白哉は
さくらの前に座した。
その距離で、今夜は営みがあるのかないのかわかる。
さくらが白哉の心中を理解すると、それを見計らったかのように
白哉は
さくらの頬に自らの頬を近づけた。
互いの熱が感じられるだけか触れ合うかの微妙な距離で、白哉の顔が僅かに向きを変える。
音もなく
温もりだけを伝える
ささやかな 唇の触れ合い
今日一日を思い起こしているような
長い時間
二人はただ そうしていた。
1
唇を食んだところで、まだ
さくらは白哉のしたいことを理解できなかった。
だから白哉も無理に舌をねじ込むような真似はしない。
夫婦の営みはできるのだから、後は時間をかけて互いの好みを知ればいいと、白哉は急いていなかった。
2
幼い口付けの後、
白哉の手が
さくらの頬や肩を掠め、背中に回る。
寝間着に触れる程度の抱き方はもどかしさを感じるが、それは
さくらの好みに合っていた。
夫の手の大きさやぬくもりを十分に感じられるようになると、
さくらは自ら白哉に身を委ね始める。
肩を首を頬を触れ合わせ、白哉の腕の中に収まっていく。
さくらが誘っているかのように。
3
夫の唇や頬や指や掌が自分を包んでくれるのは、心地よかった。
さくらにとってこの行為は、弟から与えられていたものと然程変わらない。
白哉もまた、
さくらが求めるのは幼い本能的な人のぬくもりであり、夫婦の営みではないと知っていた。
4
どこか 二人は似ていた。
高貴なる生まれの者同士だからか。
互いを互いに絡め合い、その存在を感じられるだけでも満たされる。
白哉に男の本能がないわけではない。
だが
さくらの心情を理解できる夫は、まずは妻を満たすことを優先した。
5
長い一日を、二人は互いのぬくもりを感じることなく過ごしている。
それを埋めるかのように
白哉は腕に抱き髪に触れ頬を撫ぜ、うなじに口付け肩を抱く。
その時白哉が最も感じるのは、
さくらはその体に似合わず古傷だらけの心をしている
ということだった。
6
理由など 知らない。
ただ、自分を求める腕も指先もその眼差しも
快楽を求める為ではなく
縋るような痛々しさをもっていた。
弱音を吐いたことのない妻に どんな過去があったのか。
衿を開き、その柔らかな胸に手を当てても、伝わるのは
さくらの鼓動と体温だけだ。
7
さくらは 濡らした。
頬を伝う涙は最初の時よりは細くなったが
満たされてくると長い上睫毛を押し上げるかのように澄んだ液体が滲み出し、
白哉がよき夫であることを物語った。
8
堪えきれなくなると
「白哉、様…」
さくらの雫は流れをつくり、褥に滲みていく。
震え泣く
さくらを白哉は優しく見下ろしながら、全てを受け止めてやった。
愛され 愛でられ
何不自由なく育った
やんごとない姫君の
さくらが身に纏うものを手放すまで知ることのなかった
白く清らかで 無垢な
痛々しい傷
9
「白哉――様…」
何を想い
何を感じ
何に涙し
私の名を口にするのか
いつか、語ってくれるだろうか。
訊かねば、言わぬであろうか。
「白哉、様――…」
愛しい妻
さくら、よ―――…
fin*
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花の護廷十三隊〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月