もしも………
運命というものが
あるのなら
感謝しよう
散り行く花も
季節が巡れば
再び
花 開くことに
1
初めて言葉を交わしたのは、桜も散り際。
葉桜が春の訪れを喜ぶ時期が過ぎ、浮き足立つ心を引き締める気配を漂わせる日だった。
「おはようございます」
凛とした姿にふさわしい、爽やかな声。
それでいて甘く柔らかく浮竹の耳に届いたのは、挨拶の前後に見せた彼女の微笑みのせいだったのだろうか。
「君は―――新入隊員だね?」
「はい。
天宝院さくらです。よろしくお願いします」
「十三番隊隊長 浮竹十四郎だ、宜しく」
浮竹は入隊式で宣誓した彼女の顔も名前も覚えていた。
小鳥のように頭を動かす都度、頬から下睫毛にかけてパッと桜色を帯び、唇が薄く開く瞬間には消える赤み―――――
葉桜が二度咲きしたかと見紛う独特の表情をする。
緊張してのことか、指先までピンと伸びており、落ち着いた雰囲気の中にも幼さが漂う。
2
「
天宝院さくら」
此処、四番隊の隊長が歩み寄る。
「浮竹隊長は肺病を患った為、時折咳き込まれ時には喀血に至ることもある方。おそらく―――」
卯ノ花隊長は
さくらと正面に向き合い続けた。
「貴女が一番力を発揮しないといけない方です」
さくらは少し頭を傾け、曖昧な返事をした。
彼女の考えた事は解る。
護廷十三隊の隊長ともあろうものが病持ちという事が解せなかったのだ。
卯ノ花隊長は、
さくらに浮竹の体質と症状の説明と共にカルテを渡した。
御手の中(うち)拝見とでも言うように
さくらに浮竹の問診を任せ、背後から目を配っている。
「身長と体重も測りますかぁ?」と
さくらが振り返りながら卯ノ花に尋ねる。
下手をすれば娘ぐらいの相手に隊長としては少し恥ずかしいが、自分の体を理解しようとする
さくらを浮竹は見飽きなかった。
さくらは卯ノ花に自分の診断と提案を告げ、結局いつもと同じ薬で薬理作用を診ることにした。
3
奥の部屋で白衣を纏い、数種類の薬草を正確に量り薬研に移す。
粉にするのだが、今日は全てではなく特定のものは粗さを変える。
浮竹は新人の
さくらの処方であろうとも、卯ノ花が任せるのであれば薬を大きく変えてもらっても不安はなかった。
寧ろ卯ノ花が何も口出さないほどの彼女の実力というものを見てみたいとさえ思った。
さくらは謙虚なのか慎重なのか良識があるのか、上官よりしゃしゃり出てくることはなかった。
常日頃より慎ましやかな卯ノ花より下がった態度、と言うことはもう先程の提案以外は全て卯ノ花に許可を求めているのと同じだ。
それはまるで母親に甘える娘のように見えた。
馴れ馴れしくはないが親しげな様子に、浮竹は問うた。
「もしかして、お知り合いですか?」
「
さくらは先輩の娘さんですの」
卯ノ花に尋ねるとにっこりと笑顔で答えて続けた。
「入隊式で宣誓したのを覚えておいでですか?」
勿論忘れるはずがない。
4
浮竹が護廷十三隊に入隊してこの方、あんな宣誓を聞いたことは一度もなかった。
それも姉弟で。
新人の不安と緊張と希望が頂点に達したと言える、山本総隊長が祝辞を述べたその後のことだ。
「次に、宣誓。代表―――」
その期の男女の主席の名が呼ばれた。
「
天宝院武礼、[
天宝院さくら、前へ」
その名に驚く者もいれば、その名が同じことに驚く者もいた。
何より、前へと進み出でた二人の姿に隊長達でさえ息を呑んだ。
「あれ、お雛様じゃなーい!」
愛用の笠をくいっと指で押し上げる者。
「…双子か?」
「これは何とも珍しいネ」
端に並ぶ浮竹には近くにいる者の感想しか届かなかったが、いつもこういった式典が退屈な男でさえ反応したほどだった。
そして二人はユニゾンで
見事に揃った
今は昔のやんごとない
それは雅な
宣誓をしたのだった。
隊長達は長年聞き親しんでいるから内容はわかるが、新入隊員であの宣誓が正確に理解できた者がいったい何人いたことだろうか。
5
二人は宣誓後も
揃って一礼し
右回りに背を向け
司会の誘導もなく理想どおりに元いた場所に戻った。
あの余韻がようやく消えた今日、彼女が四番隊の医薬品担当に就いたことを知ったうえで浮竹も足を運んだのだ。
「金平糖は、必要ありませんから」
?俺の聞き間違いか?
卯ノ花の言葉に、浮竹は桜が七分咲きの頃の思い出から今へと戻った。
見ると
さくらは両頬を帯状に染めて、浮竹に水と一包みの薬を載せた盆を差し出している。
「はい…申し訳ありません、卯ノ花隊長」
さくらは恥ずかしそうに呟いた。
金平糖などどこにもない。
それなのに交わされた先程の会話から察すれば、
さくらは誰かに服薬後に金平糖を既に渡したことがあるのだろう。
「え?俺は金平糖、もらえないのか?」
浮竹は屈託なく
さくらに問うた。
「―――!?」
盆の上の物を渡し終えていた
さくらはそのまま動けなくなった。
浮竹は受け取ったものを慣れた手つきで体に流し込むと、
「いいなあ、金平糖か」と更に強請(ねだ)った。
6
さくらは卯ノ花を一瞥し、上司の表情から悟った。
浮竹隊長 この殿方(おかた)は―――――――
さくらは確信した。
甘いものがお好きなのですね!!
さくらはいそいそと自ら持ち込んだ百味箪笥(ひゃくみだんす)から金平糖の入れ物を持ち出し、浮竹に差し出した。
→Writer's notE→→
************************************************最後までご覧いただいた
さくら様、ありがとうございます!
浮竹隊長との出会いはいかがでしたか?
あ、浮竹隊長からも一言あります。
浮:俺としては初めて
さくらと言葉を交わせて嬉しかった。ありがとう。
これからよろしくな!
それでは
さくら様、よろしければまたお会いしましょう。
浮竹隊長〔一〕 風⋆花⋆雪⋆月