三月下旬
そろそろ桜が花見に相応しく花開き始めた頃
その演舞会は開催される。
白哉が
さくらを初めて見知った演舞会である。
昨年は清家と共に縁談業者の綿貫が白哉について来ていた。
今年は誰も供を連れず、白哉は桜の木の下に佇んでいる。
牽星箝を外し髪を結わえ
懐に扇を挿し
眼の色に映える袴姿で。
1
今日の舞もまた、
武礼が相手ではないことは
さくらも承知していた。
しかし一度も稽古で顔を合わせた事もなく、昼過ぎに漸く姿を現した男に当惑していた。
本番まで相手が白哉だと知らされていなかった
さくらは息が合うのか、不安に駆られているのだ。
せめて早朝のリハーサルに白哉が付き合っていれば、今こんな顔をして白哉を見上げてはいなかっただろう。
しかし白哉は隊首業務を放棄してまで来る男ではなかった。
出番まで、あと二組と迫っている。
結局二人は そのまま
武礼が次だと呼びに現れるまで、ただ 見詰め合っていただけだった。
2
琴の音が弾かれ
小さく鼓が応える
琴の音が弾かれ
笛がそれに囁き返す
春 桜の精が目覚める
春とは言ってもまだ薄ら寒く、堅い蕾のまま
桜の精は眠り心地のまま体を起こしていく
~ゆるゆると
さくらは舞って見せる~
其処へ一人の男が現れる
男は桜の一枝を切ろうと刃先を向ける
~白哉の鋭い視線だけで、観客は扇を刃と見紛うほどだ~
桜の精は驚き嘆き、
~
さくらは悲しみの舞を舞う~
3
男が枝を掴み
~白哉が
さくらの手首を掴み~
桜の精は覚悟を決める
~
さくらは項垂れ、舞を止める~
しかし男は何故か切ってはならぬ感覚を覚え、しばし桜の一枝を眺めていた
~白哉は
さくらの手首を掴んだまま、力なく垂れた
さくらの手の甲を眺める~
桜の精は一縷の望みを見、男に届かぬ声をかける
~
さくらは白哉の手に自分のもう一方を添えて、放してくれるようにやさしく撫でる~
男は桜の一枝から目を離し、漸く桜の木全体を眺めた
~白哉は手首から顔を上げ、
さくらの全身をゆっくりと見遣る~
5
桜の精は男の眼差しに
この男になら切られても致し方ないと―――
それを恋ということさえ知らず―――
自分をもう一枝差し出す
~白哉と見詰め合い、
さくらは自分を美しいと思うからこそ切るのだと男を受け入れ、残りの右手も差し出した~
男は風にそよいで頬を撫でる枝と同様に掴んでいた一枝も放し
~
さくらは白哉の頬を撫で、白哉は掴んでいた手首を放し~
去っていく
~白哉が舞台から姿を消す~
桜の精は
その後の恋の苦しみに耐えかねて
いっそ あの男に切り倒されたほうがどれほど楽だったかと
~
さくらが舞う~
舞って
舞って
一夜
舞い続けて
桜の精は花を満開にし
動かなくなった
~
さくらが舞台に伏す~
翌朝 再び現れた男は
~白哉 再度登場~
一夜にして満開になった不思議な桜に驚き
ひとり呟く
~淡い桃の波に伏していた
さくらを白哉は腕に抱き
囁く~
6
屋敷の間に飾るより
美しいそなたが
咲き乱れる日まで
私が通おうと誓うたのに
一夜かぎりの命とは……
~白哉が
さくらの胸に顔を埋める~
その声が桜の精にも届き
来年こそはと願う
~
さくらは白哉の腕をすり抜け、軽やかな舞を見せる~
男は桜の木が待っていると言ってくれたような気がして
~白哉は空白の腕を戻し、
さくらを見上げる~
7
立ち上がり桜の木にふれた
~白哉も立ち上がり
さくらの手をとる~
そうして
桜の精はまだ知らなかった名前を知る
それが恋である と
さくらと白哉はためらいながらも互いの手を絡ませ視線を交わらせ、初々しい二人を舞ってみせた。
さくらの鬼道と白哉の手掌に操られる桜の花びらは客席まで届き、より一層観客を舞台に引き込んだ。
舞台が大成功を収めたのは言うまでもない。
8
「見事だった」
牽星箝を嵌めた白哉は、普段着に着替えた
さくらに会うなりそう告げた。
この男が護廷十三隊の隊長の任務だけでも想像に難くない重責と拘束に加え、一体いつ舞の練習をしていたと言うのだろうか。
決して裏を見せず、華やかに表舞台を彩るその努力。
これぞ貴族の証
正に四大貴族の一
さくらはおじぎをし、「朽木隊長のおかげです」と礼を述べた。
白哉に対する尊敬の念を
さくらは一切隠さなかった。
→Writer's notE→→
************************************************朽木隊長、またしても見せ場です。格好いいvV
武礼師匠の舞は尸魂界では斬新で、風変わりなものです。
だからこそ
さくら様に舞わせて広めようとしているのです。
舞と言うだけあって、踊りほど激しくありません。セリフもありません。
如何に表情と目線と仕草で観客を惹き付けるかが腕の見せ処です。
一目で朽木隊長を惹き付けた
さくら様が如何に舞姫か、おわかり頂けたら嬉しいです。
朽木隊長、先程から何もおっしゃりませんが、宜しいのですか?
(ずっと隣にいた)
朽:補足すべき事は特にない。
さ:今回の後書きは、いたくお気に召しているようです。(安堵)
それでは
さくら様、引き続きご覧くださいませ。
ありがとうございました。
朽木隊長 風⋆花⋆雪⋆月