さくらは護廷十三隊四番隊に所属している。
平隊員だから四~五日当番一~二日非番が乱れることは少ない。
今まで浮竹は体調が思わしくなくなってから此処を訪れていた。
「おはよう、勇音」
「おはようございます、浮竹隊長」
虎徹副隊長は
さくらに浮竹が訪れたことを告げた。
さくらの調合した薬は彼の体にすこぶる合った。
毎日服薬していると体調の変化が前もって感じられるようになっていた。
だから最近では週に一度は
さくらが当番の時に処方してもらっている。
「おはようございます。夏バテなさってませんか?」
さくらは彼の一挙手一動を見守る。
返ってくる
言葉だけでなく、
浮竹が
無理をしていないか
自分が何か
見落としていないか
狎(な)れることなく彼を知ろうとする。
1
「どうかしたか?
さくら」
浮竹は
さくらが考え事をしている時の表情も
「あ、いえ……」
言い出しにくいことがある時の素振りも
「いいから、言ってみろ」
とっくにわかるほどになってしまっていた。
「…他のお薬を、試してみたいのですが……」
浮竹は快諾した。
断る理由などなかった。
さくらは浮竹が了承した後でも、どうして変えたいのか、処方を変えてどんな利点を望んでいるのか、危険性や副作用はどの程度なのか、
彼に不安を与えまいと理路整然と説明した。
淡々とした事務的な話でも、
さくらが語ると甘い囁きに聞こえ誰もが酔いしれる。
「……ご理解いただけましたでしょうか?浮竹隊長」
「ん? ああいいよ」と答え、にこにこと笑顔を返す浮竹。
いつも浮竹はこういった風なので、
さくらもあまり気にしなくなってきていた。
彼になれてきたのだろう。
浮竹の前では顔が紅潮することも、少なくなってきた。
2
「それともう一点、こち…」「
さくらちゃああああん!!」
姿を現すと同時に叫ぶ京楽に、話の腰を折られ絶句する
さくら。
突然のことで浮竹も京楽の無粋を嗜めることができなかった。
浮竹の横を素通りし
さくらの胸に顔を埋めるように嘆く京楽に、さすがの
さくらも「ただいまは浮竹隊長の診察のお時間です」と叱る。
叱っているのだろうが傍から見れば宥めているようで、京楽も「ごめんねえ。でも僕頭痛くてさあ。なんだか吐き気もするんだけど……」と症状を訴える。
あれだけの大声が出せる相手を不審に思わない
さくら。
彼女は体調の思わしくない者を無下に扱えない、そうかと言って本来診なければならないのは浮竹であることはわかっていた。
3
さくらはこういう時、もっとも困惑した表情を浮かべる。
優先順位はわかっていても強く主張できない性格なのだ。
だから男達も
さくらを囲んで恋の火花を散らしたりはしない。
さくらと二人で向き合って、じっくりアプローチしたほうが彼女の気持ちを自分に向けさせられる可能性が高かった。
割り込んだところで
さくらの気は惹けない。
しかし京楽は知ってか知らずか、真逆をいく。
こんな時、折れるのはいつも浮竹だ。
「
さくら、京楽を先に診てやってくれ」
そう言われてもすぐには応じず、ささやかながらも浮竹に情を示す。
それがまた折れた相手を悦に入らせるなどと、気づいていないのだ。
4
仕方なく京楽を浮竹の斜め横の椅子に座らせ、
さくらは京楽の話と体の声に耳を傾けた。
「昨日、お酒を嗜み過ぎたようですね」
さくら、京楽が酒を嗜むなんてことはない。
それは呑みすぎて二日酔いって言うんだ。
浮竹ならずとも突っ込みたいところだった。
「頭痛を緩和するために軽い鎮痛剤。それとお酒の分解に効く漢方と、胃薬をお出しいたします」
そういった薬は今から調合せずとも常時用意されているので早かった。
「ぶへっっ!! な 何これ…にが…」
ちょっといい気味だった。
「に苦いよ
さくらちゃん。苦すぎっ!!!」
京楽は
さくらにアーンして呑ませてもらった薬だったので何とか呑み込んだが、相当辛そうだった。
5
「熊の胆(い)です。胃に効くお薬ですよ」
熊の胆嚢を乾燥させたもので、かなり苦いらしい。
さくらも徐々に患者によってあしらいが上手くなったなと、浮竹は
さくらの成長に感入った。
「…
さくら、ちゃあん…」
自分の腕に縋って懇願する京楽に、ちょっと意地悪過ぎたと反省の色を見せる
さくらはやはり甘い。
「はい…「あ~ん」」
金平糖を口に入れてもらい、ちゃっかり
さくらの指を唇に食(は)む京楽。
浮竹は自分より先に、
さくらから金平糖をもらったのは京楽だと確信した。
それも’アーン’して、口に入れてもらって。
「も、いっこ頂戴」
金平糖をガリガリ噛んで、次を強請(ねだ)る。
「―――――」
さくらは先ほど京楽に食まれた指の感触に、身動きできなくなっていた。
6
京楽は尚も強請(ねだ)り、勿論ただ欲しがるだけでなく口に入れてくれと大きく開けて待っている。
意を決して
さくらが上気した面持ちのまま、ふたつめの金平糖を京楽の口にやる。
「んが―――――――!!」
京楽の口内に瓶から直接、浮竹は金平糖を流し込んでやった。
硬直する
さくら悶える京楽
憤慨する浮竹
その日、四番隊詰所の一角にて暫し隊長同士の諍い事があった………。
→Writer's notE→→
************************************************今回は方外の友、京楽隊長にご出演いただきました。
京:いやあ参ったね。
ボクだって
さくらちゃんのこと、好きなのに。
浮:なんだと!?
さくらは俺が唯一惚れた女性なんだぞ!
お前のような女ったらしには、やらんっ!!
京:やらないって…まだ
さくらちゃんとなあんにもないクセに。
浮:うっ……。
それは
さくらが上級貴族の中でも名門十指に入るほどのお姫様で、更に奥手だからだ。
京:奥手なのは君の方じゃないの。
正直に
さくらちゃんに好かれてる自信がないからって、認めたら?浮竹ぇ。
浮:お、お前なぁ…ι
さくらはまだ居るんだぞっ。
京:だからこそ言ってるんじゃないの♪
さくらちゃん、最後まで浮竹と付き合ってあげてね。
とのこと。
さくら様、よろしければまた遊びにお越しください。
天宝院さくらでした。
浮竹隊長〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月