「卯ノ花隊長――!!」
ルキアは朽木白哉の告白を聞いて込み上げてきていたものが、一気に失せた。
義兄の意識が失われたのだ。
ルキアの叫びを聞くまでもなく朽木が限界であったことを知る卯ノ花はその場で処置に入った。
「義兄様!義兄様はっ!?卯ノ花隊長、義兄様は大丈夫なのでありますか!?」
卯ノ花が朽木から視線を上げるや否や、ルキアは説明を求める。
「あなたへの謝罪が済んでいないことだけが心残りだったのでしょう。気が緩まれたのですね――」
卯ノ花の表情はさほど硬くなかったが、言葉には不安が滲んでいた。
「私の処置が済み次第、詰所に朽木隊長を運べるよう手配を頼みます」
「はい!」
卯ノ花の処置が暫くかかるであろうことを告げられた四番隊席官らは迅速に行動した。
藍染らが去るものの静まらぬ騒動の中
今から最も多忙で過酷なのは四番隊の隊員達であった。
end of hypnosis:朽木編
1
「―――義兄様」
朽木の耳に、義妹の声がこだまする。
『…済まぬ…………』
闇の中で、ルキアの呼ぶ声に
唇は動かぬが心から詫びた。
「義兄様…」
私を責めているのか…と、朽木は耳を傾ける。
『済まぬ、ルキア……………』
ルキアからは罵詈雑言を浴びせられるわけでも怒りを含んだ言葉が返ってくるわけでもない。
それどころか義妹の声には責めている気配もない。
2
「…義兄様」
「義兄様…」
「義兄様」
『ルキア……………』
「白 哉…」
「…白哉様」
『……………』
ルキアの声だと思っていた。
しかし私を名前で呼んでいるその声は?……と
朽木は己を白哉と呼ぶ女の声に耳を傾けた。
3
「白哉様」
『…緋真、か………』
ああ…。
妹をどうして見捨てようなどと思ったのだと叱責したくて、其方は現れたのか。
声の主は亡き妻だと、朽木は心で語りかけた。
「白哉様」
『緋真、其方は…………私を許せぬか―――』
当然であろう。
今際の際にあれほど望んだ最期の願いを、事も無げに貴族の誇りと天秤にかけて放り出した私を、許せるはずもない。
自分に答えない女の意思を肯定しているものと捉える。
「白哉様…」
しかしその声は憎しみよりも悲しみ、悲しみよりも何処か不安げに呼びかけてくる。
4
『許して、くれる のか……………?』
一縷の望みをかけて、そう問うてみた。
「朽木――」
温かなぬくもりが、体を包み込む。
私を、許してくれるのか…?
其方の許へ私は旅立とうとしているのか?
その問いかけは言葉にはならず、せめてもと妻の名を口にしようと喉を震わす。
『……緋真』
それがこの罪の償いに相応しきこととは思えぬが、其方が導いてくれるというのか…。
5
「朽木―――…」
胸に耳にこだまする柔らかく温かく慈愛に満ちたその声の主に、朽木は呼びかけた。
『緋真』
しかし今まで包み込んでいた緋真の甘酸っぱい梅の香は段々と薄れ、
まだルキアを護ってやれなかった自分をどう思っているのか緋眞は答えてくれぬうちに消え去ろうとしている。
朽木は必死で瞼に力を込め見開いた。
すると朽木の目の前には千本桜が襲い来ていた。
己の刃で最期を迎えるとは、如何にも私らしい。
この刃は緋真が突きつけたものなのかと
時に群れ時に散らばるそれらを無抵抗に眺めているうちにも千本桜の波が四方八方から朽木に迫り来る。
そして朽木を捉え
「緋―――真…」
足下から包み込んだ千本桜はそのまま朽木を持ち上げた。
6
グングンと真っ暗な天にぶつけられそうなほどスピードを増す。
スピードを増すに連れて掌にぬくもりを感じ、何かとその手を見ようと顔の前まで持ち上げるつもりが頭上まで引き上げられるかのように己の腕が耳を掠めてピンと伸びた。
そして
そのまま
暗天を貫き――――
「……お気付きになられましたか?」
朽木を光ある 尸魂界へと
導いていた。
7
「……
さくら」
朽木は此処が四番隊の一室であると気付き、自分に声をかけた者の名を口にした。
「はい。四番隊の
天宝院さくらです。朽木隊長」
さくらは小さく口許を綻ばせると、朽木の意識がしっかりと戻ったことを喜んだ。
「―――付き添ってくれて…いたのは、其方なのか? ずっと……」
声は…
あの柔らかく優しく温かく
我が罪を許してくれたのは、緋眞ではなかったのか………?
朽木は安堵とも失望ともとれる吐息と共に
さくらに尋ねた。
8
「私は何も。卯ノ花隊長がお力添えくださったおかげです」
さくらはもう一度柔らかな笑みを見せると宜しいですかと断り、朽木の脈や心拍数を計った。
さくらが捲った袖口や開いた襟元から一護との決死の戦いの痕も市丸に貫かれた斬魄刀の傷口も手当を受けているのを朽木も自ら確認する。
「…恐らくこれ以上卯ノ花隊長のお力を借りる必要はないと思われますが、お目覚めになったご報告がてら指示を仰いで参ります」
さくらは朽木に上掛けを掛け直すと、椅子から立ち上がった。
9
「私は…何か、譫言(うわごと)を言わなかったか?」
自分から離れようとする
さくらに、朽木は渦巻く疑問を投げ掛ける。
「何も――」
真っ直ぐに朽木を見て、
さくらは答えた。
「真か?」
しかし今一度朽木は問う。
声に出した自覚があるのだと
さくらも解した。
「正確には、聞き取れませんでした。私には唯"さ"としか…」
知り得る限りのことを話した。
そのほうが朽木が安心できるのであればとの思いだ。
10
「桜…」
朽木の視線は
さくらを捉えたまま、呟く。
「千本桜が私に向かって来たのだ…」
「………」
「そうして天高く押し上げられたかと思うと、此処に居た…」
「然様、でしたか…」
傷は勿論だが、どう戦ったらこんな霊力の消耗の仕方をするのかわからぬ状態で朽木は運ばれてきた。
その所為か卯ノ花の処置で命は繋ぎとめられているはずだが意識が戻らず席官は勿論のこと隊長格らの治癒の域を超えていると
さくらは告げられていたのだ。
朽木の気力の問題であることを卯ノ花は
さくらには告げることなく、残るは医術に長けた
さくらに全ての希望を委ねていた。
11
「…導いてくれたのは、緋真だったのかも知れぬ………」
「奥様のことですね…」
呆然と、しかし意識ははっきりとある眼差しを向ける朽木に、
きっとそうに違いありません。朽木隊長をお導き下さったのは――…
と
さくらは話を合わせ、ではと退室した。
戸が閉まり、
さくらの足音も霊圧も遠ざかると
朽木はゆっくりと腕を動かし、己の手を胸に引き寄せた。
「そして私の…この手を……」
まだ一護の斬魄刀を握った痕は血の塊の筋となって残っている。
「握って くれて、いたのは……」
目覚めた時から朽木に確信はあった。
「……
天宝院さくら。
其方だった―――」
あの闇の中で包み込んでくれていたぬくもりは亡き妻ではなく、
四番隊の隊着に身を包んだ
さくらであったと―――。
fin*
************************************************阿散井副隊長との付き合いが一年以上あった上で朽木隊長と
さくら様は結ばれた設定ですので、副隊長になったばかりの頃にあった藍染隊長らの謀反の時はこういう関係になるかと思います。
これなら風ゴテに置けるのに?と思われましたでしょうか?
理由はさくら様視点のストーリーをご覧ください。
どこに置いてあるかは……†枝垂桃の宮†にてお知らせしておきます。
お知らせしなくても、ご想像つきますかね?(^_^;)ご訪問ありがとうございました。
2008.09.03
花の護廷十三隊〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月