「隊っ長ぉー!!」
「んー?どうしたの、七緒っちゃあん」
伊勢副隊長の額には怒りマークがはっきりと浮き出ていた。
「あいったああああぁ!!!!!」
京楽は目尻に涙を滲ませ、酷いよ七緒ちゃあんと呟いた。
「酷い!?」
八番隊副隊長は、ただでさえ多忙な新年度のこの時期にぼぉっと呆けている京楽にとうとう堪忍袋の緒が切れたのだ。
いつもならこれだけ怒りを露にすれば怯えて渋々ながらも少しはデスクワークをこなす京楽が、
全っ然 全く
ちいっとも 仕事をしてくれないのだ。
しかも七緒の怒りにも気づくことなく。
1
今だってこんなに捲し立てているのに、またうわの空……かと思いきや、
先程のがよっぽど堪えたらしい。
「ちょっと、救護詰所に行ってくる……」
としょんぼり肩を落として出て行ってしまった。
「私、ちょっと やり過ぎました……?」
柄にもなく反省する七緒がいた。
京楽は腕を擦りながら
―――――段々と足取りが軽くなっていた。
「
さくらちゃああん」
一般の綜合救護詰所には向わず、しかも直前まで足音を忍ばせて、
さくらのいる調合室を覗き込んだ。
2
さくらはもう少しで天秤の上に薬草を全部ぶちまけてしまうところだった。
「きょ、京楽隊長…」
恨みがましい目をして男を見遣るが、まるで悪びれた様子がない。
どうしても
さくらの頬は一瞬上気するものだから、怒ってみても伝わらないらしい。
さくらは作業を止めて、自ら調合室を出た。一々桃色の短衣に羽織った白衣を脱ぐ。
「どうなさったんですか?突然」
一応厭味のつもりだった。
しかし京楽は死覇装の袖を捲り
「これ見てよー」と嘆いてみせただけだった。
「!」
爪でちみぎられたのはすぐにわかった。
しかも毛深い京楽の腕の毛が何本か抜かれたらしく、爪痕だけでなく毛穴が真っ赤になっている。
さすがにこれは痛かっただろう。
3
さくらは塗り薬をつけてからその上を冷やしてやった。
「ありがとう、
さくらちゃん。優しいねえ」
自分の腕に氷嚢を当ててくれている
さくらに唇を突き出して言った。
「痛みは治まりましたか?」
「う…ん、まだちょっと痛いかな」
一体どうしたら勤務時間帯にこんな傷ができるのか、
さくらにはわからなかったので訳を尋ねた。
4
「七緒ちゃんがねー」
えっ、副隊長の爪痕だったんですか?
「ボクが
さくらちゃんのことばあっかり考えてるからさあ」
はぁ?
「やきもち妬いたみたいー」
………………………。
―えっ、 ええぇぇ――
―――――
―――――!!!!
京楽の言った意味を理解するのに随分時間のかかった
さくらは、既に相槌や返事のタイミングを逸してしまっていた。
5
長い沈黙とその表情
「
さくらちゃん、顔まあっかっかだね」
京楽の心中にこれは脈あり!?と期待が過ぎったが、今までも大なり小なりしょっちゅう
さくらが赤面していたので冷静に判断した。
さくらは そんなことを言われた事がなかった。
だからどう反応していいのかもわからなかった。
京楽は
さくらをからかうつもりはなかったが、彼女にこういう言葉をかけた事を反省した。
何しろ、
さくらはそのまま暫く動けなくなってしまったのだから。
6
さくらちゃん…………
ボクが
本気で君を愛したら
応えてくれませんか?
年甲斐もなく、京楽が心のままに想いを馳せた。
のは…ほんの一時
七緒に見つかり、拷問の如くとうとう仕事をさせられることとなる。
→Writer's notE→→
************************************************ありゃまι
京:ボクは本当の事言っただけなんだけどね。
上手く行きませんねぇ。
京:うーん。七緒ちゃんって、意外と妬きもちなんだよね。
え? いや、そうじゃなくて―――。
京:七緒ちゃんも可愛いけど、
さくらちゃんはもっと可愛いし。ボク、困っちゃうなぁ。
いいえ、伊勢副隊長は単に京楽隊長にお仕事していただいたいだけです って、話聞いてください。
京:よぉし、今度こそ二人っきりで愛を育もうね、
さくらちゃん!!!
あ……ι
作者の私は無視ですか…
天宝院さくらでした…
京楽隊長〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月