さくらと恋仲となる以前は、医薬品取扱詰所に現れた京楽は煩がられるように態とやっているのではないかというような態度だった。
結婚が決まってからも、公衆の面前でイチャつこうとする京楽を振り払おうとする
さくらを何度か目にしている。
結婚後も京楽は相変わらずだったが、少なくとも妻の職場で悪ふざけをするようなことはなくなった。
妻を迎えたことで落ち着きが出た…ということにでもしておこう。
だから浮竹が来所した挨拶を済ませ腰を下ろした頃、医薬品取扱専門詰所に現れた京楽が大人しく中を覗き込んでも、然程違和感はなかった。
1
双極を生み出すという護廷十三隊最重要任務を負った
さくらが、週に一度先輩の休日と浮竹の処方を兼ねて出仕する日。
ただ、今日はいつもとは違い―――
「―――待て、京楽!」
浮竹の制止も聞かずに京楽は医薬品取扱専門詰所を飛び出して行った。
「…憤慨なさったようですね」
はるかは自分の顔を見るなり踵を返した京楽の行動を申し訳なさそうに、浮竹に呟いた。
「憤慨。……ならばまだいいが――」
浮竹が口許に手をやり思案する。
「はい?」
娘の夫・京楽の気質を知らぬ
はるかはその意味がわからず浮竹の処方箋から目を上げた。
2
浮竹は
はるかに視線を戻し説明する。
「単に
さくらに会えなかったことに腹を立てて飛び出したならまだいいが、何故今日
さくらが出仕しなかったか。それをあいつに説明できますか?」
「そ、れは…」
「ああ見えて思慮深い男です。恐らくは俺と同じく
さくらが出仕できないほど疲労していると考えたに違いありません」
自分もまた、急遽
さくらの母親が代理で現れた原因をそう踏んでいると告げた。
「――――…」
さくらは
はるかの性格を見事に受け継いでいる。
そう感じさせるほどに、
はるかの反応は仕草も表情も
さくらを思い起こさせた。
「――では、京楽隊長は……」
そしてそれだけの説明で、この後京楽がどんな行動に出るかを長年付き合いのある浮竹同様に、
はるかが想像したことを知るにはこの言葉だけで十分だった。
3
ツバメには、もう後ろがなかった。
これ以上下がれば門番に重ねさせた警杖に自分の背が当たる。
「旦那様、なりません!」
「…退くんだ」
四番隊の医薬品取扱専門詰所を飛び出したその足で
天宝院家に向かった京楽の言葉には、手荒なことはしたくない。その意味合いが含まれていたが、京楽の表情にも霊圧にも一切の容赦は感じられなかった。
「いかに旦那様とはいえ、お通しする訳には参りません!」
京楽も馴染みの侍女
ツバメ。彼女は門前で主の夫を足止めしようと孤軍奮闘していた。
4
「…誰の許可が要るっていうんだい?ボクが
さくらに…自分の妻に会うのに」
睨みつける視線が冷め、見下ろすように僅かに瞼が目を薄っすらと隠すと
「 ! ―――クッ」
一気に霊圧を上げた京楽に、
ツバメはその場に崩れそうになった。
天宝院家の者は
さくら以外誰も在宅していない今、京楽と
さくらを面会させるかの判断は
ツバメにかかっている。
屈強な門番二人が仁王立ちしようとも、彼らには
さくらの夫である京楽を腕力で押さえ込むことはできない。
5
「――ぁ、 旦、那さ…」
ツバメの意識が遠のき、途切れる矢先
「俺が話を伺います」
天宝院家長男、
さくらの弟である
武礼の言葉が静かに京楽の霊圧を下げさせた。
ゆっくりと声を掛けた主を視界に入れると、京楽は新たな敵を見るような視線を編み笠の奥から射る。
「………」
「お久しぶりです。京楽隊長…」
今日は恐らく
さくら以外の
天宝院家の者は全員が護廷十三隊に勤務しているのだろう。
だからこそ
ツバメは会わせてはならないと言われていたボクへの対処に困っていたはずだと、京楽は突然現れた義弟の存在を訝しんだ。
6
「
ツバメ。
さくら姉に会わせるかどうかは別として、京楽隊長にもて成しを」
両者の妥協点を取り計らう
武礼は、次代当主としての風格を醸し出していた。
どうぞと、今まで無駄な問答を繰り返していた履物の跡をすんなり
武礼は過ぎて行く。
邸内に入れさえすれば、隙をついて
さくらを捜し出せる可能性はある。
あわよくば
武礼の同意を得て面会に漕ぎ着けられるかもしれない。
京楽は大人しく、
武礼の案内に従った。
7
「…どうして、キミが此処に?」
さくらほどの腕前ではないにしろ、
武礼に口に合う茶を振る舞われると京楽にも余裕が生まれ、まずはそのことを尋ねた。
「…母が、貴方を憤慨させてしまったと連絡して参りました故」
そこまで告げると
武礼もまた茶で唇を湿らせた。
「憤慨。ね…」
京楽が僅かに苦笑する意味を
武礼も知っていた。
彼が怒りで
天宝院家にやって来たのではない。
唯――
「唯、ボクは
さくらちゃんの身に何があったのか知りたかっただけなんだよ」
当番を代わってもらわねばならぬほどのことが妻の身に起こった。
それが何なのかを知りたいだけなのだ。
8
碗を卓に戻すと、
武礼は正面に座する京楽をしっかりと見据えた。
「姉の任務が現在護廷十三隊での最重要任務であることは京楽隊長もご存じのはず。口外することもお見せすることも致しかねます」
さくらが母の性格や仕草を受け継いだように、
武礼のこの眼差しは父のそれを受け継いでいるんだねなどと考えながら、京楽は目的を忘れなかった。
「ボクは任務になんて興味はないんだ。全然。
唯
さくらを案じている」
それは任務の妨げになることじゃないよねと続けた。
「姉の状態を報告することは、任務の妨げになります」
どのような手段で双極を完成させるのかを公表しない限り、本当に
さくらの状態を知ることが任務の妨げになるかどうかは
天宝院家の者の判断次第だ。
9
さくらが京楽と縁のできた事を知った時から二人の間を邪魔するようなことは一切なかった
武礼。
今まで義弟と然程親しくしてきたわけではない京楽だが、常に姉を想うこの男を落としさえすれば穏便に
さくらに会うことは可能だ。
「
武礼クン。愛する者の身を案じるって、そんなにおかしなことじゃないよね?」
更にこの姉弟は顔立ちだけでなく情に弱い部分も似ていると、数える程度しか会ったことのない義弟の性格も見抜いていた。
10
京楽の下手に出た甘えるような声に裏があると思うほど、
武礼は疑い深い性格ではなかった。
「大丈夫です。姉は本日お休みをいただき、ゆっくり休養しております」
「それじゃあ、さ」
かかったと表現するのは言葉が悪いが、京楽はそんな心中の片鱗も添えない笑顔を見せた。
「任務中でないなら、夫のボクが会っても何ら支障はないでしょ?」
「―――…」
「寧ろ休みなら、お互い会いたいって思うほうが普通だよねえ」
恐らくは駆け引きなど経験したことない義弟を相手に京楽は会わせられない理由は何なのか、それを自分に告げなければならない状況へと追い詰めていく。
「京楽、隊長―――」
武礼が言葉に詰まった。
11
「…愛する夫(ひと)に自分の疲れた姿を見せることほど、女にとって辛いことはありませんもの」
ふわりと…これまた
武礼が現れた時と同じく気配も足音もしなかったが、
はるかの登場の仕方には柔らかみがあった。
浮竹への処方を済ませ、急ぎ邸に戻って来たのであろう。
はるかは京楽の近くに腰を下ろした。
「
さくらは今、貴方にお会いすることを望んでおりません。
勿論会いたい気持ちはありますが夫に美しい自分しか見せたくない女心、わかっていただけますでしょう?」
その表情がどれ程
さくらを思い起こさせるかの自覚はないらしく、母は引き下がってくれるよう懇願した。
12
「―――わかりました」
溜息混じりにそう答えた京楽に、無垢な母親もまた緊迫した意識を緩めた。
「ですが――そんなことぐらいでボクの
さくらへの気持ちが薄らぐとお思いですか?」
この家族は純真すぎる。
「
さくらが辛い時。一番傍に居たいじゃないですか。たとえボクじゃあ何の力に、なれなくても―――」
殊更真摯に訴える中に愛があれば、同情を買うのは容易かった。
13
「会わせてもらえるまで、いくらでも待ちます」
京楽がそう宣言した後、一刻と経たぬうちに
さくらの眠る部屋の前まで案内されていた。
さくらを起こさぬようにと言われたのは、京楽の訪問を黙っているつもりもあったのだろう。
襖で締め切られたその部屋は昼前というのに真っ暗であった。
どうぞと促される前に、京楽はそれが鬼道による結界が張られた闇であることに気付いていた。
此処まできて焦ることは何もないと
京楽は周囲に目の慣れるのを待ち、欄間は塞がれていないのに陽の光が差し込んでいないことを確認する。
14
部屋に高濃度の霊子が集まって来ていた。
それだけでなく鬼道衆の母
はるかの力なのか、幾重にもあらゆる結界が施されている。
この部屋を見つけるには何の乱れも無い状態に心を整えなければならず、恐らくは強引に邸内に入ったとしても余程注意を注がねば見つけることは不可能だ。
だからこそ
さくら一人を残して皆は護廷十三隊に出仕できるのだろう。
穏やかで人を疑わぬ彼らが上級貴族でもトップクラスに位置する一族だという実力を垣間見るには十分だった。
強行突破しなくて正解だね……。
さくらの眠る布団の前に胡坐を掻くと、京楽は漸く肩の力を抜いた。
15
闇の中では
さくらの寝顔も見えないが、京楽の目的は
さくらがどれ程の霊力を消耗しているかを探ることだ。
恐らくは家族ですら
さくらの霊力の感知方法を知らぬだろう。
それを京楽はずっと模索し、見つけていた。
さくらの霊力を確認する方法。
それは霊圧の高い者であればあるほど試さない、最も単純な霊絡を探ることだった。
一般的に死神の霊力は赤い帯状をしている。
ところが
さくらは細く糸のような形状だったのだ。
しかもそのしなやかさに見合う探り方をしなければ風に揺れる草花の如く掴み処が無い。
それとて漸く見つけた方法であり、見えるというよりも感じられる程度だ。
何度か霊絡を探っている京楽でさえ、
さくらの霊力を捉えるには精神の集中を要した。
背後に佇む義弟には、京楽が何をしているのかはわからないであろう。
16
澄んだ日差しのように
瀞霊廷を駆ける風のように
命育む地のように
穢れなく欲もなく
其処に存在する者を分け隔てなく包み込む空気のような
さくらの霊絡が……
「―――――…」
絹糸のような煌めく霊絡が、今はボロボロに縒(よ)れてブチブチと千切れ弾力を失っていた。
それは目を閉じた京楽に見えた霊絡の姿だったが、この闇に横たわる
さくらの状態であることに、変わりなかった。
17
会いたくない理由など
聞かずとも
見ずともわかっていた。
知っていた。
こうなるであろうことも、京楽は予想がついていた。
辛くないはずがない。
5000年という、死神にとっても目の眩むような長い時間を凝縮し
当たる任務が
辛くない、はずが―――
なかった。
18
「―――京楽隊長っ」さくらの傍らに添い寝した京楽を、
武礼は嗜めた。
「…大丈夫さ。これぐらいで、起きたりしないから……」起きるはずがない。
体には恐らく…鬼道にて修復を表面的にかけ、
さくらの体裁を保ってはいるが
これ程霊的損傷を負っている
さくらがたとえ殺気を剥き出しにして襲い掛かられたとて、抵抗どころか気配すら読めぬだろう。
「少しだけ…二人っきりにさせてくれないかい?」京楽は
武礼の退室を望んだ。
たとえこの闇の中
見えぬとはわかっていても、義弟の前で泣きたくはなかったから………。
19
この敷き詰められた花は何の為なのか、京楽にはわからない。
しかし妻が眠るには相応しい場所として花の香りの中、
さくらと同じ敷布に身を横たえて
何故結界の中に花園が設けられているのかを考えていた。
いくら花好きな
さくらとて、こんなことを理由もなくやっているはずがないからである。
霊子の流れ込む先は
さくら。
任務にて消耗した力を吸収するのに、この周囲の花も役目があるのかもしれない。
目を閉じればその存在は危うく
しかと見開いても闇に呑まれ不確かな妻の姿に心乱されるだけの京楽は
枕を外れた毛束を僅かに自分の近くに寄せ、指先で触れていた。
愛しい妻は此処に居る。眠っていると、荒立つ心を凪ぎさせ
自分が為すべきことを考える為に。
20
どのくらい時間が過ぎただろう……。
「京楽隊長…」うっとりとするような甘い声が、京楽の瞼を上げさせる。
「お食事のご用意が整いました…」部屋にいる様子はない。
どうやら
はるかが部屋の外から京楽にだけ語りかけているようだ。
そう気付いたのは京楽が体を起こしてからだった。
21
のっそりと、まるで普段の昼寝の後のように
京楽は
天宝院家の者の前に現れた。
その表情に安心し、
武礼は共に昼を済ませると護廷十三隊に戻っていった。
京楽の作戦は上手くいった。
ここで
さくらにしがみつき離れたくないと騒げば彼らは任務期間中、二度と
さくらに会わせまいとするだろう。
だからこそ京楽はこの程度かと
さくらの容体に気付かぬ振りをし、然も妻が恋しいマヌケな亭主の素振りを見せたのだ。
「あのう…
さくらちゃんが寝てる間は傍についていたいんですが……」
さくらが夕刻まで眠り続けるであろうことを聞きだした京楽は、弱弱しく
はるかに頼んだ。
既に日暮れまで懇々と眠り続けるであろうと告げてしまった以上、京楽に帰れとは言えぬのを承知で、哀願してみせたのだ。
22
約束の時間は念押しされたが、京楽は再び妻の傍らに添い寝した。
闇に目が慣れてくると
一面花に埋め尽くされていると見えていた部屋に刀が一刀、置かれているのに気付いた。
それが
さくらの操る家宝刀なのであろう。
この家を訪れると
さくらの近くにいつも二刀が飾られていた。
一刀は斬魄刀。そしてもう一刀が家宝刀である。
さくらはこの家宝刀を護廷十三隊や夫の邸に持ち込んだことはなかった。
天宝院家の家宝刀の名は護王宝音と天支光輪と言うそうだ。
互いは似て非なる能力を持ち、一方を解放した者が
天宝院家当主としての資格を得ると聞いている。
23
武礼が正式に次代当主として公表されているところをみると、刀を解放したのは彼なのだろう。
しかし今までそんなことには京楽は全く関心がなかった。
ただ、どうして
さくらの霊力の消耗がこんなにも激しく
弟の
武礼はほぼ通常通りの勤務に当たっていられるのか。
考えてみれば疑問は尽きなかった。
疑問は尽きなかったのだが………
シュ…ン
嗚咽混じりに小さな鼻を啜る音が胸元で微かに聞こえ、京楽は撫でていた耳からそっと顎に手を移すと
さくらの顔を上げさせた。
抵抗する気力もないのか、今更隠しても仕方がないとでも思うのか、
さくらは素直に導かれるままに顔を曝す。
闇の中、微かに光を放つのは
さくらの頬を伝う涙だけだ。
24
「もう少し…寝てなよ」
いつものように眠りに誘う為の口付けを、
さくらの瞼に落とす。
コクリと頷くも、
さくらが再び眠る気配はなく
嗚咽を堪えている。
額に唇が触れるほどくっついて、京楽は
さくらを包み込むように腕を回した。
「…いさ……、春水さ…、春水さん…」
さくらはあの日のように…
京楽に縋りついた。
25
「ごめんよ。キミにどうしても、会いたくなってね…」
「わた、私も…」
肩が震え、声を震わせる妻は
どれ程、我慢していたのだろう。
護廷十三隊で会っても仕事が終われば食事も相伴せずにそそくさと帰っていた妻は
きっと寂しかったのだろう。
寂しくて寂しくて
京楽の傍にいれば離れられなくなってしまうから
会うのは勤務時間だけと自らを律し
堪えていたのだろう。
26
「
さくらちゃん…」
昼の供御の際に、何故今日は
さくらが出仕できなかったのかを京楽は
はるかから訊き出していた。
任務を少しでも早く終わらせたくて、
さくらが無理をしたこと。
それは先週、
さくらの帰り際に人知れず自分が抱き締め引き留めた所為もあるのだろうと、京楽には解っていた。
「ほら、泣き止んで。泣くのだって体力使うでしょ」
いつものように
さくらを胸に乗せるように抱き、頭を撫ぜてやった。
さくらの唇が時折京楽の胸に口付け吐息が胸毛を擽る、いつもの二人の褥での姿だ。
27
京楽の鼓動に
さくらが安心して眠れるだろうと思ったのだが、
さくらは夫を懐かしみ忘れまいと眠ろうとしない。
「
さくらちゃん…。キミがいいって言えば、ボクは何時だってこうしてあげるから。だから眠ろう。ね?」
そう言うと、
さくらの旋毛(つむじ)に口付けた。
「…………」
京楽の言う意味が、
さくらにはわからないのだろう。
「任務の邪魔はしない。ただキミが休んでいる間、ボクが傍にいるよ。毎日、此処に来るよ」
さくらが驚くのは無理もなかった。
「
さくらちゃんにとって、体を休めている時にボクが傍にいるのが迷惑じゃないのなら、"任務の妨げ"にはならないでしょ?」
山本総隊長に、会ってはならぬと釘を刺されたわけではない。帰宅を無理強いしてはならぬと言われただけだ。
28
「毎日、計画どおり任務を遂行すればこんなに酷くはならないって聞いたよ。ボクに可愛い笑顔、見せたいでしょ?」
腕枕を通り越して
さくらを抱き枕のように二つの腕で包み込んだ。
夫の胸に抱かれ髪を梳いてもらい
時折その顔を闇の中でも見たくて顔を上げれば、大きなその手は休むことなく頭を撫でて大丈夫と言ってくれる。
「
さくらちゃんが当番の日は隊でお昼を一緒に食べて。
任務の日は、ボクの仕事が終わったら此処に来るから一緒に夕ご飯を食べて寝て、朝ご飯も食べよう。そしてボクが朝、出仕するの。言わば…通い婿かな?」
最初は信じられないという顔をしていた
さくらも段々と京楽の語る二人の姿に実感が湧いてきたらしい。
泣き止み、口許に笑みが宿ったのがわかった。
それでも胸の上の
さくらが不安がらないように、京楽は何度も優しく頭を撫ぜ髪を梳き眠りへと導いた。
29
「京楽隊長…」うっとりとするような甘い声が、京楽の耳を擽る。
さくらを胸の上から下ろすのは忍びなかったが、致し方ない。
「約束の、お時間です…」さあ…
もう一度何食わぬ顔をしてお義母さんを説得しなければ――
と身を起こした京楽の袖を、そっと掴んだ
さくらの手が止める。
「…大丈夫。お義母さんを説得してくるだけだから。 ね?」
京楽は起き上がってしまった
さくらを再び腕に抱き寄せた。
任務の重さだけならば、聡明な妻は耐えられるだろう。
しかし
さくらに孤独を背負わせることだけは、許してはならない。
30
「春水 さ、ん……」
もう一度
さくらを強く抱きしめ、頭を撫でる。
自ら何かを望むことも知らずに育った
さくら。
自分らしく生きることを、諦めるんじゃないよ。
キミはもっと欲張って生きなさい。
その為にキミはボクに出逢ったんだよ……。
ボクはキミの花になる。
ボクがキミを手に入れたように
キミも
望むもの全てを手に入れられるよう―――
「大丈夫。
ボクが大丈夫って言ったら大丈夫だよ。
さくらちゃん…」
ボクはキミの
極楽鳥花になろう。
fin*
************************************************八番隊隊花、極楽鳥花【すべてを手に入れる】を題材にしました。
いや……小説書いてからタイトル思いついたな。(^_^;)
京楽隊長に試練を強いるつもりが、京楽隊長と皆様のパワーで前向きなお話になってしまいました。愛って凄い。
来月もアンケートストーリーは京楽隊長です。
私の書く京楽隊長で良ければ、存分に夫婦愛を育んでください。
ご訪問ありがとうございました。
2008.09.17
京楽隊長〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月