「無理だな」
「どうしても?」
「どうしても」
さくらは正座して両手をつき、前のめりになって弟の話を聞いている。
「おーい!
武礼ー」
阿散井が
武礼を誘いに現れた。
「…っと」
異様な姉弟の雰囲気に、阿散井はたじろいだ。
「何だァ?どうした」
姉の何かを拒んでいる、腕組みをしたままの
武礼に尋ねた。
「休みが合わないんです」
武礼は小声で説明した。
小声で阿散井に伝えたところで、
さくらには聞こえていた。
「違います」
さくらは拗ねて、
武礼の説明を否定した。
1
「
武礼が休みたい日に休めないんです。」
「俺は休めなくてもいいんだって」
休み以前に、意見が合ってないらしい。
「ったく。んなコトで姉弟喧嘩すんじゃねえ」
阿散井は二人の側に腰を下ろす。
内心は狛犬みたいに手をついている
さくらが、今日は手土産を持参していないのを残念がった。
武礼が当番の日で、今は休憩時間なだけだから致し方なかったが。
2
「でも、阿散井副隊長」
さくらは正座のまま
阿散井に向き直り、自分の意見を主張する。
「七夕の舞は、半年以上も前から日にちが決まってたんですよ」
それなのに、
武礼はその日に休みを申請してくれないなんてと訴える。
先程の
武礼と同じく、阿散井にずいずいと顔を近づける。
うゥ……
近すぎるって…
「んなコトばっか言ってらんないって」
六番隊死神としての自負のある
武礼は、舞だ何だという私事で非番を望む姉に付き合うことがおかしいと言いたいらしい。
「言えるもんっ」
思いっきり拗ねている。
3
「まあ、何だ。
さくら…」
阿散井が小さく咳払いをはさむ。
「七月の休みは、もう決まっちまったんだぜ。今更変更するのは」
「だからっ!」
さくらは更に阿散井に近づく。
「申請もしないで、今まで黙ってて。今更――」
さくらは阿散井に向いたまま、静かに涙を流した。
げエェっ!!
阿散井は動揺した。
さくらの涙が見えていない
武礼は大きく溜息をつく。
さくらの頬を静かに伝うものが顎まで達すると、阿散井の目の前にあった美しく悲しいその顔は音もなく
武礼の部屋を出て行った。
4
その態度に、
武礼が漸く気付いたらしい。
「…もしかして、
さくら姉泣いてました?」
「テメー、泣いてたに決まってんじゃねーかよっ!」
反応の遅い
武礼に阿散井は当たる。
「背中向けられてちゃ、わかりませんよ」
「顔見てねえくせに、泣いてたってわかってたじゃねーか!!」
「違います。顔も見せずに無言で去って行ったから、泣いてたと察したんです!」
今度は
武礼と阿散井の言い争いが 始まった。
5
バンッ!
阿散井が機嫌悪いままに戸を開けた。
「…恋次。もう少し静かにできぬのか」
「も、申し訳ありませんっ」
居るとは思わなかった朽木の姿に、阿散井は冷や汗を流した。
「ほらみろ、俺が怒られちまったじゃねーか」
「俺は何もしてません」
前で愚痴る副隊長の背中に
武礼は囁く。
「うるせーっ」
「煩いのは貴様だ、恋次」
また阿散井が叱られた。
納得のいかない阿散井は、
武礼の腹に拳を食らわしながら閉められたばかりの戸を開けて、
武礼を連れ出した。
そして廊下でまた、テメーが悪いだの何だのと大声を出さないように注意しつつ、
武礼に絡んだ。
6
「いい加減にしろと言っているのが、わからぬのか」
閉めたはずの戸の前に、朽木は静かに寒気を湛えて立っていた。
「このような場で見苦しい行為を曝す事を、私は許さぬ」
中へ戻れと言われ、二人は隊長に説教を食らう羽目になった。
どちらが説明するかでももめたが、当事者である
武礼が一通り朽木に何があったかを伝えた。
「恋次」
俺かよ?
「はい…隊長」
阿散井は渋々返事した。
「貴様は仕事に戻れ」
隊長の正しい判断に阿散井は機嫌よく返事をすると、
武礼に舌を出して席を外した。
7
朽木は
武礼を放置したまま、何やら書類の束を広げた。
「どの日だ」
朽木は
武礼に、問題となっている日を尋ねた。
開いた書類は当番表だった。
「…三連休ですよ?」
いくら平隊員とは言え、副隊長の小隊に所属する
武礼が易々ととれるものではなかった。
「どの日かと訊いておる。休ませてやるとは言っておらぬ」
手間を取らせるなと言いたげだ。
「七月六日です。六日から八日。三連休でないと、星詩青山の往復は」
「わかった」
朽木は
武礼の説明を遮った。
8
勤務表を片付け、朽木は自分の仕事を再開しようとして気付いた。
「何をしておる」
立ちすくんでいた
武礼に対し
「貴様もさっさと仕事に戻れ」
そう言うと、二度と
武礼と目を合わせなかった。
9
さくらと
武礼は同じ師匠に舞を習っている。
さくらは幼少の頃から、父よりも多く師匠と接してきた。
師匠・
武礼は
さくらを愛で、舞の舞台の度に華やかなる着物を新調させた。
「おぉ、
さくら。其方(そち)は何を着ても、よう似合うのう」
先の尖った十字が二つ重なった、星を表す模様が大小幾つも細かい点描で描かれており、天の川もまた同じ技法で
さくらの全身を流れている。
さくらにはあまり藍が似合うとは言えなかったが、星と天の川の銀色と帯より上には藍より淡い色を使うことで、藍が
さくらに与えるきつすぎる印象を和らげてあった。
10
「これなら千畳氏の衣装とも対を成すしのう」
武礼が参加しないため、今年の七夕の舞は昔から顔馴染みの千畳が彦星役を務めることになった。
さくらは、それも悲しかった。
相手が
武礼でないとか、そういうことではない。
恒例の季節舞なのに
武礼は
さくらに参加しないことさえ、教えてくれなかったのだ。
伯楽には随分前に伝えてあったのにだ。
11
休みが取れないなら取れないと、どうしてもっと早くに教えてくれなかったのか。
休暇申請を締め切った直後に自分の当番の日に呼び出し、休憩時間のほんの短い間に伝えてよしと考えた
武礼が………独りで何もかも決めてしまった弟に―――
謝りたかった。
弟の誕生日に共に舞う
それで
武礼も喜んでいると思っていた
情けない 姉
自分は
愛想をつかされたのだ。
弟にさえも……
「手直しは十分だったか?」
伯楽は、お針子が説明を終えたのを見計らって声をかけた。
「では、衣装箱に」
さくらは着慣れぬ色の裾を翻し襖の向こうへ姿を消すと、普段着に着替えた。
→Writer's notE→→
************************************************星詩青山は仮称のつもりでしたが、これ以外の名前を思いつきませんでした。
最初から「青山ってお墓のことじゃん!」って思いつつ、とりあえず打ち込んでました。だから読みも考えてません。(-_-;
どうしようかと悩んでいたら、
「死者の世界のこと。青山はふさわしいではないか」
と、また某キャラが勝手に発言し、そのままUPしてしまいました。
私に何か憑いてますか?
確かに霊媒体質ですけどね。
BLEACHのキャラにはお会いしたこと無いなぁ。
天宝院さくらでした。
朽木隊長 風⋆花⋆雪⋆月