に転隊してきた
天宝院さくら。新たに彼女を末席に置きたい」
「
天宝院を、ですか。ですがまだ半年しか…」
浮竹の判断に清音が驚いていた。
「前の隊では十八席だったんだ。末席では彼女の力に見合わぬぐらいだろう?」
「しかし、九番隊と十三番隊(ウチ)では評価が違いますし…」
何やら仙太郎も同意しかねる様子だった。
「
天宝院は、十分やってくれてるだろう?」
どうして渋るんだと、浮竹の眉が動く。
「あ、いや。別に浮竹隊長のご判断に反対というわけでは――」
「そうです。私達全然反対なんてしてませんからっ」
慌てて両手を振り回す二人に浮竹は、それならいいんだと
この日十三番隊席官名簿の書き換えを決定した。
2
翌月、
さくらは十三番隊の席を与えられた。
「浮竹隊長。私のようなものを早々に席官に任命いただき、誠にありがとうございます。より一層の努力と精進により隊に尽くします故、今後ともよろしくお願い申し上げます」
さくらは畳に頭をつけるようにして深々と礼をした。
「お前の実力ならこれでも足りないぐらいだ。だが十三番隊(ウチ)に来て日が浅い為、そう早急に昇級させるわけにもいかん事情をわかってくれ」
何処までも遠くを見詰めるような眼差しでいて、畳一枚隔てた自分をしっかりと見ていてくれる上官に、
さくらは返す言葉もなくただただ首を横に振った。
「本当に、ありがとうございます。本当に…」
さくらが思わず感涙した顔を見られたくなくて再び頭を下げたことに気付いていたが、それに触れぬが得策だと浮竹は
さくらに退室を促した。
3
たった今読み上げた
さくらの任官通達書を終おうとした浮竹は、もう一度書面に目を落とした。
「
天宝院さくら、か…」
さくらは女性にしてはいささか気の強い面もあるようだが実績は申し分なかった。
九番隊で既に席も与えられていた彼女が十三番隊に転隊してくる理由がわからず、転隊願いを手に浮竹は首を捻ったものだ。
「離縁したんです」
転隊を願い出た理由を即答した
さくらに、浮竹はやはり首を捻った。
「…離縁すると、転隊しなきゃならんか?」
それでは理由になっていないと、浮竹は関連性を見出せないで再度尋ねた。
「夫も九番隊ですから…」
そう説明されて、何となく別れた夫婦が職場で顔を合わせる気まずさを浮竹も漸くわかってきた。
「いけませんか?」
浮竹が相槌すら打つ前に、
さくらは拗ねた子供のように問い返してきた。
4
「そんな理由で転隊しちゃ、いけませんか?悪いですか?」
「別に悪いとは…」
さくらの手と唇に力が入り微かに震えている。
浮竹はふう、と溜息をつくとあのな…と自分の考えていたことを告げた。
「俺には妻もいないし夫婦がどういうものかわからん。だが一度結ばれた二人が別れるには余程の事情があるだろうし…」
「理由なんて」
さくらは浮竹が言い終える前に言い放った。
「理由なんて無いです。そんなの――」
理由も無く離縁するものかとまた疑問がわいたが、
さくらは感情が高ぶっているようであり殆ど初対面の自分に夫婦間にあった本当の理由など告げはしないかと、浮竹はそうかと言ってこの話を打ち切った。
5
「それで、何時から十三番隊(ウチ)に移ってこれる?」
膝とにらめっこしていた
さくらは浮竹の次の質問に飛び跳ねるように顔を上げた。
「あの…、受け入れてくださるんですか?私を―――」
驚く
さくらに浮竹も一瞬目を見開いた。
「…受け入れて欲しくて、転隊を願い出たんじゃないのか?」
そう問えば、はいそうですと
さくらは答えたのだが、何だかギクシャクした会話だった。
しかし同じ護廷十三隊で働いているとは言え隊も違えば役職も違い、初めての意思疎通はこんなものだろうと浮竹が思ったとおり
さくらが移動してからに全く問題はなかった。
勝気な面もある彼女のことだ。新米のするような仕事に不満を漏らすかもしれないと考えていたのだが、
さくらは浮竹の下に所属した日から今日まで、実に素直に雑用でも何でもよくこなしてくれた。
少しだけ男を寄せ付けない雰囲気はあったが、上官故か浮竹が話しかける分には会話も成り立っていたし仕事上のミスは全くもって有り得なかった。
目をかけてやりたい。
そう思うのは彼女に実力があるからだと、浮竹は思っていた。
そうだと言い聞かせること自体が彼女を特別に思っていることには、気付いていなかった。
6
浮竹と京楽の仲の良さは護廷十三隊の誰もが承知しており、八番隊隊長が十三番隊に出入りすることを訝しむ者はいない。
「元気そうじゃないの」
女の子を追い掛け回すのが仕事のような京楽だが、浮竹の許を訪れた際にそのようなことをする男ではなかった。
「当たり前だ。丸二日、寝込んだんだからな」
「丸二日も寝込んだわりには元気そうだって言ってんの」
病み上がりの浮竹とぽんぽん言い合っているところに、茶を運んできた隊士がいるようであった。
「失礼します…」
「…おや、気の利く子だねえ」
京楽に目礼すると
さくらは茶を差し出した。
京楽は
さくらを注視するわけでもなく、かといって無視しているわけでもない、実に自然な眼差しを注いでいるかのように映った。
「失礼しました」
しかし
さくらが去ると、一呼吸置いて京楽は口を開いた。
「浮竹。あの子の転隊、受け入れたんだ」
「受け入れたって…お前、
天宝院を知っているのか!?」
「お隣の九番隊の子だったからね。それに綺麗な子だし…」
京楽が彼女を知っていた大方の理由は
さくらの容姿に起因するだろう。
「お前らしいな」
だから浮竹も呆れた笑みを見せた。
7
しかし京楽は差し出がましいようだけど、と遠慮しながらも婚姻歴のある子だと告げる。
「…知ってる。面接の際に自分から離縁したって告げたよ」
ああ、そう。と京楽が沈んだ声で返事をするものだから浮竹は何時になくむきになって言い返した。
「だからって、ウチに来てくれるのを拒む理由にはならんだろう。彼女は優秀だ」
「ボクが言いたいのは、そのことじゃないんだよ。浮竹、彼女達が別れた時の様子、知らないでしょ」
「―――知らん。そんなこと仕事には関係ないだろ」
ところがあるんだよと京楽は溜息混じりに言うものだから、浮竹も訊かないわけにはいかなくなった。
無論、上官として仕事に関わるのであればという意味でだ。
8
「彼女の旦那さんも九番隊だったのは知ってるかい?席も二つ三つしか違わなかったそうだ。息も合ういい夫婦で、東仙隊長も二人を祝福してたんだよ。ところが彼女が一方的に離縁を申し出て、あまりの騒ぎに隊に居辛くなって転隊先を探してた」
「ってことは…」
「八番隊(ウチ)にも申請しに来たよ。でもいくら宿舎でとはいえ、ド派手に夫婦喧嘩した挙句一方的に離縁を申し出て別れた途端転隊しちゃうってのはね…。
狛村君は東仙隊長と仲良いから当然受け入れなかっただろうし、ボクの予想では少なくとも二番隊と四番隊、十二番隊以外は全部当たったんじゃないかな?」
「―――――」
さくらは十三番隊(ウチ)に来たくて転隊を申し出たわけではなかった。
浮竹はそのことに少なからず動揺した。
「ま、キミのことだ。能力で判断したんだろうが、時に噂話に耳を傾けることも必要だね」
隊の結束を重視する十三番隊に似つかわしくない彼女を受け入れてしまったと、浮竹に遅れ馳せながら忠告した。
9
「そんなの――関係ないだろう」
「関係ないって、浮竹…」
関係ない。
悔しそうに無言で訴える浮竹に、京楽はそれ以上何も言い返せなかった。
関係ない。
俺が
さくらを好きなのには、そんなことは全然関係ない―――。
「…参ったね」
恐らくは今、初めて自分の気持ちに気付いたであろう友人に付ける薬はないと京楽は呆れ、同情した。
「――キミが惚れちゃう前に、釘を刺そうと思ったのにさ……」
10
「隊長、失礼します」
京楽が去ると暫くして、茶を片付けに再び
さくらが雨乾堂に現れた。
いつもならにこやかに目を合わせてくれる浮竹が一点だけを見詰めていれば、様子がおかしいのは一目瞭然であった。
「どうかなさったんですか?隊長」
京楽の分を盆に乗せ、浮竹の茶を下げる前に
さくらは声をかけてみた。
浮竹は深呼吸するように顔を上げた。
「
天宝院。お前はウチでなくとも転隊を受け入れてくれるなら何処でも良かったのか?」
「――――」
十三番隊の隊士となって一年以上経った今頃になって、それを訊かれるとは
さくらも思ってもみなかった。
「…すみません。あの時は死神を続けることしか頭になくて―――」
「…………」
何故、それがこんなにも悲しいのか
浮竹も今でなければわからなかっただろう。
11
「でも隊長が転隊を受け入れてくれた時も僅か半年余りで席を与えてくださった時も、本当に、本当に嬉しかったんです。以来隊長の役に立とうって、十三番隊の隊士として恥ずかしくないよう仕事をこなしてきたつもりです」
さくらは十三番隊を追われるとでも思っているのか、必死で訴えた。
訴えられれば訴えられるほど、浮竹は空しさが込み上げてきた。
「俺は…お前が離縁した理由を知らないし、知りたいとも思わなかった」
はい。と
さくらは涙を流した。
仕事とプライベートを切り離し、実力を評価してくれ夫との諍いを一切問わなかった浮竹。
さくらには何より温かく受け入れてくれた十三番隊と浮竹。
しかし理由を知った今、浮竹も自分を見下したと
さくらは部下としても女としても、涙を堪えることはできなかった。
12
「隊長―――、わかってくださいと言いません。ですが聞いてくださいませんか……?」
ああ、もういくら言っても無駄なのに
空しいだけなのに。
「わかってないのは、お前だ」
ほら、
心なんて
言葉なんて
絶対に通じないのよ……。
さくらの目に浮竹は映っていなかったが、別れた夫と同じ言葉、同じ状況だと体から力が抜けていった。
「何故もっと早く俺に言わなかった。それよりもまず、何故もっとご亭主とよく話し合わなかったんだ。そうすれば」
縒りを戻すことも九番隊に残ることも、出来ただろうに――――。
浮竹は、事情も知らずに
さくらを受け入れた自分を責めていたのだ。
13
「隊、長……?」
さくらには、浮竹の思いは伝わっていなかった。
「俺はお前達が納得の上で別れたんだと思っていた。ならば俺が口出しすることじゃないと。だが、原因はともかく…」
「子供っ」
さくらは諭そうとした浮竹を遮って叫んだ。
「子供を育てるのに、死神を辞めろって言うんですよ?」
浮竹が悪いわけではないとわかっていたが、一度込み上げてきた感情を飲み込むことは出来なかった。
「子供の世話を私に押し付けておきながら、親権は渡さないって言う男(ひと)だったんですよ?」
二人の子供のことなのに、最初はただ相談したかっただけなのに。一方的に……
「仕事も子供もどっちも欲張る私が悪いんですか?どちらかを選ばないと、女はダメなんですか?」
私の人生なのに、私が決められないなんて――
14
「
天宝院…」
わああーっと、顔を覆って大声で泣き出した
さくらの肩に浮竹は手を置いた。
「俺の勝手な推測だが、ご亭主はお前もお子さんも大切だったんだ。だから子育てに専念してほしいと願ったし、子供の親権も手放したくなかったんじゃないのか?」
「う―――」
夫の言葉は、そんなに優しくなかった。
けれども浮竹の推測は、肩に触れている手は、優しく温かく心に沁みてくる。
「ご亭主がちゃんと話してくれなかったというなら、確かにそれは悪いだろう。だが、何も離縁までせずとも…今まで築きあげてきた地位まで捨ててしまうまでしなくとも、何か手立てはあったんじゃないのか―――?」
「隊、ちょ…う」
さくらの涙は肘まで伝い流れていた。
15
あれから数ヶ月が過ぎていた。
ぽ~ん
ぽん
ぽーん…
その日、浮竹は宿舎の庭で聞きなれない音を耳にした。
ぽんぽん…
コロコロコロコロ
近づいてくる音に部屋から覗いてみれば
ぽーん ぽん
ぽんぽん…
子供が鞠を突いて遊んでいる。
自室で書き物をしていた浮竹は戸口から白い髪を垂らしながら、その子の様子を眺めた。
16
転がった鞠を拾い、もう一度突こうと顎の辺りまで鞠を持ち上げて漸く浮竹に気付いたようだ。
動きが止まる。
そしてじっと浮竹を見た。
笑顔でなく
驚いている様子もなく
ただ、じっと浮竹を見ている。
にこっ
浮竹が笑うと
にっ…こ
釣られて子供も笑った。
笑ってもらえればもう大丈夫だ。
浮竹は傾けていた体を正し、座ったまま廊下ににじり出るとチョイチョイと手招きした。
なんだろう…
子供は興味を惹かれ、近づいてくる。
17
身なりからして上級貴族の子供だとはすぐに察しがついた。
しかしこういう時浮竹は素性を知ろうとか考えはしない。
子供と対等に向き合い、何かワクワクするようなことはないかと愉しみを探す性分だ。
つまり今はこの子をどうやったら愉しませられるか、もっと笑顔にしてやれるか思いを巡らせている。
その気持ちは素直に表情に表れるのか子供が機敏に感じ取るのか、浮竹は警戒されたことがなかった。
高いところからだが、座っている浮竹は普通の大人の目線に近く、子もさほど違和感を持っていないらしい。
無表情に近づいてきた子供ににこにこと浮竹は話し掛けようとした。
「…ちよ」
「うん? …ああ、君の名前か」
話しかけようとした時に子供が口を開いたので、浮竹は一瞬何のことかわからなかった。
「ちよ」
子供はまた同じ言葉を繰り返す。
「ちよ、おいで」
浮竹が手招きすると、タタタと更に廊下まで近づいてきた。
18
「少し待ってられるか?」
浮竹が尋ねると、子供はこくんと頷いた。
部屋に一旦戻った浮竹が再び姿を現すとその子に両手を出すように言い、懐紙に包んだ菓子をその手に乗せた。
小さな紅葉の上に山盛りになった菓子に目を見張り、少女は必死で水平を保とうとする。
「これは…そうだな」
再び文机に向かい、紙縒り(コヨリ)にサラサラと筆を走らせた。
「これはちよのだ。俺の名前を書いておいたから、誰からもらったのか訊かれたらこの紙縒りを見せるんだぞ」
浮竹は少女が誰から菓子をもらったのか伝えられず叱られたり菓子を取り上げられたりせぬよう、自分の名を書いた紙縒りで懐紙を結んだ。
「…ちよ?」
「そう。ちよのだ」
もらっていいのか躊躇っている少女に、浮竹は飛びっきりの笑顔を見せた。
19
「ちよ…ありがと」
「ありがとうも言えるのか。ちよは賢いな」
褒められたのがわかったのかニッと唇を広げると、少女は片手で鞠を抱え上げ懐紙を摘まんだもう一方の手を振った。
「ちよ、ばいばい」
「ああ、バイバイな」
やはり女の子は可愛いものだなあと心が温かくなる。
「それにしても。一体誰の子だろうな…」
十三番隊の宿舎で遊んでいるのだから、ウチの隊の子だと思うのだがどうしても思い出せない。
いや、思い出せないのではなく知らない子供なのだ。
十三番隊の隊士の子でありながら、未だに顔を知らないとすれば唯一人……。
「―――ちよは、
天宝院の子か……」
そういえば何処となく似ている気がした。
あの少女が
さくらの子であればいい。
その不思議な期待の理由を、浮竹も自覚している。
浮竹は何事もなかったかのように、再び文机に向かった。
20
「隊長、お休みの日に申し訳ありません…」
半刻ほどして、その期待は当たったと呼ばれた声で知る。
「どうした?
天宝院」
さくらは手に持っていた紙縒りを無言で見せた。
「ああ、あの子は
天宝院の子か」
何処となくお前に似ているなとか茶でもどうだとか、浮竹は
さくらが礼だけ言って帰ってしまわぬよう話しかける。
さくらが雨乾堂で大泣きして以来、二人だけで話すのはこれが初めてだった。
21
「あれからご亭主と話し合ったか?」
さくらは目線を落とすと、静かに首を振った。
夫婦のことは、夫婦にしかわからない。
さくら達夫婦の縒りが戻るといい、というのは嘘ではない。
「私が席官になったら親権について話し合うと言ってくれたのが、最後のまともな会話でした。実際になってみると子供の奪い合いでまた―――」
「…そうか」
夫婦だからこそ上手くいかなくなることも、あるものなのだろう。
もし
さくらがまた誰かと連れ添いたいと思うなら、俺はその誰かのうちに入らないかと思うのも本心だ。
「私の生活が安定していると漸く認められて、正式にあの子を引き取ることが出来ました。これも隊長のおかげです」
「俺は、何も――」
まっすぐに見て礼を言う
さくらは眩しかった。
「隊長は何故言わなかったとおっしゃいましたが、やはりあの時私に根掘り葉掘り尋ねなかった浮竹隊長だからこそ…十三番隊だったからこそ、今の地位は実力として認められたんです。
もし泣き崩れて訴えていたりしたら同情を買っただとか女を武器にしたとか陰口を叩かれていたに違いありません」
間違ってはいない。
後悔はしていない。
さくらは自分に言い聞かせるかのように、感謝の言葉と共に浮竹に語った。
22
涙が枯れるほど泣き明かした後のように、何処か寂しげだったがすっきりした笑顔を見せる
さくらに安心して茶を口にしていた浮竹が、突然顔を上げた。
「あ、ちよ。いいのか?」
「―――はい?」
さくらは何のことかわからないという顔をする。
「子供を、一人にしておいて良かったかと思ってな」
「…乳母が面倒を看てくれていますから。今頃はお昼も食べ終えているかと思います」
浮竹の問いに
さくらはそう答えると、母親失格ですよねと自嘲した。
「それでも慕ってくれてるなら、ちよにとってはいい母親だろう?」
そう言って笑う浮竹に、
さくらは益々怪訝な顔をした。
「あの、隊長―――」
「お、ちよ!」
浮竹は縁側から覗いている少女に気付くと名を呼んだ。
さくらが後ろを見ると、確かに自分の子供が居る。
23
「お母さんが恋しくなったのか?ちよ」
浮竹の問い掛けには反応せず、少女はくるりと背中を向けると地面にしゃがみ込んだ。
さくらは向き直り、先程言いかけたことを浮竹に告げた。
「隊長、申し訳ないのですが私の子はちよという名前ではありません」
「―――違うのか?」
「はい。
琉磨と言います」
「
琉磨……」
浮竹が思い返しても、一度もそのような言葉を言った記憶はなかった。
「そうか、済まん。俺の勘違いだ」
浮竹は頭を掻いて謝った。
24
それはいいのですがと
さくらは断りながらも
「あのう、どうして
琉磨の名前をちよと思われたのですか?」
と、勘違いした理由を尋ねた。
「さっき
琉磨がちよと呟いたんだ。だからてっきり自分の名前だと……」
その話を
琉磨がどれだけ理解できているのかは二人にはわからないが、くるりとこちらを向くと
「ちよ」と、また言った。
「な?」
「………」
さくらは暫し考え込んでいた。
暫く
琉磨を見ていると、また「ちよ」と言い今度は続けて「しゅき」と言った。
「 あっ!! 」
さくらは急に大声を出した。
25
「ちよ、しゅき!」
「
琉磨!!!」
さくらは慌てて庭に下り、
琉磨の口を塞ごうとした。
どうしたんだ?と浮竹が尋ねても、
さくらは何でもありませんと言うだけだ。
「ちよ、しゅき…」
「
琉磨!黙りなさい!!」
「…しーっ」
さくらは酷く慌てていて、嫌がる
琉磨を抱きかかえてこの場を去ろうとした。
「おいおい。何をそんなに…」
折角庭で遊んでいるのにと浮竹も庭に下りてきて、
さくらから逃れようとする
琉磨を抱き上げた。
「ちよ、しゅき」
抱き上げた
琉磨が浮竹を指差し、また同じことを言った。
さくらは真っ赤になって俯いている。
26
「ちよ、しゅき…」
「ちよ…。ちよって、もしかして隊長…俺のことか?」
わかってもらえたのが嬉しいのか、
琉磨はまたニッと笑い「ちよ、しゅき」と繰り返す。
「そうか。それは俺が好きってことか?」
浮竹は再びにっこり微笑む
琉磨ににっこり笑顔を返した。
琉磨がどうして浮竹を隊長と知っていたのかは定かではない。
だが
琉磨がその言葉を覚えるには、きっと身近な相手が何度も口にしていたと考えるのが妥当だろう。
「俺も
琉磨が好きだぞー」
そして
さくらも―――と、浮竹が告げられる日は
「あ…、あのっ。隊長…///」
さくらから浮竹に告げる日より
早いだろうか
遅いだろうか
それとも――――。
fin*
************************************************最初は言葉の掛け合いをしようと書き始めたのに、紙縒りと縒りの掛け合いになってしまいました。f^_^;
シリアスで甘く、やっと喋れるくらいの子の母である
さくら様と相思相愛だけどお互いの気持ちに気付かない…というようなリクエストだったかと思うのですが、書き切れていましたでしょうか?
九番隊での席は梅定敏盛さんより上にしました。(笑)
あと、「ちよ、しゅき」は「隊長、好き(です)」の意味だと、本文中でわかっていただけたでしょうか~?
愛と誤解をテーマにお送りしている風*花*雪*月です。
リクエストありがとうございました。
2008.11.19
花の護廷十三隊〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月