薬の種類を変更した場合
浮竹は服薬後、半刻はそこに留まる。
「
さくら、あられがあるんだけど、食べないか?」
さくらが副作用を懸念してのことだ。
「あ、いえ。私は結構です」
そうか、と浮竹は言って笑顔を崩さない。
さくらはこの漢方薬の匂いの中で一日のほとんどを過ごしている。
たまに訪れるのは卯ノ花か虎徹ぐらいで、毎日指示書にある薬品・薬草を黙々と調合している。
平時ならば一人で回せるかどうかの仕事量だ。
薬を計量する時は奥の調合室にいるが、それ以外の時間をそう広くはないとはいえ、大抵は此処に独りでいる。
1
「何か、
さくらに礼がしたいんだ」
そろそろお戻りいただいて結構ですよと
さくらが浮竹に告げた時だった。
浮竹は腰を下ろしたまま、怪訝そうに自分を見る
さくらに言葉を続けた。
「俺がこれだけ体調を崩さずにいられるのは、
さくらが持ってきてくれてる薬のおかげだろ?その礼がしたいんだ」
度重なる薬の変更で、その頃にはほとんどが
さくらが自費で購入している漢方薬になっていた。
さくらは浮竹に薬の名と効能をきちんと説明しているため、彼が卯ノ花にその効果の話をしたところ、四番隊で扱っている薬草ではないことが互いに知れた。
そして卯ノ花はそれを黙認することにした。
さくらは、私はただお薬を提供しているだけですと浮竹の申し出を断った。
浮竹は相槌を打つと、薬袋(やくたい)を手にしそのまま姿を消した。
2
浮竹は隊舎へと戻りながら、あの日の想いを巡らせていた。
さくらの当番だろうと顔を出したある日のことだ。
虎徹副隊長ともう一人、以前から見知った調合担当の隊員だけだった。
浮竹の顔を見ると虎徹は、今日は
さくらが非番だと告げた。
以前から希望を出していたとのことで、大方弟の
武礼と外出したのだろうとも。
「でも、今朝は死覇装着てましたよ」
さくらは護廷十三隊内にいる日は死覇装を、外出する予定の日は着物姿が定番だ。
「
武礼の処だとは思いますが、それ以外なら四番隊宿舎か修錬場でしょう」と、浮竹が
さくらの薬を欲していると思った二人は詳しく教えてくれた。
3
いや、急ぎじゃないからとその場を去り、
宿舎まで向うつもりにはなれなかったが他隊でも修錬場ぐらいなら覗いても構わないだろうと足を向けた。
さくらはそこにいた。
斬魄刀を持ち、他に誰もいない修錬場でひとり
舞っていた。
斬魄刀が閃(ひらめ)くのと対称に
さくらのひとつに結んだ髪がたなびく
かと思えば流れる髪を追うか如く
斬魄刀が舞う。
それは美しく
儚く ―――――――
泣いていないのが不思議なほど
切ない
傷だらけの
さくら に見えた。
それが斬魄刀の鍛錬であり、虚を倒す練習であることは、相手の背後に回り、想像の虚(てき)にトドメを刺した格好で舞い終えたからわかったことである。
4
声を
かけられなかった。
鞘に斬魄刀を戻した後、静かに項垂れる
さくらは
誰も見てはいけない姿だった
浮竹は後悔した。
あんなに痛々しい姿を
泣きたいのに泣くことが許されない表情(かお)で舞う
さくらを見てしまったことを。
浮竹は後悔した。
あの時自分がその傷を知ってしまったことをあの場で示していたら、
さくらはきっと今頃自分の腕の中にいただろうと。
それほどまでに
あの日の
さくらは
誰かを求め
誰かに縋って
みえたから。
当番の時には決して、あの姿の片鱗も見受けられなかった。
修錬場では常にああなのかと二度三度覘(のぞ)いたこともあったが、
あの日以降しなやかに舞う姿を見受けたことはあっても、傷ましく舞ってはいなかった。
5
もしも浮竹があの日の
さくらだけでなく、
あの日が……自分とも接点があることに気づいていれば、
さくらの古傷に触れることなく抱きしめてやれたかもしれない。
浮竹は深く溜息をついた。
もう何度、
さくらに申し出や誘いを断られたことだろう。
風の噂で藍染が、
さくらと甘味処へ行ったと聞いた。
さくらが
武礼以外の男と外出したのだ。
相手は自分と同じ護廷十三隊隊長。
「諦めるか……」
そう自分に言い聞かせたこともあった。
しかし自分が素直に二人を祝福していないことに気づいてしまった。
6
藍染とのその後の進展も定かではないが、耳にしない。
寧ろそれは副隊長の雛森への贈り物を見立ててくれと藍染が相談し、その帰りに立ち寄っただけだとも聞こえてきた。
ある噂では隊長格の中に
さくらが好いた相手がいるとあったが、はっきりしない。
もう、振り回されるのはよそう。
昨夜、そう決めたではないかと自分に話しかける。
誰が何と言おうと、俺は自分の気持ちに正直でありたい。
この心を手放すのは、
さくらが自分以外の者を愛していると確証ができた時だけだと決めたのだ。
もう、噂に振り回されるのはよそう。
浮竹は隊舎までの長い廊下を黙々と歩いた。
→Writer's notE→→
************************************************浮竹隊長の想いは
さくら様に届くのでしょうか。
今回は少し暗い終わり方です。
WJや単行本を極めている方は、タイトルだけで伏線がわかってしまったかもしれませんね。
浮竹隊長と二人でならば、きっと乗り越えられます。
二人の未来が輝いていると信じています。
天宝院さくらでした。
浮竹隊長〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月