京楽が
さくらを指導し始めて一月ほど経っていた。
指導と言っても
さくらの非番に、京楽が七緒の目を盗んで会いに行っているだけだ。
さくらが
本気で斬魄刀を振るうことはなかった。
京楽は それが
最も恐ろしかった。
こんな少女が
戦い方を心得ている
それが 恐ろしかった
さくらは真央霊術院の卒業はおろか、学歴さえもない。
虚の退治の仕方はセオリー通りの平隊員なのに
それは隊長クラスの戦術だった。
1
どんなに強い相手だとしても
最初の攻撃で一割。
始解で二~三割の力。
卍解でも五割。
それが最大値とも言えよう。
それを知るかのように、
さくらは何度京楽と戦ってみても力を加減しているように見える。
いくら京楽が揺さぶりをかけても、
さくらのそれは揺るがなかった。
頭や理屈ではない。身体に刻み込まれた戦法だ。
よほど実践慣れしている。
こんなあどけない少女に
これほどの技術を与えた者。
それは父親以外に想像できなかった。
裏を返せば
さくらの父親はそれだけの実力を隠して上官の地位に甘んじているのだ。
斬撃に関して、
京楽が教えることは何も無いと判断した。
2
次に
さくらの瞬歩を知っている京楽は、修練場での鍛錬もそこそこに
秋晴れの爽やかな日に
課外授業に連れ出した。
さくらはいくら誘われても護廷十三隊から身内以外の者と外出したことがないと聞いていた。
靜霊廷内を独りで行動しているように見えても、必ず護衛がついているのだ。
京楽が連れ出したのは靜霊廷内でも護廷十三隊管轄の演習地域だった。
つまり隊敷地内ととれる、人気のない場所。
四番隊の
さくらは此処へ来るのは始めてだった。
だが本当に人知れず斬魄刀の解放を試みたい者などは利用している。
3
拓けた場所もあれば岩場ばかりの足元の悪い場所もあり、構造物はない。
存分に斬魄刀を振るうには都合のいい場所だ。
「じゃんけーん」
「「ぽんっ」」
さくらは京楽に教えられるまで、ジャンケンを知らなかった。
「
さくらちゃんの負けだね」
鬼が
さくらに決まる。
「じゃ…」
編み笠に軽く手をやると、京楽は姿を消した。
4
隠れることなく拓けた平野を殆ど一直線に瞬歩で遠ざかる京楽。
一度くるりと後ろを振り返れば、
さくらはもう
二間(約3.6m)まで迫ってきていた。
手を抜かずに自分を追いかけてくる
さくらに気を良くした京楽は、本気を出した。
5
前に大きく移動した
と見せかけて、
さくらの背後にあたる岩場に身を潜めた。
それは、
さくらは霊圧を本当に把握できないのかどうかも知りたかったからだ。
しかし
さくらは上空を見上げると、そのまま体も反転させて、京楽の後を追った。
参ったね。
速度で撒くことができない。それだけの瞬歩の技術があるということは動体視力も
さくらの方が上なのだ。
後は距離で引き離すしかなかったが、その点においては京楽が勝っているのはわかっていた。
「可愛い鬼さん、ついて来てねー」
だから敢えて距離で勝負することは避け、技と速度で
さくらと張り合った。
6
「おおっと!」
ぎりぎりまで
さくらを惹きつけ、着物にも触れさせずに瞬歩を繰り返す。
繰り返しているうちに
さくらは
あの瞬歩を見せた
枝を離れた
木の葉のように
地に舞い降りる
鳥のように
右に左に移動を繰り返すも滑らかな曲線にしか映らない美しい瞬歩
視界の端にその様を刻み込みながら、京楽は力強い瞬歩を続ける。
しかし……
「掴まっちゃったね」
完敗だった。
7
京楽の着物の端を掴んだところで、力で振りほどかれていた
さくらは
正面から京楽に向かい、
左袖と右衿を捕らえたのだ。
「掴まっちゃったね…」
同じ言葉を繰り返した。
京楽は敗北感を味わいながら、満たされた気持ちで
さくらの背中を抱いた。
柔らかな身体だ。
何処にそんな技を秘めているのか。易々と気付く者はいないだろう。
甘い香だ。
こうも瞬歩など長く使うものではないのに。
僅かに肌を湿らせて、
さくらの放つ香を
際立たせている。
小鳥の鼓動だ。
京楽の腕の中で羽ばたきを止めているが、その心臓は速さを増すばかり。
8
ああ… このコは……
女の子なんだね…。
「
さくらちゃんの勝ちだね」
額に口付けると
京楽は自分の腕の中で
首まで染めてされるがままに抱かれている
さくらを漸く解放してやった。
9
京楽は
さくらの瞬歩を褒め称(
そや)した。
それは本心からである。
だからいつものようなへらへらとした顔つきではない。
「私の瞬歩は本来の目的にはそぐわないでしょう?」
さくらは京楽の真摯な言葉に顔を曇らせた。
「
さくらちゃん?」
意味が分からずに、京楽は名を呼ぶことで説明を求める。
「瞬歩には大きく二つの目的がありますでしょう?ひとつは攻撃時や相手の攻撃をかわしたりするための近距離移動。ふたつめは遠方まで瞬時に到達する移動」
あっさりと言い放った。
「音を立てないやら滑らかに移動するなど、特に必要ないことなのです」
さくらは凛とした眼差しで、自分がいかに劣っているかを語り終えた。
10
寒気を通り過ぎて、
感動さえ覚える。
生まれ
育ち
思考
肉体
精神
全てにおいて
高貴なること
強くあること
それらを要求され
それに応えた
それが
天宝院さくら だ
参ったね。
京楽は 足掻くだけ無駄だと悟った。
さくらの魅力は半端なものではない。
さくらを侮った
自分が悪いのだ
ボクはもう
キミの虜
そう
観念するしかなかった。
→Writer's notE→→
************************************************京楽隊長が、心底
さくら様に惚れました!
浮:おーい!京楽の奴、何処行ったんだ?
恥ずかしくて、逃げてしまわれたようですね。
浮:恥ずかがることなんてないじゃないか。
さくらが本当に好きなんだろ?
そういうところはオープンなんですか?浮竹隊長。
浮:七緒にだって愛しいとか、京楽はいつも言ってるじゃないか。
京:…七緒ちゃんと
さくらちゃんでは言う意味が違うの!
浮:お、現れたぞ。
どうやら京楽隊長は本気のお相手には「愛しい」とかは言えないみたいですね。
京:そういう話はもういいじゃないの///
照れております。
浮:京楽が照れても、可愛くないな。
確かに。(キッパリ)
天宝院さくらでした。
京楽隊長〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月