「よぉ!日番谷。どうかしたか?」
浮竹と日番谷が鉢合わせしたのは今日が初めてだった。
浮竹は嬉しそうで、日番谷はやっぱりいたかという顔をした。
それもそのはず。
ここは医薬品取扱専門詰所。
綜合救護詰所とは違い、此処に入り浸るとしたら浮竹ぐらいなものだ。
しかし日番谷も顔馴染みらしく彼が訪れることを察していたかのように、
さくらは浮竹を少し待たせた。
さくらは入り口まで歩み寄り、日番谷に薬袋と塗り薬を渡した。
「いつも無理言って済まねえ」
さくらは軽く否定すると、後これをと置いてあった袱紗(ふくさ)包みを持たせた。
「何だ?」
正方形の箱と紙袋が入っていて、渡された日番谷にも中身はわからない。
「かぼちゃの煮物と柚子です。明日は冬至ですから」と答える。
日番谷は複雑な顔をして
「ああ、明日は二十一日か。……ってことは、今日は…」
俺の誕生日か、と言った声は浮竹には届かなかったが、彼もそれを知っていた。
さくらはおめでとうございますと頭を下げた。
1
「じゃあ、折角ですから」
また壁際に寄って何かを手にした。
「柚子をおまけしておきますね」
日番谷のがっかりと言うのか不貞腐れたと言うべきか、
袱紗におまけの柚子を入れらている間の表情といったらなかった。
さくらが自分に向き直ると、そそくさと詰所を後にした。
さくらはお待たせしましたと浮竹の傍へ戻ってきた。
「日番谷、よく来てるのか?」
薬包紙を一枚広げ、一包ずつに薬を分ける作業を再開する。
「そうですね…。偶にお見えになります」
ふうんと小さく口にし、腕を組む。
慎重な作業時以外はなるべく浮竹の話し相手も務められるよう、
さくらは調合室にあまり籠らなくなっていた。
「浮竹隊長、明日は此方へいらっしゃいませんよね?」
日番谷に渡したのと同じ薬袋に、浮竹の名前と今日の日付を書きながら尋ねた。
「ん?」
肯定とも否定とも問いとも取れるような、曖昧な返事をする。
「よろしかったら」
書き終えた袋の墨を暫し乾かす間、顔を上げた。
久しぶりに見たあどけない表情だ。
2
「柚子はいかがです?」
明日は冬至ですしと日番谷と同じ会話をする。
悲しい哉、自分も同じことを言っていた。
「一日早うございますが、お誕生日おめでとうございます」
では折角ですからと、
さくらは先程と同じ袱紗に同じ物を同じ数だけ足し、浮竹に渡した。
ありがとうと貰って帰る姿を外の者が見れば、浮竹も先程の日番谷のことを言えない表情だろう。
3
十三番隊に帰る道すがら、浮竹はうーんと呻る。
物は考えようだ。
袱紗と重箱を返すついでに、この礼を渡そうと思い立った。
それならば受け取ってくれるだろうと。
隊首室に戻り袱紗を解いた。
柚子は明日使うとして、かぼちゃの煮物は今日食べたほうがいいかもしれないと蓋を取った。
さくらは柚子とかぼちゃの煮物だと日番谷にも自分にも告げた。
「………………」
しかしかぼちゃはそのうち三分の一程度で、残りを和菓子が占めていた。
匂いが移らないように気も配ってくれてある。
とりあえず気配りに感謝して煮物の器だけ取り出した。
品の良い茶菓子だ。
見目よく彩りよく、小振りで浮竹なら一口でいけそうだ。
さくらなら一流の菓子司とも顔見知りだろう。
ひとつ 味見してみることにした。
「ほう……」
白餡の加減といい、米粉の滑らかさといい、香りといい、中々の物だ。
4
「おーい、誰か茶を淹れてくれないか」
これだけ細工された茶菓子なら抹茶との相性が良さそうなものだが、茶道などお堅い時に口にするよりも、どうも自分好みの味のような気がする。
いったいこれは、何処の茶菓子なのだろう?
寸胴な湯飲みにたっぷり入った焙じ茶を待つ。
一人で食べるには多いかとも思ったが、この味のわかる輩はウチの隊にはいない。
朽木ぐらいか?と脳裏を過ぎったが気づかなかったことにして、大福とういろと団子など、半分をその場で平らげた。
続
************************************************浮竹隊長〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月